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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第七章 「その希望は楽園の英雄譚《シンフォニア》」
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チャプター 9-4

前回のあらすじ

→クリスタルの欠片を盗んで調査を依頼した。 引き続き見回り任務へ。



「ライト……私には、やはりおまえしかいない」

「はい?」

見張り当番が午後からで手持無沙汰だった俺をわざわざメールで呼んで何事かと思ったら、開口一番にこれである。

「お前……この前の合宿で、面白いものを発見したそうだな? ん?」

「もしかして、≪イクリプス≫のことですか?」

「ああ。 それだ」

切れ長の目を光らせる熊谷先生。

「どうして私のところにも持ってこなかったんだ? レポートもまだだし、どういうことか説明してもらおうか?」

あれ……もしかして、怒ってる……?

「……まさか、私との約束を忘れたわけではあるまいな?」

「そ、そんなわけないじゃないですか」

「ほんとかね……?」

約束……忘れてなんかいないさ。

……こんな厄介なものの存在を知られたら、真っ先に首突っ込んで来そうだな……とは思っていたが……

「……俺が研究の手伝いをする代わりに、この科学武器ビームサーベルとクリスタルを俺にくれる……ってやつだろ? もちろん、覚えてる」

「間違ってはいないが……いや、そういう約束だったか」

「違いましたか?」

「いいや。 間違ってないさ」

ふぅ、とため息一つ。

「確かに、私も最近は自分の研究で忙しかったのもあって、お前に何もしてやれてなかったな。 それは謝るよ」

「別に何もしていらないんだけど……」

「いいんだぞ? 私のものになれば、3食昼寝と私付きでヒモ生活を送れるんだぞ?」

「誰がなるかっ!?」

なんだか久しぶりに聞いたな、その誘い。

「……まぁ、そうか。 お前には大切な”彼女”がいるからね」

「ぶふっ!?」

先生に言った覚えはないんだけど!?

「私よりも彼女たちに構ってやるのを優先したくなる気持ちはわかるが、たまには私にも構ってくれよ?」

ローザに限定して言ってるわけではなさそうだな……

「水島先生をこき使わないなら考えます」

内心胸をなでおろしながら、そう言って突き放す。

「……まったく、釣れないね……」

そろそろ訴えてもいいんじゃないか、これ……

「……まさかと思いますけど、こんなことを言うために呼び出したわけじゃないですよね?」

「当たり前だ。 遊びはこれぐらいにして……」

いつものクールに戻り、羽織った白衣を翻してコンピューターの前へ。

「……地下楽園の警備任務にあたってるんだって?」

「はい。 ≪精神崩壊病≫に伴って、対モンスター警戒用に……」

一応、そういう説明が討伐科でされていた。 あくまで、この病気の原因がモンスターである可能性を加味した上で、だろう。

「その≪精神崩壊病≫なんだが……」

引き締まったくびれに手を置いて、あごに手をやり目を細める。

「人の精神に影響を与えるクリスタルの存在を確認してみたところ、未だ精神干渉可能なクリスタルは見つかってないという結果に終わった。 原因がクリスタルって可能性はなくなったわけだ」

「……なるほど」

ということは、あのクリスタルは……

「ただ、お前と赤月が持ってきた『クリスタルの人工的生成について』のレポートにあったように、誰かが作為的に(・・・・)そんなクリスタルを作ったという可能性もなくはない。 それだけは忘れないでくれ」

どうやら先生は、俺たちがこの事件の調査をしていることを知った上で情報を出してくれているらしい。

「……でもまぁ、だいたいこういう不可解なことが起きるときは、決まってモンスターが原因のことが多い。 気楽にいけ」

「は、はい」

気楽に、ねぇ……

「……先生」

「なんだい? 私の仕事ぶりに惚れたか?」

「……地下楽園について、教えてくれないか」

とりあえずスルーを決めて、足りない情報を引き出してみる。

「……ケンくんのことかい?」

「…………っ!!」

「どうどう。 そうじゃないかなって、思っただけだよ。 女の勘ってやつかな」

つい睨んでしまったが……熊谷先生(この人)は出会った時からこんな感じだ。

人の考えを読んでいるというか。 先を見通す力がある。

「実は……今回の警備の話が出たとき、真っ先に賛成したのは彼だったんだ」

忘れてたけど、こう見えて討伐科の担当教師だったな……その時俺はいなかったけど。

「それで、ちょっと気になって調べたんだよ。 ……そしたら」

「そしたら?」

「……地下楽園の建設時の話が出てきたんだ。 もう10年ほど前の話だ」

――クリスタルが発見されてから飛躍的に伸びた技術力により、利用可能土地を地下に求め始めた人類。

地下楽園都市建設計画もこの時に組まれたものだとか。

その建設計画に……ケン。 そして……

「……彼の世話役という肩書を持った女性が一人、その計画に一枚嚙んでたんだ」

――彼女の名は”エミ”。 所属も本名も年齢も不明。

ただ言えることは、かなりの地位と権限を持ち合わせていたということだろう。

改革・変革期を迎えていたこの時期に、各地の重要機関の会議に出席しては会議を動かしていたんだとか。

「詳しいことは本人から聞いてほしいが……おそらく、地下楽園そこでなにかあったのは間違いない」

「何か記録は……」

「おそらく誰かが抹消したんだろう。 ”関わっていた”という事実しか残っていなかったよ」

やれやれ、といったように首を振る熊谷先生。

「あとはお前に任せる。 期待してるよ、ライトくん」

俺の肩を叩き、ウィンクしてくる。

……ま、やれるだけやってみますよ……


*********



「なぁ、ケン」

午後の見回りへ向かうエレベーターの中。

クリスタル解析中且つ俺のビームサーベル調整中のローザは今日は不在だ。

「なんだよ? 今日のルートはオレが案内するって言ってるだろ?」

「いや、そうじゃなくて……」

「じゃあなんだ、病気について、何かわかったのか?」

「だから……!」

「お、着いたみたいだな。 行こうぜ」

……これは明らかに、話をさせまいとしているな……

俺はさっさと出て行ってしまうその背中を追いかけ、決定打をぶち込んでやることにする。

「……エミ(・・)だ」

「……あ?」

「エミについて……聞きたいことがある」

ケンは凄んで俺の胸倉をつかんだ。

「……誰から聞いた」

「独自の情報網で」

ケンの常套句を借りてやった。

「……普段からじゃ考えられないほど怖い顔してるぜ。 お前」

「…………」

少し黙った後、

「……はぁ。 はは……ったく、お前には敵わねぇよ、ライト」

笑って手を放した。

「来な。 見回りしながら話してやる」

そう言って歩き出す。

「話せば長くなるが……」

「……問題ない。 話してくれ」

「……わかった」

そして、ケンの昔話が始まった。



*********


*********



オレが小学2年の時だったかな。

両親の仕事の都合で、家に世話係……所謂いわゆるメイドが来たんだ。

名前は……そう、”エミ”だ。

名前の通り、笑顔が素敵な人だったよ。 それが本名かどうかなんて気にしたこともなかった。

それからの毎日は、そのエミと過ごした。

本当に母親みたいだと思ったさ。 家に帰ったら必ず迎えてくれて、家事は全てやってくれていた。

もちろん、オレも家事を手伝うことはあった。 教えてもらいながらな。

学校の行事にだって、オレの出番があれば必ず見に来てくれたし……

……でも、あいつが昼間どうしてるか、やっぱり気になるだろ?

それで小学3年生だったオレは、サボってあいつを待ち伏せして、後をこっそりつけたんだ。

そしたらどうだ。 あいつは中央地区管理局に入っていきやがったんだ。

あいつがそんな役人になったなんて話はもちろん聞いたこともなかったし、どうしてこんなところに行ったかもわからねぇ。

だったら……行くしかねぇよな?

だからオレも潜入したんだ。 あいつに教えてもらった隠密行動術を使ってな。

……あいつの向かった先は会議室だった。

オレがその時知っていた中では一番広かったよ。

そこで何を話してたか……お前はもう知ってるだろうが……そう、≪地下楽園≫開発計画についてだ。

構造はどうするか、費用はどこから割くか、クリスタルは、モンスターは。

様々な問題が湧き上がってくる中、あいつは冷静に全ての問題を解決の方向に持って行った。

正直……かっこよかった。 会議の中心にいるような、そんな風にみえたんだ。

そんな姿にオレはちょっと見惚れすぎちまって……警備のおっさんに見つかっちまった。

あの時のあいつの顔……今でも忘れられないよ。 あんなに驚かなくてもいいのにって思ったさ。

そんで、このままつまみ出されるかと思ったわけよ。 結局あいつにも迷惑かけちまったし。

そしたらその会議の議長のおっちゃんがな……『子供の意見もぜひ取り入れたい』なんて言い出して……

その場の全員が目を丸くしたよ。 オレも含めて、な。

でも冗談なんかじゃなかったみたいで……それから本当にいろいろ聞かれた。

地下楽園に何があると便利か、うれしいか。

子供ながらにかなり考えて案を出したと思う。 お前たちが行った遊園地も、オレの案なんだぜ。

どうしてオレが今までそんなこと黙ってたかだって?

そんなの、口止めされてたからに決まってるだろ……?

……それからしばらくして、ついにその計画が実行に移る時が来た。

だいたい7年前ぐらいの話になるのか。

激化していくモンスター戦闘から逃れるため、という位置づけをしたとたんに国から予算が下りてきて……呆れた憶えがある。

それでも、ついに作るんだと思うとかなり思うところがあった。

でもなぁ……やっぱり問題は次々出てくるんだよ。

これだけ大規模な工事ともなると……モンスターもさすがに黙ってなかったんだ。

もともと襲撃数はそこそこあった地域だっただろ? あん時はそんな比じゃなかったぜ。

お前はそれぐらいの時には引っ越しちまってたから、知らないだろうけどさ。

もちろん撃退するのはオレたち関係者、そして討伐隊数名。

軍事学校しかあの辺にはなかったからさ、オレもあの頃ぐらいから鍛えてたんだぜ。

結論から言えば……オレはあの戦いがあったから、今のオレがある……と思ってる。

持ち武器なんてなかった。 だから、オレはそこらに散らばっている武器を片っ端から使っていったんだ。

基本的な使い方はあいつから聞いてたから、扱えなくはなかったんだ。

ゴキブリみたいにわいてくる敵を潰し、街を守りながら戦う……

さすがに、あの時のオレにはきつ過ぎた。

結局、街はほぼ全壊。 死者もかなりの数出た。

それでも地下楽園は完成したんだ。 それだけの代償を払ってな。

でも、あれがあったからオレは≪ウェポンマスター≫になったんだぜ?

……エミ? あぁ、あいつは……あの戦いが終わった時にはいなかったよ。

もしかしたら死んだのかもな。 オレの知らない間に。

あれから一度も見てないし、連絡も取れない。

……それからは、お前のほうが詳しいかもな。 ≪リベリオン≫が起こって、一時的に終戦を迎えた。

その間、地下楽園は立派に役目を果たしたよ。 モンスターの一匹入れやしなかった。

でも……その平和な楽園も、危機を迎えてるのさ。 ≪精神崩壊病≫によってな。

オレは……何としてでもこの危機から救わないといけないんだよ。 居なくなった、エミの代わりに。

だからさ……もう少し付き合ってくれよ。 な?



*********


*********



「あ、お帰りなさい!」

「ただいま」

部屋に帰ると、ローザが出迎えてくれた。

「クリスタルの解析、終わったわよ」

「ほ、ほんとか!?」

手招きされてリビングへ。

「あ、隊長さん!」

「......お帰り」

ステラとヒカリがすでにそこで何かをいじっていた。

「先に言っておくわ。 この欠片、転移テレポーションクリスタルで間違いないわよ」

「これがウチの部屋にねぇ……」

「......わたしが見つけたって、本当?」

記憶喪失組が頭をかしげている。

何も言わないほうがいいかもしれない。

「……ってことは、シンは……」

「そう。 このクリスタルを使って出入りしてることになるわ」

……これで、入口の警戒レベルをあげたところで意味がない、ってことになるのか……

「同時に、病気の原因がこのクリスタルである可能性も消えた」

「……振り出しか?」

「現在出てる可能性はほぼ消えたわね」

くそっ……一番最悪のパターンじゃねぇか……

「そうね……警戒する範囲をもう少し絞ってみるのもいいかもしれないわ」

「……と言うと?」

ローザは記憶喪失組の前に置いてあったクリスタルの欠片を拾い上げ、

「なんとなく、このクリスタルで来られる場所が、絞れた気がするの」

静かに、そう呟く。

「……女の勘……ってやつかしらね?」

そう言って彼女は笑った。





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