チャプター 10-8
前回のあらすじ
→ジークフリートと再戦。 ヒカリの覚醒。 ライトの乱入
8
「ヒカリ! フェイルノートをチャージしてくれ!」
ジークフリートへ飛びかかりざまに、ヒカリに指示を飛ばす。
「......うん。 援護は任せて」
ビットが飛んでくるのを横目に確認しつつ、ジークフリートと剣を交える。
「ふん! 貴様があの程度で朽ちる玉でないのは知っていたが、随分と遅かったな、千剣の英雄よ!」
袈裟斬り二連を両手のビームサーベルで合わせて受け止める。
「言ってろ! そういうお前も、随分と大人しかったじゃねぇか?」
「貴様の目は飾りか? 我の腕の修復に専念していたのだ。 次は貴様を獲り逃さぬようにな!」
押し返されて距離が開くが、ジークフリートは返す剣で突っ込んでくる。
「……いや待てよ。 その腕、誰に治してもらったんだよ?」
煽りの応酬は続かず、当然の疑問が湧いて出た。
「まさか自力で治した……なんて言わねぇよな? それだったら、前回片腕がなかった理由がつかない」
理由はまぁ……その部分のクリスタルが俺の手の中にあるからってことで間違い無いと思うが……
「おい、なんとか言ってみろよ?」
「……我をなんだと思っている。 モンスターを使役して治療を施すぐらい、他愛もない」
力尽くで押し返してきたと思ったら、その場を飛び退いたジークフリート。
瞬間、目の前をいくつものビットが空を切った。
「本当か? そうだな……お前には、協力者がいるだろ? 違うか?」
「協力者? 吐かせ。 貴様のような弱き人類とは格が違うのだよ、我は」
自身の手を俺に向け、何かを小声で唱えたジークフリート。
「……疑うなら、見せてやろう。 今の我は、王にも等しい」
……モンスターの気配……まさか、マジで呼んだのか……?
「......兄さん!!」
チャージの関係上、その場を動けないヒカリが警告してくれる。
ヒカリの身は、周りを飛び回る計二十四機のビットたちが守ってくれているみたいだが……
「まだだ! ヒカリ!」
ぞろぞろと木々の間から顔を見せてきたのは、何十頭という≪クリスタルバック≫。 一体どこに居たのだろうか。
「どうした、サウザンドよ? 貴様の刀を抜けば良かろう?」
……≪雷切≫を使えば、こいつらは一瞬だ。 だが……
「……いや。 俺はもう頼らないって決めたんだよ」
……ルナからたった一度の解放権をもらって、まだ完全解放は使ってない。 それを使えば、倒せる可能性は格段に上がるだろうが……
「それに、俺には未来がある。 こいつがある限り、負けやしない」
「強がる必要はないぞ、サウザンドよ。 斬られてから後悔するぞ!!」
迫るゴリラの拳を躱し、払いのけ、ジークフリートの剣を弾く。
ジークフリートの動きは無駄がなく、攻撃の手が休むことがない。
それを受け続けながら、ヒカリが仕留め損なったゴリラの始末をしなければならない状況だ。
……≪ダイモニオン≫の時と同じ過ちは、繰り返さない!
冷静に両手の剣を捌き、的確な指示を自分の手足に出す。
無理なく体を動かし、休むことなく、動き続ける。
「兄さん!!」
「待っ……!!」
もう限界、とでも言いたげなヒカリの鋭い声が響いた。
やむなくジークフリートの剣をバックステップで躱して射線を開けた。
もちろん後退など許してもらえるはずもなく、クリスタルバックたちは執拗に追ってきてくれる。
「......大いなる輝きよ、この矢に宿り、全てを焼き払え!! ……≪レディエンス・アーク≫!!」
俺をうまく避けて放たれた光の矢。
文字通り光速の矢は、俺の視界に写っていた有象無象を焼き払ってくれた。
「お、おい、ヒカリ! 大丈夫なのか?」
俺の経験則だと、ヒカリはこの必殺技を放つとエネルギー切れになってしまう。
この場で倒れられても困るんだが……
「......大丈夫。 今のわたしは、いつもとは違うから」
言われてみれば……≪ファフニール≫の形状がさらに変わっていた。 もはやここまで装甲を揃えれば、騎士にしか見えない。
「……もう一発、撃てるか?」
「......撃てることには撃てる……けど、時間が欲しい」
「分かった。 何カウントだ?」
だが、その返事を聞く前に動かざるを得なかった。
「フハハッ!! 良いぞ! アルテミストよッ!!」
ジークフリートは当然の様に先ほどの一撃をかわしていた。
俺がカウンターを挟めないことを知ってか、その太刀筋に迷いは見えない。
「近付かせるか!!」
その一閃を弾きつつ一太刀。
「≪龍王二式≫!!」
勢いを殺さずもう一太刀浴びせると、
「――≪龍王六式≫!!」
大剣で防がれるより早く六連撃を見舞った。
「効かぬわ!!」
振り返りざまに斬り払いが繰り出され、後退を迫られる。
「……良いのか? そのマントは、ただの布じゃないんだろ?」
「なに……?」
先の一連の動きで、ジークフリートの背中のマントを八つ裂きにしてやれた。
これで遠距離攻撃を防がれることも無いはずだ。
「ふんっ……こんなもの、ただの飾りだ」
予想に反してジークフリートは、ボロボロになった赤い布を破り捨てて見せた。
「動きやすくなっただけだ。 その程度でいい気になるな」
忠告……と受け取っておいた方がいいだろうか。
……たしかにこのままじゃ、ジリ貧だし……
「それに、ここは我の独壇場だ。 油断している暇などないぞ」
また近付いてきたモンスターの気配。
さっとあたりに目をやると、見たくもなかった黒い影が、いくつもいくつも沸いている。
「……ヒカリ、いけるか?」
「......まだ。 けど、応戦は出来る……」
ヒカリのフェイルノートは未だにクールタイム中らしいが、ビットは健在だ。 ヒカリを中心に空で踊っている。
「――油断なんて、してないさ。 お前こそ、いつまでも俺が弱いままだと思わないことだな」
「ぬっ…………」
……少し勿体無い気がするが……必要な対価だ。 いままでありがとな……
ポケットから、これまでかなり世話になっていた永続クリスタルを取り出す。
永続……その名の通り、壊れることの無いクリスタル……のはずだった。
だが俺には……そのクリスタルですら、壊してしまう力がある。
「――≪捕食剣≫、≪起動≫」
クリスタルを取り付け、もう二度と唱えることのないと思っていた合言葉を呟く。
「――≪超新星の極限龍≫!!」
直後、砕けないはずのクリスタルが、音を立てて砕け散った。
「……さぁ……第二ラウンドといこうぜ」
自身の中で、何かが構築されていく感覚。
息の乱れもなくなり、視界は良好。 身体も軽い。
そしてこの背中の感覚からして……飛べるぞ。
今の俺は……ただの人間なんかじゃない。 極限の戦士だ!
「まずはお前達からだ!!」
軽く地を蹴っただけで、視界がとんだ。
ヒカリに群がっていたガーゴイルとダイモニオンの群れをなぎ倒し、ターゲットを俺に変えた残りも切り伏せていく。
その隙にジークフリートが何もしないわけはなく、迎撃で手一杯だったヒカリ目掛けて大剣を振りかぶったのを視界の端に捉えた。
「させるかよッ!!」
大剣を横から叩き、軌道をずらす。
「貴様っ!! 何をした!?」
「これが今の俺の本当の力だ!!」
何をしたというわけでもない……ただ、俺の中の限界を超えただけだ。
「俺は負けない! もう負けはしないんだよッ!!」
……≪龍王十三式≫!!
「ぐぬぬっ……!!」
ねじ込まれそうな大剣を避けつつ、怒涛の十三連撃を余さず叩き込んだ。
「まだまだぁあああああああ!!!!」
大剣に阻まれるのも構わず、ただ本能のままに両手の剣を振った。
どれほど無茶な連撃も、今の俺ならついていける。
「もっとだ!! もっとその力を我に示せ!!」
「お前に殺された皆の分まで、お前を叩きのめす!!」
ジークフリートの太刀筋が全て見える。
不意の一撃も、死角からの一突きも、全てかわせる。
「お前が奪ったものの重さを、知れぇえええええええええ!!!」
……≪終わりなき無限の咆哮≫!!
「ぐぉおおおおおおおお!!!」
斬り返し十五連。
そのままジークフリートを弾き飛ばし、空中で隙を作らせる。
「行くぞ、ヒカリ!!」
「任せて!」
準備を終えたヒカリとアイコンタクトを取り、とどめの一撃を放った。
「「≪天星剣≫」!!!!」
天風天命流奥義。 俺とヒカリだからこそ放てる技。
そして、俺とヒカリから大切なものを奪っていった悪魔を倒すための技。
「………っ……」
技を放ち着地した途端、全身から力が抜けた。
≪イクリプス≫の効果限界時間だ。
「がはっ……!!」
まともに俺たちの奥義を喰らったジークフリートが地に叩きつけられた。
さすがに今回は……手ごたえありだ。
「......に、兄さん!」
「大丈夫だ。 ちょっと……無理しただけだ」
……くっそ……これじゃあまともに動けねぇ……!!
急に言うことを聞かなくなった身体に鞭打って、なんとか立ち上がる。
「見事だ……貴様の力、必ずこの手で討ち取ってみせる」
いつの間にか立ち上がっていたジークフリートは、そう言ってあの時と同じように俺たちに背を向けた。
「......今度は、逃がさない!!!!」
手に持っていたビームサーベルを投げ捨て、既にチャージしていたのだろうフェイルノートを再びその手に召喚したヒカリ。
「ぬぐっ……!!」
与えたダメージはかなりのものだったらしい。 ジークフリートの動きが鈍い。
その機を逃すヒカリではなかった。
「これで終わり――≪レディエンス・アーク≫!!!!」
視界が白く染め上がるほどの光の矢が、まっすぐに空を裂いた。
爆風を巻き起こし、周りの木々を揺らす。
「ぐぉおおおああああああああああああああああ――!!!!」
その光はジークフリートを包み、断末魔さえも飲み込んでしまった。
「………………」
あたりに静けさが戻った。
恐ろしいほどの静寂。
何もかもが息の根を止めたかのように、死んだ世界。
「……ヒカリ!」
力尽きたかのように、糸の切れたマリオネットの様に、地に伏してしまったヒカリ。
俺は動かぬ身体を無理に走らせ、ヒカリを抱きかかえた。
「......えへへ……やったよ、兄さん。 わたし、やっと、やっと、倒したんだよ……」
機動装甲は既に粒子となって空へ舞っていて、傷口を覆っていたクリスタルも姿が無い。
「ああ。 そうだよ……倒したんだ。 お前が、倒したんだよ」
返事をしてやらないと、すぐにでもどこかへ行ってしまいそうな……そんな不安感に襲われる。
彼女の腕からは再び出血が始まっており、この量だと……
「......わたしも、ちゃんと、戦える……兄さんの隣に立って、戦えるんだよ……」
その息は絶え絶えで、身体は……どこか冷たい。
「……あまりしゃべるな。 今はとにかく、治療をしないと……」
言ってから気づく。 今の俺には、緊急用の応急治療薬しかない。
これが効くのを待っていたら、とてもじゃないが間に合わない。
「......ねぇ、兄さん」
「何だよ?」
背中に嫌な汗が伝う。 自由の利かない身体で、ヒカリを連れて飛べる気がしない。
「......わたしを、殺して?」
だが、そんな心配も、その一言でどこかへ行ってしまった。
「………すまん。 もう一回言ってくれ」
「......わたしを、殺してよ、兄さん」
ヒカリは震える手で俺の手を握ってくれる。
「......わたし、そうじゃなきゃ、兄さんを殺しちゃう」
それでも、ヒカリの紡ぐ言葉の意味を理解できない。
「な……なんでだよ?」
「......だって、わたし、もう耐えられないの。 このまま兄さんがあいつの元へ戻るんだって考えたら、殺したくなっちゃうの」
「お、おい、ヒカリ……?」
ヒカリの目は……既に焦点を結んでいない。
「......兄さんを殺して、わたしも死んで、ずっと二人で、一緒にいるの……」
「お前……わかってるのか? そんなことしたら……」
「――大丈夫だよ。 わたしは、本当の妹じゃないから」
思考がまた、止まってしまった。
「……は?」
「......わたしはね、本当は従妹なんだよ。 血は繋がってるけど、ずっと一緒に居る権利はあるんだよ? 愛し合うことも、好きになることも、恋をすることも、できるんだよ?」
わけが、わからない。
そんなはずは無い。 たしかにいくら俺たちが似て無いからって、それは――
「......その事実を、ずっと忘れてきたんだ。 思い出したら、苦しくなるから。 わたしだって、同じように恋をして、愛し合って、愛を確かめ合えるのにって」
……否定、出来ないかもしれない。 俺は諸事情で幼少期の記憶の大半を失っている。
ヒカリは気づいたときから一緒に居た妹だ。 それ以外の事実は――
「......ずっとこのまま苦しい思いをするぐらいなら、いっそ殺してしまいたかった。 わたし以外の子と居るのを見たら、今すぐにでもわたしのものにしたくなった。 それが嫌で嫌でたまらなかったから、ずっとアルテミストの力を借りてたの」
……俺の知る事実が間違いでなくても、それが正しいことの証明にならない。 そんなことはもう、気づいてしまっている。
「......でもね、もうアルテミストが居ないの。 どこにも、居ないの……」
どこを見ているかもわからない目でこちらを向き、その赤い目からポロポロと何かを零し始めた。
「......嫌だよね? こんなわたしは。 でもね、これが本当のわたしなの。 ごめんね、ずっと嘘吐いてて。 こんなわたしでごめんね」
混乱したように、謝罪の言葉を繰り返すヒカリ。
「......だから……殺して欲しいの。 大好きな大好きな兄さんに。 殺して、欲しいの」
……どうせ死ぬなら、って事なのだろうか。
それとも……
「......そうじゃなきゃ、殺しちゃうよ?」
……自己制御できない自分を、消し去りたいから?
嘘を吐かないと生きていけない自分が嫌だから?
……どれが正解かなんて、俺にはわからない。
「......心配しなくて良いよ。 わたしは従妹だから、兄さんが罪に問われることはない」
「それは嘘だ! そんなこと……!!」
「......だから、殺して……?」
もう俺の言葉は、届かないらしい。
ヒカリの目は、ただひたすら涙を流して……
「……くっそ……どうして……」
従うしかないらしい。 俺は懐から、ヒカリに貰ったデザートイーグルを取り出した。
「......お願い……兄さん……」
そしてヒカリは、いつかのあの日と同じように、声に出さずに……
……"愛してるよ、兄さん"……
「がぁあああああああああああああああ!!!」
震える指をトリガーにかけ、それでも笑ってくれるヒカリの喉元に銃口を押し付けて……
*********
「………………」
帰って来た。
約束通り、帰るべき場所へ。
「………………」
ずっと待っていてくれたのだろうか。
割れた窓の片隅で、三角座りで彼女はそこに居た。
「……お帰りなさい」
「………………」
その声にふらふらと近付いて……
「……俺は、何を頼りに生きていけば良い?」
……その心の内の空虚を、吐き出した。
「俺は……誰も愛せないのか? 誰の愛もまともに受け止めてやれないのか? 俺は……いったい、なんのために……」
彼女の小さな胸に顔を埋めて、溜め込んでいた感情をぶちまけた。
「……いいえ。 ……あんたは悪くない」
小さな手が、俺を包んでくれる。
温かくて、優しい温もりが……
「……生きる理由は、あたしにしておきなさい。 あたしのために、生きるの」
どれだけ迷ってしまっても、その道を示してくれる。
「その代わり……あたしの前から居なくならないで。 ずっと……あたしのそばにいて……」
そんな彼女の胸で、俺は思い切り泣いた。
自分の情けなさからか。
彼女の優しさに触れたからか。
大切なものを……失った悲しみからか。
わからないけれど……それでも、泣かずにはいられなかった。




