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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第九章 「天に奏でし運命の唄《フェイタルソング》」
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チャプター 11-2

前回のあらすじ

→ステラが初めてのおつかい気分で依頼を受けるも忘れてしまったようです。




「さて……そろそろアレを聞く時か……」


鬼の居ぬ間に……ではないけれど、風呂場からのシャワーの音が止む前に。


「データは……これか」


二人以上で聞くな、というあの警告を守るべく、誰も居ないリビングで一人、例のパソコンをいじる。


「……ケンからのお礼かぁ……。 正直、いい予感はしないなぁ……」


イヤホンを差し、フォルダの一番下に埋もれていた音声ファイルを叩いた。



**********

******



……なあライト、お前はあの約束を覚えてるか? 神社にわざわざ行ったあれだよ――まさか忘れてねぇだろうな?


あの日から、オレはずっとお前の背中を追いかけてたんだぜ。ガキの戯言だと笑われても――誰にも言ってないから笑われるはずないけど――オレは正義の味方になろうと突っ走ってた。


この音声を聞いてるってことは、オレは死んじまってるんだろうけどさ。オレはちゃんとヒーローになれたかな? もし、なれずにのたれ死んでたら……そん時は墓石に泥でも投げといてくれ……――いや、冗談だからな? 本気にすんなよ!?


……あ、もうデータ容量ねぇや。


とにかく、オレが言いたいことは一つだけだ――こんだけべらべら喋った後じゃ説得力ないけど。


……今までありがとう。


お前を追いかけてた何年間かは短い人生の中でも結構有意義に過ごせたぜ。感謝してもしきれねぇくらいだ。

色々面倒なことをお前に押し付けることになっちまったが、オレの命に免じて許してくれや。


以上! これでお前ともおさらばだ。

オレの分も、精一杯生きてくれよ、ヒーロー!


…………これで死んでなかったらどうしよう……


******

*********


「………………」


そこで音声は終了していた。


「…………どこまでやれるかはわからんが。 まぁ……やってやるさ。 お前の分まで……」


……にしても、ケンとの約束か……。

育成場時代に幼少期の記憶はほとんど消えてしまっているが、確かにそんな神社に行った覚えはある。

そこで何を願ったかは思い出せないけど……

……ケンは確かに、英雄ヒーローだったさ。 俺なんか比較にならないほどの。


「……正義の味方、かぁ……」


あいつはなれたのだろう。 だったら、俺はなれるのか?

……いや、なってやらないと。 こんな俺でも、あいつの目標だったらしいし。


「……ったく。 用意が良すぎだ……」


後悔が俺を蝕むが、すぐに頭を振って思い直す。

……気に病んでやらあいつに怒られるし、俺があいつの分までやらないといけないんだから……


「……って、まだあるな……」


トラック2が用意されているらしく、画面上で再生されるのを待っていた。

まだローザが出てくる気配はないので、迷わず再び再生ボタンを押した。



『ようこそボーナストラックへ。 ここでは、オレの集めた秘蔵音声ファイルが収録されてるぜ。 心当たりがあるやつが居れば、即刻どこかへ行くように言ってやってくれ。 そいつのためにな』


そんなケンの声とともに始まった盗聴……もとい音声記録。

ケンの盗聴……音声収集は、思っていたよりも早くから始まっていたらしい。 去年の冬ぐらいの音声が再生されている。


『……バレンタインはね。 チョコレートのお風呂に入れてあげようと思うんだ!』

『良いんじゃないか? お前に作ってもらったチョコなら溺れてでも食べるだろ』


……あぁ、あのバレンタイン事件はお前の差し金だったのかよ……

入浴剤とか言って渡されたチョコ。 お湯に入れたら大変なことになったんだぞ……

いやまぁ、あのあと皆に配ってたチョコを申し訳程度に貰ったから、許したんですけども。


『残ったのはケンくんが食べてね? ライトくんは要らないって言うし……』

『げ……これから三食チョコ暮らしか、オレ……?』


……それなりの制裁は下ってたか……。 当然の報いだろ……


『……知ってる? 学園うちの裏庭の木の伝説』

『なんだそりゃ? 金のリンゴでも生ってるのか?』


やや間があって、今度は別の女の子の声が入ってきた。

どうも収集した声はヒヨのものだけではないらしい。


『違う違う。 実はね、あの木の下で永遠の愛を誓うと、運命の人に出会えるって伝説なの!』

『へぇー。 そりゃロマンチックだな』

『薄い反応ね……。 良いよね、彼女持ちは』

『へいへい。 お前さんもがんばって毎日誓いに行くことだな』

『……さすがにちょっとキレたわ。 面貸しなさい』

『ちょっ!? タンマタンマ!?』


……へぇ。 あのジャングルみたいな裏庭の木にそんな話が……。 整理して庭園にしてもらうかね……


『……ライトくん、遅いね? 春休みボケで寝坊したのかな?』

『あいつ、ずっと引きこもってたしなぁ。 風邪とかひいてないと良いけど』


これは始業式の時の音声だろうか。 バックのざわめき具合からして、講堂で集まっている時だろう。

ちなみに春休み中はずっとVRアリーナで模擬訓練をしていた。 最近は用事がなくなってしまったが、本格的に訓練を始めたのはそのあたりだった記憶がある。

動機はまぁ……単純にアリーナへ生徒手帳からダイブできるようになったからなんだが。


『聞いたか? また町でモンスターが出たんだってよ。 防衛ラインはどうなってんのかね?』

『さぁな。 でも、防衛ラインの駆逐人形兵器に仕事持っていかれるよりは良いだろ?』

『そうか? 闘わずに暮らせるなら、それが一番だと思うけど……』


……そんな考えを持ってるやつも居るんだな……。 軍事学校って言っても、平和主義者は居るもんだな……


『……おい、今年の新入生の情報だぞ。 金髪の超絶美少女が入ってくるんだってよ! しかも戦闘技術での評価がSランクだってよ!』

『ああ、その噂は風に聞いたよ。 でもあれだろ? かなり無愛想なんだとか』

『そこがまた良いんだろ! くぅー! 俺ももう少し強かったらなぁ』


今度はケンの声が入っていない。 どこかの部屋に設置していたマイクから拾ったものだろう。

そしてこの話題的には、ヒカリと対面式で闘う前の日ぐらいのものかもしれない。


『今年も美少女ランクが高い娘ばっかりだなぁ。 こういう娘たちは、もっと普通の学校へ行っても良いと思うんだけどなぁ』

『まぁまぁそう言うなって。 可愛い子が多い方が、士気もあがるってもんよ!』


……少なからずその存在が役には立っていたらしい。 誰の毒牙にも犯されなくてよかったなぁ……


「……あれ? 対面式後のあれこれは録ってないのか……?」


次に再生されると思っていた罵倒の嵐は、ケンの温情からか、流れてこなかった。

大人気なくもCランクだった俺が、Sランク様をぼこってしまったのだから、散々言われてたに違いない。

……負けたら負けたで、俺的には納得できない結果だったんだけどな……

ランク的にしょうがない、と言われたかもしれないが、それでなめられてはたまったものではない。

ただでさえ前日から噂になっていたヒカリと兄妹だとバレてるし、後ろから撃ち抜かれても仕方の無い状態になっていたかもしれないのだから。


『……聞いたか? 今年の討伐科の試験。 大事件だったらしいぞ』

『聞いた聞いた。 死人も出たんだとか……』

『最近モンスターの脅威度が上がってるもんなぁ。 巨大モンスターも討伐報告が来てたし……』

『俺たちには遠い話だよな。 あーあ。 もっと手っ取り早く強くなれねぇかなぁ……』


代わりに聞こえてきたのはそんな男子どもの声。 いったいどこにマイクを配置してるのか検討はつかないが……


「……クリスタルで蘇生……いや、それをやり始めたら、きりが無いぞ……」


それはさすがにマズイか。 人体改造は基本的にアウトだし。


「……てか、ずっとこの調子なのか……? 俺はそんな日常会話が聞きたくて聞いてるんじゃないぞ……」


時間的にもそろそろ危なそうなので、数個分スキップしてみる。


『……森で発見された召喚サークルの話だが……』


……この声、熊谷先生か……? 良いぞ。 こういう手の届かない情報が欲しかったんだよ……!


『クリスタルは、やはり人智を超えた、私たちでは解析不可能な可能性を秘めていると思うんだ』


誰に話しかけているのだろうか。 相手側の応答は無い。


『その保有エネルギー値の高さから、本来起こりえない反応を可能にしてきたクリスタルだが……。 クリスタルがあらゆる万物を構成することが可能だとしたら、今回の"召喚"の辻褄が合う。 あの数奇な文様も、クリスタルの可能性を引き出すためのプロセスの一環ならば、見せしめのエンターテイメント、などという可能性も消えるはずだ……』


……ステラがモンスターを召喚したときの話か。 結局調査も打ち切りになって、あの時会った変な野郎もあれから見て無いし……。

ステラをどうやって操ってたかも、記憶をどうやって操作したかもわからないままなのは……まぁ、今のところは闇の中、ってことで折り合いつけるしか無いよなぁ……


『……最近、機動装甲の実践投入及び貢献度が向上してるそうよ。 なんでも、数年前から始まった編入制を取り入れてから、成績が上がってるそうね』

『へぇ。 あんなまさにSFみたいな武装のクセに、そこまでやるようになるとはね……。 俺たちも怪我に負けないで頑張らないとだめかな……?』


……機動装甲の噂は出回ってたんだな……気づかなかったぞ……

そこでしばらく機動装甲についての話題で話していたが、大体は聖堂学院で聞いたような話だったので次に行こうとしたその瞬間。


『あ、二人とも! 熊谷先生が探してたよ!』

『お、ほんとか? サンキューな』


……この伝言係、まさか……


『何の用事だって?』

『えっと、詳しくは知らないんだけど、診断の結果に不備があったから、再検査がどうって……』

『なんだ、そんなことならメールでもくれればいいのに……』


……診断? 怪我してたっぽいし、精密検査でもしたのか……?


『……あ、ケンくん。 熊谷先生が……』

『ん? 何の用事だよ?』

『生徒会メンバーで話したいことがあるって言ってたんだけど……』

『あー。 わり、オレはパスで』

『え? で、でも……』

『大丈夫大丈夫。 オレはどうせ使いっぱしりのおまけだから』


……ケンも呼ばれてたのか……? いや、それよりも……

少し早送りで残りの音声を流していく。

幾度にも分けて、少人数ずつとはいえ、全員が呼ばれているらしい。 俺たちを除いて、だが。

……いったいなんのために……? 呼ぶ口実はみんなそれぞれ違うみたいだし……

それになによりも。

……どうして双葉さんが……いや、双葉さんだけが(・・・)伝言係をやっているんだ……?

彼女自身が呼ばれて行ったという感じはなかった。

おそらく、まだ彼女には何かしらの企みに参加していないはずだ。

その企みの内容を自分の身をもって知れば、こうまでして皆を熊谷先生のもとへ呼ぶなどという仕事は引き受けないはずだし。


『……ふふふっ……これでライトくんの私情も筒抜け……。 きっとこれでわたしにもチャンスがくるはずよ……!』


……ヒヨ……なのか……? まさかこれ、ヒヨの仕掛けた盗聴器……


『......あーあー。 プリンとか買って無いかなぁ……。 あ、ケーキ……は、まぁいいや……』


……おぉ……ヒカリ……。 てか、なに勝手に冷蔵庫漁ってるんだよ……


『……ヒカリちゃん。 最近、ライトくんとはどうなの?』

『......兄妹らしく、いちゃいちゃ――』

『――してるの!? ねぇ、わたしが居ない間にしてるの!?』

『できてない! 出来てないから離して……!?』


……俺が居ない間に何話してるんだよ……


『……いやぁ。 まさか本物の南の島に来れるとは、思わんかったわ~!』


……あれ? ステラ……?


『そうね。 合宿なんて言ってるけど、実際は遊びに来てるようなものだしね』

『そうだね。 でも、みんなで水着選んできたんだし、ちょっとぐらい遊んでも……ねぇ?』

『せやな。 この水着で、はやく悩殺してやりたいわぁ』


……あぁ、あの合宿の……。 映像がないだけ許すか……


『……せや。 せっかくやし、恋バナでもするか?』


途端に静まり返ってしまう。 だが、音声だけでも伝わってくるこの激震が走る感じ。


『……みんな、好きな人とか、いたりするの……?』


おそるおそる、といった感じのローザの問いかけは……


『わたしはアキラちゃんが大好きだよ!』

『ありがとう。 ボクもキミを愛しているよ……』


……うわぁ……聞いてるだけで熱いな……

てか、アキラとアカリ、最近どこ行ってるんだろうな。 全然見なくなったけど……


「……なに聞いてるの?」

「あ、ローザ」


ちょいちょい、と肩をたたかれ振り向くと、そこに湯気を纏いながら不思議そうに画面をのぞきこんでくるローザの姿が。

相変わらず風呂上りはバスタオル一枚とかいう危なっかしい格好だが。


「いや、音声ファイルを漁ってたんだ。 言うなれば、調査の一環さ」

「へ、へぇ……。 音声ファイルの……」


なにやら微妙な表情のローザ。


「どうした? なにかマズイものでも入ってたか?」

「い、いえ! な、なんでもないわよ!」


……なんかあやしいな……。 あとで別枠調査でも入れてやるか……


「……そんなことより、あんたも入ってきなさいよ! ガス代、もったいないでしょ!?」

「いや、払ってるのお前じゃ……」

「もう、いいから!」

「はいはい……」


仕方なくパソコンをシャットダウンし、風呂場へ向かう。


「……ちゃんと待ってるから、ね?」


……やれやれ。 さっさと行ってきますかね……




*********




「……到着だね。 さ、行こうか」


運賃を適当に払い、無人となってしまったバスは、元来た道を引き返していった。


「……どこまで行くん?」

「そんなに歩かないから、安心して」

「は、はぁ……」


アキラは手に持つ本を開き、中に挟んでいたのだろう黒いカードを取り出した。


「……まぁ確かに、今行っても怪しまれるだけだし、少し運動して行こうか」

「アキラちゃん。 わたしにも見せてよー」

「ああ、いいよ。 運命の女神は、今もこうして新しい物語を紡いでいるのだから」

「……何を言うてるのか、いまいちようわからんのやけど……」


只々、不思議に思いながらもついて行くほかない。


「もうすぐそこからワイバーンが湧いてくるよ。 ここは関東エリアの北の方だからね」

「それは理由になってへんで……」


だが、指し示された方へ目をやると、


「……なぁ、この羽撃く音……幻聴やないよな?」


ドラゴンのなり損ない……のようなモンスターが近づいて来た。


「もちろん。 運命の女神は嘘をつかないんだ」

「そのさっきから出てる女神って、誰のことや!?」


当然のように襲いかかって来たワイバーンに応戦しつつ、尋ねる。


「……それは、この世界の創造者のことさ」

「……は?」


その手の日記帳を掲げ、不敵に笑ってみせる。


「詳しい話は、目的地に着いてから話そう。 今はそれよりも……」

「アキラちゃん!」

「わかってる! ……来いよ、玄武!」


数匹ひとかたまりで、何組も現れるワイバーンの群れ。

それを処理するのが仕事とは言え、今はこの頭の中の混乱をどうにかしたかった。


「あぁもう!! どないなってんねん!」


けれど今はまだ、そう叫ぶしかなかった。





こんな終わり方で申し訳ないm(_ _)m

来週をお楽しみに(吐血

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