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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
番外編&後日談ですよ まだやりたい事がありますから。
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ストーンライフ!  1,5話A 紳士、石を拾う

まさかの再登場、ゲイデス・ヤラナイカ視点です。

 「ふむ……どうやら見たところ巻き込まれた者はいないようだネ。 何よりだ」


 そう言って安堵するビーエルン・オシリスキーに対して、メガネノ・キチックが意見を言った。


 「いけませんねえ、結論を急いでは。 石や灰に埋まってしまった者もいるかもしれないのですよ? もう少しじっくりねっとりと探索してはどうです?」

 

 ガッチー・ホモルマンとダン・ショクカーも続けて意見を述べる。


 「そうだね、それにボクらの元々の依頼の方も忘れてはいけない」

 

 「うん、受けた仕事はしっかりこなしてこそ、紳士ってものだよ」

 


 皆、まだまだ周囲を見回るつもりのようだな。 無論、私も賛成だ。

 私たちは、もう少し捜索を続ける事にした。





 私たちは冒険者パーティー『薔薇の園の紳士』だ。

 そして私はゲイデス・ヤラナイカ……一応リーダーをヤらせてもらっているよ。


 私たちはある富豪からの依頼で、コレクションルームから逃走した魔導人形の捜索をしていたんだ。

 そして、この付近で見かけたという噂を聞いたので、数日前から近くの村の宿に泊まっていたのだが、今朝、なんと近くの山が噴火したのだ。


 規模は小さく、灰と岩を幾らか吹き上げただけで止まってくれたのは幸いだったのだが、巻き込まれた人間が居ないとも限らない。

 そこで私達が調査を買って出たという訳さ。 噴火が収まったとは言え、まだ危険はあるからね。


 力を持たない人々に代わって体を張るのが冒険者の存在意義であり、紳士のマナーでもあるのだから、私達が動くのは当然の事さ。 私たちは紳士なのだから。



 

 それからどれだけの時間が過ぎただろうか?


 私達は、半ズボンの少年のわんぱくな膝小僧を見つめる時のように真剣に目を凝らして捜索を続けていたが、人の姿は見つからなかった。

 どうやら噴火に巻き込まれた被害者は居ないと思って良さそうだな。


 「皆! ちょっと来てくれるかネ!?」


 この声は、ビーエルンだな。 何かあったのかな?




 声の方に向かうと、ビーエルンが座り込んで地面に転がっている何かを調べていた。


 「リーダー。 ここに転がっているのは、依頼されていた魔導人形じゃないかネ? 聞いていた見た目に似ているようなのだがネ……」


 そう言われて改めてそれを見る。

 金属の骨格に、魔法式を書き込んだ布と皮を巻いた、人間の子供程のサイズの人形……たしかに聞いていた通りの物だ。

 だが頭が砕けていて、明らかに機能停止しているようだ。


 「これは……確かに依頼の物のようだけど、壊れてしまっているな。 最悪、コアだけでも持ち帰ってくれと依頼されていたのだが……」



 駆け寄って来たメガネノも人形の状態を見ると、トレードマークである眼鏡を中指でクイッと上げながら、苦い顔をした。


 「残念ですが、コアは頭の中にあったようです。 ……粉々になってしまいましたか」


 なんと……それでは依頼は失敗と言うことか。

 こんな事になってしまうとは、なんと情けない……! これは私達の日頃の紳士度が足りなかったということか……!


 絶望感に打ちのめされていた私の耳に、ダンの声が聞こえた。



 「諦めたら、そこで依頼は終了だよ? 最後まで挑戦してこそ紳士さ。

 どこかに大きめのコアの破片が残っているかもしれない。 探してみようよ」


 おお、ダンは良いことを言うね! 確かに諦めるのはまだ早い。


 「よし、では僕が魔力感知で探してみよう」


 そう言ってガッチーが感知魔法を展開した。 すると、すぐに何かを見つけたようだった。



 「ワオッ!? ビーエルン! 君のお尻から神々しいまでの魔力を感じるよ!

 君のお尻が魅力的なのは知っていたが、いつの間にそこまでの高みまで登り詰めてっ……!?」


 「そっ、それは本当かネ!? ついに我輩のお尻が究極進化をっ!?」


 ふうむ、盛り上がっている2人には非常に申し訳ないんだが……。


 「2人とも落ち着くんだ。 残念だが、この魔力の出どころはお尻ではないよ。

 ビーエルン、君が腰かけているその石から感じられるようだ」


 「……我輩のお尻が魔力を放っていたのではないのかネ……。 それは残念。

 だが、確かにこの石は不思議なくらいに座り心地が良いと思っていたのだヨ。 何かの魔力がこもっていてもおかしくはないネ。

 ……ちょっと試しにリーダーも座ってみるかね?」


 そう言って立ち上がり、石を指差すビーエルン。

 ふうむ、せっかくなので座ってみるとするか。 だが、仲間を疑うつもりはないが、石の座り心地がそんなに良いわけが……


 半信半疑だった私の尻を、不思議な石がガッチリと、それでいてなめらかに支えた。


 「なんとっ!? これは確かに座り心地が良い!」


 驚いた私の声を聞いて他の仲間たちも次は自分も自分もと言い出し始め、結局全員が2回ずつ試すまで、交代で座り続けてしまった。

 やれやれ、私達とした事が子供のようにはしゃいでしまうとは恥ずかしい。



 「……しかし、見たところ普通の石のようだが、内から感じられるこの魔力は一体なんなのだろうか?」


 私は改めてその石を見つめた。 ……うん? 表面に何やらキラキラと光る粒がついているようだな。 これは何かの欠片? ……なるほど、わかったぞ。


 「きっとこの石は、今朝の噴火で飛ばされて来た物だろう。 それが偶然、魔導人形の頭に当たり、コアを破壊したという事なんだと思う。 このキラキラした粒はコアの欠片だろうね。

 ……おそらくその時に魔導人形のコアの魔力をこの石が吸収してしまったのでは?」


 私の思いついた仮説を聞いた仲間たちは同意してくれたが、メガネノはまだ疑問がありそうであった。


 「確かに魔物を斬った剣に、その魔物の魔力が宿って魔剣になったという話もありますし、あり得ない話ではなさそうですが……それは長年に渡って多くの魔物を斬り続けた場合です。

 コアを1つ破壊しただけで、普通の石にここまで高い魔力が宿るものでしょうか?」


 ふむ……確かに不自然と言えば不自然か。 すると、この石はコアを破壊する以前から、なにか特別な石だったのかもしれないな。


 「よし、この石を持って行くとしよう。 残念ながら今回の依頼は失敗してしまったが、どちらにせよギルドに詳細は報告しなくてはいけないからな。 その時にこの石の事も報告しよう」


 私たちはその不思議な石を持って、ギルドへと報告に戻ることにした。

 もちろん先に村に寄って、噴火に巻き込まれた一般人は見つからなかったと報告することも忘れてはいない。




 ーーーー


 

 拠点としている街へと帰るためにしばらく道を歩き続けていると、途中にあった泉のそばで休憩している馬車を見つけた。

 話を聞いてみると取引を終えて拠点に帰る商人らしい。

 手違いで仕入れの品が少なくなってしまい馬車のスペースが空いているから、ただスカスカの馬車を走らせるよりは少しでも稼ごうと思って、料金を取って客を乗せているらしい。


 なかなか商魂たくましいものだな。

 行き先を聞いてみると、私たちの拠点にしている街にも立ち寄るらしい。

 ちょうど良いな、乗せてもらうことにしようか。

 

 先払いで料金を払って馬車に乗り込むと、先客がいた。 ……3人か。 これからしばらくの間同行するのだから、まずは挨拶をしておくとするか。

 紳士として礼節を忘れてはいけないからね。



 「やあ、皆さん。 私達は冒険者パーティー、『薔薇の園の紳士』だ。

 私はリーダーをヤらせてもらっているゲイデス・ヤラナイカという者だ。 これから数日の間、よろしくたのむよ」

 

 私の自己紹介に続いて他のメンバーも自己紹介をする。

 全員が自己紹介を終えると、3人の先客の内の1人の深くフードを被った青年が、めんどくさそうに「ああそうかい」とだけ口にした。


 ……うーむ、どうやらこの人物はあまり私達を歓迎してくれてはいないようだ。

 まあ残念ではあるが私は怒ったりはしない。 私は初対面の相手に挨拶することを心がけているが、そのルールを相手に押し付けるつもりは無いからね。

 世の中には人付き合いが苦手なもいるのだから。


 彼らが会話を望んでいないなら、移動中もあまり話しかけないようにするべきだろうか?


 私がそう考えた時、青年の連れの少女と少年は友好的な態度で応えてくれた。



 「ダメだよ? アナベル。 挨拶してもらったら挨拶しないと良くないの。

 おじさん、こんにちは。 私は精霊、名前はまだ無いの。 こっちは……」


 「ボクはジャッドって言うんだよ。 よろしくね、おじさん。 ボクは妖精……じゃないや、今は普通の人間だったね、ゴメン、今のは忘れて」

 


 精霊、しかも名前がない? 妖精と言いかけてから()()普通の人間?

 ……色々と気になる所もあるが、2人とも無邪気で素直な良い子のように見える。

 こんな子供達がなついているなら、あのアナベルと呼ばれたフードの青年も悪人ではないのだろう。


 それにしても……ジャッド少年は可愛いな。

 アナベル君も顔は良く見えないが、ちょっとした仕草から美形オーラが漂っているし、これは楽しい旅になりそうだ。

 私達は上機嫌で荷物を馬車に運び込み始めた。


 何が楽しいのか分からないが、自称・精霊の少女は私達が荷物を運ぶ様子をニコニコとしながら眺めていたのだが、最後に例の石を運び込んだ時、「あれ?」と言って不思議そうな表情に変わった。


 「……お嬢さん、この石が気になるのかな?」


 私は少女に訊ねてみた。

 すると少女は「うーん?」と首を傾げてから、「えいっ」と言って感知魔法を使った。

 おお、なんという魔力っ!? ただの感知魔法に対して圧力を感じるのは初めてだ! この少女はいったい……まさか本当に精霊だというのか?



 「やっぱり。 この石、魂があるの。 それになんだかちょっとだけ……

 本当にちょっとだけだけど、おかあさんに似てる気がするの」


 「石に魂が?」


 すぐに信じられる話ではないが、先ほどの魔力を見る限りこの少女はただ者ではない。 この少女が言うなら、あるいはそういうこともあるのでは? と思えてしまうな。

 

 その時、今まで他人事のような態度をしていたアナベル君が驚いたように声を上げた。


 「……魂がある? それにキミが言うおかあさんっていうのはあの精霊姫様のことだよね? 魂があって精霊姫様に似ているってことは……

 まさかその石は精霊なのかい!?」

 


 精霊姫……? たしか最近、急速に発展している街があって、そこで祀られている存在が、精霊姫と呼ばれていると聞いたことがあるな。 この少女がその精霊姫の娘だと?

 ……いや、彼らの話の全てを信じるのは早計か。 もちろん、他人を疑うというのはあまり紳士的だとは言えないが、結論を出すのはまだ後でいいだろう。


 どちらにせよしばらくは同行するのだ。 時間はまだまだあるのだから、共に旅をする中でゆっくりとこの少女の人柄や能力、アナベル君のお尻のラインやジャッド少年のおへその形などをしっかり見極めるとしようではないか。


 私は仲間達を見ると、皆も同じ事を考えていたのか視線が合った。

 私達は無言でコクリと頷き合い……そして一斉にアナベル君を見つめた。


 彼はビクリと体を震わせた。

 ……照れているのかな? フフッ、シャイなんだね。



 こうして私達、『薔薇の園の紳士』と不思議な3人組との馬車の旅が始まった。

 

 

次回はアナベル視点の予定です。

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