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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第七章 「その希望は楽園の英雄譚《シンフォニア》」
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チャプター 9-7

前回のあらすじ

→ジークフリード、ヨルムンガンドと会敵。 時制は少し前へ。



「……よしっ! 出来たわ!」

動作確認を済ませ、ついに完成したBS(ビームサーベル)改を握る。

「ふぇ~……なんだかんだ言って、結構かかっちゃったね~」

つぼみん先生はぶつくさ言いつつも、計測用に取り付けていた機材やコードを取り外していく。

「早く持って行ってあげないと……!」

二振りのBSをポケットにしまい、

「ありがとうございます、つぼみん先生!」

礼を言いつつ教室のドアに手をかける。

「う、うん! 赤月ちゃん、気をつけてね!」

「わかってる!」

大きく息を吸い、ドアを開けて部屋を後にした。

「……って、なんの騒ぎよ……?」

廊下に出た途端、その喧騒に出鼻をくじかれた気分に。

「あー……そうか、そうだったわ……」

窓の外を見て、全てを察した。

……そうよ。 南原市の地下シェルターは地下楽園……だけどそれがつかえないなら……

「……くっ! どうしてこんな時に……!!」

学園に駆け込んでくるのは、居住区に住む一般人。

それも……楽園に行けない、普通の学生かお年寄りばかりだ。

……自家シェルターじゃ危険だって言うの!? いったいどんな敵が来てるのよ……!

ここ――南原軍事学校は、軍事学校として教育の場でありながら、対モンスター戦での守りの要としての役割も担っている。

防衛戦争リベリオンの時には、海上戦で鉄壁の防御力をみせつけたんだとか。

……ここは無理してでも飛んでいくべきなの……? いや……

飛んでくるところは見られているかもしれないが、ここで飛んで行ったらさすがに熊谷あの先生も黙っていないだろう。

……クリスタルはある程度作成できるということを証明したとはいえ……捕まってあれこれ聞かれるのは……

世の中、他人に話したくないようなこともあるものよ。 うん。

「……仕方ない。 あの群像を強行突破ね……」

階段を降りて例の人だかりの前へ。

他の出口もあるにはあるが、島から出るにはこの道を通らないとどうにもならない。

無論飛べればこんな手間も無いが、今はそれは得策でない気がする。

「落ち着いて、前の人から順番にお願いします!」

早く中に入れろとうるさい一般市民を宥める生徒を横目に、人の流れに逆らって進んでいく。

だが、こんなに住人いたのかな……と思ってしまうほどの人の波に呑まれ、なかなか抜け出せない。

「……ん? その赤髪、赤月か?」

「え?」

名前を呼ばれ、反射的に振り向くと、

「……え、えっと……」

どこかでみたことある顔が。

「……進藤だ。 3年の進藤拓海だ」

「あぁ、進藤先輩! トーラス戦以来ですか?」

「そうだな。 あの一件は本当に助けられた。 皆に代わって礼を言う。ありがとう」

「い、いえ! お礼ならあたしじゃなくてライトかヒカリに……」

……ってそうだ! ライト!

「進藤先輩も誘導係なんですよね?」

「そうだが」

「島の外に出られるルートって、他にないんですか!?」

スタッフ専用、みたいな抜け穴を期待して聞いてみた。

「急ぎの用事か? だったら、校舎の裏の地下通路を使うといい」

「地下通路!?」

「緊急時の避難経路として設けた通路らしいが、もうかれこれ2年間は使われて無いはずだ」

……そんなものがあったのね……知らなかったわ……

「あれは確か地下道路と繋がっていたはずだ。 この地震で車も電車も動いていないだろう。 今ならあそこから外へ出られるはずだ」

「あ、ありがとうございます! 先輩!」

こういうのを頼れる先輩と言うのかもしれない。 そんな気がする。

「整備はされて無いと思うが……気をつけてくれよ」

「はい! 先輩も気をつけて!」

変なおじさんに絡まれたりしないように、ね!



かくして校舎裏。

表の住民の対応に追われてるせいか、ここまで来る途中に生徒の姿も先生の姿も見かけなかった。

「……あった」

庭の草木に覆われた一角に、埋もれるようにして錆びた鉄の扉があった。

「……先生に捕まる方がめんどくさい。 うん」

ライトのことだし、きっと大丈夫。 刀も生成できるって言ってたし、実際何度かしてたし。

……だからきっとこれで間に合う。 そしてBS(これ)でトドメを刺してくれるはず……!

「よし……行くわよ!」

天秤にかけ終わった後、錆びて酷い音がする重い扉を引き上げ、その真っ暗な穴を見据えた。

……あたしが熊谷先生にしごかれれば済む話……いやいや、それはない……落ち着け、あたし……!

その暗さに少し思考がひよったが、震える足でその穴の中へ踏み込んだ。

「ひゃぁあ!?」

瞬間、あたしを襲った無重力感。

そして、重力に遵った自然な落下の感覚。

「――≪フラッシュ≫! ≪アンチグラビティ≫!」

気づいたときには手が動いていた。

懐からつまみ出したクリスタルの欠片を放り投げ、叫ぶ。

「――っはぁ!?」

再び訪れた無重力感。

特定のキーワードで起動するように組んだインスタントクリスタルが効果を発揮したのだ。

「……視界も良好。 大成功ね……!」

満足感に浸っていると、いつの間にか地面に降り立っていた。

「い、急がないと! ただでさえ遠回りしてるんだし……!」

幸いにも道は一方向にしか続いていなかったので、そちらへ迷わずに駆け出した。

地下通路は想像通り、じめじめとした薄暗くてそんなに広くないただの通路で、電気は通っていないらしい。

唯一の救いは、迷路の様に道が交差していないことだろうか。

「一応この島って、埋立地としてつくられた人工島なのよね……?」

走りながら、ふと疑問に思ってしまう。

「……いったい、どこに繋がってるのよ……」

長くまっすぐに伸びる一直線の道をひたすら走る。

≪フラッシュ≫の効果が切れる前に地下道路へ出ないと……

「……風の音! 出口ね!」

自分の靴音が響くなか、それでもわかるほど強い風の音が耳に届く。

同時に、消失点の先が白く光り始める。

ラストの何百メートルかを走りぬけ、その光の先へ。

「――ここは……」

暗いが広い道を照らすオレンジ色の蛍光灯。

天井には飛行機のエンジンのようなプロペラ。

轟々と風が吹き抜けるこの場所は……

「……地下道路。 それも高速道路の……!」

車の姿は見えない。 先輩の読みどおり、交通機関は粗方止まっているらしい。

「こんなところに繋がってるなんて……だれが作ったのかしら……」

先はどこまでも続いているかのように真っ暗で見えない。

「……ん?」

どうしたものかとウロウロしていると、風の音に紛れて、カッ、カッ、と靴音らしき音が。

「だ、誰かいるの!?」

問いかけてみるも、誰も答えることなく、足音だけがだんだんと近づいている。

「……あんなところにも通路が……」

数十メートル先に、先ほどと同じような空洞が。

音はどうやらそこから響いてきているらしい。 かなり近いように感じる。

「…………っ!」

突然その穴から何かが飛び出し、あたしの視界を横切って行った。

……あれは……誰……?

靴音の正体はあのヒールで間違いないはず。 ドレスのような黒い服のスカートは翻り、ここまでくればもはや不健康と言えるほど白い太腿が丸見えだ。

だが……その顔は黒いレースのようなものに覆われているようで見えず、誰なのかを特定できない。

「――――」

そんな観察をしているうちに、道路を挟んで反対側の穴に消えてしまった。

正直、見惚れてしまって動けなかっただけだが。

「……あ、あそこから出られるの!?」

通路は二つ。

さっきの少女が出てきた方と、入っていった方。

……進んできた方向的には……

あたしの足は、気づけばさっきの少女の後を追いかけていた。

……別に気になるからとか、そんなんじゃないんだからね!?




*********

********

******



「おい、ライト!?」

通信機からは無情にも通話終了の音が。

「くっそ……どういうつもりだよ、あいつ……」

オレは仕方なく通信機を仕舞い、管理職のおっさんに軽く指示を飛ばす。 もちろん、いつもの開発者権限で。

「……オレだけでどうにかしなきゃってことか……」

あいつの自分勝手な行動をかなり前向きに解釈すれば、楽園ここはオレに任せてくれたってことなのだろう。多分。

「良いぜ……やってやる。 ナメるなよ。 オレはこう見えても、≪ウェポンマスター≫を持つ学園無二の男なんだぜ……!!」

誰に言うでもなく、そう呟く。

「そんな事もあろうかと、ありったけの武器を地下倉庫にぶち込んでおいたのは正解だったな……」

建設時に不要になった武器を放置していただけなのは秘密。

「……どうせ侵入してくるんだろ? だったら……」

混雑している地上へのエレベーター前エントランスを抜け、地下へ降りる。 もともと地下だが。

「こっちもそれなりの準備はさせてもらうぜ!」

倉庫の扉を開け放ち、その中を走り抜けていく。

地下楽園(オレの庭)を犯そうとした事、後悔させてやる……!!」



「天海様。 東地区の住民の避難が粗方終わったとのことですが」

数刻後、どこの戦闘員だみたいな格好で眼下の光景を見守っていたオレに、係の者が連絡に来た。

「……エレベーターの運用を急がせろ! 裏手の緊急ハッチを使っても構わん! とにかく全員を地上に送り届けるんだ!」

「あ、天海様はどうなさるおつもりで……?」

あ? なんだ、サングラスなんかかけてSP風な感じしておいて、情けないことにオレの心配をするのか……?

「……笑わせるな。 オレは残る」

「な……!」

「ここはオレとエミ(あいつ)の思い出の地だ。 捨てることなんてできない」

「し、しかし……」

瞬間、地面が、世界が大きく揺れた。

視界を震わせるほどの振動。 まともに立っていられるやつなどいないだろう。

「天海様! 予想通り、東地区の障壁からモンスターが……!」

「――――――」

心のどこかでは、冗談だと思っていた。

モグラ一匹寄せ付けない、頑丈な障壁でこの楽園は守られている。

どうせ入ってこれまい……と、期待していたが……

「……はは。 マジかよ……」

こういう期待は当たった試しがない。

「……なぁ」

「はい」

「……いや…………お前らも、きちんと生きろよ」

「……はい」

もういいや……こんな空気、嫌いだし。

「じゃあ……行ってくる」

ガラス張りの窓をぶち破り、外へ飛び出す。

独特の浮遊感がオレを襲うが、落ちる気配はない。

着ているベストにあらかじめ、トーラスのクリスタルで加工した糸を縫い付けておいたからだ。

≪アンチグラビティ≫を意図的に発動できるベストなのだ。糸だけに。

「……面白くねぇ。 でも……ありがとな、つぼみん先生……」

このベストをもらったのはつい昨日。

ローザがあの防犯装置を作っている隣で、先生の隙間時間を使って作った代物だ。

……空を翔けれたら便利だろうな……なんて思いで作ったが……こんなに早く試す時が来るとは……

ビルや建物の屋根を蹴り、通常ではありえないほどの飛距離で侵入者を迎えにいく。

「……あれか」

通信機付きヘッドホンを装備。 おまけで付いている半透明のディスプレイが、様々な数値を弾き出していく。

動きはゆっくりとしたものだが、崩れ落ちていくビルを見れば、あの生物がどれほどの破壊兵器かはわかってしまう。

「……覚悟しろよ、化物モンスター……!」

屋根を、屋上を、蹴って、蹴って、蹴って。

「その罪は重いぜ……?」

空を翔けて、翔けて、翔けて。

「せいぜい苦しんで死ねっ!!」

両肩にかけていたランチャーを四発ぶっ放す。

その軌道がバッチリモンスターに向かっているのを確認し、背中のバックパックに刺さったビームライフルを抜く。

……今のオレは、空飛ぶ弾薬庫だぜ? この弾幕に耐えられるかな……?

ビームライフルを構えると同時に、ミサイルの発射口ハッチを開く。

「……狙い撃つぜ、外しはしない」

ミサイルとビームを同時発射。 不発がなければミサイル三十発は全て、あのモンスターに向かうはずだ。

「まだまだぁっ!!」

バックパックのレバーを引いて、空になった発射口を切り離す。

そのタイミングで全弾が命中したらしく、爆発音と衝撃が伝わってきた。

「それ以上は行かせねぇぜ!!」

やはりこの程度で朽ちてくれるほどの相手ではないらしく、進行は止まらない。

こちらも足を止めずに、ひたすらにビームを放ち続ける。

「ちっ……全弾当ててるんだけどなぁ……」

この速度でこれだけの命中率は、自分でも褒めれると思う。 ……的がデカイってのは言わない約束だろ?

「仕方ねぇ……第2フェーズだ」

横移動でモンスターを釣る形で飛んでいたが、一転。

ライフルを捨て、モンスターに肉薄する勢いで前へ。

「武器はまだまだあるんだよっ!!」

背中から抜いたのは、二本の槍。

刃の部分にクリスタルの特殊加工を施した、対モンスターの武器としてはオーソドックスなものだ。 一部で売っているほどで、今となってはポピュラーなカテゴリの武器だ。

「おら、おら!!」

その槍を迷わず投擲し、続けざまに六振りのダガーを取り出す。

槍は刺さったようだが、モンスターの動きに変わりはない。

同じく加工しているそのダガーは、趣向を変えて、モンスターの頭部を狙ってみた。

だが、

『グォオオオオオオ!!!!』

咆哮とともに開かれた口で、丸呑みされてしまった。

「うわ……流石のオレも引くわ……」

……強すぎる。 予想以上だ。

刃物も銃弾も通す紙装甲のくせに、怯むことを知らない本体の耐久値。

その鱗は飾りかと言いたくなるほどの、チート体力持ちのモンスターだったらしい。

「……めげてどうする! やるったら、やるんだよっ!!」

頭部を追う形で建物を蹴っているが、このモンスターが向かっている先はおそらく……

「人が居るところを狙ってるのか!? ふざけるなっ!!」

ダガーを六本、十二本、二十四本と投げていく。

建物の壁を蹴って至近距離で放っても、血の一つ出やしない。

仕方なく頭部を集中的に狙うことに。

『グォオオオオオオオオオオ!!!』

「……やっぱ、そうか……」

攻撃対象を頭部に変えた途端、モンスターに動きがあった。

「弱点はそこなんだな!?」

壁を蹴って背後に回り一閃。

反対側の壁を三角飛びの要領で蹴ってもう一閃。

「くっ………!?」

しくじって少しでも真後ろから外れると、モンスターの牙がオレの身体を狙う。そうなっては武器を投げて≪アンチグラビティ≫で緊急回避を迫られる。

……流石に……そろそろなんとかしないとなぁ……

最後の二本の槍を取り出し、軽くなってしまったバックパックを切り離す。

……けど……負けねぇ。

不思議と、諦められるような気持ちにはなれなかった。

……負けるわけにはいかねぇ。

たった一人で、倒せる見込みもないような敵に挑む、バカな騎士であっても、

……オレは、エミ(あいつ)に、希望を……

必ず打ち勝ち、

……人類の希望を……人類最後の希望として、託してくれてるんだよ……っ!!

英雄・・になってみせる。

それがどれだけ不可能に近くとも、

……オレは、絶対に諦めねぇっ!!!!

全てを救う、正義の英雄(ヒーロー)になってやる!!



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