異世界の村、ありました。
サイクロプスとのエンカウント以来、特にモンスターとの戦闘は無く、二時間ほど森を歩いていると、川沿いの拓けた場所に、柵で囲まれた集落があった。
入り口から覗いてみると、ログハウスがだいたい二十くらいあり、川の向こう側には畑がある。そして真ん中には広場があり、そこに人がいるので中に入り、声をかけてみる。
「すみませーん。ハロー。ニーハオ。アニョハセヨ。」
「えっ、あっ、はい。大丈夫ですか?途中から何言ってるか分からなかったんですけど。それと変わった格好ですね。」
答えてくれたのは茶髪の少女である。歳はたぶん十三歳程度か。
「ああ。俺は正常だ。それより近くに町や都市はあるか?」
「旅人さんですか?その割には荷物は持っていないように見えるんですが。モンスターにでも襲われたんですか?」
あっ、やべえ。そういえば俺は何も持っていない。スキルがあるので、必要な栄養も生成してるし、武器も身体全体が武器になるので、どちらとも必要ない。
とにかく今は、話に乗っておく。
「ああ。ここまで来る途中に、サイクロプスと会ったんだよ。」
まだ嘘は言っていない。
「そうなんですか。それで逃げてきたんですか?見た目は良い方なのに中身が残念すぎますね。」
うわぁ、いつからこんな失礼な娘になってしまったのでしょう。おにいさんとっても悲しい。
「いや、荷物は無いが、サイクロプスの魔石ならここにある。」
そう言いながらポケットに入れていたサイクロプスの魔石を取り出す。
「一人で倒したんですか!?いやそれよりも荷物が無いでしたよね?もう陽は沈んできてますし、その魔石をくれるなら今晩泊まっていってください。」
おお。見事に魔石に目が行ってますね。
魔石の相場は分からないが、おにいさんは将来この娘がお金に釣られたりしないか心配だよ。
「 そうか。ならあげるよ。」
俺にメリットが無い気がするが、この娘が超欲しそうにしてたので、ついそう言ってしまった。
おにいさんは自分の甘さが心配だよ。
「本当ですか?じゃあ親に言ってくるのでここで待っていて下さい。」
そう言って少女は畑がある方へ向かって行った。
少女が向かって行った方向を眺めていると、少女より少し高い身長の黒っぽい茶髪の少年がこちらに話しかけてきた。
「おい」
「なんだいボブ」
いつもの癖でボブと呼んでしまった。
「....お前、見かけない顔だなぁ。誰?」
お前って呼ばれた。おにいさんショック。
「ただの旅人だよ。」
「でも、さっきマリと話してたよな?」
あの少女の名前はマリちゃんか。
「そうだな。」
「何を話してたんだよ?」
少年は思春期なのだろうか。それとも発情期だろうか。
「ちょっとした相談だよ。ここへ来る途中、サイクロプスに襲われてな。倒したはいいが、荷物が無いということを話してた。」
「それでどうしたんだ。」
俺はポケットから魔石を出して言う。
「これを渡す代わりに、一晩泊めてくれるってよ。今、親にそれを言いに言ってる。」
少年は黙ったままこちらを睨んでいる。どうやら少年は思春期か発情期で合ってるようだ。
「....勝負だ。その魔石をかけて勝負だ!」
ああ、発情期っぽい。
少年は俺の返事を聞く前にもう殴ってきている。俺は左手で難なく止める。
少年は両手を使ってパンチを連打してきた。
俺は相変わらず左手だけでそれを受け止め続ける。そんなことをやっていると、声が聞こえてきた。
「やめなさい、アンドレ。」
そう言ったのは、さっきの少女...マリちゃんが成長したような姿の美少女だ。歳は俺より少し下くらいだ。マリちゃんの姉かな?
「だってこいつが「やめなさい。」
少年...アンドレと呼ばれてたっけ?は攻撃を止めて何か言おうとしたがマリちゃんの姉(仮)はそれに被せて先ほどより冷淡な声で言う。マリちゃんの姉(仮)超怖い。
「すみません、私たちの村の人が迷惑をかけてしまって。」
「いや、大丈夫だ。何も問題ない。」
「旅人の方ですよね?私はこの村の村長の娘の、マナと申します。」
村長の娘か。なるほど。ということはマリちゃんも....
「お母さん連れてきましたよー....ってお姉ちゃん達もいる!」
「この人が今日泊まってく人?まぁ、マリも魅力的な人を見つけたわね。」
「えっ?この人今日泊まってくの?っていうかマリ?この人と....えぇっ!?」
「なんだと?おいお前!マリをかけて「やめなさい」
うわぁ、なんかもうよくわかんなくなってきてる。
「えっと...俺は今日泊めてもらうだけだぞ?それと俺の名前はシュウだ。」
「わかったわ。シュウさんね。娘二人をよろしくお願いします。」
「「えっ」」
「....話聞いてたか?それと今二人って言わなかった?言ったよね?」
「あら、一人でもいいのよ?」
「「ええ〜」」
「もう一度言うぞ!?俺は泊まるだけだ!あと娘二人もいちいち反応すんなし!」
結局、このやり取りは陽が暮れるまで続いた。