レイナ その2
前回の続きです。
しばらく馬車に揺られていると、だんだん心が落ち着いてきた。村までは、それほど時間はかからないみたいね。彼がまだ村にいればいいのだけれど。
そう思って外を見ると、村が見えてきた。眺める限り、彼の姿は見えない。
私は馬車を降りて、村を見渡す。だがやはり、彼の姿は無い。
仕方が無いので、村の広場で休んでいる茶髪の姉妹らしき二人に尋ねてみる。
「この村に、黒い髪で灰色の目をした旅人はいるかしら?」
すると茶髪の姉妹は、顔を見合わせてから、妹の方が答えてくれた。
「それってシュウさんの事ですか?」
良かった。どうやらこの村にいたことは確実らしい。
「そうね。どこにいるか分かる?」
「シュウさんなら今朝、迷宮都市に向かって行きましたけど。」
もう手遅れだったわね。けど行き先は分かったから良しとしましょう。
「あの、あなたはシュウさんの彼女さんでしょうか?」
「ナっ、なにを急に。」
いきなり姉の方がそんなことを聞いてきたので少し声が上ずってしまった。
「私は彼に借りがあるだけよ。」
「そうなんですか。顔が火照ってますけど大丈夫ですか?」
「大丈夫だわ。」
ふぅ、落ち着くのよ私。
「でもシュウさんなら、またここに来るって言ってましたよ。」
「そうなの?」
「はい、いつになるか分かりませんが。」
「そう。」
「来るまで待ちますか?」
「そんないつまでも待っていられないわ。」
「そうですよね。待ってられませんよね。」
なんか彼女たちの口調がおかしい。
「私達、シュウさんに一緒に旅をさせてくださいってお願いしたら、次来るときにって言われたんですよ!」
「そういうことね。」
「はい、なので提案なのですが、今から馬車で迷宮都市に向かっても、一つ目の村には辿り着けないので、一晩私の家に泊まりませんか?」
「そして泊まる代わりに、貴女達も一緒に連れて行けばいいのね?」
「そうです!良いですか?」
「分かったわ。」
「やった!ありがとうございます!」
「それと私の名前はレイセアーナ。レイナでいいわ。」
「「分かりましたレイナさん」」
「私の名前はマリです!」
「私はマリの姉のマナです。」
妹がマリで姉がマナね。
「じゃあ早速家で作戦会議をしましょう!」
そう言って彼女達は村では一番大きい家に入っていく。その家には入り口のとなりに 村長 と大きく書いてある表札がある。
もしかして彼女達はこの村の村長の子なのかしら?
そんなことを考えながら私も家に入っていく。
「ではさっそく本題ですが、シュウさんはここから北にある迷宮都市ヘ向かっています。」
家に入って居間の椅子に座らされた後、すぐそんなことが言われた。
「でも迷宮都市ってここからだと結構遠いわよね?」
「そうです!しかもシュウさんは歩いて行っているので、一つ目にある村までも五日はかかるとお母さんが言ってました!」
「歩いて行っているの?」
彼は迷宮都市まで歩いて行くつもりなのでしょうか。いくら私でもそんな気にはなれない。
「はい、けれどシュウさんなら行ける気がしますよね。」
「そうね。彼のことだからもっと早く着くかもしれないわね。」
「でも距離が距離なので馬車で追いつけない事はないと思います。」
「それもそうね。とりあえず明日、迷宮都市までにある、一つ目の村に行ってみましょう。」
「そこでシュウさんが一つ目の村に着くのを待つんですか?」
「二つ目の村ででも良いと思うけれど、迷宮都市で待つのは避けたいわね。」
「なんでですか?」
「馬車で先に行く程待つ日数が増えてしまうわけだし、迷宮都市では彼を見つけにくいもの。」
「なるほどですね!では一つ目の村で待ちましょう!」
マリちゃんがそう言った時、居間に彼女達の母親らしき人が来た。
「あら、あなたたち、シュウさんを追いかけるの?それとあなたたちの前に女神様みたいな人が降臨してるわよ?」
「こんにちは、レイナです。」
「レイナちゃんもシュウさんを追いかけるの?もしかして、シュウさんの彼女さんだったりするのかしら?」
「違うわよ。」
この母親、雰囲気は優しい感じなのだけれど、発言に遠慮というものが無いわね。
「あらそうなの。少し残念だわ。こんなかわいい人が自分の娘になると思ったのに。」
「ちょっとお母さん諦めて無かったの?」
この人達がなにを言っているかは分からないけれど、それについて聞かない方が良いことは分かるわ。
「それよりあなた達、レイナさんに連れて行ってもらうのでしょう?レイナさん、娘達をお願いね。」
「分かったわ。」
「それじゃあ今日はゆっくりしていって頂戴ね」
この後村長さんが来て、事情を一から説明する羽目になってしまったけれど、了承してくれたみたいだった。
「さあ、どうなるかしらね。」
私は明日からの事を色々と考えながら、借りた部屋にあるベッドの中に入り、体を休めた。
時間からシュウ視点に戻ります。