大きめの狼、村に来ました。
「そうか、娘達もついに男を連れてくる歳になったのか。」
「だから今日泊めてもらうだけだよ?村長さん聞いてました?」
村長宅で、村長に事情を話すとそんな答えが返ってきた。この村の人はみんな「今日泊まるだけ」という言葉が聞こえないのだろうか。
「村長さんじゃあなくていい。お義父さんと呼びなさい。今日は思う存分飲もうじゃないか。」
聞こえてないね。
「いや、だから今日泊めてもらうだけですからね?」
「そうか。娘達の方が居なくなるのか〜寂しくなるなぁ〜。」
「誤解しかしてないなこの人」
この後、もう一回、重要な事を三回くらい言いながら事情を説明して、やっと解ってくれたみたいだった。
「はぁ、一日目から疲れたな。精神的に。」
村長宅の空き部屋を使わせてもらっている俺は、窓から夜空を見上げながら、そう呟いた。
ベッドには行かず、部屋にあった椅子に座りながら思考を休めていると、急に甲高い鐘の音が聞こえ、次に叫び声が聞こえてきた。
「マザーウルフがきたぞぉー!」
うそん。俺は童話の嘘つき少年を思い出しながら外に出てみると、村の柵の向こうに狼が見える。
あれ?普通の黒い狼じゃね?高さが四メートルくらいで、体調が九メートル以上ありそうだけど。あっ、普通じゃなかった。
「シュウ君、君も討伐を手伝ってくれるのかい?」
えっ?村長さん?あれ討伐するつもりなの?村長さんなんか刀持ってるし。なんか無駄にダンディだし。
「いや〜、心強いねぇ。お義父さんはいい息子が出来て嬉しいよ。孫は三人くらい欲しいな。」
俺行くの確定ですかそうですか。それとなんか孫欲しいとか言ってるよ。冗談だよね?
「じゃあ行こうかシュウくん。君の力を見せてもらうよ。」
そう言って村長は柵を壊した大狼に向かって走って行く。
俺は頭を掻いてから、村長に続く。
「俺は絶対認ないからな。」
そう言って、大狼の方へ走る。今回は、村長や村人が戦闘に参加しているので、変形は使えない。使えるのは筋肉密度の上昇と、リミッターの解除、骨の硬化だけだ。だが、これでも十分足りる。
俺は跳躍し、大狼の鼻を右手で掴み、骨格が硬化された左膝に、大狼の顎を打ち付ける。
そして空いている左手で頭を掴み、右足で横から顔面を蹴り飛ばす。
「やるじゃないか我が息子よ。」
「息子って呼ぶな村長。」
村長は、そう言いながら刀で大狼の脚の腱を早技で切っていく。
村長無駄に強くね?なんか絶対届く筈が無い所まで切れてるよ?斬撃でも出したの?
村の人達もそれに続いて、大狼に攻撃を加える。これは勝てる....しまった、フラグを....
そう思った所で大狼は遠吠えをした。その途端に俺と村長以外の人達の様子がおかしくなる。
「村長!みんなの様子がおかしいぞ?」
「咆哮だ!近くで聞くと動けなくなるのだが、シュウくんは無事なのだね?流石だね。」
まあ'絶対者'が働いてくれたのだろう。
「そう言う村長はなんで大丈夫なんだよ。」
「気合いだよ。とにかくみんなが動けるようになるまでマザーウルフの気を引き続けるんだ!」
村長はそう言って大狼に斬撃を飛ばす。
村長無駄にかっけえな。レベルいくつなんだよ。
だが大狼は、まだ倒れない。それどころか、大狼の周りに黒と紫の玉が出来ている。あれは確か...
そのとき、村長が叫んだ。
「こいつはダークマザーウルフだったのか!避けろ!闇魔法がくるぞ!」
だが、そう言った村長は立ったまま動かない。
「おい村長!避けるんじゃないのか?」
「あいにくだが、最後まで咆哮の効果に耐えられなかったんだ。まだ気合いが足りなかったよ。」
村長は本当に気合いで動いてたのかよ。
「くそッ!」
村長を見殺しにする訳にはいかない。見せたく無かったが仕方ない。こうなるなら最初から使っておけば良かった。
「黒化ァぁぁ!」
左手を黒化し、村長の前で壁のような形にする。
黒は、村長に向かってきた魔法を次々に呑み込んでいく。
そして空いている右手の、人差し指から糸を出し、その糸で闇大狼を両断する。
闇大狼は、毛皮と魔石を残し、消えていった。
拍手が聞こえる。
「ありがとう、シュウくん。そして流石だったね。本当に息子にしたいくらいだよ。」
咆哮による硬直から解けた村長は相変わらずそんな事を言ってくる。
「それにしてもシュウくん、最後のはなんだい?あの黒いのは魔法かい?それと指を振っただけでダークマザーウルフが真っ二つだったね。」
「えーとそれはー、はい、アレですよアレ。」
「はっはっは、言いたく無いのなら言わなくていいさ。強いのだね。君は。」
「あー、はい。」
スキルと称号がな。
「よーし、村の者は酒を持って来い!今からシュウくんの健闘と、ダークマザーウルフの討伐を祝って祝勝会だ!今夜は眠らせねぇぞ!」
まじかよ。なんか急にダメ村長に見えてきた。てかさっきまで戦ってた村の人達も酒持ってきてるし。
「ほら、シュウくんも酒を持つんだ。」
うわー、なんかみんなこっち見てる。
「えーと、....乾杯」
「よく聞こえねぇぞー?」
誰だ今言ったやつ。後でしばいてやる。
「乾杯!」
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
この後、夜が明けるまで飲み明かしていた。