閑話 あの娘の消えた日常
主人公がいなくなった後の日本の話です。 主人公の友達視点です。
「今日、部活無いんでしょ? なら、一緒に買い物とか…… え? どこ見てるの?」
「……アンタは、もう何も感じなくなった?」
私はクラスメイトに確かめた、 あちら側なのかと。
「えっ? ……な、なにその、変に意味深な感じの台詞」
……ああ、彼女の中のあの娘は、もう薄れてしまったんだろう。
「ううん、分からないならいいわ。 ……あと、今日は遠慮するわ、ゴメンね」
クラスメイトたちが次々と帰り、閑散とした教室で、私は、一点を見つめていた。
教室の入口から2列目の最後尾。 ……そこに席は無かった。
主不在のまま、そこにしばらく残されていた机も、いつの間にか片付けられたようだ。
「……ねえ、鈴……また1つ、アンタのいた証が消えちゃったわよ……」
毛利 鈴という女の子がいた。
可愛いけど不思議な娘だった。
他人とのコミュニケーションが下手な癖にイベント好きで、食事や遊びに誘うと絶対に参加して、最初に来て最後まで残っている娘だった。
大人数が集まって騒いでいると、いつの間にかそのグループの隅にちょこんと座っていて、その癖に会話には参加しないような娘だった。
楽しそうに笑っている人たちを、側で見ているのが好きな娘だった。
無口で無表情なのに、不思議と少しも陰気なイメージの無い娘だった。
無口だけど、実はとても可愛い声をしてる事を私は知っている。
無表情だけど、瞳の奥が好奇心旺盛な猫のようにキラキラ輝いている事を私は知っている。
実は冗談が大好きで、学校行事のアンケートや国語の作文に変な冗談ばっかり書いていた事を私は知っている。
あの娘が突然居なくなった事は、不思議なくらい……
そう、本当に不思議なくらい自然に世間に受け入れられた。
皆、あの娘を忘れている訳じゃあ無い。 話題に出せば皆すぐに思い出す。
……でも意識しないと思い出すことも無いのだ。
理由は分からない、まるで世界があの娘の事を消してしまおうとしているみたいだ。
今でもあの娘が居ない事を本気で悲しんでいるのは、本当にあの娘を好きだった数人だけだろう。
誘拐された、なんて噂がある。
死んでしまった、なんて声さえある。
……あの娘が居なくなったのは事実だ。 でも……。
今でも目を閉じると、頭の中に鮮明に浮かび上がるのだ。
沢山の人たちが集まって騒いでいる、その隅に、
無口、無表情で……だけど、少し嬉しそうに、ちょこんと座っている。
……そんな、あの娘の姿が……。
地球では妖精が実在する存在として認識されていないため、妖精が大きく原因に関わった事件は、無意識に人の認識外に追いやられて、他の事より早く忘れられていきます。
20時頃に閑話をもう1話投稿します。