チャプター 10-7
前回のあらすじ
→ヒカリの説得。 思いの行き違いからの矛盾に気付く。
7
「......どうしてわたしが来るって、わかってたの?」
素朴な疑問をぶつけてみた。
「……それが宿命だからだ。 龍殺しの我が、貴様の気配に気づかぬわけがあるまい」
腕を組んで、風に赤いマントを靡かせながら、蒼い悪魔は淡々と答える。
「それに貴様は……必ずや我と決着を着けなければならない相手だ」
「......サウザントソードじゃなくて?」
「アルテミストよ。 貴様の駆るその機械仕掛けの玩具。 名をなんと言うか知っているのか?」
その声はわたしに向けられているようだ。
「......なぜあなたがそれを知っているの?」
「些細なことだ。 言うなれば……それが宿命だからだ」
……宿命。 そうだ……これは用意された宿命。
果たされることが前提の、全てが仕組まれた上での宿命。
そんなものに意味などなくても、こうなることに意味がある。
「......察するに、リリの仕業……だよね? リリに何をしたの……?」
「………………」
悪魔は何も答えない。
「......まぁ、いい。 あなたが今更何を知ろうと……無意味」
……わたしも、変えたかったんだ。
例え死ぬ運命だったとしても、それを変えたかった。
わたしなりの、小さな反抗。
それが……この機動装甲の名前の由来。
「......もとより……あなたはこの機体で倒すつもりだし」
「ほざけ、愚か者よ。 貴様は既に敗北しているのだ。 貴様に定められた運命を、自らの判断を悔いながら受け入れよ!」
悪魔は……背中の禍々しい大剣を抜いた。
両手でしっかりと握られたその剣からは……恐ろしいほどの邪気を感じる。
「......悪いけど、ただで死ぬつもりは無い。 今のわたしは宿敵の影であって、宿命の断罪者でもある。 だからわたしは……あなたを、断罪する!!」
わたしと悪魔の間を、一陣の風が走りぬけた。
決着をつけるに十分な舞台では無いかもしれないが……それでも、ここで倒せるなら、何の文句もないだろう。
「飛翔せよ! 天地を裂き、その爪を以って、我が裁き手となれ! ≪ファフニール≫!!」
自分でも信じられないほどの声量で、そう叫んでいた。
「かかって来いっ!! 貴様は偽者であれど、この宿命からは逃れられんのだ!!」
ジークフリートの一閃を龍装爪で受け、装備していたビームサーベルを抜く。
「ジークフリート!! あなたは罪を犯しすぎた! 罪なき人々の命を奪い、その感情までも強奪し……それでもまだ、殺そうと言うの!?」
二連突きを弾かれ、カウンターを龍装爪で弾き返しつつ、龍装砲で迎撃を試みる。
「愚かな! 貴様は何も分かっていない! かの魔龍どもが罪なきだと? ぬかせ! あれが罪でなく、何だというのだ!」
回転切りを一歩下がってやり過ごすも、龍装砲の射撃を前へ飛んで避けられる。
「あれは世に存在していいものではない! 貴様もそうだ! 存在自体が罪なのだ!」
振り下ろされた大剣は弾かざるをえず、続く打撃をかわせない。
「があ――ッ!?」
機動装甲の自動防御システムが働き、衝撃はいくらか押さえられたが、後退を強いられる。
「その罪を裁いて何が悪い? もっと言えば、貴様らは龍だ! それを駆逐せずして、我が我でいられようか!」
追撃の切り抜けは、なんとか龍装爪で受け流せた。
返す大剣もしっかり受け止める。
腕がへし折れるかと思うほどの重量。 一瞬でも気を抜けば、押し切られてしまいそうだ。
「それが罪だと言っている!」
亜音速で飛び回る龍装爪と龍装砲を制御し、無理やりジークフリートを下がらせた。
「あなたは伝説のままでいれば良かった! 現世へ舞い戻ってまで、罪を塗り重ねる必要なんてなかった!!」
射撃で牽制しつつ、龍装爪とビームサーベルで追い討ちをかける。
こちらの武装がフルで回れば、反撃の隙を与えないぐらいの状況を作れてしまう。
「そうまでして、使命を全うする必要なんて、なかったんだ!!」
……天風天命流剣術――≪五月雨≫!!
「のぉおお!?」
……よし、手応え、あり……!!
「……っ……!!」
締め付けられるような、鈍い痛みが頭に走った。
……こんな時に……頭痛なんて……
「......だからあなたは……断罪されるべき。 その罪を裁かれて、当然」
頭を押さえつつ、ファフニールの動きを止めざるをえない。
「…………なるほどな」
ジークフリートは傷付いた鎧に指を這わせ、手に握る大剣を振った。
「ならば、この宿命が如何なるものか、示してやらねばなるまい」
フルフェイスの鎧のせいで表情は読み取れないが……
「……一人宿命の奔流に飲まれ、朽ち果てよ――」
発する気配が……変わった。
「――宿命の刃」
身構えた瞬間に、正面から突っ込んで来た。
そしてまっすぐに、わたしめがけて大剣が振り下ろされる。
「――ッ!?」
龍装爪で迎撃した……はずだった。
「......うそ……」
反射的にビームサーベルを合わせたおかげで即死は免れたが……肩口が、大きく切り裂かれていた。
腕がうまく上がらない。
いや、それよりも……
「......絶対防御が、貫通された……?」
機動装甲の自動防御が、そして龍装爪が、その大剣を防げなかった。
まるでその大剣が、わたしを切り裂くことを約束されていたように……
「……宿命の前に、如何なるものも立ちはだかることなど、できないのだよ」
再び突進切りが繰り出される。
同じように龍装爪で受け流そうとして……すり抜けたことを反射的に悟り、身体を無理やり動かす。
返す大剣を弾こうにも……腕が動かない。
「ぁぁぁああああああああッ!!!」
まだ動く腕でビームサーベルを振って刃先を誘導し、動かぬ腕を斬らせた。
焼けるような熱と、裂けるような痛みが襲う。
「だぁぁぁああああああッ!!!」
全主砲を乱射し、狂いそうな痛みを叫びで誤魔化す。
「……それが運命の重さだ。 貴様の選んだ道の重さを知れ!!」
……わたしが、間違えてたの?
間違えてなどいなかった。 正しいと思ったことを行動に移しただけだから。
……わたしは、抗えないの?
過去には……自分には、抗えなかった。
自分の定められた運命に抗えられなかった。
過去を満足に払拭することもできず、打ち勝つこともできず。
できたのはせいぜい、忘れて痛みから逃れることぐらい。
「その命を散らせ!! ファフニール!!」
マントで銃撃を防ぎつつ、ジークフリートが迫ってくる。
防ぐ術は……
「......そうか。 結局わたしは……」
ビームサーベルを振り払い、ジークフリートの突撃を躱す。
「......だったら、力を貸してよ……」
――イメージするんだ。 あの時、兄さんが見せてくれたように。
「……貴様、何を……」
わたしにまだ避けれるほどの余力が残っていたことに驚いているのだろうか。
……否。 答えはもう……知っている。
「――龍霊装具現化!!」
傷口を塞ぐように形成されていく結晶。
腕を、身体を、新たなパーツが包んでいくのを感じる。
手に握るのは、ビームサーベルではなく……≪フェイルノート≫。
「アルテミストの能力を解放したのか……。 貴様、そうまでして殺されたいか」
「......このまま死ぬわけにはいかない。 どれだけ傷付いても、あなたを断罪しなければならない」
「……まぁいい。 貴様が偽者である事には変わりない。 宿命の刃が貴様を焼くだけだ」
頭痛はいつの間にか止んでいた。
手に握る弓矢に、感じたことのない強さを感じた。
「......行くよ、龍殺しの騎士。 わたしの弓は……全てを貫く」
弓を構えた瞬間に、そこに光の矢が現れる。
それは幾重にも重なり、一撃で、矢の雨を降らせた。
「小癪なぁあああああ!!」
ジークフリートの大剣から放たれる衝撃波で軌道を変えられてしまうが、光速で放たれる矢が、着実にダメージを与えているのが目に見えてわかる。
「――ッ……」
新たに追加された龍装を展開し、障壁と火薬庫と化す。
反応速度の上がった自動回避機能で、ジークフリートとの距離を保ちつつ迎撃する。
弦を弾くたびに雨が注ぎ、わたしの中の何かを壊して行く。
忘れていたかった記憶や想いが、流れ込んでくる。
「......そうだ……兄さんなら、きっとそうしてくれる」
これだけの速度で回避しておきながらもなお、距離を詰めてくるジークフリート。
「......だって、それが兄さんなんだもん……」
宿命の刃が、わたしの息の根を止めに来る。
龍装爪の壁は当然のように突破され、矢に貫かれてもその動きは鈍らない。
「......そうでしょ、兄さん――」
――その時、そこに神速の風が吹いた。
「――そうだな。 俺ならまぁ……こうするよな」
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ジークフリートの大剣は地面を抉り、動きを止めている。
「……わざわざ死にに来たか、死に損ないめ」
「いや……お前と決着をつけに来たのさ。 もうこんな事は……終わらせるんだ」
ローザに託された新しいビームサーベルを向ける。
「......待ってたよ、兄さん。 兄さんなら……来てくれるって思ってた。 わたしを見捨てないって……ずっと信じてた」
「……当たり前だろ。 俺たちは……兄妹だろうが」
好きだとか過去だとか、そんな事以前に、俺たちは家族なんだ。 危険な目にあってるのに、放っておけるわけが無い。
「……それに、もう負けはしない。 もう自分の過去になんかに、負けたりしない」
今の俺には、帰るべき場所が、進むべき未来があるんだ。
いつまでも過去に構ってなんていられない。
「……粋がるなよ、死に損ないが。 貴様もいずれ、同じ運命を辿るのだ。 この宿命からは逃げられんよ」
ジークフリートはその剣を構える。 あの日と同じように。
「悪いが……お前を倒すには、こいつで十分だ」
あの日あの時はなかった、こいつがあれば……
「さぁ、ジークフリート! 決着をつけるぞ!」
俺の未来をかけたリベンジマッチが、幕を開けた。




