異能力軍、戦前演説~3番隊の場合~
ホント、そんなつもりじゃないんです(涙目)
美しい蒼天が頭上を覆い、乾いた風が吹いている。
照り返す陽光が瞳を刺してした。
日本特殊異能力部異能課、異能力軍は海外へ出張中である。
彼らは外国からの要請を請けて、【紫鳥】と呼ばれるマフィアの殲滅戦に参加をするのだ。
かつての日本では、法だの人権だのモラルだのと騒ぎ立て、犯罪者の殺害は勿論のこと、怪我を負わせるだけでも非難を呼んでいた。
時代は変わり、異能力保持者が現れた現代。人は代替わりし、考えも変わった。危険人物は最悪殺してでも止める、それが当たり前となっていた。
日本は、その面積ゆえに人口と言うハンデを抱えている。必然的に異能力保持者の人数も、外国と比べ少ない。
しかし、小さな島国であるにも関わらず、異能力軍は世界的に見ても異常な強さを誇っている。それは例えミサイルの雨が降ろうが、彼らが居る地域だけは無傷だ、と言われる程だ。
異能力保持者の人数に劣る日本は、一人一人の質を上げる他無いのだ。その結果、海外から協力要請を受ける程のものとなった。
故郷から遠く離れた土地に立つ異能力軍は、借りている広場に集合していた。
その先頭で、隊員を見回す人物が居る。
「3番隊隊長の三堂 楽です。
あまり口煩く言いたくはないのですが、整列し注目するまでに、71秒も掛かりました。
いつもと違うから、慣れない土地だから、そのような事は言い訳になりません。
私達が1秒を無駄にする度、関係の無い1人の命が奪われると思い行動してください。
さて皆さんは、作戦内容を理解していますね?
本日正午より、【紫鳥】の拠点へ武力制圧を開始します。
ですが私達は、あくまでも支援の為に来ている事を忘れないで下さい。
緊急時以外は後方で待機し、現地の指揮に従うように。
今回、私達の協力は無駄になることが望ましいのですが、6番隊の観測と予測では、かなり怪しいそうです。武力協力はあるものだと思っていてください。
作戦成功が私達の目指す所です。
作戦中の負傷は避けられないでしょう。
ですが、命を落とす事だけは避けなければなりません。
私達には、帰る場所があります。
私達の居場所は、見知らぬ土地でしょうか、それとも銃弾が飛び交う戦場でしょうか。
違うはずです。
私達の居場所は、仲間が待つ日本にあります。
ここに居る皆、例外などありません。
居場所が無いと言うのなら、私が作りましょう。
その為には、まず無事に帰らねばいけません。
私達には、帰りを待つ人達が居ます。
それは家族であったり、友人であったり、人それぞれです。
想像してください。
家族が、恋人が、友人が、仲間が、傷付いた姿を。
そして良く考えて下さい。
残された彼ら彼女らは、今どれ程私達の事を心配しているのかを。
その気持ちを、無くしてはいけません。
自らを護れない人間が、他人を護る事が出来るでしょうか?
自らを大切にしない人間が、他人を大切に出来るでしょうか?
自らの気持ちを理解しない人間が、他人の気持ちを理解出来るでしょうか?
どのような状況であろうと、先ずは自分を護ってください。そして安全を確認してから、他人の元へ向かってください。
私達は、人間です。
異能力をそれぞれ持っていますが、人間である事は変わりません。
銃弾を頭に貰えば即死でしょう。
それでも戦うのは何故ですか?
何か護りたいモノがあるのではないですか?
それは自分以外が護れるモノですか?
私達は、自分だけの為に戦うのではありません。
護る為に戦うのです!
死んでしまえば、護る事は出来ません。
それでも良いなどと、私は言わせません。
全員が無事に帰る事。
それが前提条件です。
私達は、絶対に作戦を成功させます!
そして、他人の為に戦い、自分の為に生きてください!
私達異能力軍は、人々を護る為に存在しています。
護り続ける為に、私達は無事に帰らねばならないのです!
……以上で終わります。
ご静聴、ありがとうございました。」
まるで学校の先生みたいな挨拶をした隊長、三堂は恭しく頭を下げると、後ろに引っ込んで行った。
異能力軍3番隊。通称『仕立て屋』
彼らは他の全ての隊から、厚く熱い信頼を得ている。問題児の多い異能力軍で、それがどれ程の事か、分かる人は息を飲む。
基本的に壊す事がメインな異能力軍には珍しく、直す事が仕事の部隊だ。修理修復改造改修は勿論、修悪改悪魔改造。オマケに後片付けを任されている。
そして軍の殆どの作戦に参加。疲労やストレスが溜まりに溜まった3番隊はある日、爆発した。
そう、説教してやったのだ。
5番隊を除く、全ての隊長副隊長に幹部補佐を召還。そして、それはもう徹底的に、何が悪くどうすれば良かったのかを長々と説いたのだ。
3番隊の行動は、それだけに留まらない。
説教ののち各隊ごとに指導をすることで、結果的に軍全体の質を底上げに成功。
ついでとばかりに個人の指導も決行し、伸び悩んでいた隊員の才能を次々に開花させたのだ。
そんな事を何度も繰り返しているうちに、3番隊は他の隊から一目置かれる存在となったのである。
自分達の仕事を減らしたくて説教したら、各員から信用と信頼が付いてきた。
不満とストレスをぶつけたら、軍の質が上がった。
何故か彼らが行動すると、利益が生まれる。
求めていなくても、利益が生まれる。
3番隊員は、真面目だと胸を張れる程真面目ではない。けれども不真面目とも言い難い。
標準的、という言葉が良く似合う。
彼らの価値観は、世間とほぼ同じである。
そして彼らのメンタルも、一般人とほぼ同じだ。
自分達の鬱憤をぶつけただけなのに、何故。
何故そんなに信用されているのか?
何故そんなに求められているのか?
何故そんなに尊敬されているのか?
意味が分からない!
3番隊は暫くの間、頭を抱えていたらしい。
今では諦めて受け入れているのだが、たまに見に覚えの無い感謝を貰うと焦ることがある。
3番隊員達のメンタルは、軍人の割りに脆いのである。
3番隊は、嫌われる前提で怒りを発散したのに、キレる前より好かれてしまい困惑。
思い切って悪い所を指摘したら、軍の質が上がり尊敬される。
頼まれると断れない性格の人物が多く、そこそこ信用があった3番隊員達は、頻繁に相談を受ける。
人の良い3番隊員達は、力に成ろうとする。すると悩みが解決するしないに関わらず、3番隊の印象は良くなる。
彼らにとって、当たり前の事をすればするほど、評価が上がるこの不思議は、耐え難いほど不気味なのである。
最近は減っているが、不気味過ぎてノイローゼになる者も居たし、ありがとうと言う単語に恐怖を覚えた者も居た。
それでもなお、3番隊は頑張って居るのだ。
対外評価が超絶イージーモード過ぎて恐い、と嘆きつつ、3番隊は世の為人の為に頑張っている。頑張れば頑張った以上の好評価が待っているのだが、不真面目に成りきれない彼らに、頑張る以外の道は無い。
3番隊は、人々の好意に感謝と恐怖を抱きつつ、本日も仕事に向かう。
頑張れ3番隊!
我々は君達の味方だ、応援している!
作戦は予想通り、武力協力を求められたが無事終了。
多少の負傷者は居たが、重傷者や死者は0人。
完勝であった。
その後、何故か全ての手柄は3番隊に渡り、代表である三堂は涙目で感謝状等を受け取っていた。
尚、同時に参加していた他の隊に加えて、現地の軍人達全員が、この結果に納得していた。
そのため辞退は出来ず、なんて謙虚なんだ、と余計に好印象を与えていた。
頑張れ3番隊!
気を確かに持つんだ!
地の文が興に乗りました。
何か凄い楽しかったです。
3番隊は、幸運な勘違いが起こりすぎてむしろ不幸、な人の集まりです。
ついでに、貧乏クジを引くのも達人クラスに上手いらしいです。
ですが、彼らの能力はとても高いんです。
忘れないで上げてください!
3番隊の後日談とか、面白そうですね。
その内出てくるかもしれません。
まぁ、期待はしない方が良いですけど……
また次? 他の? シリーズなのでそっちで会いましょう!サラバ!