チャプター 9-1
前回のあらすじ
→合宿が終わって南原市に帰って来たライトたち
1
「なぁ、ヒカリ」
「......ん?」
不思議と懐かしさを感じる港に着いたのは、かなり日が傾いてからだった。
ケンとヒヨは挨拶もそこそこに、学校へ走って行ってしまった。
残されたメンバーでどこかへ行こうかと話しているなか、俺はヒカリに気になっていたことを聞いてみる。
「……お前も、一人で抱え込まないでくれよ?」
「......え?」
なんのことかわからない、といった反応だ。 無表情のままだが。
「いや……」
……ここであの時のことを聞くべきなのか……?
「......心配しないで」
ヒカリは俺の迷いをどう受け取ったのか、そう言って微笑んだ。
「......わたしは……大丈夫、だから」
「そ、そうか……?」
「......うん。 ほら、置いて行かれるよ?」
「あ、ああ」
見れば、アカリとアキラとステラがどこかへ行こうとしていた。
「……ちなみに、どこへ行くって?」
「......さぁ、ね?」
「……どうしてこうなった」
流れで連れてこられた場所は……
「ほらほら、ライト先輩も歌いましょうよ!」
などと言ってマイクを渡された。
……カラオケなんていつぶりだろ……?
去年に一回だけヒヨに連れていかれたことがあったが、特に何か歌いたいものがあったわけでもなかったので、ひたすら聞くことに専念していた思い出しかない。
「いや、俺は歌えな――」
「――はい、ヒカリちゃんも!」
「......え? わたしも?」
「さぁ、歌っちゃうよ!」
今のアカリに俺たちの言葉は届かないらしい。
「アキラちゃん、お願い!」
アキラは頷くと、機械をいじって曲をスタートさせた。
……このイントロは……あの時のやつか!
七夕祭のステージで、トライアドシャインズとして歌っていた、あの曲。
……マジか、俺が歌うのか……!?
ステラはタンバリンを持ってノリノリのご様子。
隣のヒカリを見た。
タイミングよく、目が合ってしまう。
ヒカリははにかみながら、微笑んだ。
*********
「楽しかったねー!」
結局、解放されたのは8時を回ったころだった。
アキラのパートを俺が歌い、その流れで有名どころの曲は大体歌わされた。
……まぁ、楽しくなかったって言ったら嘘になるけどさ……
「そうだね。 赤月先輩も来たらよかったのにね」
「そ、そうだ、ローザはどこ行った?」
言われて気づく。
そういえば船を降りたあたりから、ローザの姿を見ていない。
「......え? 聞いてなかったの?」
「な、なにを?」
「......先輩、モン研に用事があるって」
「…………」
このパターン、前にもあった気がする。
こういう場合、だいたいめんどくさい事が起きる事が多い。ソースは俺。
「......わたしも、丁度つぼみん先生に用事があって……」
「そうなのか?」
「......うん。 だから、兄さんも一緒に行こ?」
「……え?」
なぜ故俺まで……
「お、まだどこか行くん?」
アカリとアキラを先に帰したらしいステラが、興味津々で聞いてくる。
「あ、ああ。 モン研に用事があるんだってさ。 ヒカリが」
「へぇ。 ……じゃあウチは先に戻ってますわ。 お二人でごゆっくり!」
ステラはなぜかニヤリと笑って、背を向けて手を振った。
「おう……」
……あいつ……絶対ロクでもないこと考えてるぞ……
「......さ、行こう」
「そうだな」
学校まではそんなに離れていないので、歩いていくことにした。
「......兄さん」
「なんだ?」
「......どうして飛んでいかないの?」
ヒカリはどこか落ち着きのないように見える。
「いや、お前は飛べないだろ?」
「......飛べたら、飛んで行くの?」
「え……?」
ヒカリはフフン、と笑うと、何かを取り出した。
「......≪フォトンウィング≫、展開」
「なっ!?」
驚くのも束の間、視界から消えたヒカリ。
上かと思って見上げたが、
「......えい」
突然耳元で声が聞こえた瞬間、地面が遠のいた。
「お、お前、いつの間に!?」
腕を掴まれて吊るされながら問いただす。
「......だって、兄さん歌うのに集中してて、全然気づかないんだもん」
少しむくれているようだ。
……いや、お前が怒るのはおかしいだろ……
「……てか、何か急いでるのか?」
「......別に」
話すつもりはないらしい。
「……まぁいいけどさ……」
「......優しい兄さんは好き」
「茶化すなよ……」
そんなことを話している間に、学校に着いてしまった。
セキリュティにかからないか不安だったが、特に何も反応がない。
……防犯とか考えてるのか……?
「……痛っ!?」
「…………」
雑に俺を降ろしたヒカリは、無言で学校の中へ。
「お、おい、ヒカリ?」
……あいつがあんなに焦るって……よっぽどの用事なのか……?
俺は仕方なく、ヒカリの後を追ってモン研の教室へ。
「こんばんはー」
扉を開けて中へ。
「あ、ライト! 丁度いいところに来たわね!」
そこには、何かの紙をひらひらさせながら目を光らせるローザが。
「≪イクリプス≫を貸しなさい!」
「え? あ、ああ」
言われてポケットを弄る。
「あ、あれ……」
だが、入れていたはずのポケットに≪イクリプス≫の姿は無かった。
「…………」
ローザの方を見る。
「ふふっ……ふふふっ……」
肩を震わせるローザ。
「……大切に持っておきなさいって言ったのに、どういうつもりなのかしら?」
……うお、ローザさんがサディスティックに笑っていらっしゃる……
「ご、ごめん。 ちゃんと仕舞っておいたはずなんだけど……」
どう言い訳しようかと思ったが、
「さすがに、油断しすぎよ? 次からは気をつけなさいよね」
そう言ってローザが何かを俺の前でプラプラさせた。
……って、≪イクリプス≫じゃねぇかっ!?
しかも、丁寧に加工までされていた。
「おいおい……お前ら……」
さすがの俺も、膝を折って地に手をついてうなだれるしか無かった。
「......何してるの?」
「あ、ヒカリ! あなたも居たのね」
「......今回は兄さんの方がおまけなのに……」
不満そうなヒカリの声が聞こえてくる。
「……どこ行ってたんだよ?」
冷たい目を向けられた気がしたので、うなだれるのをやめて立ち上がった。
ヒカリは目を逸らして呟く。
「......ちょっと、お花を摘みに」
「……あ、そう」
女の子には問いただしてはいけないことが多いとケンが言っていたのを思い出す。
「......そうだ、つぼみん先生は?」
「つぼみん先生に用事なのね? 呼んでくるわ」
モン研部員でもないはずなのに、すっかり役が定着してしまっているローザ。
奥の扉に引っ込むと、
「……はい〜? ご用事ですか〜?」
ダブダブの白衣を着たつぼみん先生が顔を出した。かなり眠そうだ。
最近知ったことだが、あれを萌え袖というらしい。
あんな状態で物がつかめるのかと常々心配しているが、つぼみん先生がこの仕事で失敗することはほとんどないと聞く。
「......先生。 頼んでいたものを取りに来ました」
「あぁ〜、あの拡張兵器だね〜?」
エクス……なんだって?
「......出来たんですか?」
「ひどいなぁ、出来ないと思って頼んだの?」
「......い、いえ、そういうわけじゃ……」
つぼみん先生は小さな体の胸を張った。
「大丈夫だよ〜! わたしにかかれば不可能なんてないのさ〜!」
自信満々のご様子。
……まぁでも、この科学武器を作るのに関わったってぐらいだしな……
「はい、これがキミの機動装甲だよ〜」
そう言ってヒカリに差し出したのは、先っぽにクリスタルのついたグリップだった。
ちょうどビームサーベルの刃の部分にクリスタルが刺さってるようなイメージだ。
「頼まれた通り、起動コードは≪ファフニール≫にしておいたよ〜」
「......! あ、ありがとうございます!」
ヒカリは信じられないという顔をしてそのデバイスを受け取った。
そして、マイクを持つように両手でグリップを握る。
「......来て、わたしの≪ファフニール≫!」
瞬間、グリップから溢れ出した粒子がヒカリを包んだ。
やがてその粒子は何かを模っていく。
「......すごい……」
「どうなってんだ……」
思わずそう呟いてしまう。
ヒカリが機動装甲を装備していたからだ。
聖堂学園から持って帰ったときから何も変わっていないように見える。
「ど、どうやったんですか?」
「ふふん。 すごいでしょ〜? 物質の粒子分解技術を使ってみたんだ〜」
「は、はぁ……」
……いったいどんなクリスタルを使ったら、こんなことができるんだろうか……
「ライト! あんたのビームサーベル、そこに置いておきなさい! いいわねー?」
扉の向こうから、そんなローザの声が。
「うぅ……赤月ちゃんはブラックだよ〜……」
「す、すいません、なんか、無理させちゃって……」
と言いつつ、ビームサーベルをつぼみん先生に渡す。
「いいんだよ〜。 これも仕事だから〜……」
辛そうにトボトボと、ローザの待つ扉の奥へ消えて行った。
「ヒカリ、帰るぞ?」
「......ね、兄さん! 飛んで帰っていい?」
ヒカリの目は、いつになく輝いて見えた。
「ああ、いいぞ。 そのかわり、さっさと≪フォトンウィング≫を返してくれ」
……いや、テヘペロされても許さねぇからな、ヒカリ……




