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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
番外編&後日談ですよ まだやりたい事がありますから。
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後日談 5話 罠にかかった鳥からのどこでも盆栽

 どうもこんにちは、盆栽です、


 ぺルルちゃんの話で最近の私は木としての自覚が足りないと反省してから2日経ちました。

 自分の原点を思い出そうと思いまして、あれからはずっと盆栽モードのままなんですよ。

 盆栽生活にはそれほど不便はないのですが、一度ちくわちゃんが心配そうな顔でなにか話しかけてきたんですよね。


 考えてみれば今まで私は力を使いすぎて疲れた時に、その疲労回復のために木の姿になることが多かったじゃないですか。

 なので、ぶっ通しで2日も木……というか盆栽になっていたのを見て、私が疲れていると思ったのかもしれません。


 別に疲れがたまっているわけではありませんし、ちくわちゃんに心配をかけるのは嫌でしたから元気をアピールするつもりでいつも以上に激しく、枝が残像を残すほどに高速でワサワサして見せたら余計に心配させてしまいました。


 ぺルルちゃんによると、その時の私は罠にかかった鳥がなんとか逃げようと必死でバタバタもがいているような動きをしていたようです。

 うむむ……そんな動きをしたつもりはなかったんですけどねー……。



 そんなこんなでちょっと心配かけたりもしちゃいましたけど、盆栽生活を続けているおかげか少し力が戻ってきている気がするんですよ。

 私はどこからでも栄養を吸収することができますが、やっぱり根っこで土から栄養補給するのが植物として一番自然なライフスタイルなのでしょうね。

 まだ2日しか経ってないので劇的な変化とは行きませんが、このまま続けていれば遠くないうちに元の大きさまで戻れるかもしれません。

 さあ、頑張って大きくなりますよー。


 まあ大きくなると言っても、元の身長も充分にちっちゃいんですけどねー。



 大きくなるのに大事なものと言えば、やっぱり食事と運動ですよね。

 なので土とお日さまからたっぷりと栄養補給をして、あとは運動を……と言っても盆栽モードでは枝をワサワサするくらいしか動けないですよね。

 んー、ワサワサするだけで充分な運動になっているかは疑問なんですけど……まあ激しく動けば運動になりますよね?

 ということで、ハイスピードワサワサです! そいやー!!


 ワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサ!!



 「ちょっとリン。 また罠にかかった鳥みたいになってるわよ?

 多分、成長するためにトレーニングをしようと思ってるんだと思うけど、そのやり方は効率悪いからやめなさい。

 ……あと、見ててなんか怖いし」



 おや? ぺルルちゃんに変なモノを見るような目で見られちゃいましたねー。

 ではやめましょうか。 効率が悪いらしいですし。

 ですが、ハイスピードワサワサの効率が悪いというのなら、効率の良いトレーニングというのはどういうものなのでしょうか?

 ちょっと聞いてみましょうか。


 ぺルル・ナイストレーニング・is・ドンナヤネン?



 「精霊の核を成長させるなら体を動かすよりも魔力を使う方が効率がいいわ。

 リンの場合、確かに体を動かすだけでも魔力は使ってるんだけど、それでも純粋に魔法を使ったほうがいいはずよ。

 今は果物を創るのは難しいのよね? なら感知魔法とかがいいと思うわ。 負担も少ないし、もしも失敗しても危険な事故は起きないからね」



 感知魔法? ふむ……感知魔法ですか。

 んー……… ………あっ。

 感知魔法ってF P S (不思議パワーサーチ)のことですか? 一瞬、わかりませんでしたよ。


 そう言えば最初は毎朝の日課にしていたのに、ご近所さんが増えてからはたまにしか使っていませんでしたねー。

 私の能力だと、人があんまり多いと『人がたくさんいるなー』っていうことくらいしかわからないからあまり意味が無いんですよね。

 最初のころと比べると少しは個人の特定が出来るようにはなってきましたけど、それでも自信をもって特定できる人は数えるくらいしかいません。


 まあ今回はあくまでトレーニングのためなので、意味が薄くてもいいからやってみましょうか。


 (いなな)け! 私のF P S (不思議パワーサーチ)



 ……うん、今のちっちゃい体でもこの能力はそこまで弱くなってませんね。

 街の人たちの気配を感じ取ることができます。 まあ人が増えたお陰で反応がごちゃごちゃしててよくわからないんですけど。


 んー、そばにいるぺルルちゃんはすぐにわかりますね。

 あとは、ちくわちゃんとセレブお嬢さんは一緒にお出かけしてるんですけど、えーっと……あっ、いました!

 ふむふむ、やっぱりお馴染みのメンバーなら判別できますが、残念ながらあとの人はわかりませんねー。

 あ、いえ。 マッスルさんやセクシーさんなんかの付き合いの長い人達の反応も、ちゃんと覚えているんですよ?

 ただ、一瞬でわかるほどハッキリとは覚えていないので、人混みの中からすぐに見つけるのは難しいんですよ。


 ほら、赤と白のシマシマの服を着て街中に隠れてるメガネのお兄さんを探すミニゲームみたいな絵本があるじゃないですか。

 あのお兄さんを探す時くらいに気合いを入れればわかるかな? って感じです。

 

 それに対してちくわちゃんの反応なら人混みにいてもすぐにわかります。

 猫の群れの中にいる猫耳メイドさんを見つけるくらいにすぐわかりますよ。


 でもって、セレブお嬢さんの反応を探すのは……んー、そうですね、クマの群れからパンダを見つけるくらいの難易度でしょうかね?

 ジッと見ればすぐわかるという感じです。

 

 つまり、私にとってちくわちゃんとセレブお嬢さんが2人でいるというのは、人混みの中でパンダを連れた猫耳メイドさんを探すようなものです。

 目立つからすぐにわかりますねー。


 ……あ、ウワサをすればなんとやら。 2人の反応が近づいて来ますよ。

 んー、もう少ししたら見えてくると思うんですけど…… あっ、見えてきました!

 お帰りなさ~い。  ワッサワサ!


 おや? ちくわちゃんは麻袋みたいなものを持っていますし、セレブお嬢さんはタライみたいな物を持ってますね? あれは何でしょうか。



 2人が私の所へ歩いて来ました。 ……あ、タライかと思ってた物は、多分、植木鉢というかプランターというか、そういう物っぽいですね。

 植木鉢とプランターの違いはよく分かりませんが、カタカナの方がナウい気がするので、とりあえずプランターと呼んでおきましょうか。


 2人は私の周りの土を掘り返し始めましたけど……もしかして私をそのプランターに植え替えようとしてますか?



 ある程度掘り終わると、セレブお嬢さんが私を優しく持ち上げます。

 ちくわちゃんは麻袋を開けて、それをプランターの中にはドバッと出していますね。 あ、袋の中身は腐葉土だったみたいです。

 おお、これは中々に栄養豊富そうな良い土です。


 2人は私をプランターに植え替えて、根元に優しく土をかけてくれました。

 なんだかお布団をかけてもらってる気分ですねー。

 そして、私の体が安定するように根元の土をぎゅっと固めて、最後にちくわちゃんが魔法で水をかけてくれました。

 気持ちいいですね~。 まさに至れり尽くせりです。


 うーん、何かお返ししてあげたいんですけど、今の私にできることはあまり無いです。

 うん、やっぱり早く力を取り戻して、美味しい果物をプレゼントしてあげなくては!



 「そういうのに植え替えられると、より盆栽っぽさが増したわね」


 ぺルルちゃんが私を見て、そう言って笑いました。

 盆栽っぽくなりましたか? そう言ってもらえると照れますねー。

 

 ですが、なんで急に私をプランターに植え替えたんでしょうかね?

 そんな疑問を感じた直後、セレブお嬢さんがプランターに皮のベルトみたいな物を取り付け始めます。 ふむふむ、手際がいいです。 セレブお嬢さんは手先が器用ですねー。

 家庭科の授業で裁縫をしたとき、針に糸を通すまでに2時間かかってしまい、結局何もしないまま授業が終わってしまった私とは大違いです。


 でもこれは何でしょうか? っと思っていたら…… おお、ちくわちゃんがベルト部分に腕を通して、ランドセルみたいにしてプランターごと私を背負いました!

 今までも抱っこしてもらって移動することは何度かありましたが、これはまた一味違った感じで結構楽しいです。


 なるほど。 このためにプランターとベルトを用意したんですねー。 これなら盆栽モードのままでも一緒に行動できますよ。

 このアイテムを『どこでも盆栽』と名づけましょう!


 ……おや? ですが、さっき私に水をかけてくれましたよね? その直後に背負ったということは……


 私は視点をグリッと動かして、ちくわちゃんの背中辺りを見てみました。

 あ~、やっぱり。 プランターから流れ出た水分でちくわちゃんの背中が汚れちゃってますよ~。 セレブお嬢さんも『あらあら』って感じの苦笑いをしていますね。


 これは着替えたほうがいいのでは? 私を植え替えた時に手も土で汚れちゃいましたし、シャワーを浴びたらどうですかね?

 私は髪をうにょ~んと伸ばして、ちくわハウスのシャワー室を…… まあ、シャワー室といってもシャワーは無いんですけどね、水源はちくわちゃんの魔法ですから。 つまりは単に水浴びのための部屋なんですが、『水浴び部屋』ではオシャレじゃないので、仮にシャワー室と呼んでおきます。


 で、そのシャワー室(仮)を髪の毛でクイックイッと指し示しました。

 ですが、ちくわちゃんは反応してくれません。 ……と思ったら、単に見えていないだけでしたね。 ほら、ちくわちゃんは私を背負ってるので、ちくわちゃんからは私が見えてないんですよ。


 セレブお嬢さんが、ちくわちゃんに何か声をかけました。

 多分、私がなにか合図してるということを伝えたんでしょう。 ちくわちゃんは、ハッとして体ごと私の方を振り向きました。

 ですが、振り向いた先に私はいません。

 なぜなら私はちくわちゃんの背中に乗っているので、ちくわちゃんが体ごと振り向けば、私はまた逆側に行くんですよね。


 ちくわちゃんは、あれ? って感じで首を傾げて、また後ろを振り返りました。

 ですが、振り向いた先に私はいません。

 なぜなら私はちくわちゃんの背中に乗っているので、ちくわちゃんが体ごと振り向けば、私はまた逆側に行くんですってば。


 うーん、なんか自分のしっぽを追いかけてクルクル回るワンちゃんを思い出しますねー。

 なんだか、ほっこりした気分になります。


 笑いをこらえるような顔でセレブお嬢さんが何かを言うと、ちくわちゃんは今度は首だけで振り返りました。 あ、やっと目が合いましたねー。

 クルクル回っていた事が恥ずかしかったのか、ちょっと顔を赤くしています。

 うーん、可愛いですねー。 見ていてニヤけてしまいそうです。 ……まあ、私の表情筋は仕事をしないので、実際にはニヤけようもないのですが。


 このままちくわちゃんと見つめ合っているのも悪くはないのですが、ご飯の時間になる前に泥んこ汚れは洗っておいたほうがいいと思うので、私はもう一度改めて髪でうにょ~んとシャワー室を指し示しました。


 言いたい事が伝わったのか、ちくわちゃんはコクンと頷いてからシャワー室の方向へ歩き始めました。 ……私を背負ったまま。


 あの……ちょっとちくわちゃん? 一緒にいたいのは私も一緒ですが、盆栽モード(プランターつき)の私と一緒に水浴びしたら余計に泥だらけになっちゃいますし、折角2人が入れてくれた腐葉土も全部流れ出てしまいますよ。

 今回は私は遠慮しますので、ちくわちゃんとセレブお嬢さんの2人で水浴びしてきてくださいよ。



 ちくわちゃんはしばらく悩んでいましたが、やがて納得したように私を背中から下ろして、シャワー室へと向かいました。

 一度ぺルルちゃんの方を向いて、身振り手振りで『一緒に行く?』みたいな仕草をしましたが、ぺルルちゃんは『遠慮しとくわ』って感じに顔の前で手をヒラヒラと振って断りました。



 ちくわちゃんとセレブお嬢さんは水浴びをしに行き、私はぺルルちゃんと2人きりになりました。


 「それにしても、プランターを背負えるように改造してまでリンと一緒に居ようとするとはね……。 そこまでしなくても庭に出ればすぐに会えるでしょうに。

 片時も離れたくないってことかしら? リン、本当に愛されてるわね。 というか、ぶっちゃけ愛され過ぎて重たいわよね」



 愛されてるというのは照れますけど嬉しいですねー。

 ですが重たいですか? ちくわちゃんの身長や体格は日本人の時の私と同じくらいなので、多分体重は34キロくらいじゃないですかね? 私がそれくらいだったので。


 ちなみに、稲穂ちゃんの体重を知って、「私より20キロ重いんですねー」と呟いてしまったら、口元をひくひくさせながら、

 「身長差が30センチ近くある事を考えなさいよ! 私は重くないわよ! むしろ身長のわりには軽い方よ! というか鈴が小さ過ぎるのよ! まったく……久しぶりに喋ったと思ったらそのセリフって、どういう事よ?」

 ……っと結構ガチな感じでお説教された事がありました。

 

 ……んー、今、ふと気づいたんですけど、稲穂ちゃんとぺルルちゃんって、私にお説教する時の口調が少し似ていますねー。 世話焼きで頼りになるところも似てるかも知れません。


 あっ! ですが、違いますよ!? 私はぺルルちゃんに稲穂ちゃんの代わりを求めている訳ではありません! ぺルルちゃんのことは、ちゃんとぺルルちゃん個人として大好きになったんですよ!? 信じてください!


 ぺルル・スキ・スキ・ダイスキ・シンジテ!



 「ふぁ!? ちょっ……! 脈絡もなく突然なにを言ってるのよ!? だ、誰もそんな話はしてないじゃないのよ! ……で、でも……その…… 嬉しいわよ、私も……リンの事が…… だ、大好き……」


 あっ、ちくわちゃんが戻ってきましたね。 ワッサワサ!


 「って聞いてないしっ! ワッサワサじゃないわよ、もうっ!」

 


 あっ、ごめんなさいぺルルちゃん。 話してる最中なのに。

 うむむ……すぐに思考があっちこっちに飛んでしまうのが私の悪いクセなんですよねー……。 



 「はあ…… まあいいわ。 聞こえなかったなら、それはそれで良かったような気もするし。

 ほらほら、私のことよりあの子を迎えてあげなさい。 飼い主に駆け寄る仔犬みたいな顔で走って来てるわよ」


 んー、ぺルルちゃんが、呆れたようなホッとしたような、何とも言えない表情をしていますね。 もしや、私が話の途中で別の事を考えてたことで、気を悪くしてしまいましたか?

 うう…… 申し訳ないです。


 しっかり謝ろうかと思ったのですが、ぺルルちゃん「別に怒ってないわよ」といって苦笑いしていたので、今はとりあえずちくわちゃんの方を見ました。


 ちくわちゃんは急いで水浴びを終えてきたのか、まだ全身が濡れていますねー。

 もー、しっかり拭かないと風邪を引いちゃいますよ?


 ですがちくわちゃんは『そんなの関係ねぇ! そんなの関係ねぇ!』って感じのテンションで私に駆け寄るとプランターのベルトに腕を通して、また私を背負いました。

 おや? 体が濡れたまま、土がついたプランターを背負ったりしたら……

 あっ、やっぱりまた泥んこになっちゃいましたよ。 せっかく水浴びしてきたばかりなのに……。


 はっ! これは、『同じボケの繰り返し』というギャグの基本技でしょうか?

 まさか、ちくわちゃんもコメディアン志望ですか?


 私とコンビを組んでくれたら嬉しいのですが、繰り返しボケのテクニックを使ったということは、ちくわちゃんはボケ志望ですよね?

 私はあまりツッコミは得意では無いので、私とちくわちゃんがコンビを組んだらダブルボケになってしまいますね……。

 

 うむむ……ダブルボケのコンビはあまりバランスが良くないんですが…… うん、まあそこはネタでなんとかカバーできますよね?



 よーし! そうと決まったら、ちくわちゃんとコンビを組んだ時に披露するネタを考えておきましょうか! 燃えて来ましたよー!



 「……リンがまた変な事を考えてる気がするわ……」


 おや? ぺルルちゃん、なにか言いましたか?





 

 

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