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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第九章 「天に奏でし運命の唄《フェイタルソング》」
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チャプター 11-3

前回のあらすじ

→ケンからのメッセージ。 種明かしを始めるアキラたち。



――私には、夢があった。


いつかお姉ちゃんみたいな、正義の味方になろうって。

そんな、あまりにも夢と言うにふさわしい、夢があった。


……まだモンスターの活動がそこまで活発でなかった頃。

あの頃の二人は、まさに少年らしく、正義のヒーローにあこがれていたらしい。 日中、ずっとそんな話をしていたのを聞いていた。

その話に分け入って、私のお姉ちゃんを自慢したくてしたくて。 どれだけうずうずしたことか。

それでも、お姉ちゃんが正真正銘の正義の味方であることは、私とお姉ちゃんだけの秘密だったから。 結局、ライトくんが転校してからも告げるタイミングはなかった。

もっとも、その時点で私は、もうそんな話など振れやしなかったのだが。


……私のお姉ちゃんは、自慢の正義の味方だった。 自慢なんてできなかったけど。

六つほど年の離れたお姉ちゃんはその技量を認められ、その頃はまだ少なかった、モンスターの討伐部隊の一員となっていた。

鉱山でクリスタルを掘る間、採掘師を湧いてくるモンスターから守るのが主な仕事だったらしい。 そこでのお土産話を楽しそうに語ってくれたお姉ちゃんの顔は、今でも簡単に思い出せる。

その話の中で一番衝撃だったのは、お姉ちゃんが「女神と会った」と言った時だった。

――正義の女神・ユースティティア。 それが契約を交わした相手だと言う。

自身の寿命と引き換えに、人間離れした力を手に入れ、正真正銘の正義の味方となったお姉ちゃん。

「怖くないの?」と聞いたこともあったが、「どうせ明日死ぬとも限らない命なんだ。 それぐらいしても良いだろ?」などと言われては、返す言葉も無い。

実際、お姉ちゃんの活躍は一部のメディアに取り上げられるほどにまでになり、クリスタル業界の守り手とか、戦場での英雄とか呼ばれたらしい。 本人は恥ずかしがって言わなかったけれど。


……私たちの住む町が平和なのはお姉ちゃんのおかげ。 しかも、それを知っているのは私だけ。

でも約束は約束だったし、決して言いふらすようなことはなかった。

それでも、せめてその背中に近付こうと、私なりに努力はしてみた。

いつかお姉ちゃんの隣に立って、世界の平和を守る手伝いをするんだって。


……けどそれは叶わぬ夢だと、すぐに思い知らされた。


次元が違いすぎた。 そもそも契約してクリスタルの戦士――それがクリストロンと呼ばれることは後に知ったが――とただの人間では、性能が違いすぎたのだ。 単に私がまだ小学生だったということもあっただろうけども。

そうまでして追いかけたのは……どうしてだっただろうか。 ただの憧れだけでこうまではしなかっただろうに。

……そんな後悔をしたのは、何もかもが手遅れになってからだった。


初めて神格種などと呼ばれるモンスターが出現し、その現場にちょうどお姉ちゃんが居ることを知っていた私は、誰にも何も言わずに、まともな武器も持たずに走って向かってしまったのだ。

それは正義感からか、はたまた自分がなんとかしないといけないという責任感からか。

人並みにしかできない運動能力を使い切り、お姉ちゃんのもとへ駆けた。

何ができるというわけでもないのに。 ただまっすぐに。 ただがむしゃらに。


……そうしてその目で初めて捉えた世界は、あまりにも現実からかけ離れてしまっていた。

そこに居てはいけない。 そんな警鐘が胸の奥でするも、もう戻れやしなかった。

使い物にならなくなった自転車を捨て、お姉ちゃんが居るであろう、現場の最奥へ向かう。

何度も吐きながら、喘ぐように足りない酸素をむさぼりながら。


……そこで見た光景を、私はぜったいに忘れないだろう。 全てが死んだ、その世界を。


そんな世界になにもできずにいた私は……背後から忍び寄る影に気づけなかった。

背中に何かが打ち込まれるような衝撃が走り、意識が途絶えかけるが……

……逆に私のなかの恐怖心も無力感も消え、怒りにも似た衝動だけが満たした。

自然と私の口から、発したこともないような言語が零れ落ち、目に見えていた景色を変えていく。

魔法だった。 原理も法則性もわからない、不可思議な現象を、私自身が起こしている。

暴風が吹き荒れ、そこらに散らばった瓦礫が吹き飛び、群がるモンスターを蹴散らし……

……ついに、お姉ちゃんのもとへたどり着くことができた。

変わり果ててしまった私を見て、お姉ちゃんは何事かを呟くと、その頭のカチューシャを私のあたまにつけて――


――お前は正義のために歌え。 決して、呑まれるんじゃないぞ――




*********


************




「……あぁ……疲れた……」


ワイバーンを屠り、荒れた息を整える。


「お疲れ様です。 さぁ、行きましょうか」

「ステラちゃん、ありがとうね」

「え? お、おう! ウチはこのためにおるんやし、バンバン頼ってや!」


ついつい後輩の前で格好つけたくなってしまう。

力仕事しかできないのは確かだが。


「……それで、女神って? 創造主ってどういうことや?」

「……到着まではまだ時間がありますし、先にお話しておきましょうか」


アキラは手に持つ本を開き、ページをぱらぱらと捲った。


「あと半刻もすれば、迎えが来るはずです。 それまでに、話せるだけ話しましょうか」

「わたしにも聞かせてよー」

「いや、アカリには言ったはず……。 まぁ、いいか……」


少し寂れた雰囲気が漂う町の道を、三人で歩く。


「……この本は日記なんだ。 未来を生きる少女のね」

「未来を生きる少女?」

「そう。 それが創造主ってわけさ」

「……全然話が見えてこないんやが……」

「まぁまぁ。 ……それで、実際にこの本には過去形でこれから起こる未来の事を綴っているんだけど」

「……その未来って、本当に起きるんか?」

「書かれているものはね。 さっきのワイバーンも、討伐部隊の討伐対象だったものさ。 ほら、そう書いてるだろう?」

「……ほんまや。 にしても、何歳なんや? どうにも文体が幼いような……」

「……アキラちゃん。 わたし、心当たりがあるんだけど……」

「……多分、合ってるよ。 ボクの推測だけどね」


パタン、と本を閉じてしまうと、


「その推測が事実かどうかを、確かめに行くのさ」


すっとその指を空へ向けた。


「彼女達と一緒にね」






「……それで、用件は?」

「それは言わなくてもわかると思ったんですけど」

「……アキラちゃん、どうしてそんなにケンカ腰なの!?」


いきなり修羅場にも似たピリピリとした空気が漂う中。

機動装甲と呼ばれる兵器を身に纏った少女たちが、その得物をアキラに向けている。


「ここにいたはずのターゲットは?」

「ボクたちが先に処理しておきました。 みなさんの手間を省こうと思ったのですが……どうやら逆に邪魔しちゃったみたいですね?」

「い、いえ……。 ごめんなさい。 前に来た時よりも、不思議度が増していたもので……」

「……それはフォローなんか……?」


長い白銀の髪をした少女は得物を下ろし、後ろに居た青髪の少女に何やら告げると、


「……ヒカリちゃんでしょ? どうして連絡もしていないのに分かったのかはわからないけれど……」


そうとしか考えられない、と言いながら武装を解除した。


「……ところで、そちらの方は?」

「あ、えっと……」

「ステラちゃんだよ! とっても頼れるお姉さんなの!」

「そ、そうなの? ……あなたたちのところにも、お姉さんキャラは居るのね……」


何やらブツブツ呟いているようだが、よく聞こえなかった。


「……ごめんなさい。 申し遅れましたが、私はシエルです。 雷光の騎士団の一員として、このエリアのモンスター討伐をしています」

「わざわざご丁寧に……よろしくお願いします」

「……さて、紹介も終わったところで、残りのワイバーンを処理して、学園へ向かおうか?」

「え?」


言われてさっと目をやると、またも竜の影が。


「まだ居るんかいな!?」


仕方なく剣を抜き、自分の仕事を果たした。



******



「……良かったんですか? あの青い子、先に帰らせちゃって?」

「ええ。 むしろ今回は、アイリスには内緒じゃないと……」


学園の警備をパスし、敷地内を四人で歩く。


「……あんたら、何やらかしたんや? 妙に馴れ馴れしいけど?」

「馴れ馴れしいとは失礼な……。 ただ単に、前に会ったことがあるだけですよ」

「うんうん。 ヒカリちゃんの機動装甲、すごかったよね!」

「へぇ……」


全く話についていけない自分が居て、少し寂しい。


「……近々ライトさんに連絡を入れようかと思っていたのだけど……。 あなたたちは、あれがどういうことか、分かるの?」

「……多分ですけど、推理はできます。 ……あと、この事はライト先輩には秘密で」

「何か言えない事情でも?」

「ええ。 先輩には……別の女神の相手をしてもらわないといけませんので」

「……まだ居るんかいな……女神のバーゲンセールかい……」


いったいいつからこの世界は神話じみたものになってしまったのだろうか。


「……さ、着いたわ。 ……ヒカリちゃん。 お友達が会いに来たわよ?」

「……ヒカリ? ヒカリがそこに居るんか……?」


カプセル式のベッドが並び、様々なコードが床を履い、大きな機械が天井を貫く薄暗い部屋で。

管理コンピュータとも見える小さめの機械に、何かが映っている。


『......本当に来たの? だったら、相当まずい事態みたい……』


聞こえてきたのは、もう居ないはずの声。


『......また会えたね。 アカリ、アキラ』


幻聴なわけもなく、そこに確かにヒカリはいた。

……画面の中に。


「……頭部の脳波コントローラーを使った逆ハッキング……。 いったいどうやったらそんなバカげたことが可能なんだい?」

『……それはオレ様に言ってるのかい? 確かにそれを可能にしたのはオレ様だが、ヒカリ(あいつ)がいなけりゃ絶対にできなかったぜ』

「……ヒカリってこんなキャラやっけ?」

「……あれはヒカリであってヒカリでない。 あれは……」

『......そうよ、アキラ。 わたし(・・・)と言う人格も構築してるけど………基本的にはオレ様が前面に出てる感じだな。 この方が都合いいし』

「……アルテミストドラゴンだよ。 もっと乙女な感じだと思ってたんだけど……」

『悪いな。 乙女は卒業したのさ。 ......兄さんに似たんだと思う』

「ライト先輩に? ……まさか、サウザンド的にってこと?」

『……言われてみればあいつもこんな……。 そんなにオレ様影響受けやすいのかな……?』

「聞かれても……」

「「「……………………」」」


完全に置いてけぼりな三人が完成してしまっていた。


「……ごめんごめん。 説明が追いついてなかったね」


アキラはハッとして振り返り、反応に困っていた三人の方を向く。


「ここで自我再生プログラムを実行していた間、アルテミストはヒカリの脳波コントローラーを使って、管理プログラムを乗っ取っていたんだ。 自我データを別データに構築することによって、本人が居なくてもこうして話し合えるように、ね?」

『そうだぜ。 なんて言ったって、オレ様とヒカリ(こいつ)がいれば、電脳世界でできないことなんてないからな!』

「……えっと、シエルさん? ヒカリが最後に来たのって……」

「……その話もしておかないとね。 いいかしら、二人とも?」

「代わりに話してくださるなら、助かります」

「いろいろあって大変だったよね〜」


シエルさんから、ここで起きた事を大雑把に説明してもらった。

ヨルムンガンド及びジークフリート襲撃事件のあと、ヒカリを回収し、逃げて来た地下楽園住民を避難誘導したのは、機動装甲を駆る聖堂学院の生徒たちだったらしい。

自我が崩壊しかけていたヒカリをプログラムにかけて治療を試みた結果、アキラたちによって更生内容を訂正。

全行程が終了する前にヒカリは自力で起きてきたそうだが……その時点で、このハッキングは完了していたという見解らしい。


『大筋はそれであってるな。 ......本当に、あの時はありがとう、みんな』


画面に映るアルテミストは、二重人格者のように語り口調を忙しなく変えている。

姿形は、最後に見た時のヒカリのままだが。


「……なんやようわからんけど、だいたい理解したわ」

「大丈夫! わたしもよく分かってないから!」

「……アカリ。 キミは当事者だろ……?」

「……とりあえず、ありがとうございました。 ヒカリを助けていただいて……」

「いえ、私は……余計なお世話を焼いてしまっただけで……」

『そういえば、この様子だと、ヒカリ(あいつ)は死んだのか?』


唐突にぶつけられた質問に、その場にいた全員が動きを止めざるを得なかった。


「……ボクたちが駆けつけた時には、もう……」

『そうか……。 ......それでも、ジークフリートの反応はない。 倒したのかな?』

「そう、そのジークフリートよ!」

「ど、どうしたんですか、急に?」


シエルは指を指して聞いた。


「ヒカリちゃんの記憶を回収していた時に、やたらとそのワードが引っかかったんだけど……。 いったいあなたたちとジークフリートって、どういう関係なの?」


今まで誰も問いかける者がいなかったのもあって、そう聞かれたのは初めてだったかもしれない。


「……ウチから説明しても良いけど……」

「……アルテミスト。 頼めるかい?」

『……まぁ、あいつと最後まで闘ったのは、オレ様とヒカリ(あいつ)の兄さんだけだしな……。 あのイタズラ女神を除けば、だけど』


不可解なワードを呟いていたが、今はスルーを決めることに。


『良いぜ。 ヒカリ(こいつ)に代わってオレ様が、育成場で起こった悲劇を語ってやろう』





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