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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第七章 「その希望は楽園の英雄譚《シンフォニア》」
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チャプター 9-5

前回のあらすじ

→ケンの昔話を聞いて、クリスタルの欠片が何かを判別した。



「……結局、そのクリスタルは原因じゃないんだな?」

地下楽園へのエレベーターの中。

「ええ。 直接的な原因でないのは確かよ」

転移クリスタルの欠片をケンに返し、大雑把に説明をするローザ。

「でも、今回の事件と関係がないわけではないわ」

そう言ってごそごそし始めたと思ったら……一枚の紙を取り出した。

「その転移クリスタルなんだけど……転移先の座標がある程度固定されていたの」

「そんなこともできるのか?」

「何言ってるのよ。 あたしたちが使ってたのだって座標指定できたじゃない。 精度はあれだけど」

「確かに……」

そうじゃないと不便だよな。 精度はあれだが。

「転移先の候補をいくつか書いておいたから、あんたの権限で警戒レベルを上げておいて」

「あいよ。 ありがとな、ローザ。 オレのわがままに付き合ってくれて」

「いいのよ。 困ったときはお互い様でしょ?」

「…………」

「ちょっと、なに笑ってるのよ?」

「……いや、ローザも成長したなって」

「そ、そうかしら?」

「そうか? 身長も胸囲だってこれっぽっちも――ぐはっ!?」

見事なまでのボディーブローを入れられるケン。

今回はケンが悪い。 間違いなく。

「そうじゃなくて……ローザって割と一人でやりたがるタイプだったからさ。 こうして助け合ってるのを見ると……」

「なによ……あんたが言ったことじゃない……」

「え?」

聞き返すと、ローザは急に赤くなって、

「……あ、い、いえ…………当然じゃない! あたしたち、仲間でしょ!?」

と、まくし立てた。

「お、おう……そうだよな」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。 よっし、オレも頑張りますかね」

ケンがそう言ったちょうどその時、エレベーターの扉が開いた。

「じゃあとりあえず、いつものルート回るぞ」

かくして、日課になりつつある見回りが開始された。

俺はただ、今日も無事に終わってくれることを願うばかりだった。



「……なぁ、ローザ」

「何かしら?」

「結局、≪精神崩壊病≫が発病する原因って何なんだ?」

「あたしに聞かれても……」

うーん、と唸るローザ。

「クリスタルが原因でないとなると、やっぱりモンスター……かしらね」

「まぁ、それが妥当な考えだよな……」

「……不満そうね?」

「まぁね」

この地下楽園が完成してから6年ほど経つらしいが、それまでモンスターがここで発見された報告はない。

転移クリスタルで移動できても、モンスターを運び込むことまでは現実的じゃない。

そう考えると……モンスターが侵入できそうなポイントはなさそうだが……

「……あたしはこういう事に関してあまり詳しくはないんだけど……病は気からって、よく言うじゃない?」

「そうだな」

「もしかしたら、この閉鎖された空間でしかかからない新たな伝染病……ってことも考えられない?」

「つまりなんだ……鬱病みたいなものという可能性と、新種病原菌の発見の可能性……ってことか?」

「そうそう。 あたしはそれが言いたかったのよ!」

なるほど……モンスターの可能性を捨てたら、もうこんな可能性しかないのか……

「……よし、この辺は大丈夫そうだな。 俺たちもその侵入場所の調査に行こうぜ」

「え? え、えぇ。 そうね」

自分の出した可能性に関してコメントがないことは……スルーしてくれるらしい。

先にケンが行ってくれているが、今のところ何の連絡もない。

便りがないのはなんとやら、って言うしな。多分、大丈夫だろう。

「そういや、その侵入場所を絞ったはいいけど、どうするつもりなんだよ?」

「ふふん。 そんなの決まってるでしょ?」

ローザは得意げに笑うと、

「……なんだよ、それ?」

何かを取り出した。

「向こうに着いたら説明してあげる。 さ、行くわよ!」

なんだろう……またつぼみん先生をこき使って作った新兵器か……?



「お、来たか」

「ケン、どんな調子だ?」

「ああ。 あとはちょちょっと手続きをするだけで、この周辺の警備を増やせるぜ」

いつもに増して得意げなケン。

「……それはそうと、なんだよ、それ?」

……やっぱり気になるよな。

俺たちの視線がローザの握るソレに集まる。

「ふふふ……聞いて驚きなさい!」

ソレを俺たちの前に突き出し、

「対侵入者用設置罠よ!!」

ババンッ! という効果音が聞こえそうな勢いでドヤるローザ。

「……さてケン。 防犯カメラの設置をしようか」

「ちょっ!? さすがにこれはスルーしないでよ!?」

未来から来た猫型ロボットの話を思い出してしまう。

あのロボットも、こんな風に道具を紹介していたのだろうか。

「もうっ! せっかくあたしが解析の合間を縫って作ったってのにっ!!」

「ごめんごめん。 そんなに怒らないでくれ」

「まったく……せめてどういうものかだけでも聞いてちょうだい」

「以後気を付けます」

正直言うと、とてつもなく嫌な予感しかしない。

「そうは言っても、名前からして防犯アイテムなんだろ?」

ケンは防犯カメラを弄りつつ、そう聞いてくる。

「そうよ。 トーラスのクリスタルを使って作ったの」

ん? トーラス……?

「お前、まさか……」

ローザはニッと笑うと、

「試しに作動させてみるわ。 ライト。 こっちに来なさい」

そのアイテムを地に設置し、俺を招いた。

「え、俺?」

そういうのはケンの担当だろ? 今決めたけど。

「しょうがねぇな……」

渋々、指示された位置に立つ。

「いくわよ! ≪グラビテイションセキュリティー≫!!」

その声に反応するようにそのマシンが光ったと思ったら、姿が見えなくなった。

「……さ、どうぞ」

どこかへ案内するかのように、お辞儀して俺を促すローザ。

今更逃げも隠れも出来ないので、その誘導に従って一歩踏み出した。

「え――!?」

そして気づいたときには、天地が逆転していた。

「え!? な、なんじゃこりゃ!?」

「どうよっ!!」

「どうよ、じゃねぇ!!」

手を振っても足を動かしても、空を切るばかりで前にも後ろにも進まない。

上下にゆらゆら動きながらくるくる回ってる……と言って伝わるだろうか。

「早く降ろせ! 」

「いやよ」

「は!?」

「どれぐらい拘束できるか見ておかないとだめじゃない? ……別に、あんたに恨みがあるわけでも、痛い目みせてあげようなんて思ってるわけでもないからね?」

あれ……? 意外と怒ってる……?

「……そうっすか」

俺は諦めて空中で胡坐をかき、無重力空間をどうやって楽しもうかと逡巡させてみる。

……泳いでみる? いや、それはさすがにアホすぎだな……

この裏路地はそんなに広いスペースがあるわけでもなく、ビルに囲まれた場所というだけあって、空が狭く見える。

……壁、蹴れるんじゃね……

手で少しスピンをかけ、回転方向を調整し、足を延ばす。

「やぁああっ!!」

足が壁に触れた瞬間、思い切り蹴ってみた。

「がっ!?」

弧を描くでもなく反対側の壁に叩きつけられた。

反動で元の位置まで戻ってくる。

「なに遊んでるの――よっ!?」

オーバーヘッドシュート!?

ローザはサッカー選手顔負けのキックで俺を蹴り飛ばした。

無重力場から出た瞬間から減速が始まったが、かなりの飛距離を記録しそうだ。

「のぉぉぁぁぁあああああああ!?」

ゴミ箱やら廃材やらをなぎ倒して丁字路の壁に激突し、ようやく止まった。

「まったく、反省しなさいよね!」

遠くでご立腹のローザが見える。

ケンはどうやらサムズアップしてるようだが……何に対してかは考えないでおこう……



俺を蹴っ飛ばして満足したらしいローザは防犯トラップを予測位置に仕掛けて回った。

その姿を見られてないか一応警戒はしてみたが……特にそれらしい人影は見当たらなかった。

「よし……オレは手続き済ませておくから、先に帰っておいてくれ」

「あぁ。 頼むぜ」

「じゃあ先に失礼するわね」

ケンに手を振り、ローザとともにエレベーターに乗り込む。

ケンは扉が閉まり始めると同時に俺たちに背を向けた。

「……これでまんまと引っかかってくれたら、楽なんだけどなぁ」

「何よ。 そんな初めから引っかからないみたいな言い方しないでよ!」

「……それもそうだな」

何を諦めているんだろうか。

こんな気持ちじゃ、かかるものもかからないな……

「『やってみなくちゃ分からない』ってのは、あんたの口癖みたいなもんでしょ? あの楽観的で前向きなあんたはどこ行ったのよ?」

悪口みたいに聞こえるのは俺だけか?

「……そんなセリフ、よく憶えてたな」

「忘れるわけないじゃない!」

「なんでだよ?」

「だって……えっと……」

なんだなんだ……急に赤くなっちゃって……

「……あたしを救ってくれたセリフなんだもの……忘れるわけないわ……」

「………………」

俺は一体いつその言葉をローザに言ったか全く憶えていないが……

「……うぅ。 なんとか言いなさいよっ!」

……なんかこっちまで恥ずかしくなってきた……

エレベーターの中が心なしか暑く感じた。



「あ、ライトくん!」

そんなエレベーターを降りると、なぜかそこに思ってもいなかった人が。

「ヒヨ!? どうしたんだよ、こんなところまで……」

かなり急いで来たらしい。 ヒヨは肩で息をしていた。

「と、とりあえず落ち着いた方が……」

「い、いえ、そんな悠長なこと--うぅっ……!!」

「おいヒヨ! 大丈夫か!?」

フラフラと倒れかけたヒヨを支える。

かなり熱い。 熱があるかもしれない。

「モンスターが……モンスターが近づいて来てる……!」

「「!!」」

モンスター……現状出現可能性のあるモンスターは……

「……ヒヨ。 また頭痛なのか?」

「う、うん。 頭に中に、酷い音が鳴り響いてて……」

それだけ聞いたら、ただの頭痛で終わってたかもしれない。 いや、今まではそうだった。

でも……クリストロンは、クリスタルやモンスターが特有の音を出していると言っていた。

もしかしてヒヨは……

「……俺の予想が当たるなら、今回もデカブツだぞ」

「な、何よそれ! 聞いてないわよ!?」

頭をよぎった可能性は……ヒカリのサーチャーで見た、巨大な反応。

「……ローザ。 ヒヨを部屋まで飛んで運んでおいてくれ。 俺はその間にビームサーベルを……」

「ビームサーベルはまだ調整中よ! くっ……後回しにしたのが裏目に出たわ……!!」

「ら、ライトくん……」

ヒヨが心配そうにこちらを見てくる。

これがRPGなら間違いなく仲間にしていただろう。

「……わかった。 俺がヒヨを連れて行く。 お前は早くビームサーベルを使える状態にしてくれ」

「わかったわ! でき次第、すぐに連絡する!」

ローザはフォトンウィングを展開し、爆風を巻き起こして飛んで行った。

「……音が、だんだん大きくなって……うぅ……」

前もこんな風に呻いていた時があったが、こんなに苦しそうなのは初めて見る。

「しっかりしろ! 部屋に戻るまではなんとか耐えてくれ!」

部屋に戻ったところでどうすれば良いか分からないのは目に見えているが……

「しっかり掴まってろよ!」

ローザにはない……と言ったら殺されるが、ローザとはまた違った感触を感じながら、フォトンウィングを展開して空へ舞う。

「……姿が見えない……どこにいるんだ……!」

クリスタル鉱山の方を見るも、それらしい影は見えない。

仕方なく、サーチャーを装備してサーチをかけて見る。

『マスター! どうやらモンスターは地下にいるみたいです!』

「地下だと!?」

海岸線をうろちょろしているのは見たが……地下か……

「今どの辺にいるかわかるか?」

『は、はい! ちょうど前方600メートル先、1000メートル下にいます!』

……まずい。 非常にまずいぞ……

「ケンに繋いでくれ! 緊急事態だ!」

間髪入れず、トルに指示を飛ばす。

「楽園崩壊の……危機なんだよっ!!」


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