チャプター 9-2
前回のあらすじ
→カラオケ行って、つぼみん先生をリスペクトした
2
「あ……ライトくん!」
「え? あ、ああ、なに?」
登校日の放課後、特に予定のなかった俺のもとに、例によって伝言係の双葉さんがやってきた。
……双葉美唯。常に全ての平均値を持つ。
ケンに調べるように言っておいたが、情報がこれだけって……
……てか、双葉さん、俺のこと名前で呼んでたっけ……?
「手帳、落としてたよ?」
そう言って彼女が差し出したのは……俺の電子手帳。
「え!? ごめん、ありがとう、双葉さん」
「うん。 次からは気をつけてね?」
指を立て、ウィンク一つ。
華麗にターンして去って行った。
……他のクラスメイトからの視線が痛い。
「おい、ライト! お前、また何かやらかしたのか?」
「ケン! 絞まってる! 絞まってるって!?」
後ろからケンに首を絞められた。そこそこ苦しい。
……最近調子悪いのかな……クリスタルはパクられるし、手帳は落とすし、ケンの気配にも気付かないし……
ケンに拘束を解かせ、向き直った。
「……やらかしたと言うか、手帳を落としたんだよ」
「は? そんなの落とすか? 普通」
……落とさないよな、普通は……
「……それで、何か用事か?」
とりあえずスルーを決めて、話を進める。
「そうそう、会議の内容を共有しておこうと思って」
ケンは自分の電子手帳を取り出すと、メモ機能を起動させた。
「……『精神崩壊病』。 その名の通り、精神が崩壊する病気だ。 原因は絶望因子とかいうモンスターの一種だとか」
「モンスターが原因なのか?」
「ああ。 報告ではそうなってる。 ……かなり怪しいけど」
……モンスター関連なら、ローザに聞いてみるのもありかもな……
「……オレ的には、誰かのテロ……って線が怪しいと思うんだよ」
「と言うと?」
「精神崩壊病にかかった患者の8割は非戦闘員……一般の住民なんだよ。 普段は地下にいるような人たちが、これだけ一斉に同じ病気にかかるって……怪しいだろ?」
「……それは確かに」
地下楽園。通称、地下シェルター。
リベリオン時にはすでに出来ていた、巨大な地下都市。
非戦闘員の主な生活場所を担う他、対モンスター用のシェルターの役割もある。
地下へのモンスターの影響は、トーラスの地震以外今までに無い。
モンスターとの生活から、ほぼ完全に隔離された楽園……
……だが、その常識が覆ろうとしている……らしい。
「……患者は今どうしてるんだ?」
「お前がこの前入院してた病院に収容されてる。 狂ったように喚くやつもいれば、放心したように動かない患者もいるんだと」
「そりゃ……大変そうだな」
戦闘員の方が使用頻度の高い病院は、大半は地上に建っている。
地下にもあるって話は聞いたことがあるが、さすがに広さは確保できなかったらしい。
「……で、お前に朗報だ」
「なんだよ?」
ケンはニヤっと笑うと、
「今日から一週間、オレ達が地下楽園の見回りをすることになりました!」
1人で拍手して、1人で盛り上がっている。
「……は?」
わけがわからない。
どうして俺たちが見回りなんて……
「……そんな嫌そうな顔するなよ。 あまり近付きたくない気持ちはわかるが……仕事なんだ。 討伐科としての」
「……テロ対策に?」
「それもあるけど……」
ケンは一瞬言い淀んだが、
「……嫌な予感がするんだよ。 なんとなく」
そう呟いた。
「なんだよそれ……」
女の勘……ではないにしても、ケンの勘は4割当たる。ソースは俺。
……嫌な予感か……もし本当にテロだったら、俺たちが出る幕は無いぞ……?
「ま、諦めて付き合いたまえ、ライト氏よ」
ケンは笑って俺の背中を叩き、教室の外へ向かい、手招いた。
……今から行くのか? まぁ……良いけどさ……
*********
「……で、あたしまで呼ばれる意味がわからないんだけど?」
「まぁまぁ、そう言わないでくれよ」
「……いや、ローザも一応討伐科所属だろうが……」
3時間後、地下楽園行きのエレベータに乗った俺とケンとローザ。
地下鉄だとか地下道路があるため、かなり深くまで下りないといけない。
「……今更だけどさ、地盤沈下とか大丈夫なのか?」
「あぁ、それなら大丈夫だ」
「な、なんでよ? 」
ローザも困惑気味だ。
「鉄筋で支えてるから……って言ってた」
真顔で言いやがったぞ、こいつ……
「全然大丈夫そうじゃ無いんだが……」
「落ちたりしないでしょうね……」
「……見てみたらわかるって」
などと話しているうちに、目的地に着いたらしい。エレベータが減速を始めた。
「ほら、行くぞ」
何度か行ったことがあるらしいケンが先導してくれる。
まず見えたのは……
「……どこだここは。 本当に地下なのか?」
どこかの塔の中だろうか。全面ガラス張りの窓の外には、街並みが小さく見える。
「まぁ、東京を模して作られたって言うぐらいだしな」
などと言いつつケンは何かの手続きをしている。
「……あたしは登ったことないけど、東京タワーに登ったらこんな感じなのかしらね?」
「さぁな……。 俺も登ったことないからわからん」
でも……本当に綺麗だ。地下だって言わなきゃ気付かないレベルだぞ。
「ライト。 こっちだぜ」
塔を下りるため、再びエレベーターに乗り込む。
そして再び外へ出た時、俺は気付いた。地上と地下の決定的な違いを。
……空が、電子パネルだ……
「……風が無いって、なんだか奇妙なものね」
風もなければ雲もない。
雨も降らないのかもしれない。
「一応空調管理局が仕事してるから、空気は新鮮なものだし、酸素も十分。 温度もずっと25度だ」
「……それはそれでなんだか気持ち悪いな……」
太陽は映像でしかないが、十二分にその役割を果たしているように見える。
「……それで、見回りって具体的にはどうすればいいの?」
「基本的には街を歩いていればいいだけさ」
「それだけか?」
「ああ。 モンスターなんて入ってこれないし、犯罪者なんて簡単に見つけられるぐらいのシステムは完備してるみたいだし」
「……ますますあたし達の必要性を疑うわ」
「仕方ないだろ? もし今回の病気の原因がモンスターだったら、この楽園は崩壊するからな」
と言いつつ、ケンは歩き始める。
仕方ないので俺たちも着いて行く。ケンがいないと帰れないし。
「……モンスターから逃れるための楽園なのに、モンスター絡みの事件なんて発覚したら……なぁ」
「でも、病気を引き起こすモンスターって………あ」
ローザは何か思いついたような顔をすると、俺の裾を引いた。
「(ま、まさか、局地的に蜘蛛が大量発生とか、そんな事件じゃ無いでしょうね?)」
「(いや、そうじゃない。 ……ってか、何も聞いてないのか?)」
「(え? ただ、地下楽園に見回りするからって連れてこられただけだけど?)」
「……何コソコソ話してるんだ?」
「い、いえ! なんでも無いわ!」
……そうか、確かにそんな話もしてたな……
未来では蜘蛛のウイルスが蔓延していて、ワクチンがないと、やがて記憶だけにとどまらずその肉体も奪われてしまう……などという話を思い出す。
今回は記憶じゃなくて精神……感情にまつわる病気だし、多分関係ないと思う。
「……着いたぞ」
歩道を歩くこと数十分。
見たことない建物の前にたどり着いた。
「ここは?」
「犯罪関係を取り仕切ってる、中央管理局だ」
ケンは俺たちの方を振り向いた。
「オレはここでやることがあるんだが……。 せっかくだし、お前らはこの街を見てこいよ」
「そうは言ってもだな……」
地下都市の住民は、学生にも満たない年齢層か、働き手として忙しくしている年代の人たちばかりだ。
俺たちみたいな学生はいない。
おかげで、かなり俺たちは目立つ存在らしい。歩いているうちに気付かされた。
「ほら、このチケットやるから」
そう言って差し出してきたのは……
「……フリーパス? どこのやつだ?」
「行ったらわかるよ。 終わったら連絡するし、携帯落とさないでくれよ!」
「もう落とさねぇよ!」
ケンはひらひらと手を振って、中へ入って行ってしまった。
「……とりあえず、服を着替えましょう? 制服は目立つわ」
「それもそうだな」
アミューズメントパークへ赴く前に、デパートで服を揃えることに。
歩いて数分で見つけたデパートに入り、適当な私服を見繕う。
「あんたはこれ着なさい! こっちの方が似合うから!」
……見繕ったのはローザだけどね。
「……よし、良いわ! あたしのセンスに酔いなさい!」
……なんだよ、それ……
などと思いながら、鏡を覗く。
「……なんか、ジークさんに似てないか?」
「え? ……言われてみれば、まぁ……」
黒色のパーカーに青いTシャツ。そして黒のジーパンを履いた俺が写っている。
このパーカーをコートに変えたら、ジークさんコーデと言える……かもしれない。
「……えっと……。こ、細かい事は気にしないの! 良いわね!?」
「お、おう……」
対するローザは、白を基調としたショートパンツコーデ……らしい。
ローザの細い美脚は惜しげもなく晒され、普段のニーソ姿とのギャップがすごい。
なんというか……ませた小学生……?
「……何か失礼なことを考えてないかしら?」
「いや、なんでも」
ローザの私服姿を見るのは2回目だ。
……今回は、何も起きないといいな……
さも当然のように俺に奢らせたローザが調子に乗らないうちに、デパートから出る。
夏休みも終盤とは言え、あまりにも人が少ない気がする。当然と言えば当然だが……
「……せっかくだし、このパスが使える場所ってところに行こうぜ」
「結局それってどこなのよ? ……どうせ、アミューズメントパークなんでしょ?」
心なしかワクワクしているように見えるのは、きっと気のせいだろう。
「ポル。 ルート案内を」
クリストロンの一件以来、使うのをためらっていたサーチャーを起動する。
『......ほいほい』
いつも通りの眠そうな声で反応したポル。
程なくして、ディスプレイにナビゲーション画面が映し出された。
「……こっから道なりにまっすぐだな」
さすがに夕暮れ時と言うだけあって隣の車道は混んでいたが、歩道に他の人の影は見当たらない。
天井の空は夕焼け空を映し出している。
「…………?」
手の甲に何かが当たる感覚が。
「…………」
その方を見ると、そっぽを向いたローザの姿が。
「……繋ぎなさいよ」
そんな彼女はボソ……と、そう呟く。
……断る理由……思いつかないな……
「…………」
仕方なく、手を繋いであげた。
温かな温もりが伝わってくる。
隣のローザはあからさまに嬉しそうだ。
……他に人がいなくて助かったよ……
セキュリティにかかる可能性は……考えないでおこう。
「……ここか」
時間的にまだやってるかは不安だが……大丈夫そうだ。小さい子たちのまだ遊んでいる姿が見える。
「すみません。 まだ入れますか?」
パスは入場券も担っているらしいので、入口のゲートで見せて問う。
「はい。 もちろんですよ」
ゲートのお姉さんに許可をもらい、入場した。
「ここは?」
「見ての通り、遊園地だよ」
「へぇ……。 ふーん……」
隣で目をキラキラさせて、ソワソワしているように見える。さすがに気のせいではなさそうだ。
「2人でくるのは……初めてだな」
「…………うん」
前に来たときは、ケンたちと一緒だったしな。
……なんか、緊張するな……何故か。
「よし、じゃあ、オススメを教えておいてやる」
頭の中で去年やったゲームやらの知識を総動員し、どんなルートが良いかを計算する。
「ええ! 早く行きましょっ!」
本当に早く行きたくてたまらないと言った感じのローザの手を引き、アトラクション乗り場へ赴いた。
「もう一回乗るわよ! もう一回!」
「ちょっ……何回乗る気なんだよ……」
まるで小さな子供のようにはしゃぐローザ。
ジェットコースターがお気に召したようで、もう5周はしてる気がする。
フォトンウィングで浮力重力は慣れているはずだが、やはりジェットコースターには違う何かがあるらしい。もうフラフラだ。
「遅いわ! 置いて行っちゃうからね!」
ピンピンしてる彼女は颯爽と入口から入って行き、子供達と一緒にコースターに乗る。
一番前がお気に入りらしく、自分の髪がどんな被害を及ぼしているかも知らずにはしゃいでいらっしゃる。
「……こうして見てる分には、まだまだ子供だよなぁ……」
などとジジ臭いことを言ってしまう。
「……結局、ジェットコースターしか乗ってない気がするけど……」
手元の携帯に視線を落とす。
『見せたいものがある。 なる早でこっちに戻って来てくれ』
たった今受信したケンからのメッセージ。
「何見てるのよ?」
「うぉ!? なんだ、終わったのか?」
「ええ。 ……それで、ケンからなんでしょ? そっちも終わったって?」
「……見せたいものがあるってさ。 続きは……また今度な」
「……! ええ、約束よ!」
……さらっと死亡フラグっぽいこと言っちまったけど……大丈夫だよな……?




