後日談 8話 ワサワサ増量キャンペーンからのデスメタル系バンド
投稿がだいぶ遅くなっちゃいました。ごめんなさい。
どうもこんにちは、観葉植物です。
どうもこんにちは、ワサワサ。
どうもこんにちは、ワサワサ。
どうもこんにちは、ワサワサ。
こんワサ。 こんワサ。 こんワサー。
観葉植物、観葉植物、観葉植物ですよー。
おはようからおやすみまで、みなさんの街のモーリンです。
今日も明日もモーリンです。 お茶のお供にモーリンです。
ふう……こんな感じでしょうかねー?
現在、私はちくわちゃんとぺルルちゃんと一緒に街の中心の一番人通りの多い辺りに来て、すれ違う皆さんにご挨拶しています。
それはもう選挙カーに乗ってご町内を回っている候補者の人並みのご挨拶っぷりですよ。
私が乗っているのは選挙カーではなくてちくわちゃんの背中ですけど。
さて、なぜ私がこんなに皆さんにご挨拶しているかと言うと、挨拶すると清々しい気持ちになれるから……というのも半分くらいはありますが、残りの半分は少しでも早く力を取り戻すためなんですよ。
ほら、この前ぺルルちゃんが、皆さんの信仰心で私の魔力回復が早まるとか言っていたじゃないですか。
信仰心という言い方だとよくわからない感じになってしまうんですが、つまりは皆さんに好意を持って頂ければ良いということなんだと思うんですよ。
で、好意を持ってもらうには、まずは笑顔でご挨拶するところからですよね? ですが無表情がデフォルトな私にとっては、残念ながら笑顔というのはなかなか難易度が高いんですよねー。
なので笑顔になれない分は回数と勢いでカバーしようという結論になりまして、街で道行く人にご挨拶をしまくっているんですよ。
これで魔力がどれくらい回復するかはわかりませんが、皆さんにご挨拶するのは気持ちがいいですから、仮に回復効果が無かったとしてもこのままご挨拶は続けようと思います。
ワサワサ増量キャンペーン開催中ですよー。
ということで、こちらのお兄さんもそちらのお姉さんもあちらのオネエさんも、どうもこんにちは~。 ワサワサ。
それにしても結構前から人は増えていましたが、最近は更に外からのお客さんが増えている気がしますねー。活気があってなんだか嬉しいです。
おや? ちくわちゃんはなんだか警戒したワンちゃんみたいな表情で皆さんをじろじろと見ていますねー。 んー、ちくわちゃんはシャイなので恥ずかしがっているんでしょうか。
私は新しいお友達と出会えるかも、っと胸がワクワク、腕がワサワサしているんですけどねー。
「……なんか機嫌良さそうにワサワサしてるけど、喜んでばかりもいられないかも知れないわよ? その子を見習って少しは警戒した方がいいんじゃないかしら」
おや? ぺルルちゃん。なんだか複雑そうな顔をしていますが、どうしたんでしょうか? 街に活気があるのは悪いことではないと思うんですけどねー?
……あっ、ぺルルちゃんは静かな街の方が好きなんですかね? 静かな街もそれはそれでムードがあってステキですよね。
「……なんだかまた私が言いたいのとは違うことを考えてそうね……。
あのね、リン。この世界は大半の人間は身分証なんか持っていないし、当然だけど顔写真とかも無いの。だから、この街みたいにいきなり人の出入りが多くなるとどうしても新しい住人をチェックしきれないわ。
知らない内にトラブルの種が紛れ込んでいるなんてこともあるのよ?」
ふむふむ、言われてみればこの世界に来てから、住人の皆さんが保険証や学生証や運転免許証とかを持ち歩いているのを見たことがありません。
つまりは怪しい人がいても身元確認ができないということですか。
んー……ということは、明らかなアメリカ人が片言の日本語で、
「オーウ、拙者ノ名前ハ・ワタナベデース。ネイティブな大阪人デンガナ~」
とか言っていても嘘か本当か確認することができないということですね? それは職務質問するお巡りさんも苦労しそうですねー。
……ですが、実は私はアメリカ人と大阪人を見分けるコツを知っているので大丈夫です。
「ギャグを言って下さい」と頼んでみて、アメリカンジョークを言ったらアメリカ人、漫才を始めたら大阪人です。
ぺルル・ダイジョウブ・オオサカジン・マンザイ・スル。
「いや……何の話よ? 私は防犯の心配をしてるのに、それがどうして大阪人が漫才をしたら大丈夫って結論になるの?
それと全ての大阪人が漫才をするわけじゃないわ。大阪人に謝りなさい」
あ……そうですね、確かにみんな漫才をするわけではありません。落語やリアクション芸がメインの人もいますよね、大阪の方々ゴメンなさい。
漫才はお笑いの王道ですから最初に頭に浮かんだというだけで、私はジャンルを問わずにエンターテイナーという人を尊敬しているので、漫才師以外の芸人さんも大好きで……って……おや? 何の話をしていたんでしたっけ?
んー、そういえば防犯の話題でした。大阪の芸人について話している訳ではありませんでしたね。ですが、防犯の方も心配いらないと思います。
私はこの世界に来てから悪い人を見たことがありません。きっとこの世界は優しい人しかいない世界なんですよ。
うんうん、素敵な世界ですねー。
「……リン。アンタって絶対に警戒心足りてないわ。他人を信じるのは良いことだけど、少しは警戒心を持ちなさいよね。
……もう、なんか心配になるわ。何も起こらなければいいけど」
おや? ぺルルちゃん。そのセリフはフラグでは? あっ、いえ、そうそう変な事は起きないとは思いますけどね。
……起きないですよね?
そんな事を考えた直後、一本向こうの通りに人が集まってガヤガヤしてるのに気がつきました。
あー……もしかしてこれは高速でフラグを回収しちゃいましたか? とりあえず様子を見に行ってみましょう。
ちくわちゃん、すみませんがあっちに連れて行ってもらえますか?
私がクイッ、クイッ、っと蔦を動かしてちくわちゃんに合図をすると、ちくわちゃんは少し考えた後、私を背負ってそちらへと歩き出しました。
ありがとうございます。いつもすみませんねー。
ーーーー ムスカリ視点
俺は今日、久しぶりに休暇を取り、ヒースと2人で雑談をしながら街を歩いていた。
この街が大きくなってきてからは互いに多忙だったから、こうやって2人で仕事を忘れて何気なく過ごすのは何時ぶりだろうか?
「うむ……警備の任務や剣の鍛練を苦痛だと思ったことは無いが、それでもたまには自由な時間を過ごすのも良いものだな」
「そうだね。まあ心の底から仕事を忘れて……って訳にはいかないけど、今日1日くらいは羽を伸ばすとしようか」
そう言って「うーん」っと伸びをするヒース。
……いつも笑っているが、ヒースは主に街の経済の部分で様々な仕事をこなしつつ薬師としても働いているのだ。きっと俺などよりずっと疲労が溜まっているだろう。
今日は少しでもヒースの気分転換になればいいのだが。
そう思った直後、道の先から叫び声が聞こえた。
……今の声は、ふざけ半分で騒いだような声ではなかった。おそらく何か物騒なトラブルが起きたのだろうな。
やれやれ……残念だが今日もゆっくり休ませてはもらえないようだ。
その時、すぐ近くから魔力が広がるのを感じた。
そちらに目をやると、ヒースが感知魔法を展開している。
「……なんだろう? 何か気持ち悪い魔力を感じるよ。魔力の大きさはそんなでもないけど、なんか得体が知れない感じがする。
魔物ではなさそうだけど、気をつけてね」
得体が知れない、か……。ヒースがそう言うなら、気を引き締めたほうが良さそうだな。
俺は魔力で身体を強化してから騒動の現場へと向かった。
「これは何の騒ぎだ!?」
俺はいつでもすぐに剣を抜けるように構えつつ、騒動の中心に飛び込んだ。
するとそこにいたのは若草の民の同胞で、俺の部下としてこの街の警備兵をやっているカクタスだった。
「気に入らねえ…… 気に入らねえ…… どいつもこいつもだっ! そこのお前らも、どうせ俺を見下しているんだろっ!?」
カクタスは抜いた剣を振り回しながら、周りの住人たちに向けて意味不明な事を叫んでいる。
カクタスは真面目で実直な性格だ。こんな騒ぎを起こすタイプではないはずだが……。これはいったいどうしたというんだ?
「よせ、カクタス! なぜこんな街中で剣を抜いている!?」
「うるせえ……うるせえ! うるせえぇっ!」
カクタスは今まで見た事も無いような凶悪な表情で、大声で喚きながら斬りかかって来た。
これは……本気の殺気が込められている!?
状況は分からない。今も頭は困惑しているが、それでも俺の体は条件反射で剣を抜いてカクタスの攻撃を防いでいた。
むっ、この力……やはり手加減はしていないようだ。……大切な同胞を傷つけたくはないが、むざむざ斬られるつもりは無い。
「ぬうん!」
俺は一気に剣を振り上げてカクタスの剣を上へと弾き飛ばし、隙だらけになった腹に膝蹴りを叩き込んだ。
「がっ……! ゲホッ……」
カクタスはそのまま腹を押さえてうずくまった。
少し強めにやったが剣を向けたのはそっちが先だ。悪く思うなよ。
膝をついて咳き込んでいるカクタスには、もう抵抗する気配は感じられない。
ふむ、大人しくなったか。では事情を聞こう。
「カクタス。なぜこんな真似をした? 話してもらうぞ」
「ゲホッ、ゲホッ……。す、すみませんでした、ムスカリさん。でも私にもよく分からないんです。……突然何もかもにイライラして……。
それで、気がついたらいつの間にか、好き勝手に暴れたら気持ちが良いだろうな、なんて考えていて……」
ふむ……? イライラする事くらいは誰でもあるだろうが、いきなり本気で剣を振り回すほどの苛立ちを、唐突に感じるというのはおかしい話だな。
かと言って、実直な性格のカクタスがこんな荒唐無稽な嘘をつくとも思えん。
俺が不思議に思っていると、後ろからヒースの呟きが聞こえてきた。
「妙な魔力はあの剣から感じる。あれは……もしかして……」
ヒースは地面に転がっている剣……先ほどカクタスが持っていたその剣をジッと睨み付けるように見ていた。
「剣? ……ふむ、カクタスが普段使っている剣とは違う物のようだな」
魔力感知が得意ではない俺にはヒースの言う『妙な魔力』とやらは分からないが、その剣がカクタスの剣ではないことくらいは分かった。
そもそもカクタスは剣よりも槍を得意としているため、剣を持ち歩くこと自体あまり多くない。
うむ……。だがあの剣がなんだというのだ?
俺はヒースに視線で尋ねる。すると俺の疑問が伝わったのか、ヒースは一度コクリと頷いた後、説明を始めた。
「もしかしたらだけど……その剣は、昔、邪神を崇拝していた教団の戦士達が使っていた魔剣と同じ物かも知れない」
「……それは本当か?」
「うーん……僕も本物を見たことはないから確信は無いんだけど……でも前に資料で見た物とデザインは似ているよ。
もしそれが言い伝えられている通りの物だとしたら、持ち主の悪意を増幅させる呪いがかけられているはずだ」
「悪意を増幅させる魔剣……ならば先程のカクタスの様子もそのせいか。確か危険だな、しかしそんな物騒な物をどうやって手に入れた?」
俺はカクタスに直接尋ねてみた。
カクタスはふらつきながらも立ち上がり、俺の質問に答える。
「け、今朝この街に来た行商人から買ったものです。魔力の込められた掘り出し物と言われたんですが、まさか呪いの剣だったなんて……」
「行商人か、悪意を持って危険物を持ち込んだのか、何も知らずにやらかしたかは分からないけど、どちらにしても身柄を押さえて話を聞いた方が良さそうだね」
ヒースはこちらを見て苦笑いをしながらそう言った。ふっ……どうやら俺達の休暇はここまでのようだな。
俺もヒースに苦笑いを返した。
「すぐにその行商人を探そう。カクタス、人相は覚えているか?」
「は、はい! 居場所も大体分かります、俺が案内を……うぐっ……!」
走り出そうとしたカクタスが、苦しそうに顔を歪めて足を止めた。
「大丈夫か? ……すまない、少々強くやり過ぎたかもしれんな。ヒース、薬か何かを持っていないか?」
「打撲に効く薬草があるよ。ほら、よく揉んでから貼ると良い」
「す、すみません、使わせてもらいます」
この時、俺もヒースもカクタスを治療することに意識を向けていた。
だから……この場にモーリン様がいらっしゃったことに気がつくのが遅れてしまったのだ。
ーーーー モーリン視点
人がガヤガヤしている所を覗いてみると、その中心には3人の男性がいました。
あっ。あそこにいるのはマッスルさんとぽっちゃり係長さんですねー。
もう1人の人も見覚えがあります。あれは……うーんと……あっ、思い出しました。以前セクシーさんと一緒にいたWith・Bの片方の人ですね。
3人ともこんにちはー、観葉植物ですよー。ワッサワサ。
私は枝をフリフリしてご挨拶しました。
「なに?……気持ち悪い」
ぺルルちゃんが呟きました。
なんですとっ!? 今の私の動き……気持ち悪かったですかっ!?
そ……それは申し訳ありません! いつもより少しポップでアバンギャルドな雰囲気を意識したのが裏目に出ましたかねー?
うう……反省しなくては……。
「あ、違うわよ? 別にリンに言ったわけじゃないわ。私が気持ち悪いって言ったのは、あそこに転がっている剣の事よ。
気持ち悪い魔力を発してるわね……多分だけどあれは呪いのアイテムだわ、危ないから触ったらダメよ」
なんと!? 呪いのアイテムですか!? そ、それは危ないですねー。
誰かが触ってしまっては困るので、隅っこにでも置いておきましょうか。
うみょ~ん、と蔦を伸ばして……よいしょ、っと。 おお、結構ズッシリと重たいですねー。
「あーっ!? 触るなって言ってるのに何で拾うのよバカー!」
え? ですが別に装備した訳ではありませんし、移動させるために持ち上げるだけならノーカンになりませんか?
ほら、ゲームでも呪いのアイテムをただ拾っただけなら呪われないですよね?
「ね、ねえリン。大丈夫なの? 呪われてない? 何か変な感じとか……」
心配してくれてありがとうございます。 んー、でも特に呪われている感じはしませんよ?
ぺルル・ワタシ・ダイジョブ・シンパイ・ナッシング。
「そう? ……なら良いんだけど。 ……でもそうよね、ポンコツとはいえリンは仮にも精霊なんだし、そう簡単に呪いなんか受けたりはしないわよね、ポンコツだけど」
ええ、呪いなんか受けてはいませんよー。なぜポンコツを2回も言ったのかが少し気になりますけど、私は元気です。
……ところで先ほどからこの剣から黒いモヤモヤが出てきて絡み付いてくるんですけど、これは何ですかね?
あと、さっきから頭の内側から直接「憎め……」とか「殺せ……」とか物騒な声が臨場感たっぷりな高音質で聞こえてくるんですけど、もしかして私の頭の中でデスメタル系のバンドがライブとか始めたんでしょうか?
んー……どうやら知らない間に私の頭はライブ会場として使われていたようですね。 びっくりです。
ライブはヒートアップしているようで、相変わらず「憎め」「殺せ」の大合唱。
うむむ……音楽の好みは人それぞれなので悪くは言いませんけど、実は私はデスメタルはあまり好みではないんですよ。
なので少し音量を小さくしてくれませんか?
私は頭の中のデスメタルバンドの人にお願いしてみたのですが……お、おや? なんかますます音量が大きくなっているんですけど!?
私は音量を小さくして欲しいと言っているのに、なんでそこで敢えて逆を行っちゃうんですか?
まあ確かにバンドマンの人はロックな反骨精神とかが売りなのかもしれませんが、時には素直に他人の言うことを聞くことも大切ですよ……って、ここで更にボリュームアップですか!?
おおうっ……! これは頭がガンガンしますね~……ちょっぴり目眩が……、
「bYまx5#dモーリン!」
「ちょっ……リン! アンタやっぱり呪われてるんじゃないのよ! 精霊のクセに簡単に呪われるなんて精神のガードが甘過ぎよ!?」
ちくわちゃんとぺルルちゃんが顔を青くして動揺しています。
あー……また2人を心配させてしまいましたか。ポンコツでごめんなさい……。
うーん、やっぱりこれって呪いだったんですねー。 いえ、実は私も3秒ほど前から、「おや? これって呪いでは?」って気がしていたんですよねー。あっはっは……。
とか考えている内にも更に黒いモヤモヤが体に絡みついてきて……
んー……なんだか……意識が遠くなりますよ~? これはよろしくない感じですかねー?