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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第九章 「天に奏でし運命の唄《フェイタルソング》」
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チャプター 11-5

前回のあらすじ

→ジークフリートと育成場。 アキラの決意



「ねえライトくん。 ちょっといいかな」


ステラを送り出してから数日。 『調査中やで!』という返信をもらってから音信不通なのでそろそろ様子を見に行こうかという頃の放課後。


「どうしたんだよ? わざわざあらたまって」


伝言係(というか学級委員)の双葉さんがローザを連れてどこかへ行ってしまって暇を持て余していたところに、最近様子のおかしい(ように見える)ヒヨが訪ねてきた。


「うん。 あのね……今日はどうしても、ライトくんにお話しないといけないことがあって……」


放課後ということもあって教室に人気はないが、それでも他人の視線が気になってしまう。 それほどヘイトを貯めてたのか……と思ってしまうほどだ。


「お話? 教室ここじゃ言えない事なのか?」

「う、うん。 できるなら………私の部屋で、とか……」


……どっかから銃口が向いている気がする。 ここで撃たれたらさすがに対処できないぞ……


「も、もちろん、ライトくんが良いなら、だけど……」


ヒヨはチャームポイントであるカチューシャが見えるほど俯き気味にそう呟く。

……てか、早くここから出ないとマジで撃たれかねん。 せめてもう少し広い場所に……


「ああ。 話だけだろ? だったら良いぞ。 場所はお前の部屋でいいのか?」

「え? う、うん。 ……でも、いいの? ローザちゃんに何も言わなくて……」


……やっぱりバレてるのか……? いやまぁ、隠す気はなかったけどさ……


「……いいから。 あいつはこれぐらいでどうにかなるやつじゃねぇよ」


場所を変えないといけないという危機感だけが俺を不安にさせていた。 撃たれるぐらいなら、さっさと話を済ませて移動した方が賢明だし。


「……それなら良かった。 じゃあ、私の部屋で。 準備があるから、30分後にお願い」


準備って何だ……と聞くより早く、ヒヨはそそくさと教室を出て行ってしまう。

そのヒヨが視界から消えた瞬間に銃声が聞こえてきて、俺の頬を何かが掠めて行った。


「……もしかして、ケンカのバーゲンセール中か? 良いぜ、全部買ってやる」


ちょうど30分ほど暇なんだ……久しぶりに、絞めてやる……!




*********




「……これだけ身体動かしたの、実は久しぶりだったな……」


シャツに防弾機能は期待できなかったので、しかたなく≪全てを見定める目エリートスキャニングアイズ≫を使って銃弾の軌道を読んで避けるしかなかったのだが……


「くっそ……あいつら、本気で殴ってきやがって……」


対人戦……というかマジのケンカもしばらくぶりだったせいか、かなり体力を使ってしまった。

さすがは軍事学校の生徒、と言うだけある。 ……いや、俺もそうだけど。


「……さっさと話だけ聞いて、さっさと帰ろう。 うん……」


本音を言うと、ヒヨの話と聞くとあまり良いイメージがない。

最後に呼ばれた時はたしか、ヒヨの部屋にゲーム用のパソコンを設置しに来たときだっただろうか。

わざわざ俺に部屋まで運ばせる理由は図りかねたが、力仕事と言えば力仕事なので、断るに断れなかった思い出がある。

その後ヒヨのルームメイトから「この甲斐性なし」と言われたのには頭を抱えるしかなかったけども。


「おーい、ヒヨー」


――ピンポーン……


インターホンの音が鳴る。 音は変えられるらしいが、俺の部屋と同じ音だった。


「……あれ? いつもなら扉が俺目掛けて開かれるはずなんだが……」


寮の通路が狭いにもかかわらず、扉が外開きなのはどうなのかと文句を言おうと常々思っていたが、結局今の今まで言えていない。 言った所で変わらないってのは目に見えてるし。


「まだ準備とやらで忙しいのか……?」


時間的には少し遅れているぐらいなのだが……


「……ひとまず、連絡だけでも――」


ポケットから端末を取り出して電源ボタンを押そうとして――その黒い画面に反射して映った影に気づいて反射的に動いていた。


「――――ッ!?」


――ギィィィイイイイッッ!!


轟速で振られた何かをしゃがんでかわし、振り返りざまに抜いたビームサーベルをそれ(・・)目掛けて振った。


「あ……あれ……?」


だがその一閃は空を斬り、そこには鉄柱の切り傷だけがあった。

慌てて柵から乗り出して屋上の方へ目をやったが、影一つ見つけられなかった。


「……あ、ライトくん! ごめんね、待たせちゃったかな?」


仕方なくビームサーベルを仕舞ったタイミングで、まるで計っていたかのようにヒヨが顔を出す。

……いや、考えすぎだな。 ヒヨになにかできるわけでもないし……


「いや、さっき来たところだよ。 ……それで、準備とやらはもういいのか?」

「うん。 ささ、どうぞどうぞ」

「わ、わかったから! 引っ張らなくてもッ!?」


抵抗する間もなく、部屋の中へ引っ張り込まれてしまった。

靴を脱ぐときに見えてしまったが、今この部屋にヒヨの相方は不在だ。

……急に不安になってきた。


「えへへ……こうして二人きりになるのも、久しぶりだね」

「え? あ、ああ。 そういえばそうだな」


連れ込まれた先はリビング。 準備と言っていたわりにはキッチンでどうこうした様子も見受けられない。


「去年はよく集まって一緒に遊んだよね。 もちろん、討伐に行ったり、依頼をこなしたりしてたけど」

「そんなこともあったな」


言われてみれば、もうあれから一年以上経つことになる。 再会してから色々あったが……


「……でも、最近はできてないよね。 大型モンスターが立て続けに出てたのもあるけど……」


……やはり思い返してしまうのは、ローザと出会ったあの日。 思えばあの日から見ている景色が変わった気がする。 それは単純に恋とか愛とかだけでなく、もっとこう……


「…………わたしね。 ライトくんにずっと隠してたことがあったの」

「え……?」


急に話題を変えたヒヨ。 思わずその表情を伺ってしまう。

微笑を浮かべ、優しく、けれどもどこか悲しげな眼差しを向けていた。


「このカチューシャ。 お姉ちゃんの形見って言ってたよね?」

「……ああ」


……あれは小学生の時だったか。 ある日突然大人っぽくなったヒヨに、明らかな変化が見受けられた。 ……それがそのカチューシャなのだが、確かにそんな説明を受けた気もしなくもない。


「……実は、このカチューシャね……」


ヒヨは言いながら、頭のそれに手をかけた。

徐々に視界がぼやけ始めているように見えるのは、きっと気のせいだと思いたい。


「…………私の、スイッチなんだ」


気付いた時には、俺の知っているヒヨは居なかった。


「……お前は…………」


服装は制服からドレスへ変わり、頭のカチューシャはティアラへ。

花びらでも舞って来そうなほど、可憐で、精緻で、まっすぐな……瞳。


「……正義の女神≪ユースティティア≫。 それが私の本当の名前。 ……本当は、人間なんて、やめてたんだ」


……正義の女神。 正義を司る女神。

そればかりが頭を埋め尽くして、どうにも目の前で起こった現象を理解しようとしてくれない。


「……そして私は、この姿でいることすら、やめてしまったんだ」


目が捉えたのは、ティアラの脇から姿を現した小さな羽。

自然と思い出されたのは、小悪魔といった類のもの。

とても正義とは相容れないものだった。


「ずっと……ずっと伝えたかった。 "正義の味方はここに居る"って」

「………………」


その手に握っていたのはカチューシャだったはずだが、いつの間にか白い仮面に変わっていた。

それをスッと被ると、


「……でも、もう、正義なんて、分からないよ」


今にも泣きだしそうな声で、そう呟いた。


「なんで……なんで分からないんだよ。 お前は、正義の女神じゃなかったのかよ……?」

「…………だって、だって……」


この先に何を紡ごうとしていたのか。

その答えを得る前に、俺の聴覚は別の音で塞がれた。


――ドンッッッ!!!


「――ライトッ!! そいつから離れてッ!!」


鋭いその声に振り向くと、すぐさまおぞましい程の殺気を感じた。


「≪ブラスト≫!!」


リビングの扉が吹き飛び、ヒヨが居たはずの場所に転がる。


「ローザッ!? どうしてここに!?」

「話は後よ!! 良いからこっちに来なさいッ!!」

「……私の魔法から逃れたの? それとも、誰かに解除ディスペルしてもらったの?」

「ライト! そいつに耳を貸さないで!」


突然の出来事に、頭も体もついてこない。 あまりにも現実離れした世界を目にして、状況を飲み込めない。


「……ほら。 私の旋律に身を委ねて……」


そして耳元で声が聞こえ――


「――≪ブレイズ≫!!」


体が吹き飛ばされたように感じた。


「……姿を現しましたね、血薔薇龍の巫女(スカーレッド)。 あなたに動かれるわけにはいかないの」

「黙りなさい、この淫魔擬き(リリス)ッ!! あんたはさっさと冥界にでも下ってなさいよ!!」

「それはできません。 私も、人類を守るために居るのだから」

「何が人類を守るよッ! あんた達がやろうとしてること、知ってるんだから!」


あの日……ジークフリートに敗れた日にも現れた、赤いドレスの少女……。

≪スカーレッド≫と言うらしいが……どうにもスペックが通常のローザよりも上がっているように感じる。 窓ガラスを蹴り破って離脱しようとしているのを、彼女の腕の中から見ててそう思うのだから確かなのだろう。


生き残った人類に(・・・・・・・・)クリスタルを埋め(・・・・・・・・)()って……それのどこが守れてるのよッ!?」


……なに……!?


「……それは違う。 クリスタルへの耐性を付けて、クリスタルに対抗するために……」

「嘘よッ! 聞いたわよ。 あんた、双葉さんを使って、生徒全員を検査にかけたそうじゃない」


……まさか、あの音声ファイルでの……


「軽い手術と言って、クリスタルを――」

「――それは違う!」

「…………ッ!?」

「本当に私たちは……力を貸そうと……」

「……だったら、どうしてわざわざその魔法・・を使うのよ!?」


ヒヨは不意に足を止め、追いかけるのをやめた。

……気にしないようにしていたが、いつの間にか何かの建物の屋上に居たらしい。 ずっとローザに抱かれたままなのはあれだが……


「……それが……それしか、私には、できないから……」


それはもう、独り言のようで。


「……だから、私は今日も歌うの」


不思議と一つの旋律のようで。


「……少なくとも私にとっては……これが正義に繋がるから」


……そこで俺の意識が落ちた。

そのことに気付いたのは、次に目を覚ました時――


――何もかもが、遅すぎた時だった――





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