迷宮の一層目、クリアしました。
「さっきのは糸に変形させてやったのー?」
チンピラを置いて喫茶店を出た後、ヒメハルはそう聞いてきた。
「ああそうだ。糸、見えてた?」
「糸は見えなかったけどなんとなくー。」
やばくね?この子のカンやばくね?なんとなくで糸って分かるか?
「何で糸を使っているか、分かるか?」
俺は試しに聞いてみた。すると返ってきた答えは....
「うーん。極細の見えない糸だからー、相手に認識させないまま相手の動きを封じたりー、斬ったり出来そうー。」
うおお。やばくね?この子のカンやばくね?
あ、これさっきも思ったか。
「いや、合ってるけどね?何でそう思ったんだ?」
「えーとねー、そうだったら便利そうだなーって思ったー。」
あらやだこの子天才かもしれないわ!俺より歳下だとは思えな........い?
「なあ、ヒメハルって十五歳くらいだよな?」
「そうだよー。でもー、時間止まってる空間で魔法作ったりしてるからー、精神的には十六か十七歳くらいだねー。」
おお。二百年くらい生きてるかと思った。でも精神的には歳下じゃあないかもしれないじゃん。でも見た目が歳下だから。多分大丈夫。何が大丈夫かは知らんけど。
「そうなのか。じゃあ俺と大体同じだな。」
「シュウは何歳なのー?」
「俺は十七歳だな。いや、もう少しで十八歳
か。」
「へぇー。じゃあもう少しで追いつけるー」
「そ、そうか。」
この子、追いつこうとしてくるよ。どうしよう。俺も時間系のスキル欲しい。死神ちゃんに相談してみようかな。冥界に帰る手段とか無いけど。でもこの子なら行けそうだな。
「冥界って知ってる?」
「冥界ー?魔界なら行った事あるけどー?」
なんだろう。この子の返答は予想の斜め上を行くよな。これがヒメハルクオリティか。
「魔界なんてあるのか。」
「あるよー?そこで魔法の修行をしたー。」
「そうなのか。」
「うんー。けど冥界は知らなかったなー。シュウは冥界で修行したのー?」
「修行?ではないな。」
まあ仕事するたびにスキルとかが強化されていったけど。
「冥界かー。魔術の研究は出来なさそうー。」
冥界に気は行く無いそうですね。
「そうか。魔界はどんな所だったんだ?」
「魔界はー、みんな上位の魔法が使えたー。それと魔王がいたー。」
魔王か。ファンタジーだな。
「勇者は?」
「勇者はー、まだこの世界にいるっぽいー」
「おお、勇者は強いのか?」
「強いんじゃないー?でもシュウさんには及ばないと思うー」
でも勇者だろ?どうせ主人公補正バリバリだろ?それに俺がラスボスっぽいスキルだし限界突破とかしてきそう。
「分からないぞ?いつか会って闘ってみたいな。」
「ここに召喚するー?」
「やめれ」
「わかったー」
この子といるとなんかこう、「異世界にドラ○もん連れてきたった笑」みたいな、感覚になってくる。違うのは、ひみつって言ってるけど秘密も蜂蜜も無い道具の代わりに魔法を使うだけである。
「ダンジョンの入り口に着いたよー」
そんな事を思っていると高い壁で囲まれている、ある程度整備された洞窟入り口のようなものの正面まで来ていた。
「ここがダンジョンか。」
「うんー。シュウの強さなら未開層まで行けそうだねー。」
「最高で何層なんだ?」
「私が行った時の四十八層かなー。ボスに魔力をしばらく使えないようにされちゃったー」
「そうなのか。」
「うんー。だからそうなったらよろしくー」
「任せろ。」
「それじゃあ入ろうー」
「おう。んじゃ、行きますか」
そう言って、俺とヒメハルは迷宮の入り口を入って行く。
「そういえばあんまり人はいなかったな。」
迷宮内に声が響く。
「夜だからじゃないー?朝はたくさんいるよー」
「そうなのか。」
「そだねー。ここの階段を下ったらモンスターが出てくるようになるから気をつけてー」
「あいよ。」
俺は少し迷宮に期待を持ちながら入っていく。
だだ、入った途端にそんなものは泡が激流に流される如く消え去ってしまう...
その原因は....
「二層へ行くには....足跡がみんな右側にしか向かってないな。」
階段を下った先で別れ道が三つあったが、足跡はみんな右側へと続いている。
迷宮なのにみんなの足跡は迷い無く右側!
迷宮なのに!
迷い無く!!
右側!!!
....落ち着こう。
「これ中央か左側の道に行ったらどうなるんだ?」
「どっちも何もないよー? ただひたすら歩いて、それで行き止まりー。」
「トラップとか隠し通路とか無いの?」
「ないよー?」
何も無い!ただひたすら歩いて行き止まり!最初の別れ道までまた、ひたすら歩く!!
何それ悲しい。そりゃみんな右側行くわな。せめてトラップくらいはあって欲しかった。
「....これが現実か」
「トラップは六層からだよー」
うわぁ。じゃあこの層は何の為にあるの。そのうち屋台とか出されそうだよここ。
迷宮に対する期待よ。君はどうしてそんなに儚いんだ.......
「あとモンスターとか出なくね?」
「モンスター出てくる魔法使うー?」
「やめれ」
しかも大体の問題を魔法で解決できちゃう人が隣にいるよ。いや、別にいいんだけどね?
いいんだけどね? 良くねえよ。
「モンスター来たよー?」
「ほんとだ。」
ちょっと大きめのコウモリのようなモンスターが微妙な速さで突進してきた。とりあえず攻撃は加えず、避けてみる。
コウモリ型モンスターはそのまま速度を落とさず行ってしまった。奥の方で、何かにぶつかる音がした。
「...あれっ?これで終わり?」
「そだねー。まあそのうち強くなってくるよー」
強いとか弱いの問題じゃなくね?
「そんでここがボス部屋ー」
ヒメハルが扉を指差す。早いなボス部屋。全く迷わなかったな。おい足跡、てめーのせいだよ。
俺はいかにもボス部屋っぽい扉を押す。だが開かない。
「あれ?」
.......ごめんなさい引いてみたら開きました。
「....笑わない。いや、ホント頼むから笑わないで。」
ヒメハルさん後ろ向いて肩を揺らしてますよ。何気にツボってるよこの子。
「いやぁー、ごめんねー、ちょっと、シュウお茶目さんだなぁーって思ってー」
「笑いながら言わないで。ほんと、頼むから。」
「おもしろかったー」
「忘れてくれ。頼むから。」
俺は心を落ち着ける。
ふぅ、一層のボス、それなりに強い奴だと良いが....
もう一度、気をとりなおしてボス部屋の扉を開けた。
そこにいたのは..........
............一匹のゴブリンだけだった。
「オマエかよォォ!!!!」
俺は渾身の叫びは、無事ボス部屋内に儚く響きましたとさ。めでたしめでたし。
めでたくないのでまだ続きます。今後もよろしくお願いします。




