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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
終章ですよ 今日が終わってしまうなら、明日を始めれば良いと思いませんか?
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61話 再びのゴッド的な扱いからの森を滅ぼした原因

ここから終章です。


エルフの聖域を飲み込んだ闇は、進路上にある物から魔力を吸い上げながら移動を続けている。


 国や冒険者ギルドは調査隊を派遣したが、(よど)んだ魔力の固まりであることは分かったものの、それがなぜ意思を持つかのように動いているのかも、また、有効な対処方法も分からなかった。


 浄化魔法が多少の効果が期待できることは分かったのだが、それも進行速度を遅らせる程度にしかならず、現段階では事態解決の糸口は掴めていない。





 ーーーーーー モーリン視点



 どうもこんにちは、モーリンです。


 いや~、なんか凄く見たことのある光景ですねー。

 今、私の前には汚れた服装のエルフさんがずらりと並んで、涙を流しながら私を拝んでいます。

 うん。 この村の皆さんに初めて会った時を思い出します。


 この人たちが誰なのかというと…… まあ私も良くわかっていないんですが、多分、森から逃げてきたエルフの人たちだと思います。

 この人たちとの出会いは、少し前のことでした。




 ーーーーーー 1時間ほど前……



 ぺルルちゃんから、エルフの住む森が大変な事になったと聞いてから数日経ちました。

 最初は、すぐに助けに行かなくては! っと思ったのですが、エルフの森というのがどこにあるのか? とか、何が起きていて、どうすれば解決できるのか? とかが何もわからないので動きようがありませんでした。

 ぺルルちゃんは、あの腕輪で大体の場所がわかるみたいでしたが、


 「危ないから今は動かないで! ディアモン様が言うには、もうすぐ妖精界の面倒が片付くらしいの。 そうすれば直接動いて解決してくれるから! だから危ない事はしないで!」


 ……って感じで凄く真剣に止められました。

 フラスケちゃんとフードさんの事は心配ですが、その2人の現状も含めて、何か情報が入り次第教えてくれるそうなので、今はその情報待ちです。


 うぅ、2人とも無事でしょうか……。

 ……いえいえ! 気持ちが暗くなっていても良いことはありません!

 気晴らしにお散歩にでも行きましょう! うん、そうしましょう!




 という事で、私は村をぷらぷら歩いていました。


 ぺルルちゃんは詳しい情報を聞くためにまた妖精界に行っていますし、セレブお嬢さんは朝から村の皆さんと話し合いなので、ちくわちゃんと2人きりで散歩をしているのですが……

 んー、旅人さんの様子は変わりませんが、警備の兵士さんはピリピリしている気がしますね。 多分、兵士の人たちには、エルフの森が大変だという事が伝わっているのでしょう。 見回りも厳重な気がします。 皆さん、お仕事ご苦労様です。


 あっ、そうです! 見回りしてくれている皆さんに、差し入れでもしましょうか!


 実は以前、ぺルルちゃんにアドバイスを貰いながら、あるモノを作った事があるのですが、それが差し入れに丁度いいんですよねー。


 それが何かというと、私の果物の果汁を水で薄めて伸ばしてジャンケンポンしたものです。 あっ、嘘です、ジャンケンポンはしてませんね。 語呂が良いのでつい言ってしまいました。


 清涼飲料水と呼ぶには製法が適当ですが、味見したぺルルちゃんによると、これでもこの世界の基準では貴族や王族が買い占めたがるくらいの味だそうです。

 ですがこれを差し入れにしようと思ったのは、美味しいからというわけではありません。


 実は、回復効果のある果物を使って作ると、水で丁度良く薄められて、栄養ドリンクくらいの効果の飲み物になるみたいなんですよ。

 食べるとパワーアップしたり怪我がすぐに治ったりする果物は、量産するとトラブルになりそうですが、栄養ドリンクくらいなら作って、お仕事ご苦労様~、って配っても問題にならないと思います。

 

 ですが、ちくわハウスには大人数の飲み物を作るほどの大きな入れ物はありませんねー? あっ、セクシーさんの酒場ならタルかなんかありますよね、きっと。

 それではセクシーさんの所へ行きましょうか。



 ということで、私は酒場にお邪魔して、空いている酒樽を借りました。 おお、これは立派なタルです。 私やちくわちゃんの体格ならすっぽり入れそうなサイズのタルですねー!

 ……いえ、入りませんよ? ちょっと入りたい気持ちはありますけど。


 私はその中に以前ワイルド商人さんに頂いた魔法のジョウロで水を入れました。 

 ジョウロの水を飲み物に使うのは、ちょっと違和感がありますが、汚れるような使い方はしてませんし、小まめに洗ってますので衛生面は問題ないはずです。


 で、そこに果物を投入します。 んー、今回はレモンにしましょうか。

 エキスを絞って水に混ぜる果物と言えば、レモンってイメージがないですか?


 私はレモンを実らせて収穫すると、ふんぬっ! って感じで握りつぶしてタルに入れました。

 普通は輪切りにして浮かべたり、絞ったエキスだけを入れたりするんでしょうけど、私のレモンの場合は種無しにしてありますし農薬も使ってませんから、まるごと潰して投入しても良いかなー、って思ってやってみました。


 ふむふむ、完成です。 ……ん? ちくわちゃんがじっと見てますね。 飲んでみますか?

 本当は誰かに飲んでもらう前に自分で味見をするべきなんですけど、私は味がわかりませんから、ちくわちゃんに味見をしてもらいましょう。


 え~っと、コップ、コップ…… うん、棚に沢山ありますね。

 借りますねー。 よいしょ。 ではどうぞ、ちくわちゃん。 あっ、セクシーさんもよろしければどうぞ。


 私がコップを手渡すと、ちくわちゃんは嬉しそうに微笑んでそれを飲みました。

 ……うん。 会話できないので感想を訊せないのは残念ですけど、笑顔でぐびぐびと飲み干す姿を見る限り、口に合ったのでしょう。


 セクシーさんも美味しそうに飲んでくれていますが…… うーん、本当にセクシーな人は、飲み物を飲んでいるだけでもセクシーですね。 


 まあセクシーさんがセクシーだった件については置いておくとして、このレモン水は2人とも美味しそうに飲んでくれていたので、きっと味の面はOKなのでしょう。

 では、肝心の疲労回復効果はどうでしょうかね?


 ちくわちゃんは…… いつも元気ですから疲労回復効果が効いているかどうかわかりませんねー? では、セクシーさんには効果があるでしょうか?


 セクシーさんは、不思議そうな顔をして、肩を触ったり腕を回したりしていますね。

 ……もしかして肩こりが治ったんですか? これ、栄養ドリンクくらいの効果と思っていたのですが、飲んで1分で肩こりが治るなら、充分に強力過ぎますね…… もう少し薄めないと、これでも大騒ぎになるレベルの効果ですよね。

 ……んー、でも魔法とか不思議な道具とかがある世界ですからこれくらいセーフですか? セーフとアウトの判断が難しいです、あとでぺルルちゃんに訊きましょうか。


 レモン水はとりあえず今のままで保留ですね。 よいしょ。

 私はレモン水の入ったタルを担ぎ上げました。 ……おや? ちくわちゃん、どうしました?

 え? タルを持ってくれるんですか? んー、私はこれくらい重く感じないのですが…… あ、そういえばちくわちゃんも力持ちなのでこれくらい平気ですか。 では厚意に甘えて、運んで貰いましょう。


 私とちくわちゃんは、セクシーさんに手を振って酒場を後にしました。

 ……それにしても、小学校高学年くらいの女の子が自分より大きなタルを軽々と持っている姿はインパクトがありますねー。



 酒場から出て歩き出した私は、警備の兵士さんたちが慌てて走っていく姿を見かけました。

 ……何かありましたかね? ふむふむ。 ちょっと行ってみましょうか。



 走っていく兵士さんを追って行くと、西側の入り口に着きました。

 するとそこには見慣れない団体さんがいました。 おや? どちらさまですか?


 最近はここに来るお客さんも多いので、見慣れない団体さんが来る事は少なくないのですが、この人たちは少し様子が違いますね。

 まず、旅人にしては人数が多過ぎます。 パッと見ただけでは数えきれない人数です。

 それに、しっかりした旅支度をしている感じではなくて、普段着のまま急いで飛び出してきたような感じですし、みんな疲れきったような表情をしています。


 ……おや? 耳の尖った人が沢山いますね。 この人たちって、もしかしてエルフでしょうか?

 あっ! もしかして森が大変なことになってしまったエルフさんが避難して来たのでしょうか?

 んー、ですが、なんか警備の兵士さんたちと言い争ってる感じですね。


 まあ、警備の兵士さんとしては、突然こんな大人数がやって来たら、そのまま素通りで中に入れるわけには行きませんよね。 多分、そういう判断ができる立場の人を呼びに行っている最中だとは思いますが、その間こんな疲れた人たちをただ放っておくというのも可哀想です。


 ああ、丁度いいですから、レモン水を配りましょうか。

 タル1つでは足りないでしょうけど、この人たちの分と兵士さんの分も合わせてこの場で追加を作ればいいですよね。 あ、でも私の髪の毛に実ったレモンから作っているのを見たら引いちゃいますかね?

 最初からこの村にいるメンバーは、もう私が何かしてもそこまで動揺しませんが、初めての人は抵抗があるかも知れません。


 んー、まあ、追加を作る時は、見えない所で作ればいいですよね。

 見た感じ、疲れて歩けなくなった人もいるようですし、今は早く飲ませてあげましょう。


 私は、タルをちょいちょいっと指さしてから、お疲れモードの皆さんを指差します。 あの人たちに配って欲しいってジェスチャーのつもりです。

 ちくわちゃんには伝わったようで、タルを持って皆さんの所へ行って何か言って、皆さんを整列させて配り始めてくれました。


 あっ! 失敗しました! コップを持ってきてないので、そばにあった門番さんの休憩小屋からお借りした2つで回し飲みしているのですが、そうすると2人ずつになるので全員に行き渡るのに時間がかかりますよね。

 んー、仕方ありません。 特にくたびれている数人には、果物の形で差し上げましょうか。


 あんまり特殊な果物をあげると騒ぎになりそうだというのはわかっていますが、そこに今、倒れている人がいて、私には助ける手段があります。

 それなのに助けないのは人として良くないですよねー。

 まあ私は人ではなくて木ですが。 


 私は、ダウンしている人の中で特に顔色の悪かった3人の所へ行きます。

 おや? 私が近づくと皆さん、一斉に頭を下げましたね? 私、なんか直視できない状況になってましたっけ?

 視点を動かして360度から自分の姿を確認…… おっとぉ!? スカートのお尻の部分が少し薄くなって、ぱんつの色が透けて見えそうになってました!

 能力1つでいつでも修復できると思っていると、逆にメンテナンスをサボってしまいますね~、お見苦しい物をお見せしてすみません。

 なるほど…… これに気づいて目をそらしたんですね? 皆さん紳士ですねー。


 疲れている皆さんに気を使わせるのも良くないので、手早く修復します。

 チチンプイプイ、ダイジョーV。 ……うん、修復完了ですね。 さあ、気を取り直して果物を疲れている3人に渡しましょうか。


 さすがにレモンを加工せず食べるのはハードですから、スモモにしました。 髪の毛に実った果物に抵抗があったらごめんなさいね。 ですが元気になるためですから、食べて下さいねー。


 私がスモモを手渡すと、素直に受け取って食べてくれました。

 そして、くわっ! っと驚いたように目を見開くと突然、手の上に光の玉を浮かべました。 ええ、3人ともです。


 えーっと……食べたあとにみんなで同じ事をするという事は、これはご馳走さまの合図でしょうか?

 なかなかハードルの高いご馳走さまですね……うむむ、文化の違いとは理解が難しいものですねー。

 まあ、なんにせよ元気にはなったようなので、良かったです。

 

 さて、この3人も元気になったようですし、ほかの皆さんの様子はどうですかね?

 そう思って後ろを向くと、皆さんは私の方を向いてひれ伏していました。

 ……あー…… またこのパターンですかー。


 

 ーーーーーー



 とまあ、ここで冒頭に戻る訳ですが……

 うむむ……やっと村の皆さんにマスコット兼コメディアンとして見てもらえるようになってきたのに、初対面の方にはやっぱりゴッド的な扱いをされてしまいますね。

 私は雑にイジられるくらいの方が落ち着くんですけどねー。

 

 あ、レモン水を飲んでいる人たちも頭を下げ始めました。 いやいや、そういうのはいいので、早く飲んで次の人にコップを回してあげて下さいよ、おあずけされてる人が可哀想ですから。



 そんなこんなしているうちにデリバリー爺さんと係長さんとセレブお嬢さんがやって来て、さっきのくたびれていた3人とお話しを始めました。 あの3人がこの人たちの代表だったみたいですね。

 話し合いの段階になると私に出来ることはありませんし、タルのレモン水を補充したら退散しましょうかね。


 ほらほら、いつまでも頭を下げてないで今ある分を飲んじゃってくださいよ。 タルが空にならないと次が作れないじゃないですか。

 私がタルを指でトントンとつっつくと、ちくわちゃんが頭を下げている皆さんに何かを言いました。 すると皆さん頭を上げてレモン水を飲み始めました。 うんうん、それでいいんです。


 しばらくしてタルが空になると、門番さんの休憩小屋をお借りして、その中で追加を作ってからまた皆さんの所に置きます。 うん、今作った分で足りそうですね。

 うん、これで私が出来ることが無くなりましたし、そろそろ退散しましょうか。


 ……住む森を失ったエルフの皆さんに何もしてあげられないと思ってモヤモヤした気持ちを晴らすつもりで散歩をしてたんですが、その本人たちに出会うとは思いませんでしたねー。


 でもこうして出会えたお陰で、疲れを癒してあげる程度ですけど手助けができて良かったですね。 皆さん、疲れてはいましたが、ひどい怪我をしている感じではありませんでしたし、少しだけ安心しました。

 あの皆さんの中にフラスケちゃんとフードさんの姿はありませんでしたが、きっと2人も無事なはずですよね。



 ちくわハウスに帰る頃には、散歩に出る前よりは少しだけ気分が軽くなった私でしたが、そんな私を出迎えてくれたぺルルちゃんの言葉は……


 「エルフの森を滅ぼした原因がここに向かって来ているわ。 ……そして、その原因っていうのは…… あの精霊の子とアナベルよ」


 というものでした。

  

 

 

  


 


やはり年末は少し忙しいので2日に1話ペースは難しそうです。

なので次回は3日後の30日の投稿を予定しています。


それと、現在開催中の冬の童話祭に提出する童話もボチボチ書いています。

完成したらお知らせするので、そちらも読んで貰えると嬉しいです。

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