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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第七章 「その希望は楽園の英雄譚《シンフォニア》」
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チャプター 9-8

前回のあらすじ

→楽園のケンと、走るローザ。 二人は目的を果たせるのか…?



「そっちには行かせねぇってんだろッ! この蛇野郎!!」

背後に回って攻撃を続けても、ヨルムンガンドの進行は止まらない。

「ちぃっ……!! これならどうだっ!!」

ベルトに付けていた手榴弾を剥ぎ取り、金具を外して投げつけた。

『グォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!』

お手製の爆縮爆弾はさすがに効いたらしく、初めて大きく反応してくれた。

「これなら装甲を貫通できるしな……効いてくれないと困るぜ……」

……もっとも、こいつはあと2発しかないんだが……

まさか使う時が来るとは思っていなかったので、量は作っていなかったのだ。

……唯一クリスタルの加工が一切ない武器だってのに、これが一番効くとは……

クリスタルなんかに頼らなくてもやれる、と豪語しておきながら、いざこうなってみると……

「……わぁったよ。 オレがやるさ」

先ほどの爆縮爆弾で抉り取った部位からは、囂々と煙が吹き荒れている。

「どうせ弱点を一撃でやらないと、回復しちまうんだろ……?」

爆弾の効果範囲は想定より小さかったらしく、よく見ると、抉り取れた場所はそんなに広くなかった。

……クリスタルで空間全部抉れるようにしておけばよかったぜ……できるかはわからんが……

改めて、クリスタルの万能性を思い知らされた瞬間だった。

「ほらっ! こっち向けっ!」

槍を振り回して挑発し、真後ろのラインから少し出る。

……釣れろ……!!

だがヨルムンガンドはあからさまに警戒の色を見せ、移動の速度を少し上げてみせる。

「おいおい……そりゃあねぇぜ……」

建物に体を引っ掛けては倒壊させ、槍の攻撃などガン無視で楽園内を徘徊するヨルムンガンド。

「なんとしてでも住人を殺す気だってか……? ははっ……なんの恨みを買ったんだか……」

仕方なく釣りを中止し、ビルの窓を蹴破りつつヨルムンガンドを追いかける。

「……なんの音だ……?」

いつの間に加速していたのか、電車級の速度の追いかけっこになっている中、聴きなれない音がした。

……否。 それは音と言うよりもむしろ……

「……いや……歌、なのか……?」

避難中の住民が押し寄せる西区まであと数キロと言うところで、かすかに聞こえた歌。

即座に音の発生源を探る。

……あんなところに……一体誰が……

数百メートル離れた建物の屋上に、黒い人影が。

ヘッドホンの視力サポートを受け、その歌い手を盗み見る。

……綺麗……だな……

その顔こそレースに覆われて見えないものの、ロングスカートのスリットから覗く白い脚、程よく引き締まったくびれ、幾重にも重なったレースに彩られた大きすぎず、小さすぎないその胸。

それらのどれを取っても、息を飲んでしまうほどの何かがあった。

極め付けは、その歌声。

『……Ich(イッヒ) bin(ビン) eine (アイン) Diva(ディーヴァ) in(イン) dir(ディア)……♪』

……悪いがオレはわからんぞ。 このヘッドホンに翻訳機能は無いからな……

だが、その歌声は、不思議と意識を惹きつけられるような……そんな感じがする。

……あんな綺麗な人……居たかな……

ヨルムンガンドを追いかけつつ、漆黒の長い髪をたなびかせて歌い続けるその歌い手を見つめる。

そうして何小節か歌が奏でられると、

『グルルルルルゥ……』

ヨルムンガンドに動きがあった。

「なっ……! おい、どこ行くつもりだッ!?」

急に真上へ飛んで、どんどん上昇して行く。

……マズイ。 それより上に行ったら……!!

追いかけようにも、初速が違いすぎる。

ーーガッシャアアアアアアアッッ!!!

大量のガラスを砕いたような、耳を劈く破砕音。

瞬間、視界の全てが黒に染まった。

「クッソ! どこだっ!? どこに何があるっ!?」

突然視界が奪われたせいもあり、頭が焦燥感で埋め尽くされてしまう。

減速しようと槍を振って壁に叩きつけて、なんとか体勢を立て直す。

「……そうだ。 あの歌……」

多大な量の電流が漏れたのだろう。 青白い光とともに、割れ残ったガラスが砕け散り、空を赤く染めた。

その火の手はやがて地上にまで及び、視界の自由が戻ってきた。

「……お前、だれだよ?」

『………………』

歌声を頼りに、這い上ってきたが……どうやらあたりだったらしい。

背後から声をかけた瞬間、その歌声はピタリと止んだ。

大きなスリットがあるせいでその白く綺麗な背中が惜しげも無く晒されているが、それを上から覆うように、美しく艶やかな黒髮が爆風に靡いている。

「……もう一度聞く。 お前は……何者だ?」

『………………』

ゆっくりと、その背中が振り向いた。

「………………」

黒いレースの先には、青い仮面。 目元だけ隠すタイプのものだ。

先ほどまで歌を紡いでいた唇は真一文字に結ばれている。

頭の羽根っぽいあれは……多分、髪飾りだ。

……そのスタイルの良さなら、ヒヨに匹敵するレベルだろう。

だが……圧倒的なまでの美しさが、そこにあった。

ヒヨはどちらかと言えば、"可愛い"部類に相当する。

一方、目の前のその少女は……

……なんだよ、この暴力的なまでの美貌はよ……

ただただ、美しい。 それ以上の形容が思いつかない程に。

『……油断しないで。 まだ、終わってないわ……英雄さん(・・・・)

「………っ!?」

その不意打ちの一言だけで、恐ろしい情報量だった。

……なんだこれ、本当に喋ってるのか? というかそれは質問の答えになってないし、そもそもオレが英雄って……

燃え移っていく炎がかろうじて視界を照らす中、気になることは山ほどあったはずなのに、なぜか目の前の少女しか目に入ってこない。

ーードゥゥウウンンンッ!!!!

大量の何かが落ちてくる音がした。

『グォォォオオオオオオオ!!!!』

楽園を震わせるほどの咆哮。

先ほどとは比較にならない程の速度で、ヨルムンガンドが迫ってくるのが見える。

……ヤバっ!?

思考はまとまらないが、身体は動いていた。

『……………!?』

少女を抱き抱え、屋上から飛び降りる。

……暑いのは炎のせいだ。 間違いねぇ……

さらに近距離になって、甘ったるい匂いに気付く。

……うわぁ……本当にいい匂いする……

心臓が過剰運用している気がするが、ボーッとしてきた頭ではどうすることもできない。

とりあえず、このやわらかさと温かさを身に刻んでおくことにした。

『………………』

腕の中の少女は呆気に取られているのか、こちらを見つめて動かない。

「………………」

……いかん。 見とれていたらこっちがやられる……!!

ヨルムンガンドの突進を躱し、瓦礫を蹴り、窓を破り、なるべく直線的にならないように逃げる。

「……………ちょっといいか」

『え…………?』

小手先の器用さをフル活用し、少女の仮面を剥いだ。

『………………』

「………………」

驚きによってパッチリと見開かれた目。

その目は澄んだ闇夜のように透き通っていて、見ているだけで飲み込まれそうだ。

……初めて明かされた彼女の素顔。

だが、その顔は……

『………………』

少女は困ったように静かに微笑むと、

『………………』

小首を傾げ、人差し指を唇に添えた。

「……ったく。 そういう事かよ……」

問い詰める気は……起きない。

『……ン、ケン!? 聞こ……でしょ!?』

「あ? なんだよ?」

ヘッドホンから聞こえてくる、ノイズ交じりの声。

音が断片的に聞こえてくるせいで、よくわからない。

『……た……よ! ……えてる……ら、返事……だい!』

「あー……こりゃだめだな」

まったく聞き取れないと判断し、ヘッドホンを外して首にかける。

……どっからかけてんだよ……地上との連絡でも、こんなになったことは無いぞ……

『……誰からだったの?』

「……オレの大切な、友達からさ」

……多分な。 よく聞こえなかったからわからんが……

適当に誤魔化して笑いかける。

『グァアアアアアアアアア!!!!』

ヨルムンガンドはしつこくこちらを狙って突進をかましてくる。

追いかけっこの立場が逆転してしまっていた。

「……んで? お前があいつをあんなにしたのか?」

腕の中の少女に問いかける。

『私は…………ただ、歌を歌っただけ』

「そうかよ」

追いかけて来てくれるのを良いことに、人が密集しているはずの地区から遠ざけるように逃げる。

……どうする……こいつを連れて来たはいいが、このままじゃトドメを刺せない……

どこかで少女を降ろさないといけない。 それだけは理解していた。

……かなり息も苦しい……あんまり長々と遊んであげる時間はないんだよな……

もうこうなっては建物の状態を気にするほどの余裕など無い。

容赦なく窓を蹴破って中を突っ切り、なんとかヨルムンガンドに遅延を試みる。

「はぁっ……はぁっ……っく……」

楽園の終点までたどり着いてしまった。

楽園が完成した当初、一番事故が発生したポイントだ。

……向こうまで続いているようにしか、見えないよな……やっぱり……

だが、わかってしまえばただの壁。

「おらぁあああああああ!!」

少女をしっかり抱き留めたまま、地を強く蹴って壁に飛び乗る。

斜角的に立っていられないところを、≪アンチグラビティ≫の補助サポートを受けて無理やり地面に変えて走った。

ヨルムンガンドは速度の出しすぎか、急上昇が間に合わず、壁に激突してくれる。

その隙にヨルムンガンドの背後へ壁伝いに回りこんだ。

「おい、どこまで自力で飛べる?」

燃え盛る炎を避けつつ落下していく。

崩れていく楽園を見下ろしながら、腕の中の少女に問いかけた。

『……あと一回は移動できると思う』

返事は予想の斜め上だったが、問題なさそうだ。

「……じゃ、一旦お別れだ。 歌姫さんよ」

『…………』

少女は何も言わない。

その表情はどこか切なげだった。

「…………目、閉じろ」

「え……――!?」

少女が反応し終わるより先に、彼女の唇を奪った。

……これは想像以上に……

今まで感じたことの無い感覚に酔い痴れる。

……くそ……くっそ…………

ひび割れた地面に降り立ち、唇を離す。

「――はぁっ…………はぁ……」

離れていく温もりに、酷い切なさが襲う。

離れたくない。 もっとこうしていたかった。

そう思わずにはいられないが……

『………………』

少女は恍惚としていたが、すぐに我に返ったようにさらに赤くなってそっぽを向いてしまった。

『……泣くぐらいなら、逃げればいいじゃない』

だが、ぼそりと、そう告げた。

「…………うるせぇ」

『私の初めてを、勝手に奪ったくせに……』

「いいだろ……オレだって、初めてだったんだから」

もう、行かなくてはならない。

ヨルムンガンドがこちらを探している姿を捉え、頭がそれだけを伝えてきた。

……いやだ……離したくない……離れたくない……

だが、止まらぬ涙が、この心が、冷静な頭を鈍らせる。

『……ほら、行かないと、でしょ?』

そう言いながらも、少女はオレを抱き寄せた。

先ほどとはまた違ったやわらかさがオレを包む。

『これでお別れじゃない。 お別れなんかじゃ、ないんだよ』

少女の声は力強く、オレの折れそうな心を叩いてくれる。

『それに……キミにしか、できないんだよ……そうでしょ、英雄さん?』

「うぅ……ぐぅっ…………」

……そうだ。 ヨルムンガンド(あいつ)をなんとかできるのは、もうオレだけ。 オレにしか……出来ない。

奥歯を噛み締め、震える身体を奮い立たせた。

……英雄になるって、決めたじゃねぇか。 楽園ここを守って、英雄になるって……

そっと少女の抱擁を解除し、地面を踏ん張って立ち上がる。

「……ありがとう。 オレ、やるよ」

『………………』

少女は何も言わず、微笑んでくれた。

「もし、次に会えたときは……」

「……うん。 全部話すよ……………英雄さん(ケンくん)!」

力強く頷いてくれた。

その表情は涙で濡れていたが、オレにはもったいないほどの、最上級の笑顔だった。

「………行ってくる」

これ以上この場に留まっていたら決意が揺らぎそうなので、背を向けて地を蹴った。

「………まさか、お前にこんな形で励まされるときが来るなんてなぁ……」

涙は止まらない。

それでも、この意志は、まっすぐやるべきことを成し遂げに向かっていた。

ちらりと背後を盗み見たが、もうそこには誰もいなかった。

……さて、やりますか……!!

まだオレのことを探していたらしいヨルムンガンドの前に躍り出る。

「オレはこっちだぜっ!!」

そしてその鼻先に、爆縮爆弾を投げつけた。

『グルラァアアアアアアアアアア!!』

顔面の先端が潰れたみたいだが、ヨルムンガンドが息絶える様子は無い。

「……はぁ……結局そうなるのか……」

頭では分かっていた。

コイツを仕留める方法はこれしかない。

「ほら、こっちだ!!」

すかさず体勢を直して突っ込んでくるヨルムンガンドを背に、再び空を駆ける。

……でも、この速度じゃおそらく……1秒でも足を止めれば、喰らわれてしまう……

頭では、わかっていた。

……けど……オレはやるぜ……もう、腹は決まってんだ……

そして、意志も、その旨を理解した。

「……あいつにどうやって謝るかな……あんまり落ち込まないで欲しいけど……」

走り、飛びながら、そう愚痴る。

「まぁ……こんなこともあろうかと、ってデータはあるんだけどなぁ……」

だれに聞かせるわけでもなく、

「誰かが偶然たまたま見つけてくれたら、いいなぁ……」

ただ、そう愚痴る。

……この辺でいいかな……

渾身の力をこめて地面を蹴って、ヨルムンガンドに振り向きつつ、爆縮爆弾を引き抜く。

「……じゃあなっ!! ちゃんと爆ぜてくれよっ!!!」

そして、力の限り、大口を開くヨルムンガンドに投げつけた。

瞬間、腕を襲う謎の感覚。

後方へ吹き飛ばされるような感覚。

そして、眼前に迫るヨルムンガンド。

それらが、捉え切れた情報だった。

――グシャァアアアアアアアアア――!!!!

もみくちゃにされるような……もはや感覚など存在しないような中、どこまでも押しつぶされていく。

息が出来ない。 視界もおぼろげだ。

苦しい。 何も、見えない――

――いや、なぜか明るい。 ここは地下のはずなのに。

息が吸いたくて身体を動かそうとしたら、詰まっていた何かが体の外に逃げていった。

息は吸えない。 身体も動かない。 視界も……白いままだ。

……そうか……これで、終わりか……

全てが静かになった世界で、ぼんやりとそう思う。

……でも、お別れじゃ、ないんだよな……

思考が……停止していく。

……また……会えるよな…………

全てが……停止していく。

何もかもが、終わった世界で。


************

*********

******




「このっ!!」

『甘いぞっ!!』

マズイ。非常にマズイ。

『どうしたっ!? 貴様はその程度ではないだろう!?』

二本目を抜いておきながら、今ひとつ戦況を変えられていない。

「......やぁああああ!!」

『ふんっ! 軽いわッ!!』

「......くぅっ!?」

ヒカリもビームサーベルの二本目を抜いているが、神速の攻撃もかなり防がれてしまっている。

「ヒカリっ!! 奥義を……!!」

「......む、むり……」

ヒカリの顔色が悪い。 足もよく見たらステップがおぼつかない感じだ。

「……嘘だろ……」

ヒカリには劣るとは言え、持てる全速力で刀を振っている。

だが、ジークフリードは左手で持った大剣一本で防いでくる。

まるで俺の攻撃が見えているかのように。

……いや、まさか……見えているのか……?

反射神経ではどうにもならないはずのパターンを入れているが、それをわかっていたかのような剣捌きで的確に弾く。

『ふんっ……もう良い』

ジークフリードが呆れたように呟いた瞬間、

「なっ……!?」

左手から刀の感覚が無くなっていた。

……くっ……≪全てを見定める目エリートスキャニングアイズ≫……!!

咄嗟に視界をスーパースローに。

ジークフリードの剣は、迷いなく俺の心臓を貫きに来ている。

それに合わせて右の刀の軌道を修正。

さらに身体の入りも変更。

「ーーはぁっ!」

解除された瞬間、金属音が響いた。

俺の右の刀がジークフリードの剣に弾かれた音だ。

「ヒカリ……っ!!」

「......え!?」

ジークフリードが剣を反す前に、目の前のヒカリを突き飛ばした。

土埃舞う、地面の方へ。

何も掴むものもない空中に躍り出る。

そのままヒカリは眼下へ落ちて行く。

瞬間、俺の身体に違和感が生じた。

「………がはっ……」

銃弾で撃たれたかのように、痺れて動けない。

喉の奥から溢れて来たそれを吐き出す。

赤かった。 ひたすらに、赤い。

視界が、真っ赤だ。

『あっけない幕切れだな。 サウザンド』

「ぐぁ……ぐぅっ……」

切り裂かれるような痛みが全身に走り、脳が弾けるかと思うほどの衝撃が俺を襲う。

痛みの発生源に手を伸ばす。

体の左側。 違和感があるのはそこだ。

「………………」

刺さっていた。 禍々しい、大剣が。

ジークフリードの、大剣が。

『いただいて行くぞ、その命』

そう告げた途端、その剣が鈍く光り始めた。

おそらく、俺から感情を吸収しているのだろう。

「………………」

多量出血のせいか、もはや身体の感覚がない。

苦しい……そんな感情だけがそこにあった。

……何やってんだろ、俺……

負けた。

その事実が、ようやく追いついて来た。

負けたのだ。 復讐を試みて、あっけなく返り討ちにされた。

……本当に、何をやってるんだ……

勝てるつもりだった。

俺はあれだけの数の敵を倒して来たんだ。 もうジークフリードになんて負けない。

いつからか、そう思っていた。

だが、どうだ。

二人掛かりでも、結局倒すことはおろか、ダウンの一つも取れやしなかった。

……俺は、一体何のために……

もう、わからなかった。

どうすれば良いのか。

足掻くだけの意志など、もう残ってはいない。

そんなものは、プライドと刀とともに消え去った。

もう、何もない。

復讐は失敗し、俺はここで然るべき罰を受けるんだ。

こんなもののために力を利用した、俺の罪に対する、罰だ。

……何のために……戦ってきたんだ……?

ヒカリだけでも逃がそうとあんなことをしたが……あれがトドメになってしまったかもしれない。

俺は自分の妹さえ、まともに守れなかったんだ。

……何のために……

結局何一つ守れないまま、何も変わらないまま、こうして俺は罰に身を委ねるしかない。

何もかも、もう、無意味だ。

……未来を……

もはや苦しみすらわからなくなってきた中。

ふと脳裏に浮かんだ、彼女の顔。

……未来は、どうなる……?

あんな未来にはさせない!と、運命そのものに立ち向かった彼女はどうなる?

俺をそのパートナーに選んでくれた、あいつはどうなる?

俺を信じてくれたあいつは。

俺が信じたあいつは……どうなるんだ?

…………ごめん……

だが、答えは出ない。

……ごめんな……

もう、どうしようもないのだから。

……ごめんな……ローザ……

やがてそんな感情も薄れていき……


……何かが砕ける音がした。



『………うちの相棒パートナーに、何をしているのかしら?』


どこからともなく声が響くと、

『ぐぁあっ!?』

突然の衝撃が、ジークフリードを襲った。

『な、なんだ貴様は!?』

血の滴り落ちる大剣を杖に、体勢を立て直す。

そんなジークフリードの目の前に、微細な粒子が舞い始めた。

『あなたに教えてなんてあげない。 あたしもあんたを知らないしね』

やがてその粒子はある形を成していく。

まるでそこにもともと型があったかのように、

「……それに、何がどうなってるか、あたしが聞きたいぐらいだし」

ローザが、姿を現した。

『邪魔をするな!!』

もう少しで……というところで横槍が入ってご立腹な様子だ。

ジークフリードは容赦なく、姿を現したばかりのローザに斬りかかった。

「……≪血薔薇の悲鳴ブラッドローズ・サイン≫」

だが、その剣がローザを捉える瞬間、

『ぐぉぉおおおおお!?』

無数の蔓がジークフリードを締め付けていた。

その蔓は、あるいは腕を、あるいはその体を貫いている。

「……って事で、なんかヤバそうだし、さっさと退散させてもらうわね?」

ローザが取り出したのは……インスタントクリスタル。

『おのれっ!! おのれぇえええ!!!』

蔓が絡みついて身動きが取れないジークフリードはただ叫ぶことしかできない。

「じゃあ、またね?」

クリスタルの効果を発揮させた瞬間、ローザの姿が消えた。

≪インビジブル≫を使ったのだ。

『許さんぞ、≪スカーレッド≫!!』

ローザはその叫びに応えることなく、どこかへ去って行ってしまっていた。

腕に、相棒パートナーを抱えて。





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