チャプター 11-6
前回のあらすじ
→突然のブラックアウト。 急激展開に置いてけぼり
6
目が覚めたとき、あまりに寒くて。
いつの間にかあたりまえだと思ってしまっていた温もりが消えていて。
それでもどこかで………いや、それはただの強がりだ。
こんな喪失感に、焦燥感を抱かないわけが無い。
そうだ。 あいつが何も言わずに、あいつから離れていくなんて、ありえない。
だからこそ、俺は立ち上がって彼女を探そうとした。
二度と失うものかと。 二度と離すものかと。
それほどまでに強く思っていたんだ。 こんなところで諦めるわけにはいかない。
……けど、そんな勢いも、その少女を見た途端に消えうせてしまった。
『………また会えたね。 隊長』
どこからどう入って来ただとか。 どうしてここにいるんだとか。
頭に浮かんだ疑問は把握しきれないほどだったが、俺の口はそんな思考もすっ飛ばして動いていた。
「……ローザをどこにやった。 ローザは、どこだ」
触れられないと分かっていながらも、掴みかかろうとしてしまう。
自分で思っているよりも、気が動転しているらしい。
『結論を急ぎすぎだよ。 そんなの、隊長らしくない』
そんな俺の目の前で、あの日のままなにも変わらずに微笑むリリは、
『それに、どうしてリリにそんなことを聞くの? 隊長には、リリがいるのに』
拗ねたような口調で尋ねてくる。
「……確かにお前も大切だ。 守るべき存在だ。 けどな…………俺には他に、守るべきものができたんだよ。 掛け替えの無い、大切なものだ」
『……約束。 守ってくれたんだね』
「ああ、そうだ。 守るべき存在を見つけた。 お前が居なくても、生きていけるように」
『なら、もう大丈夫だよ。 リリは、こうしてここにいる』
言われてみれば、そうだ。 リリは目の前に居る。 守るべき存在が、手の届くところに居る。
『リリを、あの時みたいにまた、守ってよ』
それでも俺は……
「…………ごめん、リリ。 今の俺じゃ、お前を守ることはできない」
……俺はもう、愛することを知ってしまった。 その温もりを、その優しさを、その歓びを。
ただ気持ちを分かち合うだけだった俺に、彼女は本当の愛を教えてくれた。
もう彼女は俺の人生の一部を担っていると言っても過言ではなかった。 それほどまでに、彼女が愛おしくてたまらない。
「お前を守れるほど、俺は強くないんだ。 あいつが居なきゃ、俺は強い俺でいられないんだよ」
生きる意味を与えてくれた。 守ろうとしては壊してきた俺に、それでも生きていて欲しいと。
守りたいという意志と、戦って倒さないといけないという意志の、ある意味の自己矛盾で破綻していた俺を、それでも正しいと。
「だから…………俺はもう、お前に好きだと言ってやれない。 お前を守ってやれない。 ……あいつが居なきゃ、俺は生きていく意味がわからないんだよ」
……リリが好きだと言ったのは噓ではなかった。 ずっとそばで守ってやりたいとも思っていた。
それほどまでにリリは脆くて、繊細で、儚い存在だと思っていた。
けれど俺には、本当の意味で守ってやらなきゃいけないやつがいる。
あいつはちょっと強情で、前向きで、怒りっぽくて、少し盲目的なところはあるけれど。
ああ見えて泣き虫で傷つきやすいってことを、俺は知っている。
一人で何もできないわけではないけれど、本当に俺を必要としてくれた。
だからこそ、俺はその思いに応えたいと思った。 だから俺は……あいつが好きになったんだ。
『…………わかった。 ありがとう、本当のことを話してくれて』
あいかわらず会話は超能力でしかできないみたいだけど、
『じゃあリリも、本当のことを話すね』
いつの間にかリリも、少し大人になっていたようだ。 しばらく見ないうちに、随分と強くなったように思える。
『リリはね……女神なの』
……本当なら、それなりの反応を示してあげるべきなのかもしれないが、不思議と違和感はなかった。
人智を超越した力……超能力が使えるというのも、女神なら仕方ないとまで思えてしまう。
『この時間軸に舞い降りたときに、たくさんの記憶を落としちゃったんだけど……。 拾ってくれたのが、隊長でよかった』
確かに思い返してみれば、リリはその身一つで森の中で倒れていた。 あそこでなんの荷物も持たずにいたのは、不自然だったのかもしれない。
……モンスターに襲われそうなところを救出したのちに、そのまま育成場に保護させたんだけど。 今考えてみれば、こうなることも女神の導きがあったからこそなのかもしれない。
それが運命のいたずらだというのなら、それはそれで……出会えてよかったと、そう言えるはずだ。
そのおかげで俺は、こうして今まで生き延びているのだから。
『だからリリは……隊長が好きだし、力になれるんだよ。 だからね、ちゃんと隊長の大切な人、探すの手伝ってあげる!』
どこか寂し気な瞳で、それでも笑顔でそう言ってくれる。
『……だから、リリのこと、好きじゃなくても良いよ。 でも、嫌いって言わないで。 隊長に嫌われなかったら、リリ、頑張れるから』
……どこまでも無垢で純粋で。 こんな娘に外の世界を見せてしまったら、どれほど黒く染まってしまうのかと怖くなってしまう。
けど……こう見えて女神を自称しているんだ。 きっとこの世の暗いところも、それなりに見てきたのだろう。
だったらなぜ、リリはここまで白くいられるのだろうか。
超能力を使えるからと言うだけであれだけ酷い扱いを受けておきながらもなお、ここまで白くいれるのは、どうしてなのだろうか。
「……わかってる。 安心しろ、俺はお前が嫌いになったわけじゃないから」
『ほ、本当に?』
「ああ。 頼りにしてるぞ」
『うん!』
……もしかしたら、ただ強がっているだけなのかもしれない。 黒に染まらぬ、それだけの強さを持っているのかもしれない。
もしそうなら……その強さを保っていて欲しい。 折れない強さを、持ち続けてほしい。
「……それで、心当たりはあるのか? そもそも、俺が気を失っている間に、何があったんだ?」
落ち着いたところで、直近の問題を解決しにかかることに。
実際、どれほどの間意識を失っていたのかわからないことには、話にならない。
『呪歌……音波による脳波干渉で眠らされただけだから、そう何日も寝ていたわけじゃないはず』
「歌なんて謡ってたか……? いや、それは後回しだ……」
『心当たりは……あるよ。 彼女が向かった場所に、思い当たるところがある』
「それは、どこだ?」
『全ての元凶。 全ての始まりの場所…………隊長の言う、クリスタル鉱山だよ』
クリスタル鉱山……それはクリスタルを齎した原因であり、未だ多くの謎が残された魔境とも言うべき場所。
クリスタルを掘る採掘場も、命がけで今日まで繋いできていると聞く。 それほどまでの難易度を持った場所であるが故、未だに内部構造が判明していない。
そも、攻略するだけのメリットを見いだせなかったのだろう。 クリスタルを手に入れたいというだけで、それ以上のことは望んでいなかったはずなのだから。
「そこに……ローザはいるのか? なんのために?」
「――それは俺から説明させてもらおう」
突然聞こえたその声に振り向くと……
「じ、ジークさん!?」
「や。 久しぶりだね」
もう会うことはないと思っていた人物がそこにいた。
「……ど、どうしてここに……?」
「いやぁ、ようやく因果点の回収が終わってね。 今こうして最後の仕上げに来ているわけさ」
「は、はぁ……」
因果点……ってなんだ?
そもそも、ジークさんは天界に行っていたはずじゃ……
「……混乱してるとこ悪いけど、時間があまりないんだ。 移動しながら話そう」
「は、はい」
『リリも行っていいよね?』
「もちろん。 キミの力も必要だ」
……今更だけど、扉の鍵、全然仕事しないな。 まぁ、盗られて困るものないから良いけどさ……
「まずは安心してほしい、ローザは生きている。 間違いなく、この時間軸に存在しているよ」
「――っ。 それは…………情報ソースは?」
「俺のネックレスさ。 これがある限り、彼女はどこかで存在していることの証明になる。 あとはまぁ……そうとしか考えられない、っていう判断からもあるんだけど」
「結局ローザはどこで何をしてるんですか?」
寮を出て、曇天の街の中を駆ける。
そこに人の気配はなく、まるで時が止まったかのようで生気を感じない。
「……そこのお嬢さんが言った通り、クリスタル鉱山だよ。 そこで彼女は、未来をかけた最後の戦いに挑んでいる……はずだ」
「……最後の、戦い……」
「聞いたところによると、キミは夢の誘い手に意識を刈り取られたそうじゃないか」
「は、はい。 いつの間にか意識がなくなっていて、目覚めたら目の前にリリが居て……」
「それは計画犯罪に近い。 おそらくだけど、キミを無理やり起こしてまで連れて行かなかったのには理由があるはずだ。 そこに今回のカギがあると言ってもいいかもしれない」
「理由は、分からないんですか?」
ジークさんは肩越しにこちらを伺い、微笑んだ。
「……それはキミが直接聞きに行くといい。 とても俺の口から説明できることじゃないからね」
「は、はぁ……」
納得いく返答はもらえなかったが……ジークさんがそう言うのなら、信じるしかない。
今信じれるものは、それぐらいしか無いのだから。
「……ところでキミ。 フォトンウィングはどこにやったんだい? いつまで経っても飛ぼうとしないから、もしかして、と思ったんだけど」
「あ…………」
……そういえば、ステラに貸しっぱなしだったな……しかも、サーチャーも。
部屋に居る気配はなかったから、まだ帰ってきてないってことになるけど……
「……目的はこっちで果たしちまったし、呼び戻すにもあいつの連絡先は……」
『…………?』
「いや、こっちの話だ」
……てか、リリっていままでなにやってたんだ? 聞きそびれてたけど、一応聞いておいたほうが良いよな……?
「……あの、リリ」
『なに?』
「七夕祭のときから今まで、お前は何をしてたんだ?」
『え……?』
あ、凍りついたぞ……
「……なんだ、言えないくらい悪いことでもしてたのか?」
『う、ううん! リリ、良い子だから、悪いことはしないもん!』
「なら、ちゃんと話せるよな?」
『うぅ……。 ……あ、あのね』
視線を外して、もじもじと恥ずかしそうにリリが告げる。
『……実は、また拾われてました』
「……は?」
『封印が解かれて、要石だったクリスタルを使ってこの身体を構成したんだけど……そのときにジークフリートに連れ去られちゃって……』
「な、なに……」
『あ、あ、でも! ちゃんと優しくしてくれたよ? 嫌なことはされなかったし、隊長が居る場所も教えてくれたし!』
「教えてもらった? ジークフリートにか?」
『ううん。 ジークフリートは霊体の再構築中でお話できなかったから、代わりにシンってお兄ちゃんに……』
「え? 今、なんて……?」
『ジークフリートは霊体の再構築中で――』
「いやそれもだが! そのあと!」
『シンってお兄ちゃんが――』
「それだよ! シンって言ったのか? シンってあのシンだよな!?」
『ど、どうしたの、隊長!? シンお兄ちゃんがどうかしたの?』
……神谷シン……結局お前なのか、この期におよんでも……
「あいつはどんなやつだった? おかしなことを言ってたりしてなかったか?」
『おかしなこと? ……ヒメノお姉ちゃんほどおかしいことは何も……』
どうしてそんな世界一おかしいやつと比べるんだよ!?
『……あ、でも、隊長によろしく言って欲しいって言ってたよ!』
「あいつが? ……一応聞いておきたいんだが、そいつは白い髪で赤い目をしていたか?」
『うん。 千里眼なんだって自慢してたよ』
「……フード付きコートを纏っていなかったか?」
『うん。 顔を見られたら怖がられるからいつも隠してるって嘆いてたよ』
……ますますあいつのキャラが分からなくなってきたぞ……
「……結局ウィングはないんだね?」
「あ、すみません。 今は手元になくて……」
「……そのクリスタルが、帰ってくるといいけどね……」
「え……?」
ジークさんは足をとめ、不敵に笑ってリリの方を向いた。
「リリ。 キミには確か、空間転移能力があったよね? 今は使えるかい?」
『……たぶん、一回だけなら。 使った後はしばらく何もできなくなると思うけど……』
「それなら大丈夫だ。 安心して使って欲しい。 そこの王子様が抱いてくれるよ」
『え? 本当?』
謎の期待の眼差しが向けられている気がする。
普通におんぶすればいいんだろ? なに、満足できない? そう言われては仕方ない……
「……何か一人で思考が先走ってるようだけど、キミのめんどうは見てくれるさ。 それで、どこまで飛べる?」
『クリスタル鉱山に行くんでしょ? 入り口近くまでなら二人を連れて行けるよ』
「ありがとう。 キミはやっぱりやさしい女神様だね」
……今更ながら、ジークさんはどこまで事情を知ってるんだろうか。 リリが女神ってことも知ってたみたいだし、その能力も。
因果点の回収とやらが、関係してるのか……?
「……気になることは尽きないだろうけど、今は俺を信じてついて来てほしい。 この世界の未来をかけた、戦いのために」
……未来をかけた、戦い。
それはローザと行動を共にすると決めた一番はじめの理由であり、今までの戦い全てを指すと言っても過言ではない。
けど、この戦いはおそらく、本当の意味で未来を変え得るものなのだろう。
その役割が俺なのは……きっと仕方の無いことなのだろう。 これが運命だと言うのなら、俺は受け入れるしかない。
この運命のおかげで、俺は掛け替えの無い存在――彼女と出会うことができたのだから。
「もちろんです。 もとより俺は、未来を救うために闘っていたんですから」
……待っていてくれ、ローザ。 お前はもう一人で背負わなくて良い。 暗い道を一人で歩かなくても良い。
なんて言ったって俺は、未来を照らす光なんだからな!




