チャプター 11-4
前回のあらすじ
→ヒヨの過去。 アルテミストとの対話
4
――言わずと知れた古の英雄、ジークフリート。
彼が前世で行っていた事と言えば、もっとも有名なのが『龍殺し』だろう。
現世にどうやって顕現したかまでは不明だが、彼がジークフリートである所以と言っていい『龍殺し』は確実に今も行われている。
しかも、龍の形容をした龍ではなく、龍と契約した龍あらざる者を対象とした……『龍殺し』。
その目的は不明。 ただ、強い"感情"や"意志"が集まる場所に出現する傾向があるらしい。
人の"感情"を自身のエネルギーに変える能力を持ち、その能力故、"激情の悪魔"と呼ばれることもある。
……まぁ、基本データはこれぐらいにして、本題に入ろうか。
ジークフリートが姿を見せたのは2年ほど前。 かくかくしかじかあってオレ様たちが住んでいた――と言うより、軟禁されていた――育成場を襲撃された時だ。
……襲撃される前に何をしていたのかって? そこは本題から逸れるから、またの機会にしてくれ。
簡単に言えば、オレ様みたいな化け物を作っていたのさ。
……話を戻すけど、オレ様意外にも"龍"と契約した戦士はいくらか居たんだ。 そいつらがジークフリートに襲われた。 ある日突然、何の脈絡もなく、だ。
まさか育成場の防壁を突破してまで襲いに来るとは、誰も思ってなかったさ。 オレ様だって、熱烈なファンが居たものだなぁ、なんて思っちまったよ。
けど、事情が違った。 ジークフリートのステータスは、そこらのモンスターとは比較にならないくらいだったんだ。
この辺の話はアカリやアキラに聞いてくれた方が早いかもしれないけど、ジークフリートはその時の最大戦力でも倒しきれなかった。 二度の戦闘を経てオレ様……というかヒカリたちは、ジークフリートを封印することに決めた。
その時に必要だったのが、あの無邪気な女神様だったわけさ。 そう――リリだ。
ジークフリートとリリの関係は分からなかったけど、リリは自身を要にすることでジークフリートをクリスタルとして封印できると言ってのけた。
なんの根拠もなく、さもそうするのが当然であるかのように。
……それでも一方的に仲間を殺されるこの状況を止めたかったオレ様たちは、その提案を実行に移さざるを得なかった。
もともとリリは超能力を平常時に使うようなおかしな奴だったから、それぐらいできても不思議はない…………そう思ったのかもしれないな。
結果だけ言えば、封印自体には成功した。 被害はもう思い出したくもないほどだが。
その封印したクリスタルは七つほどに分解して、各地に祠を作って……もう二度とこんな虐殺者が現れないことを願った。 ここまでして封印したんだ。 まさかジークフリートが復活するなんて誰も思っていなかったさ。
……でも、なんだかんだあって育成場を卒業して、兄さんと別れた後に祠を確認したら……一つが無くなっていたんだ。 それを兄さんに伝えるタイミングは完全に失ってしまって、再会した時にはもうこの記憶はオレ様に喰われちまってたんだ。
でもあの感じだと、気づいてたっぽいけどな。 調べたら出て来る程度には、被害報告もあったみたいだし。
……その頃から……というか、ジークフリートに仲間を殺されてから、兄さんはかなり復讐心を燃やしてたみたいだけど……
……面白いよな、人間って。 意識しなくなると、いつしかそんな心も忘れちまうんだからな。
……話が逸れたな。 と言うか、なんの話してたか忘れちまったぜ……
……ジークフリートの罪が何なのかって? そりゃあ、モンスターとして現界したことだろ?
あいつは殺しすぎた。 龍だけにとどまらずに、人の感情も感性も全て殺してきた。
あれはモンスターとしても許容範囲を逸脱している。 モンスターとは言え、やっていい事と悪い事があるぞ。 同じモンスター族としてもそう思う。
……いやまぁ、記憶を好き勝手に出し入れしてたオレ様が言っても説得力ねぇけどよ……
……ジークフリートについて現状語れるのはこれぐらいかな?
蒼いフルアーマーを脱いだところは見た事ないから、中の素顔は見た事ないけど……
……結論は変わらない。 あいつは生かしておけない。 あの行動の裏にどれだけの偽善を背負っていたとしても、オレ様たちはあいつの行動を認めることはできない。
だからこそ、ヒカリたちはあそこまでジークフリートを殺す事に執着してたんだ。
これで少しでも平和になるなら、オレ様も楽できるんだけどなぁ……
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「……だそうだけど?」
ヒカリ――もといアルテミストが語り終えると、アキラは皆に聞いた。
「こう聞くと、随分あっさりしてるなぁ……。 かなり死ぬ気で仇を取ろうと頑張ったんやけどなぁ」
「育成場崩壊のあたりとか、かなり粗かった気が……」
『まぁまぁ。 ジークフリートが何をやったか整理できたし、多分大丈夫だろ』
「……なんだか、大変だったのね、あなた達……」
シエルさんは慰めのつもりか、肩に手を置いてそう言ってくれる。
「……今も十分大変ですけどね」
アキラはその手の日記帳を開き、
「それで、だ。 キミはどこまで知ってるんだい? アルテミスト」
画面の中の少女を問い詰める。
「どうせキミのことだ。 ヒカリが知らない記憶も持っているのだろう? 例えば……」
『……寝ている間に呟いてたこと、とかか? さすがにあれはヒカリがかわいそうだから、勘弁してやってくれよ』
「……そうじゃない。 ボクが聞きたいのは、女神についてだ」
『………………』
アキラは冷静な態度を崩さない。
『……アキラも聞こえるようになったのか? 契約者の声が』
「いいや。 まだ自分の能力もまともに解放できてないよ。 ……あと、誰もがキミみたいに特別だと思わないことだ」
「……アキラちゃん、怒ってる?」
「大丈夫さ。 怒ってないよ」
アキラがアカリの心配そうな視線に微笑みかけると、画面の中からため息にも似た音がした。
『……悪かったよ。 さっきの発言は謝る。 ……それで、どこまで知ってるかって?』
「そうだ。 キミが知っていることを、知っている範囲で教えてくれ」
『……期待には添えないかもしれないが、オレ様が知っていることは二つだ。 一つは、海外の情報が一切入ってこないと言うこと。 もう一つは、リリが関係していること、だ』
その言葉を聞いて、アキラはパタンと本を閉じた。
「……やはりそうか。 ボクの仮説は正しそうだ」
『……アキラ。 見ないうちに、随分と大人びたな』
「いつも見ていただろう? それとも、見ていたことを忘れたかい?」
『……いや。 ……それで、仮説って?』
「……ここからは皆にも聞いてもらいたい。 理解できなくても、否定しないでほしい。 今から確かめることは、ほぼ真実に近い」
シエルさんは迷ったように視線を泳がせたが、アカリの眼差しを見て、強く頷いた。
「……この世界を操っているのは、リリで間違いないと思う。 彼女は運命の女神≪フォルトゥーナ≫その人なんだ」
画面の中の少女は『ふむ』と考えるそぶりを見せる。
『その根拠は? 自らジークフリート封印のために犠牲になる理由がわからない』
「可能性として、単にライト先輩のために自己犠牲を選んだか、そこにいた方が好都合だった……というのが考えられる。 本人に聞かない限りは確かめようがないけど」
『都合が良かったって、リリは封印するだけでなく、ジークフリートを利用しようとしていたと言うのか?』
「そうだ。 ……まぁ、まだ仮説だけど。 けどこの仮説が通れば、彼女がフォルトゥーナである可能性はあり得てくる」
指を立て、皆の反応を伺いながら、何かのスピーチのように語るアキラ。
「リリがやりたかったのは、ジークフリートを再び顕現させることだった。 しかも、条件付きで」
「じょ、条件って……?」
アカリが控えめに質問を投げかけた。
「……もちろん、リリの指示通りに動く、という条件だよ。 それはジークフリートの行動パターンを見ればわかるはずだ」
『精神崩壊病を治したってのも、リリの指示なのか?』
「おそらく、その病気自体もジークフリート強化のために敢えて蔓延させたんだろう。 目的のためにね」
『……ってことは、その目的って……』
「そうさ。 ライト先輩と戦うためだ」
平然と、そう言ってのける。
「リリは運命の転換点として、ジークフリートとライト先輩の復讐劇を選んだんだ。 これで勝てば次のステージに。 負ければライト先輩のさらなる強化が期待できる……そんな算段だったんだろう」
アキラはわざとか、可能性を残した言い回しを使っているようだ。 少なくともそう言う風に聞こえてしまう。
「……でもね。 本当の目的は、他にあった気がするんだ。 そう……赤月先輩の介入さ。 あれを期待していた可能性もあるよね」
『……彼女が特異点となり得るから……とかか? てっきり兄さんの方かと思ってたが……』
「……赤月先輩も、運命を変える能力を持っていたんだ。 女神としてではなく、龍巫女としてだけど」
『……同じ能力者が居るのは不都合だから……ってことか。 それにしたって、随分と回りくどいな?』
「さすがに彼女も直接手を加えようなんて思わなかったんだろうね。 ただ単にいい顔したいからなのかはわからないけど、この先に必要な過程なんだと思うよ」
『……まさか、鉱山を攻略させよう……なんて言うんじゃないだろうな?』
「ビンゴ。 リリはよりにもよって、命の恩人であるライト先輩に、この世界の全てを託そうとしているんだ」
今度は迷いなく、そう言い切った。
「どんな交渉をするつもりか知らないけど、現状最も"理想に近い"戦士だと判断したのは間違いないよ。 近いうちに、どうにかして鉱山に乗り込ませるつもりらしい」
『……それはどこ情報だ? さすがのオレ様も、そこまでは読めなかったぞ』
「……リリ本人が情報源さ。 この本の著者は、リリだ」
先ほど閉じた本を掲げてみせた。
「……彼女の計画は、全てボクの手の内にあるのさ」
『どうするつもりなんだよ、アキラ』
「決まってるだろ?」
その表情は笑っていたのだろうか。
少なくとも、楽しそうではなかった。
「……止めるんだよ。 こんなエンド、誰も望んでない。 ボクたちしか、止められる人は居ないんだ!」
そろそろ動きますよ…!




