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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
番外編&後日談ですよ まだやりたい事がありますから。
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番外編 if ミミズ転生リターンズ

連載再開します。

まず以前書いたミミズ転生編の続きです。

ミミズ編は魔物相手限定ですが主人公が普通に会話をするので、書いてて少し新鮮ですねー。


どうもこんにちは、ミミズです。 

 しかも、でっかくて首が3本あるという、プレミアムなミミズです。

 こう見えても、実は中身は女子高生なんですよ? うねうね。


 成り行きでミミズに転生しちゃったので、土を食べたり穴を掘ったりと、ミミズらしく生きようとしていたんですよ。

 ですが、私の潜っていた地面の上で首の無い騎士さんと首の多いワンちゃんのケンカをしていたので、ソイヤーッ! と両成敗したら、お友達になりました。


 ほら、昔のマンガで、殴り合って仲良くなるような展開とかあるじゃないですか。 あれって実際はどうなんですかねー? とか思っていたんですが、本当にあり得るんですね。

 うん、青春ですねー。



 「主。近くにいらっしゃいますか?」


 おや? 頭の上から声が聞こえてきましたね?

 ……あっ、違いますね。 頭の上と言うか、正しくは私が勝手に皆さんの足より低い位置に潜り混んでいるだけですよね。


 とりあえず、顔を地上に出しましょうか。 ヨッコイ……しょーいち!


 私は、にゅっ、と地中から顔を出します。 はい、こにゃにゃちわー!



 「主。正午から配下たちの様子を見回ると仰っていませんでしたかな?

 そろそろ時間ですが、いかが致しますか?」


 そう言ったのは首なし騎士のデュラっさんです。

 あー、もうお昼ですか? 土の中にいると時間がよくわかりませんね。

 んー、それでは皆さんの様子を見に行きましょうか。


 ディラっさんとケルべぇと友達になった後、ポーキンさん率いるポークさんたちやエルフの皆さんとも友達になって、みんなで村を作ったんですが、その後にも色々な方々が集まって来て、あれよあれよと言う間にちょっとした街になっちゃいました。


 みんなで助け合うと、凄い力を発揮できるものですねー。 友情パワーです。

 ですが、それ自体は素晴らしい話なんですけど、なぜか私がリーダー的な存在になっているんですよね。

 どう考えても私はリーダーキャラでは無いと思うんですけど、ディラっさんが言うにはモンスターの常識では、強い者がリーダーになるのがルールとの事です。


 前世では幼稚園児の三輪車にはねられて気絶したこともあるので、多分、同年代最弱クラスの存在だったと思うんですが、今のミミズボディはハイスペックなようで、実際にディラっさんとケルべぇとポーキンさんには勝ってしまいましたからね。

 ルールだと言うなら、頑張ってリーダーをやってみましょうか。


 まあ私としては『配下』ではなくて、皆さんとは、対等なお友達のつもりなんですがねー。



 私はうねうねと地上に這い出し、ズルズルと移動を開始しました。

 ……それにしても、我ながらうねうねとかズルズルとか、女の子の移動する音では無いですね。




 「ん? おお、主よ。来たのか」


 最初にやって来たのは、3つ首のワンちゃん……ケルべぇのところです。


 ケルべぇは、この辺りに住むワンちゃんたちの親分みたいな感じになっているみたいで、いつも沢山のワンちゃんに囲まれています。

 ところでここに集まっているワンちゃんたちも、空を走ったり、火を吹いたり、影に潜ったりと、とっても芸達者なワンちゃんが多いんですけど……

 もしかして、ケルべぇはタレント犬の芸能事務所でも設立するつもりなんですかね?

 ちょっと強面ですがイケメンなワンちゃんが多いですし。


 へいへ~い! ワンちゃんたち~。 ちょっとモフモフさせてもらっていいですかー?


 ワンちゃんたちとスキンシップをしようと思って近づいてみたんですが、なんか皆さんズザァ! って感じで後ろに下がると同時に一斉にお腹を見せて降参のポーズをしました。

 むむっ!? このスーパーワンちゃんたちがこんな反応を見せるとは……

 さては、よっぽど怖いオバケでもいるのですね!?


 そう思って後ろを振り向いてみたんですが……おや? 誰もいませんね?

 んー、ワンちゃんたちは何に対してこんなに怖がっているんでしょうねー?


 私は首を傾げました。……うん、首が3つあると、通常の3倍首を傾げる事ができて便利ですねー。 より強く疑問の気持ちを表現できますよ。

 という事で、ディラっさんとケルべぇに訊ねてみます。


 「このワンちゃんたちがこっちを見て怯えていますよね? 見回してみたんですが、怖いオバケとかはいないみたいなのですが…… ワンちゃんたちは何に怯えてるんでしょうか?」


 私が訊ねると、ディラっさんとケルべぇは変な顔をして互いに顔を見合わせています。

 おや? にらめっこしてるんですか? 仲良しさんですねー。


 「あ……主よ。そ、その怖いオバケ? とやらは我が探しておくから、主は次の場所を見回って来てはどうだ?」


 「そ、そうですね。 部下たちも主が自ら見回りをしている姿を見れば心強いでしょう。

 ここから近いのは……亜人モンスターの居住区ですね。 さあ、行きましょう!」


 ケルべぇが提案してきて、ディラっさんもそれに賛成なようで、私を次の場所へ案内しようとしています。 うむむ……確かにあんまり一ヶ所に長くいたら、他の場所を見る時間が無くなっちゃいますし…… 次に行くべきですか。


 また来ますねー! という気持ちを込めて、ワンちゃんたちに向けてくねくね踊ってみせました。


 ワンちゃんたちは、キャイン! キャイン! と鳴きながら逃げて行きました。

 むむっ! やはりオバケがいるんですかね?

 私もオバケ探しを手伝いましょうか? って言おうと思ったんですが、ケルべぇが、「い、いや! ここは我に任せてくれ!」と言ったので、お任せして私は次へ行くことにしました。


 ケルべぇ! オバケ探し、頑張ってくださいねー!





 しばらく森の方に向かうと木と石で建てられたシンプルな小屋が並んでいる村が見えて来ました。

 はい、到着しましたよー。 ここはポークさんたちの村です。

 ん? オークでしたっけ? いや、ポークで良いですよね。 間違えてオークって言うところでしたよ。


 で、ここは基本的にはポークさんたちが住んでいるんですが、ゴブリンさんたちやオーガさんも一緒に住んでいます。

 もともと別種族同士では会話ができなかったようなんですが、私の仲間になってくれた方同士だと意思の疎通ができるようになるようです。


 ディラっさんが言うには、皆さんが私の眷属になったからだと言うんですけど……

 はて? 眷属ってどういう意味でしたっけ? んー、とりあえず友達……って事でいいですよね? うん。 お友達♪ お友達♪



 ここは、力が強いけど不器用なポークさんたちと、力は弱いけど手先が器用なゴブリンさんたちが、いい感じに助け合っています、

 その2種族で上手くやっていたので、後でオーガさんが混じったことでバランスが悪くならないか不安があったのですが、普通に仲良くしているようで安心しました。

 ポーキンさんが上手くまとめているようですね。 グッジョブです。


 あっ、噂をすればポーキンさんが駆け足でこっちに来ますね。

 

 「ごっ……ご主人様っ! 何か御用だブヒか!?」


 言葉が通じるようになってわかったんですがポークさんたちは、語尾に『ブヒ』がついているんですよね。 なんか可愛いですよねー。

 ポーキンさんは顔や雰囲気に迫力があるんですけど、語尾のお陰で親しみやすく感じます。

 ギャップ萌えですね。 前世で聞いた『萌えブタ』という称号は、こういう方のためにあるのかも知れません。


 「いえいえ、ただの見回りですよ。 皆さん、気にせずいつも通りにしていて下さいよ。

ポークさんたちも頭を下げなくていいですよー」


 ポーキンさん率いるポーク軍団が、私の前に整列して深々と頭を下げています。

 オーガさんは、片方のヒザをついて頭を軽く下げるという、忍者っぽいポーズです。

 おや? ゴブリンさんたちは顔を伏せてプルプル震えていますが……もしかしてトイレを我慢してますか? 私を気にせず行ってきてくださいよ。



 「主よ。頭を下げなくて良いと仰られても、オークやオーガはまだしもゴブリンたちは顔を上げるのは無理でしょう。動くことすら難しいかと思います。

 まあゴブリン程度が主の姿を間近で見れば、無理もないでしょうが」


 えっ!? 動けないほどにトイレを我慢してるんですか!?

 ですが、私の姿を見れば無理もない……というのはどういう意味ですかねー?


 あっ、そういえば漢方薬ではミミズを利尿剤にするというのを聞いた事がありますねー?

 ……もしかしてこの世界のミミズというのは漢方薬に加工しなくても、姿を見るだけでトイレに行きたくなる効果とかあるんでしょうか?

 流石は異世界です。 一味違いますねー。


 「……主。 何を考えているか分かりませんが、恐らく何かを勘違いしておられると思いますが……」


 ディラっさんの話ではゴブリンさんたちは力が弱くて臆病なので、私の力を肌で感じて怯えているようです。

 んー、私が怖がられているというのは少し悲しいですが、見るだけでトイレに行きたくなるというユニークスキルが発動している訳ではないようなので、そこは安心しました。


 ですが私は皆さんと仲良くしたいので、とりあえずゴブリンさんたちには、私は怖くない人畜無害なミミズですよー、っとアピールするために友好のダンスを披露しておきましょう。


 うねうね♪ うねうね♪ ねっとねと♪


 どうですか? この腰使い! ……自分でもどこが腰でどこがお腹なのかわかりませんが。

 前世で、柔道部の山崎くんが、ゴブリンさんはエッチな種族だと言っていたのを思い出したので、ちょっと恥ずかしいのですがサービスのつもりで少しだけ、せくしぃ路線を意識してみましたよ。


 ゴブリンさんたちは喜んでくれるでしょうか? と思ってチラリと様子を見てみると、皆さん倒れこんで痙攣していました。

 おや? も……もしかして、せくしぃ過ぎましたか?


 「主! ゴブリンの態度が悪かった事については私からも謝罪いたしますから、お怒りをお静めください! そんな強力なマジックドレインを食らっては、皆、魔力枯渇で死んでしまいます!」


 ディラっさんが慌てた様子で私のダンスを止めようとしました。 ですが、あの……。


 「あ、あの……。 私、怒ってませんし、マジックドレイン? とかいうモノを発動したつもりはないんですけど……」


 「はっ? し、しかし現に私も主の踊りを見た瞬間に、かなりの魔力が吸われた感覚がありましたが……」


 なんとっ!? 私のせくしぃダンスにそんな効果がっ!?

 

 慌てて周りを見ると、ゴブリンさんのように倒れてはいないものの、ポークさんたちやオーガさんたちも疲れたような顔をしていました。

 わ……私ってばダメダメじゃないですか! 友好的アピールのつもりだったのに、精神攻撃を仕掛けてどうするんですか!?


 罪悪感と自己嫌悪で胸が痛いです。 んー……でも私の胸ってどこでしょうか?


 「あの……ご主人様は怒ってないブヒか? なら、とりあえずゴブリンたちを連れて帰って休ませてやってもいいブヒか?」


 恐る恐る、といった感じで質問してくるポーキンさん。

 あっ! そうでした! まずはゴブリンさんたちを休ませてあげなくてはっ! 反省は後で土の中ででもじっくりやります!


 私も手伝おうと思ったのですが、考えたら私には手が無いのでゴブリンさんを運べません。

 結局、比較的元気のあるポークさんやオーガさんがゴブリンさんたちを抱き上げて運んで行きました。

 ううっ……ごめんなさい。 私のせくしぃダンスが原因で起こった事態だというのに、運ぶ手伝いすらできませんでした……。 


 望んでなった訳ではないとはいえ、仮にも私はリーダーだというのにこの体たらく……。

 情けなくて恥ずかしくて、穴があったら入りたいです。 ……あ、幸い私はミミズなので、穴を掘るのは得意です。 そいやー!


 ホジホジと穴を掘って、スッポリと中に潜ります。 ふう……これでOKです! 落ち着きますねー。

 ……おや? なんで私は今、穴の中にいるんでしたっけ?

 

 「あの……主? まだ見回っていない場所がありますが、もうお休みになるのですか?」


 頭の上からディラっさんの声が聞こえてきます。

 ほわぁ!? そうでしたっ! 今は皆さんの暮らしぶりを見回っている途中でした!


 私は地上にニョキッと頭を出します。 こんにちは太陽さん、さっきぶりですねー。



 恥ずかしさを誤魔化すために穴に潜ろうとしていたのに、いつの間にか穴に潜る事そのものが目的に変わっていましたよ。 んー、見事にミミズの本能に負けてしまいましたねー。

 お恥ずかしい…… 穴があったら入りたいですよ。 いえ、エンドレスになりそうなので、流石に今はこれ以上は潜りませんが。


 えっと……あと行っていないのは、農場とエルフの皆さんの所ですねー。

 あまり長く土の中にいると、そのまま引きこもりたくなってしまいそうなので、早く行くとしましょうか。 うねうね。



 私は、まず農場に行きました。 ここではポークさん、オーガさん、ゴブリンさんの亜人モンスターさんのグループと、エルフの皆さんが力を合わせて農作業をしています。


 お友達になったとはいえ、亜人モンスターの皆さんとエルフの皆さんは言葉が通じませんし文化も違いますから、残念ながらすぐに一緒の場所で生活するのは難しいです。

 なので住む場所は別々なのですが、せめて同じ場所で協力して働くことでもっと仲良くなりましょう! っという考えから始まったプロジェクトなんですよ。

 

 皆さんで食べ物を生産しながら、もっと仲良しになるという素敵な計画ですよね。

 で……ですがこの畑には、1つだけ素直に喜べない部分があるんですよねー。


 この畑は私が耕したもので、なんだか見ていて怖くなるくらいにお野菜が良く育つんですよ。 いえ、お野菜が育つのは良いことなのですが、問題は私が耕した……という部分です。


 ミミズが土を良くするというのは有名ですが、それは土を食べてそれを排泄して~を繰り返した結果、土が栄養満点になるわけです。

 つまり、えっと……ここの土には私の……排泄物が沢山混じっているわけで……。

 それを皆さんが力を合わせて耕している……というのが恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたい気分なのです。

 いえ、今は入りませんが。


 と言うか、私としては元々ここはトイレのつもりだったんですよ。

 それをある日、皆さんが農具でほじくっているのを見た瞬間の衝撃と来たらもう……恥ずかしさで顔から火が出るかと思いましたよ。

 まあ、顔から火は出なかったので、代わりに口からビームを出したんですが、それで遠くの山を吹っ飛ばしてしまって、そこに住んでいた2匹のワイバーンさんが降参して仲間になったのには、また驚きましたが。


 んー、何が出会いのきっかけになるかは、わからないものですねー。


 ちなみに2匹のワイバーンには、それぞれ『ミスト』と『キル』と名付けました。


 

 おっと、少し脱線しそうになりましたね。

 とりあえずこの農場は私にとっては恥ずかしい場所なので、皆さんが元気に働いている事が確認できたら、後はさっさとおさらばしたいのですよ。


 ということで、早く次に行きましょう。



 ポークさんたちの所から、農場を挟んで反対側に進むと遊牧民の使うゲルみたいなお家が並んだ村が見えて来ました。 はい、到着しましたよー。 ここがエルフさんたちの村です。

 

 

 最初は、周りがモンスターだらけの場所で、エルフさんたちは安心して暮らせているかという心配もあったのですが、普通に元気に暮らしているみたいで良かったです。

 ただ、エルフさんたちとは言葉が通じないので、言葉がわかるディラっさんに通訳してもらわないと会話ができないのが少し残念ですねー。 お話してみたい女の子がいたんですけどね。


 あっ、ちょうどその女の子がいました! 今、目が合いましたね。

 ……ところで私の目ってどこでしょう? まあいいです。


 んー、相変わらず可愛い子ですねー、いかにもエルフと言う感じです。


 へいへ~い、そこのお嬢ちゃん、私と一緒にうねうねしませんかー?


 私は女の子に向けてうねうね踊りました。

 私のせくしぃダンスは魔力を吸ってしまうらしいので、せくしぃにならないように健全なダンスを踊ります。 イメージとしては、体操のお兄さんが踊るようなヤツです。

 ……体操のお兄さんは、あんまりうねうねしないかも知れませんが。


 女の子は一緒、ビクッとしてからキョロキョロと周りを見回して、それから、私? って感じで自分を指差しました。 はい、あなたですよー。

 私は頷きました。 ……うん、頭が3つあると、通常の3倍頷けて便利ですねー。 より強く同意の気持ちを表現できますよ。


 女の子は、少し迷ったような様子でしたが、何かを決心したように頷くと、私の踊りに合わせて一緒にうねうねしてくれました。 おおっ! 結構ノリがいいですねー!


 うねうね うねうね うねうね うねうね


 しばらくの間、女の子と一緒にうねうねしました。

 ……はて? なんでこんな事をしてるんでしたっけ? ……うん、まあ楽しかったからOKですよね。


 「主……何をしていたのか分かりませんが、そろそろよろしいでしょうか?」


 ディラっさんの遠慮がちな声が聞こえました。

 あっ、すみません! いえ、ディラっさんの事を忘れていた訳ではないんですよ? ただ、ちょっと思い出せなかっただけなんです!


 私は焦ってディラっさんの方を向くと…… ほわぁ!?

 エルフの皆さんが集まって、困惑の表情でこっちを見ていました!  

 もしかして女の子と2人でうねうねしてるのを最初から見てましたか?


 「主、この者たちが主に訊ねたいことがあるよくなのですが……」


 「質問ですか? ……あっ、上手にうねうねするコツとかですかね?

 熱々のお好み焼きの上にのせたカツオブシをイメージして下さい。 ほら、あれって生き物みたいに動きますよね? そして気づくと自分がそのカツオブシに転生していた……とか想像すると上手くいくかも知れませんよ」


 「いえ、それも興味深い話……なような気がしないでもない気がしますが、エルフ達が知りたいのは、主の名前だそうです。 ……魔物は名前を持たない者が多いので今まで気にしておりませんでしたが、もし主に御名前があるのでしたら、私も聞かせていただきたいです」


 「名前? そう言えば名乗ってませんでしたねー、私は……」


 んー……私の名前は毛利 鈴(もうり りん)なんですが……せっかく新しい人生……いえミミズ生を過ごすのなら、名前も新しくしたほうがいいですかねー?

 劇場版・毛利 鈴ディレクターズカットとかですか? いえ、長過ぎますね、なんか覚えやすくて親しみやすくて、それでいて元の名前の一部が残っている名前がいいですね。


 「んー……では、ヌルリンと名乗りましょうか」


 「ヌルリン様で御座いますか……不思議な響きですが、よく似合っておいでです。

 では、早速エルフたちに伝えましょう」


 そう言ってエルフの皆さんとお話するディラっさん。

 やがて、エルフの皆さんが、私の方を見て、「ヌルリンガー」と呼びました。

 ガー、って何ですか!? なんかスーパーロボットの名前みたいになってますけど、私、そんなにロボットっぽいですか!?


 私が困惑している間にもヌルリンガーコールはだんだん大きくなっていきます。

 ディラっさんは、「主はエルフ達からも慕われておりますね」と言いました。 でもこれは……慕われているんですかね?


 うむむ……なんだか分かりませんがスーパーロボット的なものを期待されているなら、その期待に応えてみましょうか。 では…… GOです! 


 「ユニバアアアアぁースッ!!!」


 私は魂を揺さぶる熱いシャウトと共に、口からビームを発射しました。

 あ、大丈夫ですよ、ちゃんと空を狙ったので何かを吹っ飛ばしたりはしないはずです。


 今のは我ながらなかなか良いビームだと思います。流石に体を機械仕掛けにするのは難しいですが、雰囲気はスーパーロボットっぽくできたと思いますよ。

 さあ、エルフの皆さんの反応は…… おや? 何人か腰を抜かしてるっぽいんですけど……もしかしなくても、私のせいでしょうか?

 ですけど、皆さんのリクエスト通り、スーパーロボットっぽくしたつもりだったんですけど……なにかダメでしたかね?

  んー……あっ! も……もしかしてっ!


 皆さんが期待していたのは、ビームではなくてロケットパンチだったんですね!?

 あー……そっちでしたかー……私としたことが読み違えましたね……。


 ごめんなさい……皆さん、ごめんなさい。 でもロケットパンチはできないんですっ!

 だってほら、私、腕が無いので。

 うう……私は皆さんのリクエストに応えられませんでした……


 「……ディラっさん。 私はちょっと1人で反省会をしようと思います。

 ちょっとばかり土に潜ってくるので、今日はここで解散ということでお願いします…… あっ、私の名前がヌルリンに決まったという事はこの村(ここ)に住む皆さんに知らせておいてくれますか?」


 「承知いたしました。 王国(ここ)に住む皆に……でございますね?」


 「はい、お願いしますね。 皆さんも名前も知らない相手よりは名前を知っている相手のほうが仲良くしやすいと思いますからね。

 あと、私は怖いミミズじゃないっていうのも伝えてくれませんか?

 私は平和主義ですから暴力は振るいません。 あっ、ケンカとかしてたら力ずくにでも止めますけどね」


 そう伝えて、私は土に潜って行きます。

 んー、やっぱり落ち着きますねー…… おっと、くつろいでいる場合ではありませんね、今日の失敗を思い出して反省しなくては。

 私が頼れるリーダーになる日は、まだまだ遠いですねー……。

 




 ーーーー 数時間後 王都ネウロナでは……



 王城の一室では、宰相と多くの将や参謀等が集まり、深刻な様子で会議をしていた。


 「先ほど王都の上空を通過した光は、どこにも当たらずそのまま空へと消えたようです。 驚いて転ぶなどの理由で軽症を負う者はいましたが、直接の被害は報告されておりません」


 「うむ、被害が無いのは何よりだが……やはりあれは魔王の仕業であろうな……」


 「おのれ魔王め……! 宰相っ! これは宣戦布告です! 今すぐ魔王討伐の軍を編成し、出撃するべきです!」


 若く、血の気の多い軍人は怒りの表情でそう言ったが、宰相はそれを止めた。


 「待て。 戦える準備自体は整えるべきだが、出撃するのは早い。

 あれは、あの距離からでも我々の街を攻撃できるという、一種のデモンストレーションだろう。

 先制攻撃の手段があると見せつけながらも、当てずに威嚇射撃にとどめたという事は、近々なにかしらのメッセージを送ってくるはずだ」 

 


 「……ほう、なかなか冷静だな。 これなら話し合う余地はありそうだ」


 どこからともなく声が響くと、ゆらりと空間が歪み、首なし騎士の姿が現れた。


 「貴様っ! 魔王の手の者か!」


 先ほど軍の出撃を提案していた若い軍人が即座に剣を抜き、斬りかかるが、その攻撃は手応えも無くすり抜けてしまった。


 「フッ、血気盛んだな。 だが、悪いがこの姿は幻影だ。 流石の私も1人で城の中まで潜入するほど無謀ではない。 そもそも争いに来た訳ではないのだから、落ち着いてほしいものだな」


 「争いに来た訳ではない……か。 つまり、魔王からのメッセージを伝えに来たということだな? デュラハンが伝令役とは、随分と贅沢な話だがな」


 「その通り。 私は主の意思を伝えに来たのだ。 人間達よ、心して聞くがいい」


 魔王の意思……その言葉に皆がゴクリと喉をならし、注目する。


 「まず、我が主、魔王ヌルリン様の名を王国中に知らしめよ! そして、過剰に恐れる必要が無い事も伝えるのだ。 ヌルリン様はあらゆる者と友好を望んでおられる」


 その言葉に、人間たちがざわめく。


 「魔王が、あらゆる者と友好を望んでいるだと……?」


 「その通りだ。 ヌルリン様は慈悲深く、平和を好み暴力を嫌うお方だ。

 ……だがケンカを売るならば、力を持って息の根を止めるとも仰っているから、くれぐれも調子に乗りすぎないようにするのだな。 ……確かに伝えたぞ」


 そう言うと首なし騎士の姿はゆらりと揺れて、消え去った。



 「魔王が……平和を好んでいる?」

 「暴力を嫌うだと?」

 「嘘に決まっている! 騙されるな!」

 「だが、魔物とはいえ、友好関係を提案してきた相手にこちらから仕掛けるのは外聞が悪いのではないか?」

 「外聞というなら、魔物と手を組むほうが外聞が悪いだろう」

 「……そもそもの話だが、戦ったとして、勝てるのか?」


 

 この日、ネウロナ王国に衝撃が走った。


 強大な力を持ち、魔物の軍勢を率いる魔王が、平和と友好を口にした。

 その言葉は嘘か、それとも真実か?

 人々は、その真意を掴めずに困惑する。


 この日の宰相たちの会議は、夜が明けても終わる事はなかった。


 


 

 

近いうちにフンコロガシ転生編も投稿します。

まだ書きかけなので、いつとは言い切れませんが、できれば一週間以内には投稿したいと思ってます。

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