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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
終章ですよ 今日が終わってしまうなら、明日を始めれば良いと思いませんか?
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65.5話 魂の歌と夢の終わり

コーヒーゼリーたちとの戦闘シーンのフリージア視点です。

今回も少し長いです。

「剣を掲げよ。 悪しきを断ち切る断罪の剣を。

 剣を掲げよ。 心清き者を守る救済の剣を。

 正しき者が慈悲を乞う声のある限り、我が身、我が剣、我が信念は止まる事なし。

 さあ、剣を掲げよ。 今こそ力を振るうべき時なり。

 光を持ちて闇を切り裂け! 救済者の(セイバー・オブ・ザ・)聖剣(セイバー)!」


 私は深緑の民の3賢人から教わった呪文を唱える。

 難しい魔法だって言われたんだけど、結構あっさり使えた。 ……なんか、最近スゴく調子がいいんだよね、魔力の操作も上手くできるし、体を動かしてもあんまり疲れない。

 ……モーリンが何かしたのかな?


 魔法が発動すると、私の体から光が出て、それが杖に流れ込んでいく。

 眩しいくらいに杖が輝き出した後、杖の先から光の刃が伸びて大きな剣みたいな形になった。

 見た目は私の体より大きいけど、私の魔力でできているから重さは杖の分だけ。 だから振り回しても重くないよ。


 「せいっ……やっ!!」


 私は近くにいた黒くて半透明な魔物を切り裂いた。

 わっ、スゴい切れ味! 私は杖とか鉈とか、力で叩き割るような武器ばっかり使ってたから、こんなスパスパ斬れる武器は使いなれていない。 気をつけて使わないとね。


 横ではモーリンが目にも止まらない速さで走り回って魔物を弾き飛ばしている。

 ……スゴい動きだなぁ、私はモーリンが弾き飛ばした魔物にトドメを刺して回っているだけなんだけど、こんなに楽をさせてもらっていいのかな? ……むぅ……!?


 楽だ、なんて思って気を抜いた瞬間、奥にいた魔物から不意討ちを受けちゃった。

 なんとか避けたけど、危なかった! やっぱり気を抜いちゃダメだよね。

 

 攻撃してきた魔物を倒してから振り向くとモーリンが何か考えているみたいな様子だった。

 なんだろう、何か作戦でも思いついたのかな?


 モーリンが何をするのか気になったから、魔物と戦いながらもチラチラと様子を見ていると、モーリンは突然変身した。

 モーリンが突然変身するのは今回が初めてじゃないから、そこまでは驚かなかったけど……感心はしたかも。 ……モーリンって変身できる種類多いなぁ。


 今回は指が獣の爪みたく長く鋭く伸びた。 それに髪の毛も伸びていて、いつもより野生的な姿だ。

 いつもは可愛くて神秘的だけど、今はカッコよくて強そう。 ……この姿も素敵だなぁ。


 変身したモーリンはいつもより更に速く飛び回って、その指で次々と魔物を切り裂いて行く。 す……凄く速い! 強い! 流石モーリン!

 私も頑張らなきゃね。 よーし、行くよ!


 私とモーリンの2人で、魔物をどんどん倒していく。

 ……大事な戦いの途中なのに、モーリンと力を合わせて戦う事が、誇らしくて嬉しくてわくわくしちゃうな。 不謹慎なのは分かっているんだけどね。



 モーリンと一緒に戦える嬉しさと、最近の謎の絶好調のお陰で元気100倍だったんだけど……むぅ…… 倒しても倒しても新手がどんどん現れるのには流石に疲れて来ちゃったかも……


 それでも頑張って、更に魔物を倒し続けていたんだけど、なんだか魔物の動きが……変わった?

 こっちを攻撃するのをやめて、一ヶ所に集まりだして……

 わっ、合体して大きくなった!? それに形も、なんか人間っぽい感じに変わっていく。 なんか、影でできた巨人みたいな姿だ。


 どんな攻撃をしてくるのか分からないけど、わざわざ相手が動き出すのを待つ必要はないよね? こちらから攻撃させてもらうよ!

 まだ巨人は動いていないけど、私は遠慮なく先手を取らせてもらった。


 だけど、体が大きいから真っ二つにはできないし、斬った場所もすぐにくっついちゃった。

 モーリンも伸ばした指で突いたり引っ掻いたりしてるけど、あんまり効いてる感じがしない。 ……ちょっと面倒かも。 気合いを入れ直したほうがいいかな。


 モーリンもここで1度仕切り直すつもりなのか、腰からアウグスト君がくれたマジックポーションを取り出して、それを飲んだ。

 そして、半分くらいを私に手渡してくれて…… あっ……あれ?

 これを飲んだら、間接キス? い……いいの? 飲むよ? 飲んじゃうよ?


 そんな場合じゃないのは分かっているんだけど……ドキドキしてきた。

 本当はじっくりと3日くらいかけて味わって飲むところだけど、流石に戦闘中にそんな事はできないから、キュッと一気に飲み干した。

 えへっ……えへへっ……飲んじゃった!


 わあ……アウグスト君、良い物を用意したんだね。

 半分飲んだだけで、実感できるくらいに魔力が回復した。 これでまだまだ戦えるね。



 こっちの準備は整ったけど、その間に魔物の方も全部合体し終わったみたいで準備万端みたい。 でも、お互いに準備万端なら条件は同じ! 負けないよ!


 私が身構えると、巨人は腕を振り回して攻撃してきた。

 むぅ……! 見た目より速い! 避けられない程の動きじゃないけど、体が大きいから攻撃の範囲も広いし、甘くは見ないほうが良さそうだね。


 私はひたすら杖を振り回す、疲れてきたけど、弱音は吐かない!

 吐かない……ようにしたいんだけど…… でも……。


 むぅ……しぶとい。 しぶとすぎる。 しばらく戦って、改めて思った。

 見た目より速いとか、攻撃範囲が広いとかはオマケみたいなものだった。

 やっぱりコイツの強みは、大きさと再生力の方だ。


 指の爪みたいに伸ばしたといっても、元々小柄なモーリンの射程距離じゃあ体の奥まで攻撃が届かないし、浅く削り取るくらいじゃあすぐに再生しちゃうみたい。

 モーリンも、今の戦法があんまり有効じゃないと思ったのか、指と髪を引っ込めていつもの姿に戻った。 

うーん……あの姿もカッコ良くて素敵だったんだけど、やっぱりいつものモーリンも良いね。


 あっ……今はモーリンの魅力を考える時じゃなかった。

 コイツにダメージを与える方法を考えなきゃ!


 むぅ……どうするかな?

 私の救済者の(セイバー・オブ・ザ・)聖剣(セイバー)なら結構深く斬れるけど、それでも再生されちゃう事に違いはない。


 うーん……戦い続ければ勝てるとは思うけど、時間がかかりそう。

 魔力も体力も、今はまだ余裕があるんだけど、あんまり長期戦になると大丈夫か分かんないなぁ…… でも、戦い続けるしかないよね。



 少し不安になっちゃったから、それを振り払うつもりで思い切り攻撃をした。

 むぅ……雑に攻撃したから浅かった! これ、反撃されたら避けれないかも!?


 黒い巨人が、私に向けて拳を振りかぶるのが見える。 これはまずい!


 その時、モーリンが巨人の腕を横から蹴り飛ばしてくれて、そのお陰で私は攻撃されずに済んだ。 ありがとうモーリン。

 ……あっ! 巨人が目の前でバランスを崩してる! 今、狙い目だよね?

 私は隙をついて巨人を斬りつけた。 うん、綺麗に入った!

 あー、でも、やっぱりすぐに再生しちゃうね……。


 私は戦いを仕切り直すつもりで、後ろに飛び退いて距離を取る。 だけど……

 むぅ……!? 真っ直ぐ追っかけて来た!? 


 なんだか巨人は、私を集中して狙うことに決めたみたい。

 だけど、走り出したその足に、またモーリンが横から飛び蹴りをして動きを止めてくれる。 上手い!

 私は、その隙をついて攻撃する。 また綺麗に直撃したんだけど…… むぅ……まだピンピンしてる。 本当にしぶとい!



 その後も、モーリンが隙を作ってくれた所を私が攻撃するっていう作戦で戦い続けていると、少しずつ巨人の色が薄くなってきたように見える。

 これって倒せそうってこと……なのかな?


 そう思った時、今まで私を狙っていた巨人が突然モーリンに襲いかかった。

 でも、モーリンの素早さなら当たらないよね? そう思って安心していたんだけど……

 モーリン!? なんでボーッとしてるの!?


 見え見えの動きだったはずなのに、モーリンはその場に立ったままでいて、巨人に捕まっちゃった。


 モーリンの体を握ったり引っ張ったりする巨人。

 このっ…… 何をしているの! モーリンの体に勝手に触るなっ! モーリンの体にアレコレしていいのは私だけだーっ!

 百歩譲っても、許せるのは妖精とトレニアくらいだ! お前が触るな!


 私は飛び上がって、怒りのままに巨人の腕を斬りつけた。

 むぅ……! 斬り落とすつもりだったけど、やっぱりすぐにくっついちゃった。 あ、でも斬り落とせなかったのは残念だけど、怯んだ隙にモーリンが脱出できたから、まあいいか。



 脱出したモーリンは体の調子を確かめるように少し動いたりしていたけど、見た感じではダメージは無さそうだ。 良かった……。

 

 その時、モーリンの無事を確認してホッとした私の後ろから、聞きなれた声が響いた。

 


 「モーリン様! 今、加勢いたします!」


 あれ? 今のって、兄さんの声?

 振り向くと、兄さんとローズさん、他にも村の戦士たちがいた。 良かった、みんなも大したケガは無さそうだね。



 「モーリン様も先輩も、苦戦してるようだが無事で良かった。 俺たちも援護するぞ!」


 別の方向にはアウグスト君と、兵士たちが……って、なんでアウグスト君が兵士を率いてるの!? アウグスト君って軍人じゃないよね?



 「戦況は……有利だな。 つっても油断はするなよ? 勝てる戦いで気を抜いて死ぬのはバカのやる事だぜ! 最後まで堅実に戦え!」


 冒険者たちの先頭にいるのはロドルフォだ。 むぅ……コイツは嫌いだけど、やっぱり戦場では心強いよね…… 嫌いだけど。


 「目標は、あの巨大な魔物だ! モーリン様を援護するんだ!」


 「「了解!」」  「はいっ!」  「おうよ!」

 「「「おおおぉぉぉぉっ!」」」


 アウグスト君の指示に、みんなもそれぞれに雄叫びみたいな返事をする。

 ……なんかアウグスト君、すっかり指揮官になってるね……。


 みんなも参戦してくれたら、もう楽勝かな? って思ったけど、また魔物がポコポコとたくさん現れた。 むぅ……もう出ないと思ったのに!


 みんなで囲んで一気に巨人を倒したかったんだけど、みんなは沢山現れた魔物の相手をしていて、まだこっちに合流できなそうだね。

 仕方ないね、コイツはもうしばらく私とモーリンで相手を…… モーリン?


 モーリンは何か考え事をするように、動きを止めている。

 ……なんだか分からないけど、モーリンが意味の無い事をするとは思えない。 きっと大切な事を考えているはずだよね?

 なら、ここは私1人で戦おう! モーリンが考え事に集中できるように!

 大丈夫、コイツの実力は分かった。 勝つのは難しいけど、負けないように戦うのはそんなに難しくはない。


 私は杖に込める魔力を少し減らした。

 威力を上げても、どうせ1発2発で倒せる訳じゃないんだし、今は時間を稼ぐのが優先だから長期戦に備えて消耗を減らす方が重要だよね?


 私は戦い方を、防御を意識した小さな動きに変える。

 少し前までの私には出来なかった動きだけど、兄さんとかジーナとかティートとか……あと、まあ一応ロドルフォとかの戦い方を見て勉強した成果だ。


 正直、今でもダーッと突っ込んでドカーンと殴るほうが向いているとは思うんだけどね。



 

 何分くらい戦ったかな?

 

 みんな、順調に魔物を倒している。

 私も、なんとか1人でも戦えている。 ……でも魔力も体力もあんまり余裕はないかも?


 少し不安になってきたその時、ついにモーリンが動いた。



 モーリンはマジックポーションを取り出して飲み干すと、強く光り出した。


 やがて、光の中から、姿を変えたモーリンが現れる。

 少しだけ背が高くなって、金色と、ピンクがかったの銀色の混ざり合う複雑な色の髪がフワリと舞っている。

 服装も高貴で華やかな物に変わっていて、何より目立つのは、葉っぱでできた蝶々の羽だ。


 ……前に王都で見た姿だ。 見ていると、つい息をするのも忘れるくらいに綺麗だなぁ……。

 モーリンは色々な変身をするし、そのどれも素敵だけど、私はこの姿が1番素敵だと思っているんだ。

 精霊姫という名前に相応しい、まさにお姫様って感じの姿だよね。


 姿を変えたモーリンは、その羽を広げると、空を飛んで更に奥へ奥へと進んで行った。

 

 えっ……私を置いていくの……?

 一瞬、そう思って泣きそうになったけど、すぐに思い直した。


 モーリンは、仲間を危険な状況に置いていくような事はしない!

 だから、私を置いていくというのは、私はこんな相手に負けないって信用して任せてくれたって事だ! だったら、モーリンが戻るまで戦い続けるのが私の仕事だよね! 



 私は戦い続けた。 今のところは直撃は食らっていないけど、戦いは少しずつ押されている。

 むぅ……魔力も体力も残り少ない。 まずいかな?

 ……ううん、モーリンは私が負けないって思ったはずだ! なら私が負ける事はない!


 私は気合いを入れ直して、グッと体に力を入れる。 すると……

 あれ? さっきより力が入る? なんか体が少し楽かも。 ……なんだか奥の方から綺麗な魔力が流れて来ているような?

 ……あっ! もしかして!


 私は、自分のいる場所のもっと奥…… モーリンのいる場所を見た。

 そして……私は戦いを忘れて、その光景に見入った。



 モーリンは優しい光を纏いながら、空中で舞い踊っていた。


 モーリンが手足を大きく振って舞うと、透明感のある綺麗な緑色の光が雪みたいにふわふわと降り注いで、それが荒れ果てた地面に触れると、そこに黄金の花が咲いていく。

 そして、その黄金の花を中心にして水面に広がる波紋みたいに光の輪が弾けると、次の瞬間そこに沢山の青いバラが咲き誇る。


 夢の中みたい…… ううん、こんなに綺麗なものは夢の中ですら見たことないよ……


 見とれている私の耳に、鈴が鳴るみたいな、高くて澄んだ音が聴こえた。

 これはモーリンの声……? モーリンが……歌っている……。


 とっても綺麗な声…… 数える程の回数だけど、私は今までもモーリンの声を何度か聞いた事がある。

 その時も綺麗で可愛い声だと思っていたけど、今のこの歌声は今まで以上に綺麗で、澄んでいるのに力強くて、それほど大きな声でもないのに、世界の果てまで聴こえそうな存在感を感じる。


 私だけじゃなくて、兄さんもローズさんもアウグスト君もロドルフォも、そして、他のみんなも、モーリンの起こす奇跡のような光景に見とれて、そして、その歌声に聞き惚れている。


 それは意味のない言葉を口ずさむだけのハミングみたいだったけど、心に染み込んで来て、泣きそうになる。

 でも……こんなに綺麗な光景で、周囲の魔力もどんどん浄化されていっているのに…… この、胸が砕けちゃいそうな程の不安はなんだろう?


 そして、モーリンの歌声に時々苦しそうな声が混じるのに気づいて、その不安は一気に大きく膨れ上がった。

 モーリン……! モーリン……! 大丈夫なんだよね?


 私の不安を尻目に、奇跡の光景は更に続いた。

 歌い踊るモーリンの体から、今までよりも強く明るい光が地面に向かって流れこんだかと思うと、1本の木がもの凄い早さで成長していき、数秒で見上げるような大きさまで育ったかと思うと、見たことのない薄い桃色の花を枝いっぱいに咲かせた。


 だけど、その花が咲いた時、モーリンは今までで1番苦しそうな声を出した。


 「モーリンっ!?」


 私は、モーリンの名前を呼んだ。

 だけど返事は無くて、代わりに聴こえてきたのは、今まで以上に魂を揺さぶるような歌声だ。

 

 そして……その歌は、今までの意味の無いハミングじゃなかった。



 「祈れ。 守り、救うために。 祈れ。 多くの涙を止めるために。

 私は、この手を差し伸べよう。 私は、この手を差し伸べよう。

 みんな、みんな、みんな、友達だから」



 ああ…… きっとこれは、モーリンの全ての行動の元になっている思い……

 人が、信念とか誓いとか、そういう名前で呼ぶものなんだと思う。

 この思いが、誰よりも強くて優しい、モーリンの魂を形作る芯なんだね。



 モーリンの魂の歌が響くと、木の枝いっぱいに咲いていた花が、風に吹かれたみたいに散り始めた。 

 その花はヒラヒラと舞いながら、雪のように私たちに降り注ぐ。

 なのに、どんなに舞い散っても枝に咲く花は減っているように見えなくて、降り積もったはずの花びらも地面を覆うこともない。 もしかして、この花びらって幻覚か何かなの?


 最初はそう思ったけど、疲れきっているはずの体に力が戻っている事に気づいたとき、その花びらの正体が分かった。


 この花びらは、モーリンが浄化して綺麗になった魔力だ。

 浄化された魔力が花びらの形で降り注いで、大地の中に帰って行ってるんだ……!


 魔力でできた花びらに触れた魔物たちは、空気に溶けるように消えて行く。

 ……みんな浄化されているんだ。


 それは、とても綺麗で心を揺さぶるような光景だった。

 だけど私は、花吹雪に覆われてモーリンの姿が見えなくなった事がたまらなく不安だった。



 魔物が消えて、戦いが終わったって事に気づいた私は、モーリンの所に駆けつけようとした。 だけど…… むぅ……! なんで!? 走っているのに前に進まない!

 モーリンの所にっ! モーリンの所に行けないよぅっ!


 みんなの様子を見ると、私だけじゃなくて、全員前に進めなくなっているみたいだった。 いったいどうしてっ!?



 しばらくすると花吹雪が止んで、視界が開けた。

 すると、2人分の人影を抱えて歩くモーリンの姿が見える。 良かった……モーリン、無事なんだね。


 私が、また駆け寄ろうとすると…… あっ! 前に進めるようになってる!?

 良かった! モーリンっ! 今行くね!

 気づくとアウグスト君も私のすぐ後ろまで来ている。 ……うん、きっと気持ちは同じだよね。


 私たちはモーリンに駆け寄った。



 「モーリン! 大丈夫!? 大丈夫だよね!?」


 私がそう言って詰め寄ると、モーリンは抱き上げていた内の1人を私に渡すような仕草をした。 ……この子…… モーリンをお母さんって呼んでた精霊の子だ!

 もしかして、あの黒い魔力の中に閉じ込められてたの!?


 私はその子を抱っこする。 あれ? この前はふわふわした触り心地だったのに、今はしっかりと体に触れるね。

 モーリンはもう1人をアウグスト君に渡していた。 あっ、あっちはアナベルだ!



 モーリンは、いつもと同じ無表情だけど、なんだか満足そうな顔に見えた。

 ……その満足そうな雰囲気が、なぜか私を更に不安にする。


 そして、その不安は的中した。

 モーリンは力が抜けたようにフラりと揺れて、私の方に倒れて来た。


 「モーリンっ!?」


 私はとっさに精霊の子を左手だけで抱えるようにして、空いた右手をモーリンの方に伸ばした。


 私は右手でモーリンの体を支えた。


 支えた……はずだった。


 だけどモーリンの体は、私の手に触れた瞬間に、光の粒子と花びらに変わって、甘く優しい香りだけを残して…… 消えた。



 「…………えっ………?」


 私は、何が起きたのか理解できなくて…… 理解したくなくて……

 ただ、そこに立ち尽くした。



 「モーリン……モーリン…… どこに……行っちゃったの?」 

 

適当に歌った歌詞がここまでハッキリ別の言葉になるのはおかしいぞ! っというツッコミは勘弁して下さいね。


あと2話で完結予定です。 1話1話は少し短めにするので、2日間隔で投稿できると思います。

なので、次回が26日の投稿で、28日に最終話の投稿となると思います。

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