62話 聞こえて来る声からのディ! ア! えも~ん!
あけましておめでとうございます。 年明け最初の投稿ですね。
会話というか、念話が多い回です。
読み難かったらごめんなさい。
どうもこんにちは、モーリンです。
この前、村に…… いえ、もう街と言った方がいいですかね? まあ、とにかくこの場所に来たエルフの皆さんは、すぐそばの林の中に住むようです。
遠慮しないで街中に住めばいいと思うのですが、元々森に住んでいた方々だというので、林の中の方が落ち着くのかも知れませんね。
あと、そのエルフの皆さん以外にも冒険者風の人とか、軍隊っぽい人とかも集まってきているようです。
んー、殺伐とした雰囲気が漂っているせいで、人はたくさんいるのに賑やかな感じがしません。 なんだか悲しくなってしまいますね。
街の様子だけに限らず、私の身の回りでも変化は起きています。
ぺルルちゃんは妖精界に行ったり来たりする事が多くなりましたし、セレブお嬢さんは他の皆さんと会議をしている事が増えました。
なのでここ2~3日はちくわちゃんと2人きりで過ごす時間が多いですね。
もちろん、ちくわちゃんといる事に不満はありませんが、少し前までちくわちゃんとぺルルちゃんとセレブお嬢さんと……そしてフラスケちゃんがいて、みんなで仲良くお過ごしていた事を思い出すと、なんだか凄く寂しくなってしまいます。
はあ…… フラスケちゃんとフードさんは無事でしょうか?
《おかあさん……》
……フラスケちゃん?
今、フラスケちゃんの声が聞こえました!?
私は辺りを見回しますが、フラスケちゃんの姿は見えません。
隣にいるちくわちゃんを見ましたが、彼女は特に何かに気付いた様子も無く、本を読んでいます。
……私の気のせい……ですか?
《おかあさん……》
……っ! やっぱり聞こえます! 気のせいじゃありませんっ!
私はちくわハウスから飛び出し、声が聞こえた方向に向かいます。
聞こえた方向と言っても、ハッキリわかったわけでは無くて、ほとんど直感に近いものでしたけど、不思議と合っている自信があります。
おや? ちくわちゃんも来ましたか? ……ああ、私がいきなり飛び出したので、何事かと思ったんでしょうね。 読書の邪魔してゴメンなさいね。
私は街のはじっこまで来ると、ピョコンと塀の上に飛び乗って、その先の景色を眺めます。
……んー、何も見えませんねー? 私の隣に立っているちくわちゃんも、特に何かに気付いた感じは無さそうです。
……でも…… 何だかざわざわと落ち着かない何かを感じるんですよね。
これ以上目で見ていても何もわからないみたいなので、他の手段で確認してみましょう。
渦巻け! 私のF P S!
うっ……わあ…… 何ですかコレ!?
凄い反応があります! ……あれ? じわじわとこっちに近づいて来てませんか? まだ距離はありますけど、このままだとここに来ちゃいますよね? 大丈夫なんですか?
《おかあさん……》
また聞こえました! ですが、このフラスケちゃんの声って、完全にあのゴッツイ反応の方から聞こえてますよね? 一体どういう事でしょうか?
エルフの森の壊滅にフラスケちゃんが関わっているのはぺルルちゃんに聞いたのですが、その時に詳細は教えてくれなかったんですよね。
ぺルルちゃんが教えてくれないと言うなら、きっと理由があるはずなので無理に聞き出すのはやめようと思っていたのですが、そろそろ話してもらわないと、気になって夜も眠れません!
まあ、私は眠らなくても問題無いんですけど。
とにかく、話を聞くにしてもぺルルちゃんの帰りを待たなくてはいけませんね。 一度ちくわハウスに戻りましょうか。
「おかえり。 どこに行ってたの?」
ちくわハウスに戻って来ると、先にぺルルちゃんが戻っていました。 あっ、丁度良かったです。 フラスケちゃんや、あのゴッツイ気配の事とか、とにかく今、起きている色々な事について訊きましょう。
私がぺルルちゃんに質問しようとした、そのとき……
「今、起きている色々な事について話があるのよ」
先に話を切り出されました。
……うん。 好都合なんですけど、なんかしてやられた感じがするのは何故でしょうかね?
「今回の事については、ディアモン様から説明があるわ。 急だけど今からここに降臨されるから、心の準備はいいかしら?」
ディアえもんがここに? それは確かに急な話ですけど、私の疑問に答えてもらえるなら助かりますね。
ジュンビ・OK・バッチコイ・イツデモ・カモン・カモーン・シオホルモーン。
「塩ホルモンは意味不明だけど、とりあえずOKってことね? じゃあ呼ぶわよ」
ぺルルちゃんが目をつぶって無言になりました。 ディアえもんに念話してるんですかね?
……ふと思ったんですが、念話って、相手が出なかったら、留守番念話サービスとかに繋がってメッセージを残したりできるんでしょうかね?
私がどうでもいい事を考えていると、突然、周りの空気が変わった感じがしました。
どんなふうに変わったかと言うと、グッとしてシャキーンって感じと言えば伝わりますか?
「……直接会うのは久しぶりだな、毛利 鈴。 いや、今は精霊モーリンと呼ぶべきだろうか。
ようやく妖精界のゴタゴタに一段落がついて、こうして動けるようになったよ」
おー、光を放ちながら、ディアえもんが現れました。
お久しぶりですねー! ディアえも~ん!
「……まず、言わせてもらうが、私の名前はディアモンだぞ?」
……?…… はい、わかってますよ?
ディアえもん、ですよね? 覚えやすくて良い名前ですねー。
「違う、ディアモンだ」
だからディアえもんですよね?
「……ディ! ア! モ! ン! ……だ」
ディ! ア! えも~ん!…… ですよね?
「…………もう、ディアえもんで良い。 せめて、『も~ん』と伸ばすのだけはやめてくれ」
ディアえもんは現れたばかりなのに、なんだか疲れているように見えます。
大丈夫ですか? んー、やっぱり偉い人は色々と大変な事が多いのでしょうか?
果物とか薬草とか要りますか? それとも何か娯楽でも…… あっ、ディアえもんは片言にしないで普通に念話しても聞き取れるんですよね。 では、私の新ネタを披露しましょうか?
はい、行きますよー。 ショートコント『ダンシング三蔵法師』!
「い……いや、気持ちだけ受け取っておこう。 それより、早く要件を済ませよう。 あの人工精霊の少女の事で話す事があるのだ」
あ、そうですね。 まずはフラスケちゃんの事を聞かなくてはいけません。
ショートコントは全てが片付いてからにしましょうか。
「まずは、彼女に何があったかから話そうか。
魔力の浄化は君も何度かやっているだろう? 彼女はそれに失敗して、逆にアナベルと共に取り込まれてしまったようだ。 今も彼女の魂は徐々に汚染されつつある状態だ」
えっ!! フラスケちゃんとフードさんが!? そ……そこまで大変な状態なんですか!? ショートコントなんてやってる場合じゃないじゃありませんか!
ちょっ…… ちょっとぺルルちゃん! なんで早く教えてくれなかったんですか!?
私がぺルルの方を向くと、ぺルルちゃんはピクリとも動かないまま固まっていました。
あれれ? ぺルルちゃん? ……わっ!? ちくわちゃんも固まってます!!
……あっ、もしかして、ディアえもんが時間とか止めましたか?
「流石に時間を止めるのは無理だが……似たような物か。
私と君の意識だけを加速させているのだ。 私と君が速過ぎて周りが止まって見えている状態だ。 これなら会話がどんなに長引いても、実際には数秒しか経っていないし、邪魔も入らない」
なるほど…… 私が本気を出すと周りがゆっくりに見えたりしますけど、あれの更に凄いバージョンみたいな感じですかね?
「その認識で構わない。 この魔法の細かい仕組みを話してもいいが、興味は無いだろう? それよりも今はあの少女への対処について話し合おう」
そう言ってもディアえもんはさっきまでより真剣な表情になりました。
「私は封印は得意だが浄化は専門外だ。 私が解決する場合、あの少女ごと封印する事になるだろう。
死ぬわけではないし、いずれ浄化を終えれば復活もできるだろうが、それが何年後になるかわからない」
フラスケちゃんを封印!? そんな事は許しませんよー!!
「落ち着け、手段はもう1つある。 ……だが、これは君と、君の周りの者たちに危険が及ぶかもしれない手段になる」
……私が危険なのは覚悟しますけど、周りの人も危険というのは困りますね……
とりあえず、どういう話か聞かせてもらえますか?
「君に彼女の魔力を浄化してもらう……という手段なのだが、今のままではとても君1人でどうにかできる魔力量ではない。 だからまず、彼女にできるだけ魔力を消費してもらわなくてはいけない。
彼女が生み出す、黒くて半透明な魔物…… 君も以前に戦っただろう? あれをしばらく倒し続けることで魔力を消費させ、君が浄化しきれる量になってから、浄化してもらうという手順を考えている」
黒くて半透明……? あ~、あのコーヒーゼリーのお化けみたいなやつですか。
なるほど…… しばらくアレと戦い続けたあとに、大量の魔力を浄化ですか…… 確かにしんどそうですけど、それでなんで私の周りの皆さんが危ないんですか?
「分からないのか? 君が戦っているのを見たら、他の者達も戦いに参加するに決まっている。 そして戦いになれば当然、被害は出るだろう」
うむむ…… それはそうかも知れませんね。
……あ、戦う方の手段を選んだ場合、ディアえもんは一緒に戦ってくれるんですか?
「……悪いがそれは出来ない。 私は君が失敗してしまった場合に備えて、封印の準備をしておかなくてはいけないからな。 無論、失敗しないほうがいいが、備えは必要だ」
ディアえもんは申し訳無さそうにそう言いました。
んー、まあ仕方ないですか…… ……ん? そっか、ディアえもんが控えていて、いつでも封印できる状況だと言うなら…… うん。
決めました、私は戦います。 村の皆さんには戦いに付き合わせてしまう事になりますが、もちろん死人なんか出すつもりはありません。 誰かが危なくなったら、その時には封印をお願いします。
「良いのか? 彼女を封印させないのではなかったのか?」
ですが、どうせディアえもんにお任せした場合は封印が決定事項なんですよね? この手段なら上手く行けば、フラスケちゃんも封印しなくて済みます。 失敗しても、その時はディアえもん介入してくれるから死人は出ませんよね? だったら挑戦する価値はありますよ。
「だが、私も誰かが危なくなった瞬間をしっかりと見極められるという保証はできん。 失敗すれば、死人を出した上に彼女を封印するという、君にとっては最悪のシナリオにもなりかねん。 最初から私が封印すれば、絶対に死人は出ないのだぞ?」
真剣な表情で念を押すディアえもん。 ですが……
騙されませんよー? 実は危険の見極めは、かなりの高い確率でできますよね?
「ほう……何故そう思うのだ?」
今のこの状態ですよ。 こんな風に周りが止まって見えるような状態を作り出せるなら、見極めに失敗する事はほとんど無いですよね?
「……気付いたか。 君はぼんやりしているのか鋭いのか分からんな……」
そう言って苦笑いするディアえもん。 ぼんやりしてるか鋭いのか、ですか?
んー、私はいつでも割とキリッと鋭いつもりなんですけどねー?
「君の言うとおり、私がしっかりと気を配っていれば、危険を察知してからでも対処は間に合うだろう。 ……だが、私は君が魔力の浄化を行う時の危険に対しては、なにもしてやる事はできんのだ。 だから私としては、あの精霊の少女を封印して他の誰も危険に晒さないという選択肢を選びたかったのだが……」
いやいや、私が危険だという程度なら、大した問題ではありません。
他の皆さんはディアえもんがいれば命の危険は無いでしょうし、命さえ無事なら、怪我も病気も私が治してみせます。 皆さんを事情も分からずに戦いに巻き込むのは申し訳ないですけど、フラスケちゃんを助けるためなので力を貸してもらいます。
痛い思いや怖い思いをさせてしまう分については、日を改めて全裸で土下座でも何でもして謝りますよ。
「……いや、事情も分からずに突然全裸で土下座されても皆、困るだろうが……
まあ、君は君なりに責任を取る覚悟があって言っているということは理解した。 君の意思を尊重して、誰かに死の危険が迫るまでは封印は使わずに待とう」
ありがとうございます。 では頑張るとしましょうか。
……ところで、戦闘中にこの、意識の加速……でしたか? これを使ってもらうことはできますか?
それができれば、敵が止まって見えるので戦いが楽になりそうなんですけど。
「無理だ。 この魔法は細かくて脆い術式が使われているから、激しく動けばすぐに効果が解除されてしまうだろう。 これは戦闘には使えない魔法だ」
あー、やっぱりそう上手くはいきませんか。
まあいいです、インチキなんかに頼らなくても、頑張ればきっと上手くいきますよね!
フラスケちゃん! フードさん! きっと助けますからね!
「……これは一応私の固有の魔法なんだが……インチキ扱いされると傷つくぞ?」
あっ…… ごめんなさい。
本当はそろそろ2~3日に1話投稿のペースに戻したいんですけど、童話の締め切りが近くて、そっちも書かなくてはいけないので、次回の投稿は4日後、1月7日の月曜日になります。