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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第九章 「天に奏でし運命の唄《フェイタルソング》」
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チャプター 11-7

前回のあらすじ

→とりあえず、鉱山を攻略するようです。




『……はい、到着!』


転移クリスタルを使ったときのような浮遊感の後、足が地面を捉える感覚が。

顔を上げたとき、空気も匂いも、さきほどまで居たところとは異なっていた。


「ありがとう、リリ。 しばらく休んでいてくれ」

『うん。 隊長、おんぶ』

「はいはい……」


いつかどこかでそうしたように、屈んで背中でその温もりを受け止めた。

リリに触れられることに少し驚いたが、クリスタルで身体を形成したと言っていたし、触れるのは不思議の無いことだと気づく。

リリは最後に触れた日から少しも大きさは変わってないようだ。 その軽さに、不安になってしまう。


「……それで、進入経路は確保してるんですか?」

「いや、抜け道があるわけじゃないからね」

「……ってことは……」

「そうさ。 最初から俺たちには、正面突破以外の道はない」


……どれほどの重火器を用いても、第一階層より奥に進めなかった鉱山だぞ……?

それはつまり、第一階層以外の情報は何も無いってことなんだぞ?

本当にローザの居るところまで、たどり着けるのか?


「……何も不安がる必要は無い。 ローザはそこに居る。 それだけで希望としては十分じゃないか」


ジークさんは、そんな俺の内心の疑問を察してか、優しくそう諭してくれる。

本当に不安なんてなさそうな感じだ。 今から死にに行くようなものなのに。


「……じゃあ、一つだけアドバイスを」


人差し指を立てて、微笑んだ。


「この世界は、意志の力でどうにかなる世界だ。 もしこうなら。 もしああだったら。 そう思ったことが実現する世界なんだ。 だから、ライトくん」


そして懐から何かを取り出すと、


「……絶対に諦めちゃダメだ。 そして、理想と希望を持ち続けるんだ。 それがきっと、キミの力になるはずだ」


それを俺の手に握らせた。 硬くて無機質な感じなのに、どこか温かい。


「……さぁ、行こうか。 この世界の未来を救うために」




*********



「……それで結局、因果点ってなんですか?」


採掘場を突っ切ることになったわけだが、今日も今日とて作業をしている人は少なからず居るので、まずはその人たちをどうにかしようということになった。


「このタイミングで聞くのかい? まぁ、気になるのはわかるけど……」


ジークさんは困ったように笑って、


「因果点というのは、この世界ができた原因………もっと言えば、この世界の存在理由を指す言葉だよ」


まるでルールでも説明するかのような口調でそう言う。


「さっき言った、意志の力によって未来が変わった場所でもあるね。 ……っと、そろそろかな」


ジークさんはおもむろに立ち上がり、指をパチンと鳴らした。


「……さて、ここで少しクイズをしようか」

「……はい?」


急に何を言いだすのだろうか。 いや、今までの発言もかなり不可解なものが多かったけども。


「皆がクリスタルを使ったあと、発散したクリスタルの粒子は、どこへ行ったのでしょうか?」


……言われてみれば疑問点ではある。 インスタントクリスタルなんて、使った瞬間に砕け散って空中に消えてしまうけど……

それがどこへ行ったかなんて、考えもしなかった。


「……正解は、ここ(・・)さ」


突き出した指をそのまま前へかざし、パッと開いた。


「≪インビジブル≫」

「なっ……!?」


パチパチ……と何かが形成される音がして、その音に聞き覚えがあることを思い出す。


「クリスタルもないのに、どうして……」

「……これがその答えさ。 あの粒子は空を舞って天へ還るわけではない。 ただ単に、目に見えないサイズで空中を漂っているのさ」


……それにしたって、空中に漂うクリスタルの粒子から、インスタントクリスタル級の効力を発揮させるなんて……


「……とは言え、この粒子を利用できるのは俺みたいな壊れキャラだけだけど」


……それを自分で言うのか、ジークさん……


「さ、行こうか。 インビジブルが消える前に、一階層の奥まで駆け抜けるぞ!」


一応背中にいるリリに気を遣いながら、作業用ロボットや作業員たちの間を縫って行き、巨大なバリケードの前に到達する。


「よし、上手くいったみたいだ。 さて、こうなると次の問題は……」


目の前にそびえ立つ、城壁のような壁。

これは本当の意味での最前線であり、人類が到達できた限界点でもある。


「……この壁をどうやって突破するか、だね」


さっと目をやれば、何人かの兵士が配備されているのが見える。

それもただの兵士ではない。 それは一目見ただけで分かる……分かってしまう。

……同類(・・)だと。


「あの辺の防衛隊長グラディエーターに見つかるのは避けたい。 けど、この壁の向こうへ行くには、彼らの前を通って行かないといけない」

「……インビジブルは?」

「あれは姿が見えなくなるだけで、気配を消せるわけじゃない。 さすがに彼らには気づかれるだろうね」


……通用口は2箇所。 しかも両方とも見張りが待機中という万全体制だ。

壁を登ることは、ウィングがない今はできない。

タイミングよくモンスターが現れてくれたらいいんだが……さすがにそう頻繁に出てくるわけではない。

……と、なると。


「……俺は言ったよね? 俺たちには、正面突破(・・・・)以外の選択肢は無いって」


……まぁ、そうなるよな。


「……行きましょう。 リリを護りながらですから、どこまでやれるかは分かりませんが」

「やってもらわなくちゃ、俺としては困るんだけどね。 この先は、もっと厄介な相手もいる事だろうし」

「……分かりました。 やります」

「よし、その意気だ」


パチパチ……と再び音がして、インビジブルが解除されていくのを確認する。


「……リリ。 しっかり掴まっていてくれ。 首を絞めない程度にな」


返答はなく、代わりにその腕に力が込められた。


「……行くぞッ!」


ジークさんの合図で飛び出し、兵士の前へ躍り出た。

突然の襲撃に対応できるわけもなく、


「喰らえッ!!」


俺の一閃は胴を斬り裂き、後退させることに成功する。


「悪いけど、先に進ませてもらうよ!」


何かが吹き飛ばされる音に視線を遣ると、閉じられていた扉が壊されていた。


「貴様ら、何者だッ!」


増援がもう来たらしい。 こっちとしては緊急事態なのだし、話せば入れてもらえたのではないだろうか。


「名乗らないのなら、犯罪者とみなして拘束させてもらう! 今すぐその少女と武器を地面に置け!」


……残念ながら、話にもならなかった。


「――≪龍王十式≫」


なるべく激しく動かないようにしながらも、増援部隊を片っ端から斬り伏せていく。

今日はビームサーベルの調子が良い。 明らかに硬そうな鎧を切断できるほど粒子が回っている。


「やり過ぎだ! 騒ぎが大きくなる前に早く中へ!」


ジークさんの声が鋭く刺さる。 確かにこの騒動が外に漏れては立ち回りづらい。

仕方なくなかなか倒れてくれない兵士達を足蹴にしてその場を後にする。


「……リリ、大丈夫か?」

『うん。 大丈夫だよ。 まだ走ったりはできないけど……』


超能力が使えるぐらいには回復したらしい。 それでもなるべく揺れないように走る。

人を背負いながら闘ったり走ったりするのは実は初めてかもしれないが、意外となんとかなるものなんだな。


「……これはさっさと済ませないと、次に外へ出たときは帰る場所がなくなってるかもだぞ……」


なにやら不穏な呟きが聞こえてきたが、あえて聞かない振りをした。

終わった後のことは、終わった後に考える。 うん、なんだか育成場時代を思い出すなぁ。


「それはそうと、ライトくん」

「はい?」

「こんな最前線を正面突破すると言った手前、あまりこういうことを言うのはあれかもしれないけど」


そんな言い訳みたいなことを告げると、


「……あの計画的な妨害策を見るに、この奥にいるのは今までとは比べ物にならないモンスターばかりのはずだ。 しかも、全て俺たちの行く手を阻むために配備された一群クラスの敵だ」


まるで見てきたかのようにそう言ってくれる。


「……いや、兵士達は普通に仕事してただけでは――」

「――だからこそ、もう死なない程度にがんばってとは言わない。 死なないように、全力で頼む」


表情を盗み見たが、いつになく真剣な表情かおだった。


「……無論です。 ここを突破しないと、ローザには会えないんでしょう? もちろん、出し惜しみはしませんよ」


……そのときにはリリに降りてもらわないとさすがにあれだけど。


「ありがとう。 正直、君がここまで盲目的に付いて来てくれた事には感謝してるんだ」


……盲目的? 盲目的と言ったのか?


「当事者以外にとっては、何の関わりのないことなんだ。 今回の鉱山攻略は」


……それは……そうだろう。 採掘場で働いていたあの人たちも、未来を賭けた闘いの最中だって関係なく義務を果たしている。

学校では今頃、また俺が急に居なくなって熊谷先生が頭を抱えてることだろうし、他の生徒たちにとっては知られもしないことだろう。


「それでも、この鉱山で、この世界の命運が分かれてしまうんだ。 それはもう、鮮明に」

「……どう、分かれるんですか?」

「有体に言えば……革新と破滅、だ」


……存続、という選択肢はないらしい。

このまま俺たちだけが苦労をして、何事もなかったかのように日常に戻ることは、できないのかもしれない。


「もしここで未来が変わらなければ、ここでこの世界の歴史は終了する」

「…………なんだって?」

「世界は滅びると言ったんだ。 人類は遍くモンスターにより虐殺され、クリスタルが支配する世界が完成する」

「どうして、そんな……」


言いかけて、夏休みに訪れたあの島で聞いた話を思い出す。

クリスタリアと呼ばれるクリスタルモンスターたちが、人類を粛清するつもりらしいという話だ。

そして、それを止めるように言われたこと。 クリストロンは不干渉を貫くこと。

あとは……クリスタルが、人類に望まれて(・・・・・・・)生まれたということ。


「……そんな、矛盾したことをしようとするんだ? 望まれて生まれたんじゃなかったのか?」

「――ッ! どこでその話を……」

「クリストロンを名乗るフクロウに聞いたんだ。 世界を救うように頼まれた」

「……なるほど。 それはかなり……いや、ほとんど答えだ」

「え……?」


だが、その真意を聞く前に、突然の咆哮に会話が中断されてしまった。


『――――――!!!』


前方を見やると、トーラス……いや、どちらかと言えばカノープスか。 それぐらいの規格サイズのモンスターが見えた。

頭部には女神と思わしき半裸の像が見え、そこから錆びた鉄のような触手がいくつも生えている。


「ま、マズイ。 よりにもよってあいつが一番初めに配置されてるのかッ!!」


ジークさんは何やら呻くと、


「それ以上近付くな! あいつの歌は……ッ!!」

「のぁッ!?」


俺とリリを覆い被さるように押し倒し、俺の耳をふさいだ。


『Aaaaaaaaaa――!!!!』


ジークさんの手のひら越しでも分かるほど、辺りの空気が震えた。


「……ちぃ……やっぱり反則だ。 リリスのような歌姫の真似事なら未だしも、ポリュムニアって……」

「ジークさん! あいつはなんですか!?」


叫んだが、ジークさんは耳を解放してくれない。


『うぅ……重い……』


リリは下敷きになってしまってるらしい。 早く退かないと本当に潰れそうだ。


「ジークさん!!」

「あ、すまない。 鼓膜をやられてね。 脳へのダメージがデカかったみたいだ。 まだクラクラするよ」


フラフラと立ち上がり、俺とリリが解放される。

見れば、ジークさんは頭部の血管から血を流していた。 脳へのダメージってのは本当らしい。


「ポリュムニアってのは?」

「女神の名前さ。 趣味の悪い事に、モンスター……クリスタリアは神を模してクリスタルモンスターを創りたがるらしい。 しかも、しっかりその特性を持ってると来た」


……今の発言から推測すると、目の前にそびえ立つモンスターは≪ポリュムニア≫という歌の女神らしい。

しかも攻撃方法は、歌。


「リリ。 ≪サイレント≫は使えるか?」

『それを使っちゃったら、また動けなくなっちゃうよ!』

「くっ……仕方ない。 ライトくん。 合図をしたら伏せて耳をふさぐんだ。 これは予想だが、あいつは歌を連発できない。 短期決戦狙いで行くぞッ!!」


ジークさんは叫びつつ、その手に流星刀スターセイバーを形成する。


「……歌、か……」


リリを下がらせ、ビームサーベルを抜く。


ゆっくりと、しかし確実に近づいて来ているポリュムニアを見据え、ふと頭をぎったイメージ。


「……どうして、歌うんだ。 俺には賛美歌も鎮魂歌も、必要ない」


最後に聞いた歌は……ヒヨのあれが歌だと言うのなら、それなのだろう。


「……俺に必要な歌は、正義を謳う歌だけだ」


呟き、ジークさんに続いて、その地を蹴った。



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