チャプター 2-1
1
朝を告げるアラームが、今日も仕事をする。
この音に起こされることへの妙な不満感と、起こしてもらえることへの安心感が頭を満たした。
「…………」
アラームを止めた手に、若干の違和感。
その手の中指には、綺麗な装飾の入ったシルバーリングがはめられていた。
……そうか、俺はローザと……
俺は記憶の整理のため、昨晩の出来事を思い返すことにした。
**********
*******
「ここが寝室ね。 まぁ、良いんじゃないの?」
無事に着替え終わったローザと共に、寝室へ移動したときだ。
「このベッドは俺が使ってるから、ここ以外ならどこを使ってもいいぞ」
「じゃあそこを使うわ」
「……話し聞いてた?」
今ここ以外ならって言ったのに、どうして俺が使ってるベッドをわざわざ占拠しようとするんだ……
これじゃあただの嫌がらせじゃねぇか……
「ふふっ……冗談よ。 あたしはその向かい側を使わせてもらうわ」
もともと4人部屋だった部屋なので、寝室に2段ベッドが2つある。
そのうち俺が使っているのは、東側の下段だ。
「……ライト」
「ん?」
急にローザが少しトーンを落として呼びかけてくる。
「せっかくあたしを手伝う、あたしのパートナーになったわけだし、パーティーを組みましょう」
……この学校には2~6人でパーティーというチームを作れる制度がある。
学校の行事は基本、パーティー単位で動くことになっている。
クエストも然りだ。
……ケン達とは仮パーティーだし、話せばわかってくれるはずだ。
「ああ。 いいよ」
俺は電子生徒手帳を起動し、画面を操作する。
……パーティーを組むには、ある制約をクリアする必要がある。
それは、パーティーを組む相手の "身体のどこか一部分" に3秒以上触れ合わなくてはならないことだ。
……この表現がまたいろいろな誤解を招いてしまい、去年は大変だった。
あらゆるうわさが学校中を駆け回り、みるみる悪化していった。
キスに始まり、それはそれは公表できないほどのうわさが流れたものだ……
俺がソロ気味な理由はその辺にあったりする。
……ちなみに、この制約をクリアするとお互いに、邪魔にならない程度の装飾品が装備される仕組みになっている。
そんな去年の悪夢を思い出しながら、俺はパーティー申請をローザ宛に送信する。
同じように手帳を起動させたローザはその申請を承諾し、制約解除の準備を――
「えっ……」
手を差し出そうとした瞬間、身体が暖かい重みを感じた。
……ローザが抱きついてきたのだ。
「…………」
ローザが顔を埋めているせいで、表情はよく見えない。
その身体から香る甘い匂いが鼻腔をくすぐり、理性を揺らす。
こんな温もりに触れたのは何ヶ月ぶりだろうか。
……こうしてみると、改めてローザの小ささを感じてしまう。
こんなにもか弱そうな少女が、あんな大剣を振るって、未来を変えるなんていう大きすぎる使命を背負って……
……本当に今日は信じられないことばかり起きるな……
「……ローザ……もうそろそろいいんじゃないか?」
俺は傷つけないように、なるべく優しくそう言った。
「――っ!!」
ビクッ、と肩を震わせ、温もりと共に身体の拘束が解ける。
……さすがにこれ以上は気がもたない……
情けないことに、心臓がバクバク言っているのが自分でもわかってしまうほど、緊張してしまった。
「ん……これか……?」
そこで、足元に二つ月光を浴びて光る何かが目に映った。
拾い上げてみると、それは……繊細な装飾が施されたシルバーリングだった。
「……これで完了だな。 改めてよろしく」
ローザにもうひとつのリングを手渡すと、彼女はようやく顔を上げて笑ってくれた。
「ええ。 ……ありがとう。 本当に」
……隠しておいたらめんどそうだし、話しておくか……
俺はリングを指に通すと、制約開放の条件について、正確な情報を伝えることにした。
「なぁ、ローザ。 どうして抱きついたんだ?」
「へ?」
ローザの顔が凍る。
……やべ……率直過ぎたか……?
「……だ……だって、先生がそうしろって……」
……あの熊谷のアホ野郎……!
「い、嫌だったかしら……」
「そんなことない! そんなことないけど……」
俺はローザの頭に手を置く。
「……ライト?」
「……あんなことしなくても、この程度でよかったんだぞ?」
目線を合わせるために少しかがむ。
……しまった……思ったより近かった……
俺は慌てて下がろうとするが――
「ななななな――!?」
それよりも早く、頭から湯気が出そうな勢いで赤面したローザは、「あうぅぅ……」と目を回して気絶してしまった……
「え……?」
……嘘だよな?
「ちょっ! ローザ! ローザ~~ッ!!」
******
*********
あの後、心の中で自分のデリカシーのなさに謝りつつ、ローザをベッドに運んで万事終了……したはずだった。
俺が起きるまでは。
「あれ……?」
ベッドから降りて隣を見ると、そこにローザの姿がなかった。
まさかと思って自分のベッドを見直すも……そこには居なかった。
……そりゃそうだよな……
わざわざ他人のベッドに潜り込むような奴はあいつしかいない。
それに、ローザにテッパンイベントを期待しても無駄だと昨日わかったところだし……
……じゃあ、いったいどこいったんだ?
まさか寝過ごしたかと思ったが、まだ6時半だ。
学校には十分間に合う。
……まぁ、どこかにはいるだろう……
このまま気にしてても埒が明かないので、気を取り直して朝食を作りに行くことにした。
「ふぁぁあ……」
春休みボケが直っていないのか、あくびが出てしまう。
……時間あるし、あと15分だけ……
二度寝をしようとソファーに向かう。
「すぅ……すぅ……」
「…………」
しかし、そこには先客が居た。
……あれ、おかしいな……これは夢か……?
制服を盛大にはだけさせて寝ていたのは、ローザだった。
……涎までたらして……いったいいつ移動したんだ……
同い年とは思えないほど可愛い寝顔をしているローザは、心なしか幸せそうに見えた。
……彼女の願いが叶うまで、この指輪に誓って守ってやるさ……
……もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。
俺は頭を振ってもう一度ローザを見る。
……さすがに乱れたままだと風邪引くかな……
下着まで丸見えなローザを見ていると、どうにも良心が痛んで止まない。
直してやろうとスカートに手を掛けたときだった。
「う~ん?」
……おぅ……マジか……
その瞬間を待っていたかのように、ローザが意識を取り戻す。
そして自分の身に何が起きているのかを――おそらく間違った意味で――理解したようだ。
みるみる顔が赤くなっていくのを見て、俺は素直に彼女の怒りを受け止めることにした。
「何やってんのよ、このバカ~~~っ!!!」
ローザの瞬息のアッパーカットは俺のあごを見事に捉え、俺は違った形で二度寝をすることに成功したのだった。




