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アナザー・マン・ワールド

いびつと友情

ブロマンスですが、人によっては同性愛と同等に思われてしまうかも知れません

ご注意ください。

 その男は、銀色の髪を一つに結わえていた。白衣を着ている辺り、医師なのだろう。しかし、その男のよく目立つところといえば、「背中の翼」であろう。

 髪と同じ、銀色の羽が綺麗にきちんと揃っている。それが集まりに集まって一対の翼となっている。体の半分以上の大きさはあり、一見それだけ見ると重たそうに見える。しかし、その男の涼しい顔といったら、そんなことを微塵も感じさせないのだ。


 男は、翼人という亜人のミトロジア・アルヴォといった。ミトロジアは、涼しそうな顔でとあるモンスターの腿を見ていた。

 モンスターは、ドラゴンの眷族である、ワイバーンだった。そのワイバーンは鱗でカチカチの顔を恐怖に基づく怒りに歪めていた。ワイバーンの主人がなだめて、やっと動かないでいるようだ。


 それを知っているから怖くないのか、ミトロジアはあいも変わらず涼しい瞬きをする。

「先生、怪我は大丈夫でしょうか。」

 ミトロジアは、ワイバーンの主人には目も向けず、その問いに答えた。

「大丈夫だ。これぐらいなら、治癒魔法を使わずとも直る。」

 ワイバーンの主人は胸を撫で下ろし、愛しき相棒の鼻面を撫でた。



 やがて、ワイバーンとその主人が礼を述べて帰る。それを見送り、診療所に戻るとミトロジアは一息吐いた。

「お疲れ様だね。ミトロジア。」

 診療所の奥から、魚の耳ヒレと尻尾を持った、金髪の男が出てきた。まるでタイミングを見計らったようだ。

 その人魚の不思議なところは、何も人魚たらしめる部分のみではなかった。髪型も、服装も、ミトロジアとうり二つなのだ。一瞬、双子かと思うくらいに。

 さらに言えば、彼の目にはまるで生気がなかった。全てに絶望した闇でも携えているかのようだ。


 マーマン、シュット・マレディクシオンも、医師だった。ただしミトロジアとは違い、主に亜人の診察をしている。


 シュットはポケットから懐中時計を取りだし、空の具合を見て、「そろそろ今日は終わりかね。」と言った。ミトロジアも宵闇色の空を見て、静かに頷いた。



 診療所は、海辺にあった。それはシュットへの配慮によるのだろう。マーマンはいくら歩けるからと言って、内陸で平気なわけではない。


 白い塗装が所々剥げている木材で、全てを建てられている。薄ぐらい部屋にランプを燈し、二人は少しばかり遅い夕食を摂ろうと思った。

「ミトロジアは何が食べたい?」

 生気のない目を柔和に細め、優柔そうな声色で問う。ミトロジアはまるで何も空いていないような、いかにも淡々とした声で言った。

「金鶏の卵のオムライスがいい。」

 シュットはふにゃりと笑うと、台所に立ちはじめた。


 しかし、ミトロジアは大人しく待っているかと思われるはずが、シュットの所へ機械のようにキッチリした歩き方で向かって行った。

 そして、徐に後ろからそっと抱きしめた。顔はうなじ辺りに埋めている。

「疲れた。」

 疲れているとは到底思えない、機械じみた声で確かにそう言った。

「お疲れ。」

 シュットは優しく、ゆっくりとそう言った。



 しばしの沈黙。二人の間に少し居座ったが、やがてシュットの言葉によって消え去った。

「君は、私に何も聞かないのかね?」

「なぜだ。」

 疑問符などついていない言葉を発するミトロジアに、シュットは悲しげに言った。

「君だってわかっているはずだ。私のいびつさを。」


 生気のない目をミトロジアに向ける。深い、深い、冷たい深海の闇が垣間見える気がしてくる。

「私の目は、まるで生気がないだろう?」

 ミトロジアは、その目をじっと見つめた。何を考えているのか、よくわからない、猫のような視線を遠慮もなくぶつける。

 その目は全く対照的で、キラキラと小さな光が散っていた。


「俺はただ、お前の傍にいたいだけだ。お前が話したくないことなら、俺はお前の過去に興味をもたない。」


 シュットは顔を背け、卵をじっと見つめる。結果的には、俯いていた。

「ミトロジアは優しいね。」

 少し、崩れそうな声色だった。ミトロジアは特に疑い探るわけでもなく、さっきの顔の位置から何も変えようとしない。

「泣いているのか。」

「大丈夫。」

 一瞬見えた、潤いがいつになくある瞳に、推測を立てた。しかしそれは答えにはなっていない言葉によって事切れる。


 シュット。彼に何があったのか。

 それは、きっと二人には関係がない話なのだろう。

 二人の間にある、友情にとって。

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