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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
プロローグ 「終わりの始まり」
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チャプター 1-7



「……冗談だよな……?」


今更そんなことを言っても仕方ないとはわかっていたが、聞かずにはいられない。


……一年足らずで戦争だと? ありえないだろ……


国内での防衛戦でさえ安定してないというのに、海外を相手に闘えるわけがない。

理屈ではわかっているのに、どこかその可能性を否定しない自分がいた。

絶対数の少ない貴重資源で、儲け話をしようと考える輩がいてもおかしく無い。 そしてもういっそ正面から奪いに行けばいいと考える奴も出るかもしれない。

一人でも実力行使に出たものなら、それを力で押さえつけなければならない。 そして大抵、実力行使に出るやつに話は通じない。


「いいえ。 すべて事実よ、今のところは」


妄想にすぎないかもしれないが、それを遠回しに肯定する返事が返ってきた。

気になるワードを提げて。


「……"今のところは"……?」


そのワードを拾い、意図を探る。


「あぁ……。 そのことなんだけど」


ローザは少しバツの悪そうな顔をすると、ため息をついてこう言った。


「実際、どこまでその通りなのか、まだ確認が取れていないの」

「……どういうことだ?」

「その表を見て」


俺は、机の上に置いていた紙をもう一度見る。


「その情報の更新日が、少し前すぎるのよ」


言われて、紙の右上のほうに書いてある、日付らしき数字を見る。


2237/01/12


……あれ? ……これ、打ちミスじゃないか……?


「ローザ。 この表、どこから持ってきたんだ?」

「東京都地区(エリア)管理長の机の中から」

「いつ?」

「その日付の一週間後だったはずよ?」


不思議そうな顔をするローザに、俺は明らかにおかしい点を指摘する。


「だってこれ……今から二年後の日付が書いてあるんだけど」


横目で、卓上カレンダーを確認する。 間違いない。 今は2235年のはずだ。


「そうよ。 あたしがこっちに来る時の一年前にくすねたやつだから、あってるわよ」


なのに、さも当然と言わんばかりのローザは、そう断言してくる。


「え……?」


混乱してきた俺に、ローザは涼しい顔で、


「言ってなかったかしら? ……あたしは、今から三年後の未来(・・・・・・)から来たのよ」


そんなことを言ってのけた。


「…………」


……み……未来から来た……だと……


冷静に、今得た情報を整理してみると。

ローザは今から二年後の世界でこの資料を盗み、それから一年後にこの世界へ飛んできたと……


……ま、まさか……な……


だがそれが事実なら、その未来は戦場と化していて、管理長が何だろうが国内のセキュリティがどうなんて言ってられないだろう。 何の権限も持たないはずの少女が国家機密級の情報を容易く掴めたのも、それならば説明がつく。


「あ、ちなみにこの本は未来で拾ってきたものよ。 あたしがこの世界に来たときに落としちゃって……」


……落とした場所が、あの廃工場だったってわけか……


「じゃあ……あのクモに覚えはないのか?」


今朝いなかったはずのあのモンスターは、ローザが未来から来たことと関係があるのか、その答えはすぐにローザの首肯に変えられた。


「ええ。 あのクモの正式名称は、≪メモリーイーター≫。 未来で流行ってた感染病の病原菌よ」

「は? クモが病原菌だって?」

「正確には、メモリーイーターの子ね。 微分子レベルに小さいのよ」


……クモの子が空中を漂っている街って……。 趣味の悪い生物兵器だな。


「あのクモの餌は"記憶"なの。 おかげでワクチンが開発されるまでは大変だったわ」


……未来はろくなことになっていないようだ。


「……話が逸れちゃったわね。 ……それでライト。 あなたはあたしの話を信じてくれる?」


戦争だとか、未来がどうだとか、いきなり言われて信じろってのは無茶な話だ。

……だけど。


「……信じるよ。わざわざこんな資料まで持ってきて嘘は言わないだろうし」

「ほ、ほんとに?」

「ああ。 それに……」


……それに、それほど大きなものを、彼女は小さな身体で背負おうとしている。 それも、たった一人で。

まるで……そう、少し前の俺のように。


「……?」

「いや、気にするな」


今はまだ、話すべきではないだろう。

きっとこれから、短くはない付き合いになるだろうし。


「そう。 ……えっと」


コホン、と小さく咳をし、ビシッと俺を指差してローザはこう言った。


「じゃあライト。……あたしと一緒に、未来を変えましょう(・・・・・・・・・)


……本気、なのだろう。 その願いの重さを十分に理解しているのだろう。 だからこそ、隣に立ってくれる人を、探していたのだろう。 一緒に、その重いものを背負ってくれる人を。

もしかしたら、本当は誰でも良かったのかもしれない。 俺じゃなくたって、代わりにその願いを遂げてくれる人がいるかもしれない。

けど俺には、不本意ながら、力がある。

それを誰かのために振るえるなら。


「ああ。 ……わかった。 俺で良ければ、手伝うよ、ローザ」

「……!」


ローザは驚き半分、嬉しさ半分といった表情を見せると、その赤い目に涙を溜めた。


「ありがとう……ありがとう、ライト。 やっぱり、あんたを選んで、良かった」

「選んだ? 俺を?」

「ええ」


目尻を拭って、ローザは微笑んだ。


「運命だって、思ったから。 あんたと出会えたことも、こうやって一緒に居られることも」


奇跡……とは言わなかった。

未来で俺と会ったかだとか、過去のローザはどうしているとか、それを聞いちゃいけないのはなんとなく分かる。

けれど、言われなくても、分かってしまえる気がした。



*********




「……今日だけで2種も新種がでるなんてな……」


俺は寝室で今日のレポートをまとめていた。

ローザは落ち着いた後、シャワーを浴びると言って、浴室に行ってしまった。

残された俺は、気まずい気分のまま食器を片付けて、手持ち無沙汰に寝室へきたわけだ。

ふと顔を上げると、時計の針はもう10時半を示していた。


……そういえば、こういうときってよく風呂場に何かしらのトラブルがあって、あんなイベントやこんなイベントが起きたりするんだっけ……


レポートがはかどらず、春休み中にやったゲームを回想してしまう。


……さすがに、そんなことがあってはたまったもんじゃない。現実と理想のギャップは、いつだって明白だろ……


とは思いつつも、どこかで可能性を否定しきれていない自分がいた。


……どうせそんな事があった暁には、また殴り飛ばされるんだろうな。


もうすでにローザには二度、意識を持っていかれている。これ以上やられて変な癖が付くとマズイ。


……条件反射とかは不便すぎる。 それだけは避けないと……


急いで頭の中で、不安因子を洗い出す。


……シャンプーは昨日補充したところだし、タオルもちゃんとまとめて置いてあったはずだ。

照明も先月取り替えたばかりだし、大丈夫だろう……


「ふぅ……何をこんなに心配してるんだ……」


嘆息して手帳を閉じた時、


「ねぇ、ライト~。 着替え運ぶの忘れてたから、トランク運んできてくれない?」


……嘘だろ……


くぐもったおっちょこちょいの声が聞こえた。


……てか、俺が出ないうちにさっさとタオル巻いて運んで来いよ……


まず着替え忘れるとか言う時点でどうかと思う。

意外と抜けてるところがあるのかもしれない。


……出る様子は……なさそうだな。 仕方ねぇ……


俺はローザが荷物を運び入れた小部屋から、トランクを引っ掴んでそのまま引っ張っていく。


……重い……何が入ってるんだ……


浴室の前へトランクをとめようとするが、重いがためにブレーキが利かず、トランクが転倒してしまう。


「ちょっと、大丈夫なの?」


パシャ、と水音。

今出られると色々マズイ……と言うか出るな俺が居るって分かってんだから!?


「だ、大丈夫だ! それより、着替えはどこに入ってるんだ?」

「え? それはもちろん、トランクの中に……って!?」


……やっぱり中か! さっさと投げ入れてここから離脱しないと!


トランクのロックに手をかけた瞬間、壊れるかと思うほどの扉の開閉音が二度聞こえ、俺の髪を揺らした。


「あんた、何勝手に開けようとしてるのよッ!?」

「ぬぐぉあッ!?」


ほんのり上気した健康的な肌色が見えた途端に、視界がブラックアウト。

そして飛び蹴りが直撃したと理解した時には既に、廊下に伏していた。

遅れて湯気に乗ってむわっと匂う薔薇の香り。

反射的に顔を上げそうになるが、目の前に大剣が突き刺さり視界の八割が塞がれた。


「こっち見たら、殺すわよ?」


気絶抵抗はできたが、取った行動が早とちりだと気付いて普通に後悔した。

てか、シャンプー持っていったなら、そこで着替えのこと気付けよ、頼むから。






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