チャプター 11-1
前回のあらすじ
→ライトが正式にリア充化。
1
「おはよう、隊長さん」
リビングに入ると、珍しくステラが朝食のトーストを齧っていた。
普段はもっと遅くに起きるか、もっと早くに出て行くかのどっちかのことが多い。
「ふふっ……昨晩は、お楽しみでしたね」
「ぶふッ!?」
不敵に笑うステラは少し顔を赤くして、そんなことを言ってのける。
……ステラにそんな台詞を吐かれるようなことは……
「……まさか、聞いてたのか?」
「立ち聞きしてたみたいな言い方はやめてくださいよぉ。 たまたま耳に入っただけや。 たまたま」
「…………」
同じ寮の部屋に住んでいるのだから、いつかはバレるかもしれないとは思ってたけども。
……思ってたけども!
「ウチは気にしませんから、大丈夫ですよ」
「い、いや、気にするだろ? 色々と……」
「……まぁ別に? そんなに悪いと思ってるなら、ウチに同じことしてくれたら、考えてやらんでも無いけど?」
「誰がッ――!!」
「冗談ですって。 冗談」
アハハ、と笑うステラ。 その笑顔が少しだけ寂しそうに映ったのは、俺の考えすぎだと思いたい。
「……まぁ実際、ウチがとやかく言えることやありませんし、気にせんとってください」
……やばい。 今更ながら、恥ずかしくなってきた……
俺とローザがそういう関係だって思われながら、過ごさなきゃいけないんだろ……?
いやまぁ、そこに罪悪感を感じる必要性は、無いのかもしれないけどさ。
「ほら、隊長さんも朝食食べないと、遅刻すんで?」
「あ、ああ」
促されるままに席に着き、ステラが焼いていたのだろうトーストをもそもそする。
特に振れるような話題もなかったので、ただ黙々と咀嚼を続けざるを得ない。
「……隊長さんはさ」
「うん?」
そんな重苦しい沈黙を破ったのはステラだった。
「隊長さんは……これから、どないするつもりなん?」
「これから……? 今日の予定って事か?」
「いや、もっと先のことや。 ジークフリートを倒したんやろ? うちらやって、いつまでも学生でいる訳やないんやし」
「……どうしたんだよ、急に。 俺たちはまだ、高校二年生だぞ?」
「……ごめん。 ちょっと、気になっただけや」
……心配、してくれてるのか? 過去を斬り伏せて失った俺が、ちゃんと未来を見れるのか……
「……大丈夫さ。 俺は未来を見て歩くって、決めてるんだ。 もう過去に囚われたりなんてしないよ」
「そっか……ほな、ええんやけどな」
ステラは残りのトーストを口に放り込み、目の前の牛乳を飲み干した。
「……そうだ、ステラ」
謎の余韻に浸っていたらしいステラがこちらを向く。
「お前に、頼みたいことがあるんだが……いいか?」
何かを思案するように目をパチパチさせると、
「う、ウチは別に今日はなんもないし、隊長さんが望むなら、い、今すぐにでも……」
そんなよくわからないセリフを捲し立てた。
「……じゃあ、悪いけど…………」
*********
************
「……頼みごとって、人探しかいな……」
受け取ったサーチャーとクリスタルを手に、バスに一人揺れる。
だが、期待はずれの依頼とはいえ、いつまでも残念がっていられるようなものではなかった。
「……しかも、なんの手がかりもなしときた」
……その依頼内容は、迷子のリリをさがしてくること。
見つけることは出来ずとも、捜査範囲を確定させたいとのことで。
「……はぁ。 せめて隊長さんと一緒が良かったな……」
一人では心細い上に、気分が乗らない。
もともとこういう地道な作業的なのは苦手だったこともあり、重要な依頼だとはわかっていても、ため息が止まらない。
「……あれ? あの二人って……」
そうして海草のように揺られていると、もう始業時間は過ぎているにもかかわらず、制服姿の二人組みが乗り込んできた。
確かここは、ギリギリ通学路に含まれない道だったはずだが。
「あ、アキラちゃん。 わざわざ休んでまで……」
「大丈夫さ。 これも必要なことなんだ」
人気の無い車内で、二人の会話が聞こえてくる。
一番後ろの席に座っていたためか、二人にはまだ気づかれて無いようだ。
「……ここは注意したほうが、ええんかな……?」
前の方で並んで座っている二人。
だが、雑音がほとんどないため、会話がここまで聞こえてきてしまう。
「この日記に書かれていることが事実なら、あの学園で、アルテミストの真意が聞けるはずだ。 パスは確保済みさ」
「……でもでも、こんな時間からおじゃましたら、それこそ本当に邪魔しちゃうんじゃ……」
「心配ないよ、アカリ。 ボクがなんとかするから」
気がついたら、その足が勝手に動いていた。
「……や、二人とも。 しばらくぶりやな」
そう声をかけると、二人同時に振り返り、二人して目を丸くしていた。
まさかここに自分達以外の人が居るとは思っていなかったのだろう。
「……サボりは感心せぇへんけどな。 なんやおもろいもん持っとるやんけ」
「……ステラ先輩は、いつのヤクザさんなんですか?」
「し、失礼な! ウチはどう見ても、可憐な乙女やろ!」
「……自分で言っちゃうんだ……」
アカリに哀れみに満ちた目で見られるが、そんな視線には負けたりしない。
「……それはそうと、その本や。 何が書いてるん?」
「そうですね……。 ボクたちの指針……とでも言いましょうか」
「へぇ……」
何を言ってるのか全くわからない。
「……これも何かの縁でしょう。 ステラ先輩。 ボクたちと一緒に、真実を確かめに行きませんか?」
「真実を……?」
「あ、そうだ! ステラ先輩が来てくれたら、新生トライアドシャインズができるよ!」
「トライアド……ってああ、あの七夕祭の……」
「ステラ先輩なら大歓迎だよ! 名前もちゃんと、"シャイン"繋がりだし!」
「せ、せやな……」
本名がカスミだと言ったら、蹴られるのだろうか。
「……なんやようわからんけど、面白そうやし、ウチも協力するで!」
「ほんとに? やったー!」
「ありがとうございます、先輩。 ボクたちだけじゃ正直戦力不足でしたから、助かります」
「おう! お姉さんに任せとき!」
そんなこんなで、トライアドシャインズのメンバーとなってしまった。
戦力としか見られてないようだけども、頭脳戦など専門外なので文句はない。
「……それで、どこへ向かってるんや? 終点まで行ったら、かなり防衛ラインに近くなってまうけど……」
「ボクたちの行き先ですか? それは……」
「うん。 着いてからのお楽しみ、だね!」
いきなり不安しかないが、どうすることもできなかった。
*********
************
「おかえり、ライトくん! 帰って来てくれるって、信じてたよ!」
「わ、わかったから! 離れろッ!?」
クラスメイトからの視線が痛い。
……いやちょっと双葉さん!? なんて目で俺を見るんですかね!?
「……お前は、もう頭痛は大丈夫なのか?」
「うん! しばらく休んだから、もうすっかり!」
「なら、良いんだけど」
さっとローザの方を盗み見ると……
……それ、消しゴムだよな? すごい勢いで縮んでるんだけど……
「それより、ほら! 今日もお弁当作って来たんだよ! 遠慮せずに受け取って!」
「え? ……えぇ!?」
「ちゃんと感想、聞かせてね!」
「………………」
流れで受け取ってしまい、どう返答しようかと悩んでいるうちにチャイムが鳴ってしまった。
ガヤガヤと自分の席へ戻り始めるクラスメイトたち。
俺はウィンクして去って行くヒヨを呆然と見送るしかできなかった。
「……なぁ。 ヒヨってあんなキャラだったか?」
「さぁね。 まぁでも、そうだったんじゃない?」
「……そう怒るなよ、ローザ」
「べ、別に怒ってないわよ! 勘違いしないでよね!」
「何をだよ……」
そうして昼休み。
ヒヨに捕まりそうになった俺はダッシュで裏庭へ駆け込み、ローザにパーティーチャットで連絡を入れて合流。 その後そこで昼食をとっているわけだが……
「……それでさ。 ヒヨはあれから、おかしくなったりしなかったか? 今も十分おかしいと思うんだが」
「……何よ、ヒヨの話ばっかりして……」
「わかってくれ。 必要な情報なんだ」
「何に必要だって言うのよ?」
「ケンだ」
「ケン?」
あの日ケンから受け取った、最後のメッセージを思い出す。
「『俺たちの中で真当な人間は一人だけ』……その意味を図るために、必要なんだ」
「……まぁいいわ。 仕方なくなんでしょ? だったら許してあげる」
……思っていたよりローザの愛が重いなぁと感じる今日この頃。 そんなところも良いんですけどね。
「おかしくなったと言うか、逆に何も無いのがおかしいわ。 ケンが教室に来なくなって、普通は何かしら聞いてくるものじゃない? なのに、何も無かったかのように振舞ってるのよ」
「……それはまぁ、理解してやれなくも無いな」
「あとはライトが帰って来てからテンションがおかしいわ」
「それは許してやれよ……」
装備がそれなりに揃っていて、モンスター対策の訓練もしているとは言え、命を背負っているんだ。 今日明日も知れない命なんだ。 それが無事なことを喜ぶのは、普通だと思いたい。
「……あとは、ヒヨに関する記憶が曖昧なのよ」
「曖昧? 具体的に頼む」
「あの日ヒヨを看病していたステラがその時の記憶をなくしていたり、そのあとどうなったかも憶えてないし……とか。 ……何か妙なのよね」
「……なるほどな」
また記憶関連の話か……。 単に忘れたってことでは無いだろうし……
「……他のクラスメイトの方はどうだ? 俺がしばらく見てないうちに、何か変化はあったか?」
「そうね……。 そんなに詳しくは無いけど……。 ……強いて言えば、双葉さんが最近馴れ馴れしいわ」
「双葉さんが? 俺の次はお前に目をつけたのか。 何かやらかしたのか?」
「何もしてないわよ! あんたと一緒にしないで!」
……いや、俺も身に覚えがないんだけど。
「双葉さんか……。 うーん……」
全ての平均値を持つ少女。 その可愛さも美しさも元気さも頭の良さも運動の出来具合も平均的、と言われているが……
……ある意味それはそれで変わってるよなぁ。
「……とりあえず、今出せる情報は出したわ。 あとは自分の目で確かめなさい」
「わかった。 ありがとう」
頭で情報を整理しつつ、ヒヨがくれた弁当を食す。
……超美味い。 あとでちゃんと感想言ってやらないとな……
「……あんたもあたしに弁当ぐらい作りなさいよ」
「いや、俺は野菜炒めしか作れないし、そもそも普通はお前が作ってくれるもんじゃないか?」
「……あたし、料理得意じゃないの」
「えー……」
「あ、そうだわ! 一緒に作りましょう! 見ながら二人でやれば、不可能なんてないわ!」
楽しそうにそう言って笑うローザ。
その申し出を断ることなどできるわけもなく、さっそく放課後の予定が埋まってしまうのであった。




