64.5話 それぞれの戦い
風邪は治りましたが、普通に多忙で執筆が遅れました。 ごめんなさい。
見直しも甘いので、ミスがあったらすみません。
それと、ブクマ500到達です。 皆さん、本当にありがとうございます。
今回は色々なキャラの視点に切り替わります。
エルフの聖域を…… そして、多くの土地の魔力を吸い尽くしながらこの地に迫ってきた黒い魔力と、そこから産み出される黒く半透明な謎の魔物。
その脅威に立ち向かっているのは当然、モーリンとフリージアだけではない。
力は2人には及ばなくとも、勇敢に戦う者たちは、ここに数多く存在するのだ。
ーーーーーー ムスカリ視点
「妙な相手だ。 意思を持つような動きをするのに、生き物の気配を感じない。
だが、何者であれ新たな故郷の……そして同胞たちの脅威となるならば倒すのみ」
俺は目の前の半透明の影を睨み付け剣を構え、様子を見ながらゆっくりと近づいていく。
今のところ相手も攻撃はせず、ただ宙に浮いたまま右へ左へと揺れている。
……このまま……という訳ではないだろう。 必ずどこかで反応を…… 来たか!
魔物は突如、体から触手のようなものを伸ばし、それをこちらへ高速で伸ばして来た。 ぬっ……なかなか速いな。 俺は剣で横に弾く。 念のため紙一重ではなく、ある程度余裕を持って大きく避けておいた。
……剣で弾いた時の手応えも重い。 妙な見た目だが、侮れない相手のようだ。
「俺は1体ずつ相手にするが、お前たちは1体につき3人以上で対応しろ!
ローズは苦戦している所に魔法で援護射撃だ! 絶対前には出るなよ!」
後ろの仲間に指示を出す。
相手の力を見た感じではこのチームでは、俺以外は1対1は無理だろう。 ローズなら出来るかも知れんが、先手を取られた場合に避けきれるか分からんから、遠距離攻撃に専念させる方がいい。
深緑の民の戦士たちは指示に従わない可能性も考えていたが、素直に堅実な戦いをしている。 ……考えてみればこの魔物の手強さは彼らの方が身に染みているだろうし、侮ったりはするはずもないか。
「ふんっ! ……むっ!?」
俺は触手を掻い潜り、魔物を斬りつけたが、そこで軽く意表を突かれた。
魔物はまるで回避しようとせず、また、斬られても怯む様子も無く、捨て身で反撃してきたのだ。
至近距離で伸ばされた触手に対し、剣が間に合わず、俺は手の甲で攻撃を払い落とした。 ……うむ。 手に痛みはあるが、純粋に打撃を受けた分のダメージだけだ。
どうやら触手に触れた瞬間に魔力を吸われる訳では無いようだな。
その後、2体目と戦っている最中にモーリン様とフリージアが現れた。
アウグスト殿が、モーリン様の配置について、
「安全な場所で待機していて頂くつもりだが……多分無理だよなぁ」
と苦笑いしていたのを思い出した。 そうか、やはり無理だったか。
モーリン様はしばらく我らの戦いの様子を見たあと、軽く頷いてから奥へと走り出した。
恐らく、この場は我らに任せても問題無いと判断してくれたのだろう。 それは光栄だが、モーリン様自ら敵の中枢に飛び込んで行くのを見ても、止める事の出来ない自分の力の無さが恨めしいな……
だが……!
俺は2体目の魔物に剣を突き入れてトドメを刺し、3体目を睨み付け、剣を構える。
ここを片付けた後は、俺もモーリン様の所へ向かい、その隣で、共に戦わせて頂く!
ーーーーーー ロドルフォ視点
「……なるほどな」
俺は使っていた槍を地面に刺して後ろに下がり、大男に声をかける。
「おいボーマン。 斧を出してくれや」
無言で手早く背中の荷物から、やや大きめの片手斧を取り出して手渡してくれる大男。
コイツはボーマン、昔から俺のチームで荷物運びをしている男だ。
荷物運びと言っても下っぱの雑用じゃねえ。 戦場で大荷物を守り抜く、立派な専門職だ。
俺は特定の1つの武器を使う訳ではなく、状況や相手によって使う武器を変えるから、特にこの男には世話になっている。
俺は最初、この魔物に槍で挑んで、実際に1体は倒したが……
コイツは槍はあまり有利じゃねえな。
まずは槍の1番の利点はリーチだが、コイツの触手は槍よりずっと長い。
どうせ攻撃を掻い潜りながら反撃するはめになる以上、槍でも剣でも大差ねえ。
そして、コイツ…… 多分、生き物じゃねえな。
出血も痛みも無いみてえだから、細かい突きを何度も食らわせても大して効きやしねえ。
だからでかい一撃を狙おうと考えて、槍よりも斧を選んだ。 これで一撃だぜ。
「こんな風に……なあっ!」
俺は真上から降り下ろした斧で、黒い魔物を叩き割る。 2つに分かれた魔物は、溶けるように黒いモヤに変わって消えて行った。
ああ、やっぱり真っ2つにしちまえば死ぬみたいだな。
死ぬっつうか、最初から生きてるのかどうかわかんねえけどよ。
「おい、お前ら! 巧い攻撃なんかいらねえ、力任せに叩き斬れ!
多少大振りでもコイツはあまり避けない。 ああ、その代わり反撃に気をつけろよ! 斬られても気にせず反撃してくるからな」
「「「おう! 了解だ!」」」
結構強い相手だが、俺たち『魔喰いの顎』は、自分より格上の相手でもどうにかして倒してきたパーティだ。 油断しなければこれくらいの相手に遅れは取らない。
……だが、ここのグループにはちょいと実力も経験も足りない冒険者が混じっていたみてえだな。 触手を避けきれずに、近づくことも出来ないまま倒されたヤツも何人かいた。
すぐに近くにいるヤツが助けたから死んではいねえが…… 半人前はこんなヤバい仕事を受けないでゴブリン狩りでもしてろよな。 足手まといだぜ。
ああ、半人前と言えばティートは…… お? アイツ、思ったよりいい動きをしているな。
ジーナが結構使えるってのは知ってたが、ティートも駆け出しにしては悪くねえ。
ヤバそうなら手伝う必要もあるかと思ったんだが……
少しこのままお手並み拝見と行くか。
ーーーーーー ティート視点
あぶねえ!? 今、ギリギリだったぞ! しかも、剣で弾いたのはいいけど、手が痺れちまいそうに重い攻撃だった!
次は防げるか? いや、防げなくても防ぐしかねぇけどよ……!
オレと姉さんは今、黒い魔物1体を相手に、2人で協力して戦っている。
力を合わせて触手攻撃を防ぎながら接近するのは成功したんだけど、姉さんの槍が刺さった瞬間に反撃してきたせいで、かなり焦ったぜ!
姉さんは攻撃を繰り出した直後で身動き取れなかったから、オレが防ぐしかないと思って咄嗟に剣で弾いたけど、今のはギリギリ……というか、半分は偶然だろうな。
同じ事をやっても、多分5回に1くらいしか成功しないと思う。 ……成功の1回が最初に来て良かったぜ。
姉さんは、オレが攻撃を弾いた隙に更に2連続突きを決めて、この変な魔物を倒していた。
「1体撃破か! 流石は姉さんだな!」
黒いモヤに変わりながら消えていく魔物を見て、オレは安堵しながら呟いた。
「まだ居るわ! 気を抜かないで!」
「へ? ……おわっ!?」
注意する姉さんの声に気づいた時には、オレのすぐ横に触手が迫っていた。
……やらかしたっ!?
「ティート! 反撃を!」
次の瞬間、目の前に迫っていた触手を姉さんが槍で打ち払っていた。
あっ! ぼんやり見てる場合じゃねえ! 反撃しねぇとっ!
「おおおっ……らぁっ!!」
オレが気合いを込めて降り下ろした剣は、魔物に深く食い込んだ! でも……
その時、顔なんか無いハズのソイツが、ニヤリと笑ったような気がした。
そして次の瞬間、伸びた触手がオレの右の二の腕に突き刺さる。
「ぐうぅぅぅっ!!」
「ティートっ!?」
右腕に痛みが走り、姉さんの心配するような悲鳴が響いた。
いっ……てえっ…… だ、だけど、負けるかよ!
オレは相手にめり込んだままの剣を両手でしっかりと握り直して、グッと体重をかけて更に押し込む。
徐々に剣は深く深くめり込んで、もうすぐ両断できそうだという所まできたが、そこで急にオレの体から力が抜け始めている事に気付いた。
「くそっ! コイツ! オレの魔力を吸ってやがる!?」
目の前がユラユラと揺れ出して、自分が真っ直ぐ立っているのか傾いているのかも分からなくなってくる。 まだだっ! もう少し……もう少しなんだ!!
「ぐっ、うおおおおっ!!」
突然、ふっと手応えが消えて、オレの腕が呆気なく前へ振り抜かれる。
自分でも何が起きたか分からずに、あれっ? っと見回すと、視界のすみで両断された魔物がモヤに変わって消えていくのが見えた。
あ……? もしかして、勝てた……のか?
フワッと力が抜けて、倒れそうになったオレの体を支えてくれる手があった。
姉さんだ。
「……良くやったわね。 ティート。 あなたの勝ちよ」
「へへっ…… そっか……オレは勝てたか~……でも、ギリギリだよな。 かっこ良くいかねえ物だな」
「私も手首を痛めて槍が使えないわ。 2人ともこれ以上戦うのは難しいみたいね。
2人チームで、2体撃破か。 戦果としては……どうなのかしらね?」
「まあ、上々だろう? ベタ褒めする程の活躍じゃねえが、悪くねえ」
姉さんの言葉に答えたのは…… ロドルフォさんだった。
「お前らは、お前らの仕事を果たした。 胸を張って休憩に行きな。
回復すりゃあ、またできる仕事もあるだろうよ」
姉さんは、『お言葉に甘えさせてもらいます』と会釈して素直に撤退を始めた。
……オレはもう話す気力もなく、姉さんに手を引かれてゾンビみたいに歩いているだけだった。
だけどそんなカッコ悪いであろうオレの姿を馬鹿にせず。
かと言って過剰に褒める事もなく、当たり前のような態度で、
『おう。 ご苦労さん』、とロドルフォさんが言ってくれた時、やっとオレは一人前の冒険者に近づけた気がした。
ーーーーーー トレニア視点
「はあ…… やはりお姉様は、行ってしまいましたね。
自分だけ安全圏に居る事を、良しとする方では無いとは思っておりましたが……」
お姉様は、我々の仕える方にして象徴、そして心のよりどころです。
万が一を考えると最前線に出ては欲しくないのですけれど、自ら黙って最前線に立とうとするような方だからこそお姉様とお慕いしているというのもありますし、複雑な気持ちですわね。
「やっぱりこうなっちまったか。 大将は後ろでドンと構えているもんだ……なんて言っても無駄だわな。 モーリン様は自分が戦うことで仲間の負担を減らせるなら、迷わずに前に出る方だからな」
アウグスト様が苦笑いして、そう言いました。
やっぱりアウグスト様も、お姉様が自ら戦うだろうと確信していたのでしょうね。
「……心情としてはお姉様と共に最前線で戦いたいところですが、エルフ・冒険者・兵士の全てに名前が知られていて、スムーズに指示を出せるのは私とアウグスト様くらいでしょうから、連携のためにも全体が把握しやすい位置に居なくてはいませんわね。
……どちらにせよ私では最前線に立つには戦闘力が足りませんが」
「ああ。 戦場では冷えた頭で全体を見る奴が1人は必要だ。
……だが、1人いれば良いよな? 2人は……いなくても大丈夫だと思わないか?」
何かを言いたげにチラチラと私の顔を見るアウグスト様。
はあ…… まあ何を言いたいかは分かりますけどね。
「……私が待機していますので、アウグスト様は前線へどうぞ。 恐らく王国兵のグループは戦力不足だと思いますから、そちらの援軍に出て頂ければ助かりますわ。
……どうか私の分まで戦ってきて下さい。 お姉様のためにも」
「へっ! トレニア嬢は話が分かるな。 ……任せとけ!」
……嬉しそうな顔ですわね。 少年のような表情ですわ。
……お姉様を旗印として掲げた戦場で、お姉様の名の元に戦士として力を振るうというのは、さぞや誇らしい気分なのでしょうね。 少し羨ましいです。
ですが、羨んでみた所で、私の戦士としての力量は並程度。
自分が最前線に立ったところで、できる仕事は多くはありません。
ならば、私がやるべき事は……!
「……冒険者たちが少し前に出過ぎですね。 逆に兵士たちは遅れていますが、アウグスト様が参戦すれば戦況は変わるでしょう。 エルフは……特に問題ありませんか」
私は、色つき火薬をくくりつけた矢に火を着けて空に放ちます。
パン、と乾いた音を放ち、上空で青い爆発がおきました。 その後もいくつかの色を組み合わせて打ち上げます。
やがて、了解を意味する光が空に上がりました。 ……伝わったようですね。
……これが私の戦いです。
お姉様…… 私はお姉様のお役に立てていますか?
共に戦う事もできない、力不足な私ですが、せめて思いの欠片だけでも、お姉様と共にあれ。
私はそう祈りながら、次の矢を空へと放ちました。
ーーーーーー アウグスト視点
兵士たちは、攻めあぐねているようだった。
仲間たちで上手く連携し、被害を押さえて負けない戦いをしている。
悪くない。 いや、むしろ上手い。 ……だが、決定打が足りないな。
なら…… 俺がその決定打になってやるとするか!
「はああぁ!」
俺は前線に飛び込んで、目の前の黒い魔物を拳で叩き潰した。
その奥から姿を現した2体目が伸ばした触手を裏拳で斜め下に叩き落としてから、掴み、思いきり引っ張る。 こちらに引き寄せられた魔物の中心に拳を叩き込み、2体目も撃破した。
「おお……。 やはりこれは素晴らしいな……」
俺は以前モーリン様に、その髪から創って頂いた布を拳に巻いて戦っていた。
この魔物は、決して楽な相手ではないはずだが、これを使うと気持ち良いほどに攻撃が通る。
「協力感謝する。 だが、何故ここに? 作戦では基本的に自分の担当する場からは動かないという話だったはずだが……」
そばにいた兵士の1人が声をかけてきた。
見たところ小隊長クラスか? 俺の顔は知らないみたいだな。
「俺はアウグスト。 見ての通り人間だが、一応エルフ組の指揮官の1人だ。
戦況を見た上でこの場に援軍が必要だと判断してここに来た。
横からあれこれ命令するつもりはない。 あくまで個人の戦力として加勢させてもらうぞ」
説明をしながらも、遠くから伸びてくる触手を裏拳で払っていると、その小隊長はゴクリと喉を鳴らしてから答えた。
「指揮官殿でしたか、失礼いたしました。
そ、それにしても素晴らしい技ですね……! 貴方ほどの戦士が加勢して下さるなら助かりますが……指揮官クラスの方を1個の戦力として扱って良いものなのでしょうか……?」
ん? ああ、正規軍では指揮官が個人として戦うなんてまず無いか。
上下関係のハッキリした組織だから、兵卒にお偉いさんが混じっていたらみんなやり難いだろうしな。
「気にするな。 さあ、敵の第2波が来るぞ! 戦闘準備は出来ているのか?」
「はっ! 準備完了です!」
……いや、だから俺は命令する気は無いって言ってるんだけどな……。
兵士達を見てみると、どいつもこいつも自然に俺を上官として扱っているように見える。
……もしかして、今ここに統率力のある指揮官が居ないのか?
ああ。 ならよく訓練されている割に攻めあぐねているのも理解できるな。
強気な指示を出せる奴が居ないから戦線維持だけにこだわって勝負に出られていないって所か。
あー……俺は個人として戦うつもりだったんだが、しゃあねえか。
俺は結局そのまま成り行きで指揮官のようなポジションで戦い続けた。
「隊長! この周辺に敵影ありません。 制圧終了と思われます!」
「隊長じゃねえよ。 それに、まだ制圧終了なんて言えねえと思うぞ。
……数体の魔物が奥へ向かうのが見えた。 俺には、あれは逃げているというより、目的があって奥に集合しているという感じの動きに見えたな。 何か起こるかもしれん」
俺はさっきの小隊長の報告に対して見解を言った。 ……ついにハッキリと隊長と呼ばれ始めたな。 本物の隊長が文句を言う様子もない。 ……これでいいのか? 王国軍。
「目的を持って集合……ですか。 では、状況が判明するまで戦闘状態は継続したまま待機いたします」
「あー…… とは言っても俺のカンみたいなもんだからな。 奴らは本当に逃げただけっつう可能性も……」
そこまで言った俺だったが、遠くに信じられない…… いや、信じたくない状況が見えて言葉を変えた。
「前言撤回だ。 ありゃあただ逃げただけじゃねえな……。
負傷者は退却させろ。 身軽に動ける奴だけで部隊を組みなおしてから進むぞ。 無理はするな、全軍の撤退も選択肢に入れて行動するぞ」
「了解しました、隊長!」
「隊長じゃねえよ」
いちいち律儀に突っ込みながらも、更に奥へと進む事を決めた。
今、その先は闇が濃くなっていて見通せない。
だが、闇が濃くなる直前に一瞬だけ見えたものが、何かの間違いでなければ……
大量の黒い魔物が1つに集まって生まれた、見上げるような巨人……。
それが、この先に居るものだ。
現在、多忙です。 少なくとも明日、明後日は全く執筆できないと思われるので、次の投稿は少し遅れます。
すみません。
多分21日には投稿できると思います。