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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第九章 「天に奏でし運命の唄《フェイタルソング》」
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チャプター 11-8

前回のあらすじ

→ジークさんと鉱山攻略開始



「……今、なんて言ったの?」


腕の中のライトの反応がなくなると同時に耳が捉えた声。

龍巫女の力をもって覚醒した今のあたしは、本来聞けないはずの音域まで認識することができた。


「……『正義の最期に束の間の夢を』と。 あなたが倒れていないのはさすがと言ったところですね」


……噂通り。 双葉さんから聞いた話は本当だったみたいね……


「……でも、良いのですか? こんなところで覚醒していて。 あなたは薔薇の華なのでしょう?」

「ええ、別に良いのよ。どうせあたしは、あの日あの時にこいつをこの能力ちからで助けた時から、数ヶ月保たない命なのよ」


薔薇の華の命は短い。 咲き誇った途端に燃え尽きるのが運命さだめ

覚醒したのは無意識とは言え、そのおかげでライトが助かったのなら、むしろそれは喜ぶべきことだろう。

例えその喜びが長続きしないと分かっていても。


「あなたはそれで良いの? 燃え尽きると分かっていながら、それでもライトくんを助けるの? 何も真実を告げないまま?」

「……そうよ。 あたしは目的を果たして、消える。 きっとその時あたしの存在も消えて、ライトも……あたしのことを忘れる。 だから良いの。 一瞬だったとしても、これだけ幸せになれたんだから」


一番懸念していた事……”タイムパラドックス”。

本当はあたしが過去(この世界)に来た瞬間から未来は少なからず変わっていたはずだった。

その時点であたしの居た未来が消えて、あたしの存在も消える可能性は十分にあった。

けれど、記憶障害を起こすどころか、この世界に過去のあたしと思しき存在も見当たらなかった。

そしてあたしの存在は今もなお消える事なく、こうして最期に残したイベントに挑もうとしている。

ライトという切り札も、未来を変える特異点も、必要なカードは揃ってしまった。

今までモンスターを倒してきて、未だ未来が変わっていないのだから、この戦いに全てを賭けるしかない。


あたしの命が燃え尽きるのが先か、未来を変えて存在が消えるのが先か。

もうそんな勝負になってしまっている。

謎は多く残ってしまったけど、やるべき事は変わらない。


「……それにしたって、あんたどこまで知ってるの? あたしが薔薇龍の巫女ってことも知ってたみたいだし」

「何も知りませんよ。 あなたが薔薇龍の巫女だと知ってたのは、単に青薔薇の龍と縁があってお話を伺ったことがあったと言うだけのことです」


目の前のリリス……いや、ヒヨは仮面を外して、まっすぐな瞳であたしを見つめる。


「青薔薇の? そんな薔薇龍が居たの?」

「あら? 同じ薔薇龍なのに、面識がないの?」

「ええ。 ……ちなみに誰なの?」


ヒヨは困ったように笑って、


「それはまぁ……まだ秘密かな」


今更渋ってみせる。


「……まぁ良いわ。 それで、どうしてここまでしてライトを止めようとしたのかしら? あたしが間に合わなかったら、どうするつもりだったの?」


攻撃の意志が見えなかったので、覚醒状態を解除しておく。


「目的は……もう果たしたよ。 ライトくんに今動かれるのはまずいからね」


いつの間にかヒヨの服は白いドレスに変わり、腰に宝石をあしらった煌びやかな剣を提げている。


「もしローザが間に合わなかったら…………うーん。 その可能性はなかったんじゃないかな?」

「……やっぱり仕組んでたの? 双葉さんが急に呼び出して、”歌姫事件”のことを話し始めた時は何かと思ったわ」

「あ、それは私のことだよ。 白状しちゃうけど」

「あっさり吐くのね。 丁重に記憶まで操作して存在を明かさずにここまで来たのに」

「事件として話題になってる時点で隠し切れてないけどね。 ……最初は歌で記憶を弄って、ライトくんのために兵士でも作ってあげようと思ってたんだけど」

「……あんたはいちいちやる事が極端なのよ……」

「先生に怒られちゃってね。 作戦を変更して、教師たちが騒がないように細工をしたの」


……恐れを知らないのかしら……そんな細工がバレないわけがないじゃない……


「だから、安心して向かって良いよ。 私にできることは、それぐらいだから」

「……やっぱりあんた、何か知ってるでしょ?」


向かう場所……それは分かっている。

いつの間にか行方が分からなくなった日記帳に記された、最後の日記。


……”始まりと終わりの場所で、世界の理と非情な事実を知り、わたしの人生は終わりを告げる”……


そんなフレーズで締められた日記。 夏合宿の日には既にあたしは答えを得ていた。

そもそもの始まりとなったクリスタル鉱山。 あの鉱山を叩いて仕舞えば、モンスターが街に出て被害を及ぼすこともない。

ましてや世界が崩壊するほどの戦争も、モンスターの助力が無ければどうにでもなる。

戦争を起こそうとしたのは、モンスターを対策し切れていない海外へモンスターを流せば、戦わずして勝てる…………そんな算段があったからという話もあるぐらいだ。

その作戦が使えなくなれば、戦力的に戦争を回避しようと動いてくれるのは必至だろう。


「……私が知ってるのは、何が正義で何が悪かってことだけ。 私は正義になり切れないけど、せめて正しいって信じられることをやりたかったから」


笑顔で、それでも笑顔でそう言ってくる。

正義の女神でありながら、正義になり切れなかった少女。

この世界で何が起こっているのか、その片鱗しか知らないのだろうけど。


「……あんたのやってることは、正義なの?」


そんな何も知らないはずの少女が、ここまであたしたちに都合よく動いてくれるはずがない。

何か裏がないかと探りを入れてみるが、


「うん。 世界を救うヒーローのために動く事が、正義じゃないわけがないよ」


屈託ない笑顔で、そう言い切られてしまった。

もう……返す言葉もない。

聞くだけ無駄だろう。


「……それで、あんたはこれからどうするの? ライトはこうして眠ってるわけだけど」


腕の中で動かないライトを揺すってみて、完全に意識が飛んでることを再確認する。


「私ができることはやったから、あとはローザの手助けでもしようかな」


どういう風の吹きまわしだろうか。 先ほどまで対立していたのに、とんだ手のひら返しだ。


「……まぁ後は……ちびっ子たちにお説教でもしてあげようかな」


言うや否や、腰に提げた剣を引き抜き地面に突き刺した。

瞬間、薄い膜のようなものがその剣を中心にあたしたちの周りを覆う。


「居るのは分かってるよ! アキラちゃん!」


何かをその膜が弾くと同時に叫ぶと、ヒヨはターンして剣を引き抜き、一閃。


「うぁッ!?」


声が聞こえた方を向くと、小さな影が動いたのが見えた。

おそらくあれが、アキラなのだろう。

どうしてそこまで剣戟が届いたのか、そのギミックは分からないけれど、


「じゃあローザは準備を進めて。 私を連れて行ってくれるなら、私を呼びに来て」


可憐に笑って地面を蹴り、小さな影を追いかけるヒヨにそう言われ、考えるのをやめた。


……聞きたいことと知りたいことは尽きないけど……今はそれよりも……


「……分かったわ。 時間もあまり無いし、利用させてもらうわ」


用意されたこの状況、使わずして何になると言うのか。


「とにかく今は、ライトをどうにかしないと……」


連れて行くという選択肢はあった。

一緒に攻略して、鉱山のモンスターを滅ぼして、戦争を止める。

それができたらどれほど良いだろうか。


……けど、それだとライトを消耗させてしまう。 最後のトドメに彼の力が必要だ。 それも最大火力の。

何が待っているかまでは分からないけど、それだけは分かる。

そのためにも、彼の力をなるべく温存して攻略がしたい。

だからこそ、あたし一人でそこまでの道を切り開く。

そうすれば彼の力を最大限残して最奥まで辿り着けるはずだ。

まさかヒヨが加勢してくれるとは思っていなかったけど。


「……ただいま」


返事は当然無い。

カスミはしばらく出てるって言ってたし、彼女が居なければ、この部屋に居る人はもう居ないはずだった。


「……うぅ……」


途端に周りが静かになってしまって、不安が謎に煽られる。


「……いやだよぉ……離れたくない……ずっと一緒にいたいよ……」


ピクリとも動かないライトを抱いていたら、口から勝手に言葉が零れ出した。


「やっと幸せを見つけたのに……もう本当は未来なんてどうでも良い……一緒に、いたい……」


溢れ出す感情と涙。 一度出たそれは止まることを知らず、その視界と心を埋め尽くす。


やらなくちゃいけないのは分かっていた。

あたしにしか出来ないことだって、他の誰にも代わりはできないって。

本当の意味で世界の未来を背負っているのに、そんなものすべて投げ出して、今すぐ目の前の幸せに再び浸りたかった。


世界を救ってもあたしは消える運命で…………どうせ消えるなら幸せを噛み締めて燃え尽きてしまいたい。

それで世界が終わっても、破滅の未来を変えられなかったとしても、あたしの未来は変わった。 確かに変わったんだ。


知らなかった幸せを教えてもらった。

離れがたい甘さと愛しさを教えてもらった。

もうそれだけで……あたしの人生は……


……だったら、ライトはどうなるの?


あたしの未来は変わった。 もうこのまま死んでも仕方ないと言えば仕方ない。

けれど、ライトの未来はどうなる?

あたしに狂わされ、挙句破滅の波に呑まれて死んで……

何も分からぬまま、人生を終えるの……?


……それだけは、嫌だ。 もっと、嫌だ。


どうせあたしの未来は終わる。

ならばせめて、未来のある彼のために、彼を救うために、彼の未来のために。

そのために散れるなら、残せるものがあるはずだ。

残された彼は、きっと悲しんでくれるだろう。

けど、そんな運命も受け入れてくれるはずだ。

そう信じたい。


……だから、行かなきゃ……


汚してしまったシャツを着替えさせて、ベッドに寝かせた。

もうこれで……触れ合えるのは最後かもしれない。

もし思惑通りに事が進めば……最期にもう一度だけ会えるかもしれない。

いや……そうでなければ困る。


……信じてるからね、ライト。 あなたなら、きっと辿り着ける。


そっと口付けをして、感情が振り返さぬうちに部屋を出る。

持てるだけのクリスタルを装備し、ウィングを展開して空を駆けた。


自分のためでなく、自分よりも大切なもののために。





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