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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第七章 「その希望は楽園の英雄譚《シンフォニア》」
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チャプター 9-3

前回のあらすじ

→地下楽園の見回りをすることになった。ケンに呼ばれて管理棟へ。



「お、待ってたぜ。 楽しめたか?」

部屋に着くなり、ケンは開口一番にそう聞いてきた。

「ああ。 おかげさまで……な?」

「そ、そうね。 ケンにしては良くやったわ!」

「そりゃ良かった」

ケンが話を通してくれていたらしく、名前を言っただけでこの部屋まで通してもらえたんだが……

……なんなんだ、この建物は。 見たことある重役の人が歩いてたんだが……

「……でも、こっちは全然良くないぜ」

ケンは困ったように笑うと、俺たちを手招いた。

「……それは?」

「地下都市の監視映像だ」

いくつもの画面に映る、街のあらゆる場所。

大通りから、細い裏道まで。

……てか、俺たちも映ってただろ、絶対……

「……まさか、何か映ってたの?」

ローザがハッとして問いかける。

「ご名答。 ちょうど病気が発覚した前後一週間の映像を見ていたんだが……」

そう言って一番手前のコンピューターをいじると、

「ずっと行方不明になっていた住人が映っていたんだ。 それも……」

その隣の画面がパッと切り替わった。

「……あからさまに怪しい姿で、な」

「…………」

「……誰よ、これ?」

……どこかで見たことある気がする。 どこで会ったかな……

「神谷シン。 最後に外出届けを出したのは6ヶ月前」

ちょうど裏道に入ろうとしているところを撮ったのだろう。黒いマントが翻っている。

時刻は……深夜2時。

「それ以来、帰ってきた記録も無いし、ましてや出て行った報告もない」

……どうやって入ってきたんだよ……

だが、その問いが愚問であることに気づかされる。

……透明になるぐらい、クリスタルを使えば誰でもできるな……クリスタルさえあれば、だが。

「……特徴とかわからないのか? 暗くてマントしか見えないんだが」

「そう言うと思って、ちゃんと解析しておいたぜ」

ケンはさらにマウスを操る。

「まず一番の特徴は、白い髪と赤い目だ。 身長は172cmで細身だな。 武装はしてるらしい」

「……この画像だけでそんなにわかるのか……?」

恐怖心すら出てくるレベルだ。

「それで、こいつがどうしたのよ?」

「クリスタルの使用形跡があった」

「は?」

「……今回の≪精神崩壊病≫の原因と断定しても良いだろう」

「ちょ、ちょっと待てよ!」

「どうした?」

「どうしたもなにも……決めつけるには証拠が不十分すぎないか?」

「……少し不安だけど、あたしも賛成だわ。 こいつが犯人で間違いないと思う」

「ローザ……」

「クリスタルが関わってるなら、原因としては十分に考えられるわ。 使ったクリスタルの欠片でももあれば、もっと良かったんだけど……」

「それはちゃんと保存してるって言ってたぜ。 あとで確認しに行こう」

「わかったわ」

ケンは俺の方に向き直り、

「……ちなみに、この映像が撮られた場所は住宅地区だ。 しかも、今回の患者が住んでいた」

と、駄目押しの証言をしてきた。

「……それを先に言えよ……」

さすがにここまで言われては、反論する余地がない。

……でも、こいつの目的はなんだ……? どうしてクリスタルを使ってまでこんな病気を……

「……一つ聞いておきたいんだが、ローザ。 病気を引き起こす能力を持ったクリスタルは、現時点・・・で開発されているのか?」

ローザは少し考えるそぶりを見せ、

「……いえ、聞いたこともないわ。 ≪精神崩壊≫が病気ってこと自体、知らなかったし……」

「そうか……」

……未来が変わった影響……なのか?

「とりあえず、この犯人の捜索依頼を出しておいたし、地下楽園の入り口も警備のレベルを上げてもらったから、しばらくは大丈夫だろう」

「……だと、良いんだけどな」

神谷シン。

一体何者なんだ……?



*********



部屋を出て、階段で二つ下の階へ。

シンが使ったクリスタルの欠片は、ここで保存されているらしい。

「こっちだ」

ケンは迷いなくそのフロアを進んでいく。

「……気になってたんだけどさ。 ケン、お前はどうして地下楽園ここにやたらと詳しいんだ?」

「……まぁ、話せば長くなるんだけど」

「だったら後ででいいぞ。 今はこの事件に集中したい」

「そうっすか」

ケンは安心したような、少し残念そうな顔をすると、立ち止まった。

「資料管理室だ。 今回の事件以外にも、裏で処理してる事件の証拠品が全て保存されてんだぜ」

「へぇ……」

「今回の事件ってそんな部類に入ってるのね……。 未だに実感がないわ」

「……そりゃあ、オレ達が勝手に首突っ込んでるだけだしな。 クリスタル絡みとはいえ、モンスターが関わってない以上、オレ達が事件自体に関与する必要はないし」

「……だったら、どうしてここまで調べてるんだよ?」

浮かんできた、当然の疑問。

ケンがいつになく本気で対応しているのも、どこか引っかかる。

「……気が向いたから、ってことにしといてくれよ」

だが、ケンはおどける様にそう言った。

「はぁ?」

そしてニッと笑うと、

「……さっさと見に行こうぜ。 地上に戻れなくなっちまう前に、な?」

そう言って扉を開けた。

……ケンが地下楽園に詳しいことと関係してるのか……?

さっき話して貰えば良かったな……



「こちらが証拠品になります」

「ありがとう。 少し見させてもらうぜ」

係りの人を下がらせ、ケンは白い手袋を俺とローザに渡した。

「……どうだ? 何かわかるか?」

ローザはその小さな欠片を手に取り、光を透かす様に見ている。

「……どこかで見たことある気がする」

言われて俺も欠片を手に取る。

蒼く輝くそのクリスタルの欠片。

インスタントクリスタルを使った後もこんな欠片が残ることもあるが……

……うん? この欠片、確かにどこかで見たぞ……

記憶を漁る。

同じ様に光る欠片を、俺は……

「……ステラの部屋だ」

「え?」

「ほら、レポート書いてただろ? クリスタルの人工的生成についての。……あの時使った資料も、これじゃなかったか?」

「……あ、確かに! 転移クリスタルの欠片ね!」

ステラの部屋に残っていたクリスタルの欠片。

のちにそれを分析して元のクリスタルを発明したローザとつぼみん先生は、クリスタルの意志伝達回路の配列変換とかなんとかで作れるって結論を叩き出してたっけ。

「……ってことは、これも人工物なのか?」

ケンが首をかしげる。

「おそらくそうだと思う。 これが転移クリスタルかどうかまではわからないけど……」

「そうね。 せめてこれを持ち帰って、配列を確認できたら……」

「申し訳ないですが、大切な資料なので、持ち帰られてはこちらも困ります」

「……だってさ?」

「それもそうなのよね……」

……でも、このクリスタルがなんなのかによっては、先ほどの結論が覆ることになるぞ……

もしこれが転移クリスタルで、病気の原因が他にあったとしたら……

「……ま、ここでできることはこれぐらいか」

ケンはポツリと呟き、クリスタルの欠片を元に戻した。

「帰ろうぜ。 今日はここまでだ」

「ちょ……待ってよ!」

さっさと出て行ってしまったケンの後を追って、俺たちも外に出た。



「……一応聞いておきたいんだけど」

帰りのエレベーターの中。

さっと見た感じだと、ここにはカメラはなさそうだ。

「何かしら? 言っておくけど、見ただけで判断なんて、さすがにできないわよ?」

「もちろんそれはわかってる。 そうじゃなくて……」

と言いつつ、ポケットから何かを取り出したケン。

……さっき使ってた手袋……?

「……調べたら、なんのクリスタルかはわかるんだよな?」

「ええ。 時間はかかるかもしれないけど……って、まさかあんた……」

「ああ。 そのまさかだ」

手袋を慎重に広げると……

「……おいおい。 良いのかよ?」

「ダメに決まってるだろ?」

中に丁寧に包まれていた、先ほどまで見ていたクリスタルの欠片が姿を見せた。

「……はぁ。 わかったわ。 モン研に持って帰って調べてみる。 期待はしないでよ?」

「頼む。 ローザにしか任せられないんだ」

ローザは手袋ごと、その欠片をポケットにしまった。

「……なぁ、ケン。 どうしてそこまでして……」

「お、着いたみたいだぞ」

タイミング悪く、エレベータの扉が開いてしまう。

「? ……何か言ったか?」

「……いや、なんでもない」

「そうか。 オレは手続き済ませておくから、先に帰っておいてくれ。 お疲れさん」

「あ、ああ」

俺たちに手を振って、ケンは行ってしまった。

「うーん……。 お腹空いたわ! 早く帰りましょ!」

軽く伸びをしたローザは、まるで何事もなかったの様に笑った。

「そうだな」

……気にしすぎなのかな……。 いや、でも……

頭を過るのは、ステラと再会したあの日のこと。

誰かに強要されていた様な口振りで、モンスターを召喚していたのを思い出す。

……もしこの事件がモンスターのせいで起きたのなら……

「8月もそろそろ終わりだけど、まだ日は長いわね……」

ひぐらしの鳴く声が聞こえる。

空は綺麗なグラデーションを映し、なずんだ日を隠そうとしているようだった。



*********



「......あ、兄さん……と赤月先輩。 おかえり」

「ああ。 ただいま」

「ただいま、ヒカリ。 ステラはいるかしら? 晩御飯作るの手伝って欲しいんだけど……」

「......ステラならリビングでゲームしてる」

「わかったわ」

頷くや否や、リビングに突撃して行った。

『ほらステラ! 手伝いなさい!』

『うおぁ!? ローザ!?』

「......兄さん。 こっち来て」

リビングでステラの叫びが聞こえて来た気がするが、ヒカリはどこ吹く風で俺を呼ぶ。

「なんだよ?」

連れてこられたのは、ヒカリの部屋だった。

「......サーチャーに、怪しい反応があった」

「怪しい反応?」

「......うん。 ほら」

ヒカリが見せてきたサーチャーの画面を覗くと、

「なんだこれ……?」

いくつか連なった赤い点が、海岸線を越えたり戻ったりしている。

「......おそらく、そいつは地下にいる」

「地下だと!?」

「......そんなに驚かなくても……」

「わ、悪い。 ……それで、こいつは地上に出てくるのか?」

「......わからない。 目的も、そもそもどうして急に出て来たのかもわからないし……」

「そうか……」

「......これも確かに伝えたかったことだけど、実はもう一つある」

「それは?」

どこか言いにくそうな雰囲気を出していたので、促してあげる。

少し迷った様に目を逸らした後、ヒカリはこう告げた。

「......”やつ”の反応があった。 かなり近くに」

「……っ!!」

「......でも、まだわたしたちには気づいてないみたい。 1km範囲には入ってこなかった」

「そ、そうか……」

……正直、今すぐにでも倒しに行きたいところだが……

「......兄さん」

「な、なんだよ?」

「......倒しに行くときは、わたしも一緒。 いい?」

「え……?」

「......いい?」

「わかった。 わかったから……」

そんな睨んで迫らないでくれ。 さすがに1人で倒せる相手じゃないってのはわかってるから……

「......なら良かった」

ヒカリは柔らかく微笑み、コンピューターの電源を落とした。

「......そろそろ晩御飯できる頃じゃない? 行こ?」

「ああ」

……そうか。 ジークフリート……あいつのことも、頭に入れておかないとな……




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