後日談 11話 デビ~ルモーリン大暴れからのクリスピーな音色
遅くなってごめんなさい。
あと、今回は長いです。正直、2話に分割するべきだったかも知れませんが、まあ、書いちゃったものは仕方ないですね。
クックック……どうもこんにちは、デ~ビルモーリンです。
とっても怖~い悪のカリスマなんですよー。先ほどもデビ~ルらしく子供たちに悪の魅力を見せつけてあげたところです。
ですが私の心はまだ悪事に飢えていますから、これからもどんどん恐怖を振り撒いて行きますよー。
さあ! デビ~ルモーリン大暴れですよー! フハハハハッ!
あっ、今の『フハハハハッ』の笑いの所は、エコーがかかってるイメージでお願いしますね。
さてさて……それでは次はどこで何をしましょうか? んー、なにか面白そうな物は……
おや? あっちで大工さんたちがお家を建てていますね。 ふむふむ……ではあれを邪魔するとしましょうか。
さ~て、どんな妨害工作をしちゃいましょうかねー。 ……あっ、釘やトンカチなどが入った箱を発見しましたよ。
そうです! この道具箱をどこかに隠してしまうというのはどうですか?
道具が無ければお仕事できませんよね? これはなかなかに効果的な嫌がらせになると思います。
そうと決まれば蔦を伸ばして、うにょ~ん、っと……はい、道具箱をゲットしましたよ。あとはこれをいい感じに隠せばOKですね。
さてさて、これをどこに隠しましょうか? 迷いますね~。 うむむ……あっちですかね? それともそっちですかね?
私が隠し場所を考えていると、1人の大工さんが近づいて来ました。
あっ、もしかしてこの道具箱の持ち主ですか? ごめんなさい、もうちょっと待っててくださいね、今から隠すところですから。
私が道具箱を隠そうとしてることは大工さんにはナイショですよ?
んー……あっ、あそこの建築用の足場の下とかに置いちゃいましょうかね。
私はちくわちゃんに合図して作りかけのお家に近づいてもらいました。
高い位置で作業するために木材を組んで大きな足場が造られていますねー。これのすみっこの方に道具箱をポンと置いて~……っと。
ふむふむ、OKです。これで大工さんは道具がどこにあるかわからなくて、お仕事ができないはずです。きっと困りますよー。
あなたもそう思いますよね? ねえ大工さん。……って、あれれ? 大工さんもついて来てたんですか!?
こ、これは想定外です! 隠している場面を持ち主が隣で見ていたらバレバレじゃないですかー!
あー……ほら、言っているそばから大工さんが道具箱を拾ってトンテンカンとお仕事を始めてしまいましたよ。
うむむ……更に別のイタズラを仕掛けるという手もあるのかもしれませんが、大工さんはなんか機嫌悪そうな顔で何かをブツブツ言いながらお仕事をしてますし、多分これ以上イタズラをしたらマジで怒られるヤツです。
私はツッコミで怒鳴られるのは大歓迎なんですが、マジなトーンでお説教されるのはちょっと勘弁してほしいです。
なのでここは一度退いて、別の場所で次の悪事をするとしましょうか。
ほら、悪役というのは引き際も大事ですからね。
ということで、次の場所にいきますよー。
うむむむむ……結局大工さんのお仕事の邪魔は失敗してしまいましたし、次の悪事は成功させたいですねー。
さて、何をしましょうか? んー、すぐに思いつく定番の悪事と言えば……
……スカートめくりですかね?
小学校の頃、クラスのイタズラ好きな男子がよくやっていたのですが、後で先生に『それは立派な犯罪だぞ!』って怒られていたんですよね。
立派な犯罪だというなら、立派な悪である私もやっておくべきでしょう。
それでは、まず手始めにちくわちゃんのスカートを……あっ、やっぱりダメです、ここは人目があります。
私がスカートめくりをする事自体は良いのですが、街の皆さんの前でちくわちゃんのぱんつを公開するのはダメですよね。
スカートをめくるのは人のいない所に行ってからにしましょうか。
ではちくわちゃん、あっちに見える建物の陰に行きましょう。あそこなら通行人から見えないはずですから。
ということで、建物の側まで来ました。
ふむふむ、どうやらここは一般のお家ではなくて倉庫みたいですね。
なるほど。つまり私は人目の無い倉庫の陰に小学生くらいの女の子を連れて来て、これからスカートをめくろうとしているわけですね。
……んー、確かに私は悪い事をしようとしていたのですが、これはなんだか私が考えていたのと違うベクトルの悪事な気がしますね~。正直アウトでは?
やるべきかやめておくべきか……むむむ、迷いますねー。
私がスカートめくりをするかどうか迷っていると、倉庫から人が出て来ました。
おっと、危なかったですね。もし迷わずスカートをめくっていたら、今ごろ犯行現場を見られていたところでしたよ。
……って、おや? あれはセレブお嬢さんでは? 倉庫で一体なにをしていたんでしょうか?
ああ、そういえばセレブお嬢さんはワイルド商人さんの補佐みたいなポジションで商業関係のお仕事をしているみたいですから、倉庫で商品の在庫チェックとかそういう作業をしていたのかもしれませんね。
お仕事ご苦労様です。
セレブお嬢さんは私達に気がついたようで、こちらに駆け寄って来ると私に対してワサワサと腕を振って挨拶してくれました。
フッフッフッ……この私に挨拶してくれるとはなかなか良い心がけですが、今の私はデビ~ルモーリンです。
邪悪な存在であるこの私が、そう簡単に挨拶を返すと思ったら大間違いですよー?
ワッサワサ。
私は枝を振って応えました。
……違います。今のは違うんです。えっと……とにかく違うんです。
別に挨拶されたのが嬉しくなって反射的に挨拶を返してしまった訳ではありません。
これは……たまたまちょっと羽ばたいてみたい気分になっただけですよ?
ほらほら、私ほど邪悪な存在ともなると、時として無性に羽ばたきたい気分に襲われる日もあるものなのです。
だから別に今のワサワサは、挨拶を返した訳ではないということに今、決めました。
そ……そんなことより今は、ほら、スカートめくりの話です。
せっかくこのタイミングで会えたのですから、セレブお嬢さんのスカートをめくってしまいましょう。
丁度セレブお嬢さんはちくわちゃんとお話しをしていて隙だらけですし、周りには私達以外の人の目もありません。
なので、今のうちにレッツ・スカートめくりです! そいや!
私は蔦を伸ばしてセレブお嬢さんのスカートをペロンチョとめくることに成功しました。
んー、セレブお嬢さんのぱんつは思ったよりシンプルなデザインですね。もう少しゴージャスなのを想像していたんですが。
……あっ、そう言えばちくわちゃんも素朴な感じのカボチャぱんつを愛用していますし、もしかするとこの世界は下着までオシャレにする文化は無いのかもしれませんね。
セレブお嬢さんはびっくりしたような顔をしたので、最初はイタズラ大成功! ……とか思ったんですが……。
「7@uKj6f……」
セレブお嬢さんは、なにやら言いながら地面の方を見ています。
んー……これはスカートめくりに怒ってる感じではありませんし、ぱんつを見られて恥ずかしがってる感じでもありません。
これはどういうリアクションなんでしょうねー?
おや? セレブお嬢さんはしゃがんで何かを拾って小さな箱にしまいましたね。
何を拾ったのかはよく見えませんでしたが……なんか人間の手みたいなシルエットでしたねー。
……軍手とかですかね? ほら、道路の隅っことかによく片方だけ落ちてたりするじゃないですか。なのでここに落ちていても不思議はありません。
「g2a>5tRよfR3もs@れkU2m>NむshhJ3qレ#5gFaよ*ルka7Wいee9@つ€めoiP……」
セレブお嬢さんは軍手(仮)を拾った後、こちらにペコリと頭を下げてからなんか長いセリフを言い始めました。
おおぅ……元々言葉はわかりませんが、これはいつも以上に何を言っているのかちんぷんかんぷんです。
むむむ……なんか真面目な雰囲気で長々としゃべっているのに何を言っているのかわからないのというのは、なんか申し訳なくて居心地が悪いですねー。
これは次にセリフが途切れたタイミングに退散しちゃうのがベストでしょうか。
「……」
っ! 言葉が途切れました! 今です!
ごめんなさいセレブお嬢さん。お話はまた今度改めてしましょうねー。
私はセレブお嬢さんにプンプンと蔦を振ってお別れしたあと、ちくわちゃんに合図して急いで場所を移動してもらいました。
んー……スカートめくり自体には成功しましたがセレブお嬢さんは恥ずかしがらなかったですし、その後になんかよくわからないリアクションをされてしまったので、あんまりイタズラに成功した実感はしませんでした。
やはり女の子が女の子にスカートめくりをしても、あまり効果は無いということでしょうか? 確かに同性がやったところでスキンシップの延長線くらいに思われるかもしれはせんね。
ふむふむ……ということはこのまま私がちくわちゃんのスカートをめくったところで、ちくわちゃんも恥ずかしがらないということですか……。
うぬぬ、私は世界に恐怖で満たさなくてはいけないというのに、まさかそのための必殺の手段になると思っていたスカートめくりが効果を発揮してくれないとは、あまりにも予想外です。
……いえ、諦めるのはまだ早いです。まだ駄目と決まったわけではありません。
よく考えるのです。スカートめくりは同性からやられても効果が薄い……逆に言えば異性からやられれば効果はあるということです。
ということは私から見て異性……つまり、男の人に対してスカートめくりをすれば効果的だということですね!?
ふむふむ、私はついにスカートめくりの真理にたどり着きましたよ!
そうと決まれば、早くスカートをはいた男の人を探さなくては!
さあ、レッツゴーですよ、ちくわちゃん! 全ては世界を恐怖で満たすために!
ここには……いませんね。
そっちは……いませんね。
んー……あれから結構な時間、街を見て歩いたのですが……むむむっ、おかしいですねー? スカートをはいた男の人が見つかりません。
探し歩いているうちに、いつの間にか街の出入口付近まで来ちゃいましたよ。
うーん、ここまで見つからないとは予想外です。
はっ!? もしやこれは私の計画を知った何者かが邪魔をしているということでしょうか? そうでなくてはスカート姿の男性がこんなにも見当たらないはずがありません!
だって普段ならこれくらい見回ればスカート姿の男性の1人や2人くらい、とっくに見つけて…… 見つけて……?
……おや? 改めて思い返すとスカート姿の男性というのは今までも数えるほどしか見たことがないような気がしますねー? んー……
あっ! よく考えてみたらスカートって一般的には女性の衣装じゃないですか! こ、これは盲点でした、道理でスカート姿の男性が少ないわけですよ。
もちろん絶対にいないわけではないでしょうが全体から見て少数派なのは確かでしょうから、探したらすぐに見つかるというものではなさそうです。
むむむ……残念ですが時間にあまり余裕がないのでスカートめくり計画は諦めて、なにか別の悪事を考えましょうか。
そろそろ日も落ちて来ましたし、暗くなるまでにはお家に帰りたいですからね。
ということでスカートめくり作戦は一度中断するとして……次は誰に何をしましょうかねー。
時間的に見て次のイタズラが今日の最後の悪事になりそうですから、ちょっと手強そうな相手を選んじゃいましょうか。
どこかに私の好敵手になりそうな相手は…… あっ! あそこにいるのは若頭さんと、そのお仲間たちですね。
ふむふむ、あの人たちなら今日の最後のターゲットとしてふさわしいかもしれませんね。それでは近づいてみましょう。
若頭さんたちは街の出入口にある門のそばで、たき火を囲んでいました。
あっ、たき火には大きな鍋が乗っかってグツグツいっていますね。それは晩ご飯ですか?
仲間同士で集まって鍋パーティーとは、とっても楽しそうですねー……っと思ったんですが、皆さん武器や防具をしっかりと装備して戦闘準備万端な姿です。
パーティーを楽しんでいるにしては少し物騒な服装ですねー。
よく見ると皆さんの装備はけっこう汚れていますし、ちょっと疲れたような顔をしてますから、すでに戦闘した後って感じに見えます。
もしかしてさっきまで外で魔物退治とかしていたのかもしれませんね。
ということは、これは仕事の後の打ち上げパーティー的なやつですか?
ふむふむ……今さっき肉体労働を終えた所で、時間的にも夕方に差し掛かった辺り。そして晩御飯を食べる所……という事はこの後はきっと、皆さんお家に帰ってぐっすりお休みする感じですよね?
だったら……クックック……!
良いイタズラを思いつきましたよー!
そこでグツグツしているお鍋にカフェイン的な成分を仕込んで、食べた皆さんが夜に眠れなくなるようにしちゃいましょう!
ベッドに入ってからも興奮してなかなか寝つけないようにして、寝不足にしちゃいますよー!
そうと決まればちょちょいっ、と……。
まだゼロから果物を創り出せるほどの力は戻っていませんが、葉っぱの成分をいじるくらいは出来ますよー。 そいや!
クックック……これでよし。
目がギンギンに冴えて、ちょっとくらい眠らなくても平気になるハッピーな葉っぱができましたよー。
あっ、ちゃんと食べても大丈夫な葉っぱですよ? いくら私がデビ~ルだといっても、お料理に食べられない物を投入するなんて極悪非道な真似はできませんからねー。
さあちくわちゃん。これを入れちゃいたいのでお鍋の方に近づいてくれますか?
私がちょいちょいと合図するとちくわちゃんは一瞬だけ若頭さんを見てイヤそうな顔をしましたが、ちゃんとお鍋の所まで私をおんぶして行ってくれました。
こちらに気づいた若頭さんが片手を軽く上げて挨拶してくれましたが、ちくわちゃんはムスッとした顔のままです。
うーん。ちくわちゃんは、相変わらず若頭さんのことが好きではないみたいですねー。
若頭さんとちくわちゃんは、仲良く……とは言いにくい雰囲気ではありますが、何やらおしゃべりをしています。
ふむふむ、若頭さんの意識がちくわちゃん向いている今がチャンスですね。 では葉っぱを投入です!
ワサワサー、っと!
あっ、ちくわちゃん? なんでちくわちゃんが真っ先に食べ始めるんですか?
ダメですって、それは若頭さんたちのご飯ですよ! ほら、若頭さんがびっくりしてるじゃありませんか。
も~、そんなにお腹が空いていたんですか? むむむ……確かに今日はちくわちゃんを連れ回し過ぎましたかもしれませんね。
辺りもだいぶ薄暗くなってきましたし、お家に帰って晩ごはんにしましょうか。
私は若頭さんたちがお鍋を食べ始めたことを確認してから、ちくわハウスに帰還しました。
若頭さんたちー! ちゃんと残さず食べてくださいねー! ……クックックッ!
ーーーー フリージア視点
モーリンの行きたそうにしている方向に歩いていると、建築現場にたどり着いた。
ここに何の用なのかな? って思っていたら、モーリンは突然そばにあった道具箱を蔦でひょいっと持ち上げた。それをどうするの?
その時、それに気づいた大工のおじさんが駆け足で近づいて来た。
「おいおい、それはオイラの仕事道具だぜ、勝手に触らないでくれよ! ……って、モーリン様と巫女様じゃないですか!?
怒鳴ってしまって失礼しました。……ですけどこんな所に何か御用で?」
「わかんない。でもモーリンが来たがっていたから来たの。……あっ、今度はあっちに行きたいみたい。ちょっと失礼するね」
「それはいいんですが……あの、オイラの仕事道具は……?」
モーリンは蔦で作業用の足場の辺りを示してるね。理由はわからないけどモーリンが気になるなら行ってみよう。
私が歩き出すと、大工のおじさんも戸惑いながらついてくる。
ああ、モーリンがおじさんの仕事道具を持ってるからか。
モーリンもおじさんがついて来ることを嫌がってないみたいだから、私も何も言わずにおじさんを連れたまま足場の方に向かった。
足場の所に着くと、モーリンはそこに道具箱をポンと置いてから大工さんの方を向いた。
するとおじさんは助けを求めるような顔で私の方を向く。
「え~っと……巫女様。モーリン様はいったい何を?」
「むぅ……わからないけど、おじさんの方を向いてるんだからきっとおじさんに何かを伝えたいんだと思う。 ねえ、なにか思い当たらない?」
「何かと言われましても……。うーん、オイラの仕事道具を持って来たんだから、多分仕事に関係する事ですよね? 思い当たることは……」
おじさんは、うーん、と唸りながらキョロキョロと辺りを見回して、少ししてから驚いたようにクワッと目を見開いた。
わぁ……おじさんの今のその頭、ちょっと熊に似てたよ。
「なんだこりゃあ! 足場の組み方が雑過ぎる! こんなもんに乗ったら崩れて大事故になりかねないぞ!」
おじさんは顔を真っ赤にして怒りだした。
うーん、私にはわかんないけどこの足場はよっぽどダメみたいだね。
「……もしやモーリン様はこれを直した方がいいと教えてくださったんで?
ありがとうございます! 気づかずにいたら怪我人が出たかもしれません!」
おじさんはそうお礼を言った後、すぐにトンテンカンと足場を直し始めた。
なんか「どいつだよ、こんな雑な仕事しやがって……」とかブツブツと文句を言ってるし、明らかに機嫌が悪そうだなぁ。
モーリンはおじさんが仕事を始めたことを確認すると、蔦で私に『別の場所に行こう』って感じの合図をした。 用は済んだってこと?
ならやっぱり、ここに来たのは大工のおじさんに足場の事を伝えるのが目的だったんだね。
じゃあおじさんの仕事の邪魔をしたら良くないし、そろそろ行こうか。
私はモーリンが蔦を動かして合図する方に向かって、また歩き出す。
どこに行こうとしてるのかはわかんないけど、モーリンのことだからまた誰かの助けになる事をしようとしてるんだよね。
じゃあ行こう! モーリンが行きたいなら、どこへでも私が連れて行ってあげる!
モーリンに従って歩いて行くと、着いた場所は倉庫のそばだった。
確かここってトレニアの実家でやってるお店から届いた物をしまってある倉庫だったよね。
……そういえば私ってトレニアの実家の仕事のことあんまり知らないなぁ。
花園の民の代表だっていうのは知ってるけどどんな商売をしてるのかはよく知らないし、今度詳しく聞いてみようかな。
そんな事を考えていると、倉庫の扉が開いて本当にトレニアが出てきた。
わっ! 丁度トレニアの事を考えてるところだったからびっくりした。
トレニアは何かを探すようにキョロキョロしていたけど、こっちに気がつくと駆け寄って来て、両腕をワサワサさせてモーリンに挨拶した。
「これはお姉様、それにフリージアさんも。うちの倉庫になにか御用ですか?」
「用っていうか、モーリンの行きたがっている方向に歩いてたらここに着いたんだよ。 ところでトレニア。さっきキョロキョロと何か探してなかった?」
「え、ええ。お恥ずかしい話ですが、倉庫に置いてあったマジックアイテムの試作品を紛失してしまいまして……」
え? 無くしちゃったの? じゃあ私も探すの手伝ってあげようかな。
「マジックアイテム? 私も探すよ。どんなやつ?」
「白い手袋ですわ。自動的に動いて簡単な作業を手伝ってくれる道具なのですが、目を離した隙に指で歩いて行ってしまったようで……」
「手袋が指で歩いて行ったの? むぅ……気持ち悪い」
「ええ、知らない人が見たらきっと驚いてしまいますから、早い見つけないと…… きゃっ!?」
話している最中に私の後ろから蔦が伸びて来て、突然トレニアのスカートをめくり上げた。 えっ!? 今のってモーリン?
むぅ……! スカートがめくりたいなら私にやればいいのに……。 モーリンがしたいなら私は歓迎するよ?
「お、お姉様? 突然なにを? ……あっ! これは……」
「ん? トレニア、急に地面の方を見てどうかしたの?」
トレニアの視線の方をたどってみると、白い手袋が地面に落ちている。 ……あれ? この手袋って……。
「探していたマジックアイテムです。まさか私のスカートの中に入り込んでいたなんて……まったく恥ずかしいですわ」
トレニアは手袋を拾って箱にしまうと、真面目な顔をしてモーリンにお礼を言った。
「父の代理とはいえ、今は私がこの街にいる花園の民の代表ですわ。それが職人から受け取った試作品を不注意で紛失などしてしまえば、商人たちや職人たちからの信頼を失ってしまうところでした。
お姉様。見つけてくださって本当にありがとうございました」
そっか……私は、『探しものがスカートの中にあった』なんて笑い話だと思ったけど、責任のある立場の人が物を無くしちゃったら、ただのうっかりミスじゃ済まないんだね。
私もモーリンの巫女っていう立場なんだし、こういうのは覚えておかなくちゃ。
トレニアは言葉を言い終わったあと、最後にもう一度お礼を言おうとしたみたいだったけど、モーリンが蔦をブンブン振ってそれを遮った。
そして私に『早く早く』と急かすような合図をした。
あっ、わかった! モーリン、きっとトレニアに改まってお礼を言われて照れてるんだね。かわいいなぁ。
えへへ……じゃあモーリンが恥ずかしいみたいだから、そろそろ違う場所に行こうか。
ばいばい、トレニア。また後でねー!
私はトレニアに手を振ってから、またモーリンの示す方に歩き出した。
また人助けをするのかと思ってたけど、それからもしばらくの間は何事もなく街を歩き回るだけだった。
もちろん私は、ただモーリンとお散歩するだけでも幸せだけどね。 えへへ。
そのまま夕方になるまでプラプラしてから、今度は街の門のところに行った。
ん? あそこにいるのは…… むぅ……! ロドルフォたちだ!
あいつらはもうこの街の住人で、ちゃんと街のためになる仕事をしているっていうのはわかってるんだけど、やっぱり顔を見ると勝手におでこにシワが寄って来ちゃうなぁ……。
モーリンは、蔦でロドルフォたちが火にかけている鍋の辺りをちょいちょい示した。
あそこに行けばいいの? むぅ……ロドルフォに近づくのはあまりいい気分じゃないけど、モーリンが言うなら行かないとね。
私が近づくと、ロドルフォは片手を上げて挨拶する。
「おう、精霊サマと嬢ちゃんか。 嬢ちゃんからオレに近づいてくるなんて珍しいな。……オレと仲良くしてくれる気になったのかい?」
「むぅ……気持ち悪いこと言うな! 用があるから来ただけ。用が無ければ好きでロドルフォに近づいたりはしない」
「そりゃ残念。……で? その用ってのはなんだ? ちょいと疲れてるんでな、悪いが用があるなら早めにしてくれや」
そう言ったロドルフォは、確かにいつもの憎たらしい悪人面じゃなくて、疲れて少し元気の無い悪人面になっていた。
「……どうしたの? 体力だけはあるロドルフォにしては珍しく疲れてるね」
「体力だけとはご挨拶だなぁオイ。……まあいいけどよ。
最近、街の外にちょいと魔物が増えててな。それで昨日の夜から街の外を警備して戻って来たところなんだが、交代要員が急病らしくてな。
それでオレらがもう一晩徹夜で警備するはめになっちまったって話さ。
おかげで眠い眠い……まあ金にはなるからいいんだけどよ」
ふーん、徹夜で警備か…… ロドルフォも頑張ってるんだね。そこはちゃんと認めてあげないとダメかな。 ……嫌いだけど。
「これから飯を食って、そしたらすぐにまた出発ってわけさ。……さて、もうそろそろ鍋が煮える頃かな」
そう言ってロドルフォは、たき火の上の鍋の方を向いた。
私も釣られて一緒にそっちを向いた。
そうしたら、丁度その鍋にモーリンが葉っぱをワサワサと入れている最中だった。
「ちょっ……精霊サマ!? なんでオレらの飯に葉っぱを入れまくってんだよ!? うおっ、すでに他の具が見えねえくらいに葉っぱが山盛りにっ……!」
「むぅ! なに? モーリンの葉っぱが食べられないっていうの? ロドルフォのくせに生意気だよ! いいよ、なら私が食べるから!」
私はそばにおいてあったフォークを手に取って、鍋で煮えているモーリンの葉っぱを食べ始めた。
「美味しい! えへへへへ……モーリン、美味しいよ、モーリン」
「おいっ、やめろ! 食わないとは言ってねえだろ! ったく……」
ロドルフォはちょっと警戒しながら、鍋からモーリンの葉っぱを1枚だけつまみ上げた。
「精霊サマが他人に毒を食わすような真似をするとは思わねえし、嬢ちゃんがバクバク食ってたから変なもんじゃねえんだろうが……」
そう言って恐る恐る葉っぱを口に入れた。 むぅ……ロドルフォがモーリンの葉っぱを食べているのを見ると、なんか腹立つ……。
「……これは……食った瞬間に眠気が覚めた? それに、気のせいか体の疲れも癒え始めているような……」
「どう? すごいでしょ? モーリンの親切は素直に受け取らないとバチが当たるよ。 というか私がバチを当てる」
私は、えへん! っと胸を張る。
モーリンがすごい事をすると、なんだか私まで誇らしい気分になるんだよね。
ロドルフォは、フッと力が抜けたように柔らかい表情を浮かべた。……それでも人相は悪いけど。
「……オレらが徹夜仕事を続けてるってのを聞いて、労ってくれるってワケかい。……ありがてえ、素直に感謝するぜ、精霊サマ」
ロドルフォはそう言うと、料理を皿に取り分けて仲間に声をかけた。
「お前ら! わざわざ精霊サマがオレらの事を気にかけてくださったぜ! ありがたく頂いて、その礼は仕事でお返しするぞ!」
「おうっ! 任せろ!」
「了解だぜ!」
「モーリン様、感謝しやすぜ!」
ロドルフォとその仲間たちはモーリンに感謝してから料理を食べ始めた。
モーリンはその様子を確認すると満足そうな顔(無表情だけど)をしてから、私に『行こう』と合図をした。
そうだね、暗くなって来たからもう帰ろうか。
それにしても今日は、たくさん人助けをしたなぁ。
前から思っていたけど、やっぱりモーリンって困っている人がいたらすぐに見つけて助けちゃうんだね。まるで物語に出てくる勇者みたい。
モーリンはやっぱり優しくて格好よくて、本当にすごいなぁ。……大好き。
ーーーー モーリン視点
若頭さんたちのお鍋に葉っぱを投入した後、私たちは真っ直ぐちくわハウスに戻ってきました。
まだまだ悪事をやり足りない気持ちはちょっとだけありますが……まあデビ~ルモーリンのデビュー戦としてはまずまずの暴れっぷりだったと思います。
今回私の悪事を目撃した街の皆さんも、あまりの恐怖に今ごろ携帯のマナーモードのようにブルブル震えていることでしょう。
それを想像するだけで気分爽快ですねー。 こんな気分になれたのも全てこのデスメタルなソウルが宿った素敵な剣のおかげです!
この剣とはこれからも長いお付き合いになりそうですし、しっかりとお手入れして大切にしなくてはいけませんねー。
私は手……というか蔦に握った剣をシャキーン、っと掲げて、その姿を改めて見つめました。
うん、カッコいいですねー……って、おや? こんな所にひび割れが。 こんなのありましたっけ?
……おや? おやおやおや!? なんか現在進行形でピキピキとひび割れて行くんですけど! 待ってくださいよ! 壊れちゃダメですってばー!
一体どうすれば…… そ、そうです! ご飯つぶ! ご飯つぶでくっつきませんか? 確か街の倉庫にお米があったはずですから、あれを使って……
あっ、ダメです! 生のお米だけがあっても、炊飯器が無いとちゃんと炊ける自信がありません! 炊飯器さえあれば5回に1回は上手く炊く自信があるのですが、残念ながらここには炊飯器が無いんですよ!
え~っと……え~っと…… そうです! コンビニにインスタントのご飯が売っているはずです! あれを買って来ましょう!
……って、この世界にはコンビニが無いのを忘れてましたー! い、いえ! 私が知らないだけで、どこかにあるかもしれません!
大手の有名チェーン店は無いとしても、夫婦2人でやってるような小さな個人営業のコンビニくらいなら、もしかしたらワンチャンその辺に……!
セボーンイレブンとかファミリーマッドとかそういうパチモンみたいな名前の怪しい店でもいいので、どこかにありませんかー!?
私がパニックを起こしてしまっているうちにも剣はパキポキとクリスピーな音色を奏でながら砕けて行き、気がついた頃には剣はもう塵になって消えていました。
ぎにゃあー! 私の悪のパワーの源があぁぁぁ!
ちょっと更新が遅すぎたと反省しているので、次はもう少し早く書けるように頑張ってみます。