その1
性懲りもなく連載です。本編は書き終わっているので、見直しながら投稿いていこうと思います。
楽で・軽くて・簡単に読める物が書きたかったので、よろしければお付き合いください。
切が良いところで切っているので、1話ごとに長さがバラバラになってしまいました。
読み辛いかもしれませんが、よろしくお願いします。
漫画やゲームのヒロインの条件って、何だと思います?
私が思うに、容姿端麗で性格が良くって、ちょっと抜けたとこのある可愛らしい女の子がまあ、一般的なヒロインなんじゃないかなと思うわけですよ。
そんなの居るわけない?いやー、それが居るんですよ。しかも同じクラスに。
そんなヒロインことお名前を武藤愛莉と言いまして、男子のみならず女子からの人気も高い!先生方の評判も最高値!
おじいちゃん先生なんかこの前『孫を交換したい』ってこぼしてたのを聞いちゃいました。
ヒューヒュー!モテモテだね、武藤さん!
今だって男女数人が武藤さんを中心にお話し中。これからカラオケに行くらしい。う~ん。あれぞリア充ですね。
「おい」
ん?うるさい蠅が何か言ってるぞ。
「早くしろ、あと五分」
知らん。私はタイムリミットなんて知らんよ。今ヒロイン観察で忙しいんだから話しかけんな、蠅が!
「あと三分」
「酷いや兄ちゃん!」
「うるさい。文句言う暇があるなら手と頭を動かせ」
前後の机をくっ付け、スパルタを強いるのは蠅ではなく実の兄の長谷川卯月。四月生まれだから卯月で、妹の私は弥生。もちろん三月生まれ。
安直すぎるよ、マイペアレンツ。
兄ちゃんは自分の名前が好きじゃない。ちゃんと卯月と呼ばないとキレます。前に『ウサギちゃん』と呼んでからかっていた男子に笑顔で『はぁ?聞こえないなぁ』と繰り返しながら壁に追い詰めている光景を見たことがある。あれも一種の壁ドンなのだろうか。
ちなみに、私たち兄弟は双子じゃない同級生です。からかわれる事もあったけれど、真顔で見つめたらたじろいで逃げていった。
けっ、根性なしが!
「あと一分」
「待って、待ってくださいお兄様!」
私はヒロイン観察を諦め、手と頭をフル回転させた。そのかいあってタイムリミット十秒前に完成させました。……生徒会の仕事を。
兄ちゃん、貴方の妹は真っ白な灰になったよ。
「ノルマクリアだな。次もしっかりやれよ」
「……兄ちゃん。その前にさ、理不尽な仕事を押し付けられた妹に労いの言葉はないの?」
「無いな。弥生が悪い。会長の溜飲が下がるまでは、ガンバレ」
なんで最後片言?
兄ちゃんは私が仕上げた仕事を確認しながら生徒会室に向かった。
溜飲、下がるかなぁ。確かにあれは私が悪かった。自覚はある。
きっかけは兄ちゃんの忘れ物を生徒会室に届けに行った時のこと。関係者以外は立ち入り禁止なので、ノックをして外で待っていた。出てきた会長を見て私は言った『筋肉ダルマ!!』……と。
だって、会長バリバリの武闘派で、空手と柔道の有段者。おまけに趣味は筋トレという、真の筋肉ダルマなんだもの。つい言っちゃった私は悪くない。
しかし……。あの時の会長の顔、超怖かった。上から無表情で睨みつけるんだもん。か弱い女子なら竦みあがるよね。
あれ以来雑用を押し付けられている。でも、関係者じゃないからって生徒会室には入れてもらえない。可愛い……かどうかは分らんが、下級生には変わりないじゃん?扱い酷くない?
「お手伝い終わったの?ご苦労様、弥生ちゃん!」
「む、武藤さん!」
兄ちゃんが使っていた机を片付けていると、ヒロイン武藤さんが声を掛けてくれた。さすがヒロイン。男子がコロッと惚れるのも頷ける。
武藤さんは私をじっと見つめたかと思うと、いきなり抱きついてきた。
「あ~、弥生ちゃんのその目、本当に癒される。可愛い!」
「――!?」
ふぁっ!?何だ、何が起こった!?
っていうか超良い匂い!シャンプー?シャンプーの匂いなの!?
混乱する私など眼中に無いのか、武藤さんの友達が「愛梨、早くしないと時間なくなっちゃうよ」と声を掛けると、「はーい。じゃあね、弥生ちゃん」と最上級の笑顔を見せてリア充へと旅立った。
一瞬の抱擁だが、破壊力は抜群。大ダメージを受けた私はというと……。
「……やばい、鼻血でそ」
「出さないでね、長谷川さん」
私の独り言に突っ込んだのはクラスメイトの男子。少々呆れ顔です。
「だって、ヒロインにハグされて笑顔で手を振られたら出すでしょ!むしろ出していこうよ、鼻血!」
「むしろって何?相変わらず武藤さんに弱いね」
「分かってないねぇ、コガ君」
「武藤さんの魅力についてはさんざん聞かされたから、説明はいならいよ。あと、古河だよ」
コガ君てば、なんで武藤さんに惚れないかな。あの笑顔を間近で見ても平気なんて、どこか壊れてんじゃないの?私なんて一目見て虜になったというのに。
「それよりさ。武藤さん、私に癒されるんだって。どこに癒されてるんだろう?」
「ここじゃない?」
むにゅっと目尻を下げられました。
そっか、なるほど……。
「って下げないでよ!これ以上下がったらお多福さんも真っ青だよ!」
お多福さんってアレね。今の時代はやることは少なくなった、お正月に活躍する『副笑い』ね。
手を払い除けるとコガ君は「可愛いのに」と反省の色がない。
「メンデルの法則を知らないの!?タレ目の子は、タレ目になるんだよ!?祖母ちゃんも母さんも兄ちゃんもタレ目!これぞタレ目負の連鎖!」
「いや、確かに連鎖はしているかもしれないけれど、負ではないと思うよ。それに、長谷川さんが大好きな武藤さんが癒されてるのなら、良いんじゃないの?」
「……なるほど。確かにそうだね。武藤さんの癒しの一つになっているのなら良いか。良いところに気付いたね、コガ君。グッジョブ!」
タレ目もたまには役に立つもんだ。帰ったら兄ちゃんにも教えてあげよう。
「古河だよ。……今日は部活来る?」
「うん、行くよ。琴音と約束しているからね」
「じゃ、先行ってる」コガ君は言いながらまた私の目尻を下げて部活に行った。
武藤さんの癒しになっているのならタレ目も受け入れよう。だけど、タレ目も長年からかわれていたポイントなので、出来れば武藤さんのようなパッチリ目が良かった。
いつ・誰に言われたのか忘れたけれど『犬みたいな笑顔』と言われたことがある。どう受け取れば良かったのか、未だに謎です……。