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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第八章 「閃光の風と宿命の刃《アリス・コード》」
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チャプター 10-5

前回のあらすじ

→ヒカリの覚醒。 アルテミストをめぐる想いの交錯。



「……どう? データの構築具合は?」

『はい! 順調ですよ、リーダー!』


持ち主が未だ目覚めないコンピューター上で、いくつものウィンドウを開けたり閉じたりする二人。


「ところでその……リーダーって何?」

『リーダーはリーダーですよ、先導者リーダー!』

「……ポル。 あんたがそう呼ばせたの?」

『......それは誤解。 わたしはただ、思いついた呼び名を提案しただけ』

「あんた確信犯でしょ!?」


構ってくれる人が居なくて暇をもてあましていたらしいところを見つけ、こうして仕事を頼んだわけだが……

……さすがは人工知能ナビゲーターね。 こういう仕事は軽々とこなしてくれちゃうんだから……


『それにしても、主人マスター司令官コマンダーが最近呼んでくれないなーって思っていたら、二人ともご不在だったんですね』

「不在というか……そうね。 ちょっと今は……それどころじゃなかったみたい」

『......ここ数日間、マスターのバイタルステータスが異常値を示してた。 おそらく、大怪我を負ったんだと思う』

『そうなの、ポル?』


バイタルチェックが出来るのね……。 いったい何を使ってるのかしら……


「まぁ……もうすぐ目覚めるはずだから、心配はいらないわよ」


正確には……目覚めてもらわないと困る。

ずっと寝たきりで帰ってこないなんてのは……


『それはそうと、こんなデータ、どこから仕入れたのですか? 誰かが作ったものなのでしょうけど……』

「……あたしの友人よ。 友人が……残してくれたの」


……そう。 今二人に解析させているデータは、ケンのもの。

音声データや書籍データのほかにもう一つ、大きなデータがそのディスクの中に収められていた。

タイトルは……"AIエゴ"


「まったく……どうしてこのデータだけ、こんなに厳重なのよ……」


あたしだけでは解析しきれないと判断した結果、この二人の存在を思い出して……今に至るというわけだ。


『……あ! 構築が完了しましたよ、リーダー!』

「え? ほんとに?」

『あとは、最終シークエンスをパスするだけです』

「最終……なんだって?」


画面上に開かれた、一つのウィンドウ。

真っ暗なそれは、次第に何かを映し出し始めた。


『……さて。 ここでオレから質問だ』


そして唐突に聞こえてきた声。

トルのものでも、ポルのものでもない。

これは……


『この画面を見ているのは、天風ライト本人か?』

「ライト? ライトは……」

『リーダー! 音声認識プログラムは搭載されてませんでしたよ?』

「そ、そうなの?」


仕方なく、そのウィンドウのチャット欄に文字を打ち込む。

――そうよ。 あたしとライトで見ているわ。


『……その文面、ローザだな? 別に疑ってるわけじゃないが……』


予想通り、嘘でも肯定しておかないと進まない仕組みだったようだ。

ここで正直に彼が居ないことを告げたら、振り出しに戻されるだけだろうし。


『……じゃあ、ここでクイズだ』


ババン! と音がして、その黒い影(多分ケン)が手を上げる。


『オレが好きなカップは、何カップでしょう?』

「ぶふっ!?」


何!? いったいいきなり何の話なの!?

てか、ライトはそんなこと知ってるの!?


『さぁ、答えてみろ! ライト。 お前なら知ってるはずだ』


冗談でしょ……


『……リーダー。 このプログラム上で動いている彼はNPC(データの従者)みたいです。 このまま答えが出るまで放置していても、問題ないと思います』

「うーん……ヒヨってどれぐらいだったかしら……」

『あの、リーダー?』

「あ、ごめん。 そうよね。 ここは素直に、答えをしってる彼を待ちましょうか……」

『ちなみに、間違えるとデータ全消去みたいです』

「どうしてそこを書き換えなかったの!?」


ケンもケンよ! どうしてわざわざそんなまねを……


『わたしたちでもいじれないほど、高度な権限で保護されていました。 このプログラム自体を直接どうこうすることは、わたしたちには出来ないんです。 ごめんなさい、リーダー』

「い、いえ……それなら仕方ないわ」


でも……どうしたものか……

……とりあえず、ここで休憩ね。


「……じゃあ、ポル、トル。 解析、ありがとうね」

『はい! また何かあったら言ってください! リーダー!』

『......ん』


あたしは電源を落とさぬまま、コンピューターの画面を閉じた。

……ライトの様子でも、見に行こうかしら……

部屋に帰ってきてから1時間おきに見てる気がするけど……それは気のせいね。うん。



「ライトー。 そろそろ起きたー?」


いつものように「マダオキテナイヨー」とセルフ返答をしようとした途端、自分の目を疑った。


「あれ……?」


小窓から差し込む光だけが照らす薄暗い部屋。

けれど、その姿だけは、なぜか何よりも明るく見えた気がした。


「……ただいま。 ローザ」



******

*********

************


「……………」


さて、第一声は多分、あれで大丈夫なはずだ。

綺麗な目をパチパチさせてアクションを起こせないでいるのはまぁ……仕方ないといえば仕方ない。

あれだけ重傷を負っておきながら、なんだかんだあって、帰ってきてしまったのだから。


「お……おかえりなさい。 うん……おかえり、ライト!」


駆けて来たその小さな身体を抱き留めた。


「ああ。 長くなってごめん。 心配、させちゃったな」

「ううん……ちゃんと帰ってきてくれただけで、十分よ……」


涙をその瞳に溜めて、俺にはもったいないぐらいの笑顔を見せてくれる。

そうだ……この笑顔がある限り、俺はまだ生きていられる。 未来ローザはまだ、生きているのだから。


「……ありがとな、ローザ」

「え……?」

「俺のこと、助けてくれたんだろ? 俺がこうしてまたお前に会えるのも、そのおかげだ。 だから、お礼を言わせて欲しい」

「あ、あれはその……別に、ライトが死ぬのが嫌とか、二度と話せなくなるのが嫌とか、そういうつもりでやったわけじゃないんだから……」

「だったら、どうして助けてくれたんだ?」


久しぶりのこの反応につい嬉しくなって、イジワルしてみたくなってしまう。


「ど、どうしてって……そ、そんなの、わかるでしょ! それぐらい考えなさい!!」


顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。 うん。 相変わらず可愛い。


「ははっ……冗談だ。 俺も、お前ともう会えなくなるなんて、絶対に嫌さ」

「ライト……」


……いかん。 このムードはいかんぞ。 ちょっと調子乗りすぎたな……


「……さて、まずは情報整理といこうか。 俺が眠っている間に起きたこととか、教えてくれよ」


若干近付きつつあったローザの頭を撫でて止め、そう言った。


「結局、楽園はどうなったんだ? ジークフリートは? ヒカリは……?」





「……そうか。 大体は理解した」

「……ごめん。 本当はもっと情報を集めておくべきだったのかもしれないけど……」

「いや……それだけわかったなら、十分だよ」


楽園の崩壊。 ケンの相討ちによる英雄譚の結末。 ヒカリの失踪。 そして……


「……ちなみに、ヒヨはどうしてるんだ? ステラに預けておいたはずだが……」

「……ええ。 最初は落ち込んでいたけど、今は落ち着いてるみたい」

「そうか……。 無事ならいいんだ」


よかった。 ショックのあまりに後追いでもされてたらどうしようかと思ってたけど……


「あ、そういえば、これを渡し忘れてたわね」


そう言ってローザは席を立って、棚に置いてあった二本のグリップを持って来てくれた。


「それって……」

「ええ。 BS(ビームサーベル)改よ。 拡張機器(エクステンドパーツ)は、あの島で見つけた≪イクリプス≫を使ったの。 使い方は……」

「……多分、俺の方が知ってると思う。 テストはしたのか?」

「データ上ではね。 流石に実戦運用はまだ試したことないけど……。 コアクリスタルは変えてないし、BSとしての役割は、十分に発揮してくれるはずよ」

「そうか。 それなら良いんだ」


ローザからそれらを受け取り、軽く握ってみた。

久しぶりの感覚。 手に馴染んでいくのがわかる。


「……あ、そういえば」

「うん?」


ローザは何かを思い出したように動き出すと、


「ライト。 これみて!」


いきなりコンピュータの画面を見せて来た。


「……なんだこりゃ?」


画面には、ウィンドウにクイズが表示された状態が映っていた。

そのクイズは……


「……おい。 ケンは死んだんじゃなかったのか」

「あたしに聞かれても……」

「それもそうか……」


どうせあいつのことだ。 こうなる事を予想して、何かを事前に用意していても不思議はない。


「……好きなカップか」

「う、うん」


……あぁ。 嫌な事思い出させるなよ……

まったく、ケンは死んでもケンだな……


「答えはティーカップだ」

「T!?」

「おい、数えるな。 そんなサイズは存在してない」


……去年、まったく同じネタでいじられたことがあった。

正直、ケン(あいつ)がこの話題を話したら、大抵はローザのような勘違いをして然りだと思う。


『お、流石だな、ライト。 そういうのは覚えてんのな』

「うっせーよ。 暗記モノはめんどいからやってないだけだ」


わざわざ打ち込んでまで言い訳するのもあれなので、言うだけに留めておいた。

……逆に、これが音声認識積んでなくて良かったよ。 ローザの勘違いも、俺の反論も、全部あいつにとっては絶好の餌でしかないし。


「それで、ここまでして俺に伝えたかった事ってなんだ?」

『伝えたかった事? そうだな……』


とぼけているわけではなく、本当にどうしようか迷っているらしい。


『……絶対に、どこにも誰にもこの情報を漏らさないでくれ』


そんな前置きの後、ケンはこう続けた。


『良いか。 オレたちの中で、まともな人間なのは1人だけ(・・・・)だったんだ』

「は……?」

「ど、どういう意味よ?」


隣のローザも困惑気味だ。


『絶対に、その1人を、過去のものにしないでくれ。 そいつは、絶対に護らないといけない』


なんだ?

何を言っているんだ……?

ケンは一体、何に気付いていたんだ……?


『答えは……あのクリスタルにある。 良いか、ライト』


あくまで真剣な声で、そう続ける。


『この場所がどれだけ壊れていようと、護るべきものは守れ。 オレがそうするようにな』


護るべきもの。

それは、未来(ローザ)だろうか。

それとも、もっと別の……そう、そのまともな人間というやつだろうか。


『あと、音声ファイルの最後の方に、オレからのちょっとしたお礼が入ってるから、興味があったら聞いておいてくれ。 あ、くれぐれも、2人以上で聴かないでくれよ。 オレは保証できないからな』


そう告げると、ウィンドウが閉じた。

別れの挨拶も、なにも無く。


「……一体、なんだったの……?」

「………………」


俺は気になったワードを忘れないうちに、行動に移した。


「……ポル。 このファイルの作成日は?」

『......マスターのバイタルステータスに異常をきたした前日。 その日の夜に作られたみたい』

「……そうか。 ありがとう」


……あいつは預言者か? まぁ、どうせ勘なんだろうけど……


「あいつは――」


――ガッシャンッ!!!


俺が最後まで紡ぐよりも早く、その音は響いた。

それも、すぐ隣で。


「………………」

「あ、あんたは……」


吹き込み始めた、湿っぽく強い風は……

……俺の鼻に、もう二度と嗅ぐことのなかったはずの匂いを届けた。

その匂いに振り向くと……


「......兄さん。 そこを退いて」


望んでいたはずの再会が、望んでいない姿で佇んでいた。


「......兄さん。 そこを、どいて」


向けられているのは、二機のライフル。

そして……俺の知らないヒカリの手。

彼女が駆る機動装甲は、以前のものとは形状が違っていた。

だが、変わったのはそれだけじゃない。

……そんな変化に戸惑う俺に……


「......退いてくれないと、わたし、そいつを殺せない」


……一番聞きたくなかった台詞を、淡々と告げてくれたのだった。


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