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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第九章 「天に奏でし運命の唄《フェイタルソング》」
99/111

幕間10

10




「……ねぇ、アキラちゃん。 本当に、やるの?」


隣でアカリが呟く。


「心配してるのかい? ……大丈夫だ。 ボクとこの本があれば。 ……それに、今は頼もしい仲間が居る。 きっと上手くいくさ」


折り畳み式の大鎌を展開し、軽く振ってみる。

聖堂学院の武器倉庫に転がっていたのを拝借したものだが、伸縮も可動域も申し分ない。

誰が何を思ってあんなところに放置していたかはわからないが、これを利用しない手はなかった。


「……アキラちゃんがやらなくても、なんだったら、わたしが……」


アカリがこの手の暗器の類を扱ったことがあるとは思えない。 下手な扱い方をすれば自滅も引き起こしかねないこの武器を渡すのは、さすがに気が引けた。


「いや、アカリはボクのサポートに回ってほしい。 こっち(・・・)はボクに任せて」


あぁ、なんて可愛いんだろうか。 これからやろうとしていることの汚さを知ってか、その罪をわざわざボクの代わりに被ろうなんて……


「こういうのはいつだってボクの仕事だろ? ボクがこうしていられるのも、アカリのサポートあってこそなんだ」


そんな善意か好意か、はたまた偽善なのか。 自ら犠牲になろうと、そして少しでもボクの負担を減らそうと動いてくれる彼女のその清さを……


「……さぁ、行くよ。 失敗したらすぐに回収してくれ」


……本当に、好きだなって。 それが真っ当な好意か定かではないが、ボクにとっては、これは確かな好意だ。 だから、何があっても一緒にいたい。 アカリには……何も背負って欲しくない。 そんなもの、ボクが代わりに全て背負えば良いだけだから。

そうしてでも、ボクは隣に居続けられる。 それは、ボクにしかできない。


「……アキラちゃん」


背を向けて一歩踏み出したところで足を止めさせられた。


「…………やっぱり、なんでもない。 がんばって!」


黙って頷いて、再び歩を進めた。

跳躍し、時刻通りに現れたその背中を追う。


――大丈夫だ。 ボクはこう見えても……


封印していた体術で気配と音を最小限まで消し、黒い影となって忍び寄る。


――暗殺は得意分野なんだよ!


その背中を捉え、鎌を展開しつつ振りかぶり――


「――――ッ!!」


ギィィイイイイインッ―――!!


金属を引っかく音が響き、その鎌が標的にあたらなかったことを知らせてくれる。


「……やっぱり、一筋縄ではいかないか……」


姿を視認されるより早く手すりを蹴って空中へ躍り出て、間髪入れずに投げられたワイヤーを掴んで上昇。


「……次の作戦に移ろう。 準備はできるかい?」


そして屋上に降り立つや否やそう問いかけてみる。

二つ返事で動いてくれると思っていたが、


「待って、アキラちゃん。 その前に……」


その制止の声に振り向くと、耳元を音速の風が吹き抜けていった。

聞き慣れすぎた、鉛玉の音。

即座に射手の座標を特定して振り返る。


「…………え?」


そこに居たのは、仲間の誰でもなく、ましてやよく見知った人でもなかった。

頭の緑の双葉が特徴的な女生徒。 あれはカチューシャなのだろうか。

四角いハンドガンの銃口から硝煙を洩らしながら、こちらをまっすぐに見返している。

あれは……誰だろうか。 もしかしたら役員の人かもしれない。 そうなると……今の行為を訴えられでもすれば、暗に始末されるか、法廷に御呼ばれしてしまう可能性まである。


「まさか見られるなんて……。 アカリ! 今すぐ他に目撃されて無いか洗って! その間にボクは……!」


視線を戻すと、ちょうどその女生徒が背中を向けて逃亡を試みたところだった。


「くっ………!」


こんなにも早く実力行使を図らないといけなくなるとは。

どれだけ責任をアカリの代わりに受けてもいいとは言え、限度がある。

彼女一人仕留めて口封じをするぐらいなら簡単だが、人数が増えれば話は別だ。


「――≪瞬歩・風斬≫」


忘れかけていた歩法で距離を詰め、残り数メートルといったところ。

第一に情報端末を叩かなければ。 それはパルス電流の電磁波で潰すことにしよう。

次に彼女の処理をどうするか。


「――≪衝破・雷絶≫」


強電流を瞬間的に生み出して磁界を作り、相手にぶつける。 並みの人間ならこれで気絶することろだが……


「きゃっ――!?」


立て続けに破裂音が響き、少女の動きが止まる。

そのまま倒れるかと思えば、バッテリーの燃えた端末を投げてきたではないか。


「うっ!?」


さすがの不意打ちにこちらも足を止めざるを得ない。

本当に彼女は人間なのだろうか。 それとも、感電現象が起きなかった?


「あなたたちはッ!!」


銃声が二つ。 得物を抜くところが見えていたので、斜線からは簡単に外れられた。


「何を思ってあんなことをッ!?」


その隙に接近するも、ブレザーを投げつけられ、視界を奪われてしまう。

ボクの動きが見えているのか? まさか、危機感知能力でもあるのか?


「誰に許されたかは知りませんけど、私が許しません!」


――間に合えッ!!


「――≪瞬歩・水雲≫」


残像残しのバックステップ。 射角を見誤れば打ち抜かれる可能性もあったが……その賭けには勝てた。

自由になった視界に彼女を再び捉え、後ろへ飛んだエネルギーを前へ転換。

地を蹴って彼女の腹部に掌底を叩き込んだ。


「ぐッ――!?」


手ごたえあり。 さすがの彼女も吹き飛ばされて地面に転がってしまっている。

端末は潰した。 彼女が叫んで助けを呼んだ様子も無い。 これだけの騒ぎを起こしても、未だ野次馬の一人も出てきていない。

これだけの好条件下なんだ。 もうここで始末して逃げれば、何もなかったことにできるのではないか。


「――アキラちゃん!!」


トドメの技を構えた瞬間、耳元で声が聞こえ、視界が飛んだ。

同時に身体が誰かに引っ張られているのを感じる。


「アカリ!? あいつをらないと……!」


ビームの炸裂音が耳に届く。 ハッとして視線をやると、先ほどまで立っていた位置に焼け跡が残っていた。


「なんだか変だよ! 知らない間に、包囲網ができかけてる!」

「は? 包囲網!?」


さっと見回すと、棟の屋上からいくつもの銃口が視認できた。 しかも全てこちらを向いている。


「馬鹿な! いったいいつの間にこんな……!」


ビーム弾の雨をすり抜けながら物陰に逃げ込む。


「アカリ! 他のメンバーは!?」

「モンスターと交戦中! 街に出現して待機どころじゃないって!」


インカムからの音を盗み聞くと、あちらもかなり荒れているようだ。

作戦が漏れた? いや、日記帳にそんな可能性は示されていなかった。

そもそも、半分はボクの独断で決めて、実行する直前にアカリに伝えただけだったはずだ。

アカリが誰かに吐いたなら話は変わってくるが、そんなはずが無い。

そんなことをしても、なんのメリットも、なんの見返りもないはずだ。 もっとも、アカリにそんなことができるはずも無い。


「……だったら、どうして!?」


こんなミスが起きるはずはなかった。 迅速に対象を始末して、未来をクリスタルの手に委ねる算段だったのに。 どうしてここまで狂ったのか。


「――くッ!?」


突然に目の前の地面が抉れた。

土煙に視界を一瞬塞がれるも、アカリが手を引いてくれる。


「――それは私から教えてあげようかな」


凛とした声。 聞いただけで分かる。 只者ではないと。


「ヒヨ……さん……?」


アカリがそれでも足を止めずに、そう呟く。


「今の私は≪ユースティティア≫。 ケンくんに託された願いの元、正義を執行する歌姫めがみだよ」


戦場には似合わない真っ白なドレスを身に纏い、冗談みたいな宝石剣を提げている。


「天海先輩の、願い?」

「そう。 まっとうな最後の人間を守って欲しいと。 もしライトくんが気付けなければって、保険をかけてたみたいだね」


後半は何を言ってるのかわからなかったが、どうも誰かの護衛任務を託されているらしい。


「ケンくん、私に守れる力があるって気付いてたのかな? それとも、本当に勘?」


マイペースなのか緊張感が無いのか、一人で首をかしげるヒヨさん――改めユースティティア。


「……あの迎撃機、あなたが仕掛けたものなんですか?」


屋上に見えたあれは、おそらく無人機だろう。 命中精度があまりよくなかった上、あまりに数が多すぎる。


「まぁ、作動するようにしたのは確かに私だけど。 まさか本当に引っかかるとは思ってなかったよ」

「……いつの間に。 いつから気付いていたんだ?」


銃声が止んだ。 どうやらこの距離からでは当たらないと判断して動きを止めたのだろう。

目の前のユースティティアも、その剣を振り上げる素振りを見せない。


「うーん。 今朝ぐらいかな? ライトくんが危ないらしいって話を聞いて、部屋に呼んでみたんだけど……」

「誰から聞いたんだ?」

「そうだね、強いて言えば、"お友達"かな?」


ふざけているのかと思ったが、どうも違うらしい。


「裏で動いてるかもなーって。 最近見ないからさ、二人とも」


洞察力を舐めていたのか、それとも単純に過小評価し過ぎていたのか。

こんな形で邪魔が入るとは、確かに想定していなかった。


「とりあえずライトくんは保護した方が良さそうだなーって思って呼んだは良いけど、さすがに本人を前にして正気は保ってられなかったなぁ」


どうやら色々あったらしい。 遠い目をしていなさる。


「でもまぁ、元凶はこうして引っかかったわけだし、色々お話、聞かせてほしいな?」


――まずい。 このままだと、別の法廷に連れて行かれそうだ。


「……そうは行かない。 ボクたちには、まだやらなきゃいけない事があるんだ!」


懐から白い玉を二つつまみ出す。


「……アカリ。 仕方ないから作戦γだ。 皆を呼び集めてくれ!」


今ここでユースティティアに剣を振られていたら、おそらく敗北していただろう。

この先に進むことも、全てを終わらせることもできないままに。


「ユースティティア! キミは鉱山に向かうと良い! きっと君の正義がそこにあるさ!」


言い終わるや否や、その玉を地面に叩きつける。

軽い爆発音とともに白い煙が大量に噴出した。


「……アカリちゃん、アキラちゃん。 あなたの行いが正義に反するとしても、今ここであなたの命を絶つ事が正義ではありません」


予想に反して、ユースティティアは冷静だった。


「理由は必ず聞かせてもらいます。 それまで、どうかこれ以上罪を重ねないでください」


どうしてこの時追ってこなかったのか。

その答えはまだ、聞けていない。

見逃されたのかと思ったが、見逃す理由が見当たらない。

確かにボクたちは……いや、ボクはこの行動が正解だと思っていた。

彼が居なくなれば、クリスタリアの悲願は達成される。

そうすれば、誰かをこれ以上失う事のない世界が創られる。 そう信じていた。

だが、それは間違いだったのだろうか?

正義に反すると言うだけで、間違いだと言い切るのは根拠不十分かもしれない。

けど…………結局ボクたちは、間違いでもやらなくてはならない。

彼を消す事ができないのなら、せいぜい彼が悲願の邪魔をしないようにしてやれば良い。

そうしなければ……ここまで来たことも、払った犠牲も、集めた仲間も、意味をなさなくなってしまう。

それだけは絶対に避けなければならない。


「……カスミさん。 準備はできましたか?」

『まぁできたけど、本当にええんか?』


インカムから聞こえる声は、どこか震えているように感じた。


「大丈夫。 責任は全てボクが背負う。 キミはスイッチを押してくれればそれで」


嘘はなかった。

それが正しいかなんて、もう、分からないけど。


『ほな、やるからな? しっかりやってや!』


通信が切れ、そう遠く無いどこかで、何かが爆発した音がした。

後は、目的地に向かうだけだ。

振り返る事は、もう、許されない。

勇者と言う名の叛逆者として、ただ前を見つめた。



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