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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第七章 「その希望は楽園の英雄譚《シンフォニア》」
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チャプター 9-6

前回のあらすじ

→ヒヨが走って来てモンスターの出現を予告。戦闘準備へ



「せ、先生! あいつのビームサーベルは!?」

教室に飛び込むなり叫ぶ。

「んぇ? ど、どうしたの~?」

何をしていたのか、つぼみん先生があわあわしながら返事をした。

携帯端末を机に放り投げているあたり、何かを見ていたのかもしれない。

「も、モンスターが来てるって! だ、だから、ビームサーベルを……」

「えぇ!? モンスターが!?」

「まだ報告来てないんですか?」

「う、うん……。 赤月ちゃんこそ、どこでその情報を……」

いつものおっとりさは影を潜め、動揺を隠せていない様子。

「そ、それは……」

言い淀んだ瞬間、あたしの携帯が震えた。

間髪入れずにそれを確認する。

「赤月ちゃん!」

「ええ。 急ぎましょう!」

届いたメールは……モンスター討伐任務の依頼メール。

どうやら公式で発見されたらしい。

「あとは拡張備品ネクストパーツを取り付ければよかっただけよね?」

「うん! はやくライ君に渡してあげないとだもんね!」

……さすがにヒヨのことを話すわけにはいかないもの……いいタイミングだったわ!

メールを配信してるのが誰かは知らないけど、感謝しないとね……!



*********

*********



「おいヒカリ! 居るか!?」

扉を押し開け、リビングに駆け込む。

「......ど、どうしたの?」

ステラと何かしていたらしいヒカリ。

かなり驚いているようだが、表情はあくまでもポーカーフェイス。

「戦闘準備だ! すぐそこまで来てるぞ!」

「......知ってたの?」

「お前が見せてくれたじゃないか。 あの大きな反応のやつだ」

痛みに耐えているのか一言も発さないヒヨをソファーに寝かせ、自分の装備を確認する。

……そういえば俺、ビームサーベルがなかったらまともな武装ないじゃねぇか……

「......聞いた? 病院で収容されてた≪精神崩壊病≫患者、90%が完治したって」

「……は?」

初耳だ。 そもそも、治るものだったのか……?

「いや、どうして今その話が出てくるんだ?」

「......その病院、ジークフリートが通った形跡があった」

「なんだと……?」

≪サーチャー≫には追跡機能があったはずだ。 おそらくそれで追っていたのだろう。

「......それが昨晩の話。 今は……」

「来てる……のか……?」

そこまで言ったとき、携帯が震えた。

確認してみると……

「……モンスターの出現報告。 予想ランクは……SS級……」

意味がわからない。

どうして、なんのために。

なぜこんなところを襲う?

「......わたしのサーチャーが正しければ……」

ステラにヒヨの側に居てやるように言って立ち上がる。

「......間違いなく、ヤツは居る」

「……そうか」

……ついに……そう、ついにこの時がやってきたんだ。

気づけば生唾を飲んでいた。

……ようやく……この悪夢を終わらせられる。

「何かあったら言ってくれ。 任せたぞ、ステラ」

「おう、任せとき!」

「……だから、こっち(・・・)は任せてくれ」

「…………うん。気ぃ付けてや」

「ああ」

……ステラだけじゃない。 育成場だけでもない。犠牲になった皆のためにも……

「……ヒカリ。 行くぞ!」

餞別の品としてあの日もらったDE(デザートイーグル)を装備し、リビングを後にする。

「......兄さん、飛べるの?」

「心配するな。 クリスタルは何も、科学武器がないと動かないわけじゃないだろ?」

「......う、うん。 そうだけどーーっ!?」

「しっかり掴まれよ!!」

意志をしっかり伝えてウィングを展開し、ヒカリを抱きかかえ、手すりを強く蹴って飛び出した。

「おい、ケン! そっちの様子は!?」

装備したままだったサーチャーの待機ポーズを解除し、ケンとの回線を復帰させる。

『ひどい地震が来てるぜ……。 メール見たけど、まさか……』

「あぁ。 予想的中だ」

『ちっ……このタイミングでこの襲撃はさすがに黙ってられねぇな……!』

「多分今回も人為的なものの可能性がある。 住人の避難と犯人捜索、急いでくれ!」

『わーってる! 今やってるっつーの! ……ったく、どうしてこんなことに……!』

スピーカーの向こうからガヤガヤと人の声が聞こえる。 避難が始まったらしい。

『……出現ポイントはわかるか!?』

サーチャーをいじって探索サーチをかける。

「……こっちに向かって来る……!?」

後ろを振り返るが、そこには何もいない。

……そうだ。 地下にいるんだよな……

『あ? なんだって?』

「いや……このペースだと、東側の地区エリアのどこかから侵入して来るぞ! そっちから先に出て行かせるんだ!」

『あいよ! ついでにそっちに討伐班を派遣させるように言っておく』

「それが良い。 ……てか、居たのか? 討伐班」

『……今から呼ぶんだよ』

「……悪い。 愚問だったな」

モンスターの侵入なんて想定していないはずだしな。

避難も満足にできていないはずだ。 出入り口は1つしかなかったし。

『お前はどうするんだ?』

「できれば手伝いに行きたいところだが……」

「......兄さん、あれ……」

腕の中のヒカリが指差す方を見ると……

「……生憎と、先客・・がいるんだ」

『先客だぁ? 何するつもりだよ?』

「……犯人探しさ」

『は? ちゃんと説明しろ!?』

近場の地面に降り立ち、ヒカリを降ろして通信を切った。

これ以上説明してやる必要はない。

これは俺の問題だ。 あいつにまで関わらせるわけにはいかない。

「……あれだよな?」

「......うん。 間違いない」

数百メートル前方。

例の病院の上に、黒い影が見える。

「何やってるんだ……?」

どうやら何かを天に掲げているようだが……

「……まぁいい。 どう見ても、今がチャンスだ」

ヒカリの方を見る。

無言で頷いてくれた。

「援護、頼むぜっ!」

再び翼を展開し、空へ舞い上がる。

「ジークフリートぉおおおおおおーーっ!!!」

『……っ!?』

間髪入れずその影へ、具現化させた刀を振り下ろす。

距離はみるみるうちに縮まり、影の全貌がはっきり眼に映る。

紅いマントに蒼いフルアーマー。

そして、禍々しい、蒼炎の大剣。

見間違えるだろうか、この姿を。

「喰らいやがれっ!!」

まっすぐに振り下ろされた渾身の突進斬り。

『……待ち侘びたぞッ! サウザンドソードッ!!』

だが、当然のように左手に握っていた大剣で受け止められた。

反動を翼で踏ん張り、鍔迫り合いに持ち込む。

「その名で……呼ぶんじゃねぇっ!!」

そのまま押し切り、地面に着地する。

痺れる腕を振りつつ、目の前のそいつを睨んだ。

全長は2メートルほど。

フルフェイスのせいで表情は読み取れないが……

……間違いなく、この騎士は……

「……ジークフリート!」

激情の悪魔、ジークフリート。

俺にとって因縁の相手であり、抹消すべき存在である。

『久しいな、サウザンド。 我が封印されて以来か』

脳に直接響いて来るような声。

リリと同じ、テレパシーを使っているのだろう。

「確かにお前は封印されていたはずだが……どういう了見だ?」

言いつつ、ジークフリートを観察する。

左手に握られた大剣は禍々しく光り、紅いマントも相変わらずの様子だ。

だが、マントは右腕を覆い隠すように羽織られている。

『うむ。 あの小娘はなかなかのやり手だった。 我もさすがに身動きができなかったぞ』

「……それで?」

『我と契約したいという輩が、わざわざ我の前に現れたので、封印を解いてもらったのだ』

封印を解いてもらった。

やはり事実だったんだ、封印が解かれていたのは。

「……お前と一緒にいた少女はどうした?」

『あの小娘なら、封印を解いた時にはいなかったぞ。 テレポートを使ったと見た』

「……なるほどな」

リリはなんとか無事らしい。

あいつがテレポートを使えるというのは初耳だが、どこかにいるのは確かのはずだ。

「お前は何をしてたんだよ」

息も落ち着いてきたので、立ち上がり、刀を構えた。

『我は貴様を倒すため、この地の"激情"を取り込んでおったのだ。 この地には、強い感情が溜まっておったからな』

……そうか、≪精神崩壊病≫は精神、もっと言えば感情に関わる病気……

崩壊した精神は、さぞ強く感情を爆発させたことだろう。

……こいつのエサは"激情"……こいつの契約主が仕組んだことで間違いなさそうだな……

そして、これでこいつの契約主は今回の事件の犯人と同一人物、神谷シンで確定というわけだ。

「……もう気は済んだか? だったら……」

『だったら、どうする?』

「……お前を、倒させてもらう!」

力の限り、地を蹴った。

……天津風流流剣術……≪雷切≫!!

『ならば、我も貴様を狩らせてもらおう、サウザンドよ!!』

タイミングは完璧。

速度も申し分ない。

普通の人間なら肉眼で捉えるのは難しいはずだ。

『ふんっ!!』

だが、相手は悪魔モンスター

「ぐっ……!!」

届くかと思った刀を大剣で叩き、俺の動きを止めてみせた。

足に洒落にならない重圧がかかる。

「このっ!!」

刀を傾け、大剣をパリィする要領で滑らせ、ジークフリートに肉薄する。

そのまま薙ぐも、空を切るだけだった。

『この程度かっ!』

鈍い金属音が響き、俺の身体が宙に浮く。

ジークフリートのカウンターを刀で防いだ結果だ。

「ヒカリっ!!」

「......任せて!」

返事と共に、空から無数のビームが降り注いだ。

『ぬぅ!?』

さすがのジークフリートも追撃をキャンセルし、回避に回らざるを得ないようだ。

『……ほう、≪アルテミスト≫か。 ちょうどいい。 貴様も狩らなければならない相手だ。 かかって来るが良い』

空から飛来したヒカリの≪機動装甲ファフニール≫。

剣で真っ向から勝負しても分が悪いが、空から攻撃できるとなると変わって来るはずだ。

……それは良いが……ずっと刀を振るわけにもいかないぞ……

こちらのカード的には、まだ足りない。

あいつは大剣から感情を吸い取る。

なので、俺の意志でできたこの刀が触れるだけで、俺の意志という感情が持っていかれる。

……そのためのビームサーベルなのに……こんな時に限って……

『来ないのなら……こちらから行くぞ!!』

ジークフリートが跳ぶ。

まるで重力など働いていないかにような跳躍力だ。

「......くっ……!!」

ファフニールは対象との距離を一定に保つように自動で動く機能があったはずだ。

『遅いわ!!』

迎撃用に放ったビームをマントで受け流し、それでもジークフリートは距離を詰めた。

……追いつかれている……のか……!?

ヒカリとファフニールの反応速度を上回ったためか。

「キャッ!!」

右の砲台が斬り裂かれて爆ぜた瞬間、なんとか速度が追いついて回避行動を始めたが……

「クソがっ!! どこまでもチート能力しやがってっ!!」

ジークフリートは空を蹴り、ファフニールに迫る。

俺も翼を翻し、追いつこうと加速を始めた。

「…………っ!!」

ヒカリは残った左の砲台で迎撃を試みたようだが、放たれたビームはジークフリートを掠りもしない。

……機動装甲は外付けのデバイスを装備しているだけで、酸素ボンベも緊急脱出装置もないんだぞ……

あんな速度で飛んで、ヒカリの身体が耐えられるか不安だ。

「ちっ……!!」

もはやジェット機の勢いで飛ぶ二人に追いつける気がしないので、諦めて懐からDE(デザートイーグル)を取り出す。

ただの銃弾じゃモンスターに効果がないのは明白だ。

だから、特別製を発注済みだ。

「マントで無効にされる可能性は、考えてなかったがな……」

特殊な能力が付与されているのか、ファフニールのビームは全てマントで受け流されている。

「……右腕が無いのか……」

マントの下には何も無かった。

……ビームサーベルがあいつのクリスタルで出来てるって言っていたが……こういう事か……

サーチャーで視力補正をかけて狙いを定める。

ヒカリが酸欠で倒れる前に当てたいところだが……

一定の距離を保って飛び回る二つの的に、この位置から当てるのはさすがに俺には……

……いや、諦めてどうする……やるしか無いだろ……ッ!!

歯を食いしばり、目に全神経を総動員させた。

……≪全てを見定める目エリートスキャニングアイズ≫……!!

意志がブレたために翼が消えた感覚があったが、代わりに、視界の全てがスーパースローの世界に変わった。

……本当は使いたくないが……これで当てる……ッ!!

スーパースローでもなお機敏に動く物体を睨む。

「そこだぁああああああああ!!!」

迷わずにトリガーを引いた。

俺を地面へ送り返すような衝撃と共に、一発の銃弾が空を切り裂いた。

文字通り光速で走るその銃弾は、通常の速度に戻った視界の中、まっすぐにジークフリートのもとへ。

『ぬっ!?』

マズルフラッシュで反応したらしいジークフリートは、身を少し傾けてマントで防ぐ体勢に。

しかし、マントは銃弾を受け止めることができずに、そのまま銃弾はジークフリートの身体を貫いた。

『ぬおぉ!?』

さすがのジークフリートも体勢を崩し、降下せざるを得ないようだ。 減速しながら、こちらに向かってきている。

……あれは≪アンチクリスタル≫が組まれた銃弾だ。 銃弾に触れた部分だけが一時的にクリスタルの効力を失う、というもの。

クリスタル製品の緊急停止用に開発された技術を取り入れたんだが……かなり有効みたいだぞ、これ……!

『貴様、何をした!?』

先に地面に降り立っていた俺を追いかけてジークフリートも着地する。

「……人類の技術力、なめるなよ」

『……ほう、なるほどな……』

「…………」

追いかけっこから解放されたファフニールが遠くの方で減速を開始し、俺の数メートル後ろで止まった。

「......ごほっ……助かった……」

ヒカリは口元の血を腕で拭いている。

どうやら肺か気管をやったらしい。

『…………』

ジークフリートは信じられないと言った様子でマントに開いた穴を見つめている。

身体の方を気にしないあたり、さほどダメージは与えられていないのかもしれない。

『……これは一本取られた。 まさかこのマントを傷付けられるとは……』

ジークフリートがそこまで言った時、地面が小刻みに揺れ始めた。

「な、なんだ……?」

その揺れは徐々に大きくなり、地響きもだんだんと近くなって……

『……だが、こちらも負けるつもりはない』

病院の前のスペースが割れ、地面が水柱のように弾け飛ぶ。

『それに……悪いが、貴様らに楽園は必要ない』

辺りが一瞬で砂埃に塗れ、屋上ここより下が見えなくなった。

『オロオオオオオオオッ!!!!』

耳を劈く恐ろしいほどの轟音に天を睨むと、

「なんだ……これ……」

龍……だろうか。

形容し難いほどの大きさを持つ龍が、空にアーチを架けるように俺たちの頭上を飛んでいた。

その速度は先ほどの追いかけっこに比べものにならない程遅く、しかし、圧倒的なまでの存在感を俺たちに植え付けた。

『地蛇龍ヨルムンガンド。 我が依頼主が呼び出した神龍よ』

ジークフリートはどこか自慢気に、けれどもどこかつまらなさそうにそう言う。

『貴様らの絶望、恐怖。 残さずいただいて行くぞ!』

言い終わる頃には、そのヨルムンガンドは再び地面に潜り始めていた。

俺たちの頭上には文字通り、ヨルムンガンドの胴体のアーチが架けられている。

……この下は……まさか……

『だが……まずは貴様を葬らせてもらうぞ! サウザンドよ!』

「……っ!!」

ヨルムンガンドの後を追いたい気持ちをグッと堪え、悍ましい速度で迫るジークフリートに迎撃態勢をとる。

……クソッ……どうなっていやがる……この戦場は……!!

「≪龍王零式≫!!」

俺の持ち得る中で最強の防御札を切る。

相手の攻撃を刀で受け流して無効化する、龍王零式。

これが使えているうちはどれだけの猛攻が来ようと、見えている限りは直撃を避けることができるはずだ。

……≪朧月≫でカウンターしたいところだが……

大剣を振る速度は異常で、隙を見せれば簡単に急所を突かれそうな勢いだ。

……相手に隙がなければ撃ち込むことも……

カウンターをカウンターされては元も子もない。

「......やぁああ!!」

『甘いわ!』

ヒカリがファフニールを仕舞い、ビームサーベルで突撃するも、

「......ぐっ……ごほっ……」

軽くパリィされた後、思い切り蹴飛ばされてしまっていた。

その間、俺に攻撃するチャンスは無かったが、猛攻を一時的に止めることができた。

「この……っ!!」

その隙を逃さず、俺は二本目の刀を抜く。

『そうだ。 そう来なくてはな!!』

片方の剣で大剣を抑え、すかさずもう片方の剣で攻撃したが、バックステップで回避されてしまった。

「…………」

横目でヒカリの様子を伺う。

……早くも満身創痍ってところか……?

無茶な運転がかなり効いてるみたいだ。

……はは……マジかよ……

戦えば戦うほど相手は強くなり、こちらは一方的にリソースを奪われる。

……こんなの……手詰まりも良いところじゃねぇか……

ジークフリートは再び剣を構えなおした。

……クソ……ローザ、早く来てくれ……!!




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