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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第九章 「天に奏でし運命の唄《フェイタルソング》」
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チャプター 11-9



「らぁぁあああああッ!!」


馬鹿デカイ図体の割に、その触手で機敏な攻撃を見せるポリュムニア。

≪龍王零式≫で攻撃を躱し接近して、踏まれる前に距離を取る。

そんなヒットアンドアウェイを強いられていた。


「ライトくんッ!!」


ジークさんの声が届く。

同時にポリュムニアの動きも止まる。


「クッソ……!」


体を伏せ、耳を塞いで口を大きく開ける。


「――――ッ!!!」


直後に襲ってくる衝撃。 地面が揺れ、体の芯から揺さ振られるような感じ。


「……サーチャーがあれば……」


クリスタルの仄かな光が申し訳程度に照らしているとは言え、視界は優れず、ポリュムニアの全体像をまだ把握しきれていない。


「――≪月影流抜刀術≫……」


歌で沈められていないと判断したのか、触手の追撃が再び飛んでくる中、


「……≪新月≫」


対岸に居たはずのジークさんが、残像を残してこちらへ姿を現した。


「……さすがにこれは予想外だったよ。 斬っても斬っても怯みやしない」


ジークさんが流星刀スターセイバーを振ると、迫っていた触手が千切れ飛んだ。

よく見ると、先程技を撃った場所からここまで全ての触手が斬られている。


「やっぱり、弱点は頭部のアレかな」


それだけ斬られていても、ポリュムニアが一度歌えば触手はまた生えてくる。

この触手を相手にしていても、ダメージを与えられる気がしなくなってしまう。


「……確か飛べないんだよね?」


耳が潰れている事を思い出し、何も言わずに頷く。


「こうなると、魔法の二つや三つ、欲しくなってくるね……」


羽がないだけで、ここまで機動力が下がるとは思わなかった。

今までどれだけ羽に頼って戦って来たかを思い知らされる。


「……リリはここで倒れられては困るし。 ……せめてもう一人、あとカードがもう一つあれば……」


ぼやきを聞きながら、ポリュムニアの攻撃を躱し、歌を耐えて、ポリュムニアの姿を探る。


ジークさんが言っていた、頭部のアレ。

その箇所だけが異様に白く、女性像のような形を象っている。

あれが弱点だとすると、到達するには……


「……確かに、一手足りない……」


その像を守るように、触手の数はそこに一番集中している。

歌を耐えた直後に襲撃を狙っても、触手の相手をしている間に次の歌を唄われてしまうだろう。

その上、像を象っているだけあって、よく見ると腕が生えている。 あの腕で何をされるか分かったものではない。


「………ローザ……」


けど、こんなところで苦戦している場合でもなかった。

まだ第一階層で、この先にまだモンスターがいる可能性の方が高い。

一刻も早くローザの元へ辿り着いて、ローザを救ってやらないといけないのに。 何もわからないまま、あいつに全てを託してこんなところで終わるなんて、さすがに嫌だ。


「……やってやる。 良いさ。 出し惜しみしてる場合じゃない」


ジークさんの合図で衝撃に耐え、揺れのピークを越えた瞬間に地面を蹴った。

歌うモーション時にポリュムニアの動きは鈍くなる。 その隙に……


「歌い手は間に合ってるんだッ!! さっさと舞台裏へ消えろッ!!」


触手を駆け上り、迫る触手を斬りはらい、白い像を目指す。


「急ぎ過ぎだ! 後ろから来てるぞ!!」


ジークさんは遅れて俺のサポートに入ってくれる。 反対側から同じように攻め、像の挟み撃ちを狙う。


「そこを退けぇえええええッ!!!」


森林の木を切りながら進むような錯覚を覚えながらも、像をこの目に捉える。


「――≪雷切≫!!」


腕を腰に回してビームサーベルを仕舞うと同時に、刀を生成。

全てを見定める目エリート・スキャニング・アイズ≫で狙いを定め、衝動のまま握った刀を引き抜いた。


「――――――」


迸る何か。 目の前を染めたそれは、俺の攻撃を受け切った事を示してくれる。

止まる視界と身体。 眼前で俺を射抜くのは白い像の女性。

その目はおぞましいほど白かった。


「マズイ……ッ!!」


遠くでジークさんの声が聞こえる。 視線を釘付けにされた俺はそちらを見やることもできず、ポリュムニアの真っ二つに切り裂かれた腕に二振りの刀が食い込んでいる光景しか入ってこない。


……こんな、ところで…………


ポリュムニアがその口をゆっくりと開くのが見えた。

この距離でその美声を聴かされては、堪ったものではないだろう。


「――ライトくんッ!!」


だがその瞬間、聞き慣れた美声(・・・・・・・)を耳が捉えた。


『Aaaaaaaaaaa――――!!!』


ポリュムニアのものと思われる声と同時に聞こえて来たその声は、俺のすぐ隣で聞こえているらしい。

急に飛んだ視界に追いついて振り向くと、そこにはもう一人の歌い手が居た。


「ひ、ヒヨッ!? どうしてここに!?」

「話は後! ここは私のステージなんだから、過激派のファンにはお仕置きしないと!」


俺を抱き抱えているのは、白い方のヒヨ。 すなわち、正義の方のヒヨだ。

最後に見たのが黒いヒヨだった事もあってか、その白さが際立って見える。


「歌は私の歌で相殺させるから、動きが止まった瞬間に集中攻撃を!」


俺を地面に降ろし、ヒヨは白いドレスを翻させてその剣を抜いた。

精緻な装飾の施された宝石のような剣。 今まで見た事もなかったが、あれがただの剣でないことは一目見て分かる。


「わかった。 信じて良いんだよな?」


ローザに『耳を貸すな』と言われた事を思い出して、つい聞いてしまった。

疑っているわけではないのだが……


「……うん。 今は私を……信じてほしいな。 だって今の私は……私なりの正義を、見つけたから」


『正義が分からない』と言って悲しそうな顔をしたあの時のヒヨはもう、そこには居なかった。

この短期間で何があったのか。 問い詰めたい気持ちはあったが、確かにそんな事を悠長に話している場合ではないだろう。


「……なら、信じるよ。 次の一手で決めるぞ!」


無事だったらしいジークさんに頷いて合図し、再び強襲を試みる。


「――『我が(Im Namen)正義の(meiner Ger)名の(echtigkeit)下に。 裁き手の天秤にかけし我が唄を……』」


後ろで聞こえてくる歌は、あれがヒヨだとは信じられないほど力強く、意志に満ちていた。

それは俺がずっと聴きたかった、正義のための歌だった。


「……『(Widmen )( Sie in)捧げよ(den Himmel)。 この地を照らし、英雄となれ。 さればこの命の、燃え尽きるまで』」


……そうだ。 きっと誰かがならなくちゃいけないんだ。

それは誰でも良かったのかもしれない。

望まれていないかもしれない。

それでも……


「『我が(Kein)眼前に(preclude )妨げる(in meinem)もの( vor den )なし(Augen)。 その一切を以って正義へ導くならば応えよ』」


……それでも、たった一人のために正義を揮えるなら。 英雄だってなんだってなってやる。

そうだ。 そのための歌だろう、これは!


「ライトくんッ!!」

「今度こそはッ!!」


二人で同時に像の前へ躍り出る。

待ってましたと言わんばかりにその口を開け……


「――≪月影流一刀術≫」

「――≪天風流龍剣術≫」


その声が、ステージいっぱいに響き渡った。


「『私は(Ich bin)あなた(Ihre)歌姫( Diva)だと』!」


……よし、いけるッ!!


「≪斬月≫――!!」「≪五月雨≫――!!」


ポリュムニアの唄の衝撃は魔法のように搔き消え、ノンストップでその胸を斬り裂いた。

木霊する絶叫。 もうそれは既に歌などではなく、ただただ俺たちが勝った事を示す断末魔でしかなかった。


「勝った……勝てたんだ……」


空中へ投げ出された身体を受け止めてもらう感触が。

見るとジークさんが笑っていた。


「これは最高のサプライズだったよ。 ことこの世界の運命論に関しては誰にも劣らない自信はあったけど……これはちょっと予想できなかったな」


ポリュムニアの身体を構成していた粒子が空へ舞っていく。 コアが撃ち抜かれた証拠だった。


「まさか唄を司る神を超える歌姫が来ようとは! かの聖処女もこのように歌っただろうか」


ジークさんはかなり興奮しているらしい。 歌に関して言えてるってことは、いつの間にか耳は治ったようだ。


「ライトくん! 無事!? 怪我はない!?」


頭にティアラと小さな羽、そして腰に宝石剣を提げたヒヨ。

パタパタと駆けつけて俺の手を握って、心配そうな目で見てくる。


「ああ、無事だぞ。 怪我はまぁ……言うほどじゃないさ」


触手に持っていかれた箇所はあるけれど、サウザンドの自然治癒力で治る範囲内だ。

それに、こんなところで休んでなどいられない。


「……それで、俺たちがここに居るって、どうしてわかったんだ?」


助けに入ったにしては、少々タイミングが良すぎたようにも思えなくはない。 計ったかのような完璧なヒーロー演出だった。


「え? えっと……こんなこと言っても、信じてもらえないかもしれないけど……」


バツが悪そうに笑って、


「ライトくんに、呼ばれた気がして」


嘘のない声で、そう言った。


「……俺がか? お前を?」

「うん。 私の中のユースティティアが、正義執行のためにって」


……無意識、なんだろうか。 それとも、気付いていないだけ……?


「こんな運命のいたずらもあったものだな。 まさにこの誤算はクリスタル陣営に於いてはまさに致命的フェイタルだろうね」


ジークさんの興奮は冷めない。 だんだん何を言ってるのか分からなくなってきた。


「……こんな事を聞くのは無粋かもしれないが」

「なに?」

「……ローザを、知らないか?」


少なくとも、さっきまで外に居たはずだ。 外で無くとも、この場にいなかったのは確かだ。

外部から何か情報があるなら掴みたい。 そんな気持ちで聞いたのだが。


「……ローザちゃんなら、きっとここ(・・)にいるよ」


ある意味で期待通りの答えだった。


「私も追いかけてきたつもりだったんだけど、ライトくん、放って置けなくて」


……そのお節介で助かったのだから、文句どころかお礼を言わないといけない。


「そう言えば、入り口で騒ぎになってたみたいだから、私の詠唱うたで鎮めておいたよ」

「相変わらず便利だな、魔法って」


気絶させられたのも確かこの歌のせいだったはずだ。 もうなんでもアリだな。


「ちなみに、ここに来る途中、アキラちゃんたちを見かけたんだけど……」

「アキラが?」


このタイミングでトラシャイの生き残りが出て来るのか。 最近見ないと思ったら……


「……なんだか、あまり良い感じじゃなかったよ。 あれはえっと……機動装甲、って言うんだっけ。 あれも何機か引き連れてたみたいだし」

「は? 機動装甲?」


何を企んでるんだ、アキラたちは。

まさか……ステラもそこに居るんじゃないだろうな……


「どこへ向かったまでかは分からないけど、気をつけた方がいいかも」

「……わかった。 ありがとう」


ヒヨの忠告を聞き受け、それでも現状やれることは変わらない事を確かめる。


結局やることは一つ。

ローザを迎えにいくことだけだ。


「……リリ。 モンスターの反応はあるかい?」


いつの間にか近くに来ていたリリがそっと目を閉じる。


『……向こうの方に反応があるよ。 二つ……かな?』


そんな事も分かるんだな……いや、これはこいつの標準装備だったか?


「そうか。じゃあ、奥へ進もうか、ライトくん」


ジークさんは自身のネックレスを掲げてみせた。

そこに繋がっている石は、まだ輝きを失っていない。


「予想外な事で一杯だが、まだ道のりは長そうだよ」


……良いさ。 希望がある限り、望みがある限り、意志は潰えない。

この足を止めたりはしないさ。


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