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我儘楽観者と運命の話  作者: くゆう
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暗い朝

 運命というのをどう解釈すればいいのだろうか。

 宇宙でビッグバンが起こった、地球が誕生した、人類の歴史が広がった…

 もっと卑近な例だと、いつもと違う時間に起きた、違う道を通った、違う席に座った…

 ありとあらゆる事象は偶然起こったことなのだろうか。それとも、運命としてあらかじめ決まっていてのだろうか。

 もし、運命としてきまっていたのなら、「あのとき、ああしてれば。」そんなこと考えたって意味などないのではないのだろうか。


 僕は、朽野(くだらの)せいかはこの問いに答えられる。いや、僕一人においては答えることができる。



 5月2日火曜日、僕はいつもと同じように高校に到着した。入学してから1か月が経ち高校に通うことも日常の一部になりかけていた。

 家から歩いて15分ほどの距離にあるこの高校は、千葉県の公立高校の中では上位クラスの偏差値にある。けれど制服のデザインは古く、校舎もぼろぼろ、最寄駅から徒歩40分なため、人気のない高校なのである。

 まあこのまったりした雰囲気は嫌いじゃないけど。


 まだ一か月しか経ってないとはいえ僕は高校生活を満喫してるといえる。中学校の時と比べて話が合う友達が増えたり、部活に入らず放課後は気の向くままに過ごしたり、彼女ができたり。


「あっ、せーくん!おはよー」

「おはよー」


 昇降口で上履きに履き替えようとしたところ彼女(・・)に声をかけられた。


 鏡心(かがみこころ)。身長は170センチの僕より顔一個分くらい低く、髪の毛は茶色に染めていて肩にのるくらいの長さでゆるいパーマをかけている。制服のおしゃれな着こなし、自然なメイク、きれいな爪…一言で言えば女子力の塊。それでもって子犬のような愛くるしい振る舞い、豊富な話題。男女問わず人気があるのは当たり前のことである。

 しかも可愛い。

 いろいろあって、入学式の2日後から僕たちは付き合っている。


 いつも、僕たちはばらばらに登校している。下校するときは全く問題ないのだけれど、朝が苦手な僕たちは時間を合わせて一緒に登校するのはどうしても窮屈だったのだ。

 今日みたいに昇降口で一緒になるのは珍しい。


「朝一緒になるの珍しいね!」


 鏡ちゃんも同じことを思ったようだ。


「これも運命に導かれた必然だよ」


「…なんか今日の学校静かじゃない?」


 僕のセリフはスルーされた。


 でも、言われてみれば確かに今日の学校は静かな気がする。静か、というより暗い雰囲気が漂っている感じがする。

 ホームルーム開始の約10分前のこの時間は、いつもだったら生活指導の先生が登校してくる生徒に覇気のある挨拶をしてくる。無視すると挨拶を返すまで「おはよう」を連呼してくるのだ。正直あまり好きじゃない。

 けれど今日はその先生は立っていなかった。きっとそのせいだろう。


「あの人いないだけでこんなに静かになるんだね」

 僕たちは軽く笑い合って、教室に向かった。



 4階にある僕たち1年2組の教室には人だかりができていた。

 1年2組の教室は階段を昇って職員棟への渡り廊下を挟んだ位置にあるため、他のクラスより長めの廊下になっている。だから今も通れないっていうほどではない。

 20~30人ほどだろうか。違うクラスの人も混ざった塊は、皆教室には入らず一点を見つめるようにして固まっている。

 暗い雰囲気の原因はうちのクラスからだったらしい。これだけの人が集まっているのに軽口をたたいたりする人は誰もいないこの不気味な空気は、吸うだけで吐き気を催す。


 いやな予感しかしない。教室の中に何があるのか。何で皆黙っているのか。なんとなく、なんとなくだがわかってしまう。

 僕は高校生活を、人生を楽しく過ごしたい。それだけなんだ。

 だから教室の中を見る必要はない、このまま家に帰って明日から普通にまた学校にくればいい。無理する必要なんてないんだ。


 けれど、なぜか教室の中を見れずにはいられなかった。


 僕は人の隙間に無理矢理割り込み、教室の中を覗いた。


 こんなことってあるんだ。



 ―クラスメイトが、死んでいた。



初投稿です。誤字脱字や読みにくいなどありましたらご指摘お願いします。

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