チャプター 8-9
前回のあらすじ
→クリストロンに絡まれて、島の探索終了
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「えー……、じゃあ、今日の戦果を報告してくれ」
結局、昼に集まるという予定は大幅に変更になり、再び集まれたのは日が暮れてからだった。
「まずはトラシャイの3人から」
「はい!」
アカリが手を挙げる。
「島を一周してきました!」
「まぁ、途中でオレたちと会ってるから、それはわかってる」
「それとー、見たことないモンスターがいっぱい居ました!」
「朱雀と玄武で応戦したんだけど、どれも消えずに残ってたね」
「うん……。 持って帰るわけにもいかないし、そこに埋めてきました……」
やはり死骸が残ることに抵抗があるのか、アカリのテンションが下がった。
「……それから先は天海先輩と一緒に行動してたので、省略でいいですよね?」
アカリにつられてか、アキラもテンション低めだ。
「……わかった。 ありがとう」
ケンは頷くと、ヒヨの方を見る。
「ヒヨ。 一応報告を」
「え? うん。わかった」
チラッとステラの方を盗み見たヒヨは、
「私たちも島を回ったんだよ。 アカリちゃんたちとは逆の海岸をね」
と、諦めて話し始めた。
「途中でモンスターに会ってからしばらくは記憶がないんだけど……」
「あぁ、そこは大丈夫だ。 ローザがなんとかしてくれたから。 な?」
「え? えぇ、そうね」
急に振らないでよ……
「……意識が戻ってからは、特に何もないままアカリちゃんたちと合流して、森を突っ切って帰ったんだよね」
「そうね。 途中でライトに会うかと思ったけど、どこかですれ違ったみたい」
「……はぁ。 それで、そのライトはどうしたんだ?」
「…………」
ステラは黙ったままだ。
「ヒカリもいないし……何かあったんだろ? ステラ」
「…………はい」
「話してくれるか?」
ステラは迷ったように視線を外したが、
「……わかりました」
やがて前を向き、首を縦に振った。
「ウチと隊長さんはあの森で、クリストロンって言うモンスターたちに会ったんです」
「クリストロン……?」
「はい。 クリストロンは通常のクリスタルモンスターと違って、"命亡き者に命を宿す"ことでモンスター化させている……とかなんとかで。 死体が残るのも、それが原因やって言ってました」
「……そんなこと、誰から聞いたんだ?」
「フクロウさんに」
「「「「フクロウ!?」」」」
「…………」
……なるほどね……
「……と、とにかく、フクロウさんと仲間達にその情報とクリスタルを貰って、イマイチようわからんまま帰ってきたんです」
「……そうか。 ありがとう」
ケンはメガネを外し、眉間を押さえた。
「……どうなってんだよ……聞いてねぇって……」
独り言がだだ漏れだ。
「はぁ……。ステラ」
「は、はい」
「あとでライトに、レポートを提出するように言っておいてくれ。 学校にじゃなくて、オレにだ」
「わ、わかった」
「やれやれ……とんでもない情報が入ってきたが、とりあえず晩飯だ。 そのあとはお待ちかねの花火大会だぜ!」
「やったー! 花火だ、花火!」
「アカリ、落ち着いて! はしゃぎすぎだよ」
「じゃあ、私は準備してくるから」
「あ、ヒヨさん! ウチも手伝いますよ!」
思い思いの場所へ散っていった皆。
あとに残ったのは、あたしとケンだけ。
「……まぁ、その、なんだ。 元気出せよ、ローザ」
「え……?」
「あいつが落ち込んでるときは、無理にでも傍にいてやるのが一番だ。 ヒカリがそうしてるようにな」
「…………」
「悪いけど、あいつがああなったら、オレにはどうしようもない。 だから、頼む」
「……わかってるわ」
……そう、あたしはわかっている。
今、彼に伝えるべき言葉も。
彼が持っているクリスタルが何であるかも。
そして……
「これでもあたしは、ライトのパートナーなのよ?」
……未来を変える、パートナーなのよ、あたしは!
「……そうだったな。 まったく、うらやましい限りだぜ」
ケンは誰に言うでもなく呟くと、背を向けて手を振った。
「……さて……ここからは、間違えるわけにはいかないわよ……」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、立ち上がった。
「ようやく、未来への切符を掴んだんだから……!」
*********
*********
「…………」
日はほぼ沈んでしまったが、それでも部屋を申し訳程度に赤く照らしている。
「≪イクリプス≫……か……」
そんな中、手の中のクリスタルに視線を落とす。
大きさからして永続クリスタルであろうこれは、≪イクリプス≫というもの。
これを使えば、クリスタルを取り込む……捕食することが出来る。
育成場時代につけていた腕輪と、同じ効果を持つクリスタルだった。
「なにが『モンスターの根絶』だ……。 どうして俺があいつらの尻拭いをしないといけない……」
本当はわかっていた。
俺自身、どこかでモンスターの根絶を願っていた事ぐらいは。
モンスターを消し去れば、世界は変わる。
ずっとそう思っていた。
「……でも、その先に何がある? クリスタリアを滅ぼして、クリストロンはどうなる?」
正直、モンスター間のいざこざなんて、どうでもよかった。
でも、それでは納得がいかなかった。
まるで俺が、対モンスター兵器かのように……
――ピンポーン……
部屋のチャイムが鳴った。誰かが来たらしい。
「......兄さん?」
と思ったら、ヒカリが入ってきた。
おっかしいな……ロックしていたはずなんだけど……
「......何してるの?」
「い、いや……」
瞬間、ヒカリが視界から消えた。
「......兄さん、これは?」
「……≪神速≫か?」
「......質問してるのはわたし」
いつの間にか俺の隣に座っていたヒカリが手に持つのは、≪イクリプス≫。
今の一瞬で奪い取ったらしい。
「……もらったんだよ」
「......誰に?」
「……クリストロンに」
「......?」
ヒカリは首をかしげる。
当然だ。 何も説明していないのだから。
「......よくわからないけどさ」
「ひ、ヒカリ?」
突如俺の体を、温かい何かが包んだ。
鼻孔をくすぐる汗とシャンプーの甘ったるい匂い。
「......兄さん。 一人で悩まないで。 わたしがいるから」
「…………」
「......ね、教えてよ。 何があったのかを、さ」
耳元で囁くように、ヒカリはそう言ってくる。
「……わかった。 話すよ……」
ギュッとされて気が緩んだのか、気付けばそう呟いていた。
それを聞いてヒカリはホールドを解除し、隣に座り直した。
「実はそのクリスタルは……」
「......へぇ。 そんなことが」
全てを話し終えた時、ヒカリはそれだけしか言わなかった。
「……やけに冷静だな」
命を奪うクリスタルを渡されたと言うのに。
「......だって、やることが決まったんでしょ? だったら、それをやればいいだけ」
「……え?」
「......くよくよ悩むよりは、即行動! でしょ?」
違うの? と向けられた視線は、
「…………」
俺にはただ、逸らすことしかできない。
「…………」
嫌な沈黙が、その場を満たした。
「......わたしが出来るのはここまで」
やがてヒカリは諦めたように立ち上がった。
「......でも、一人でやろうとしないで。 わたしが居ることを、忘れないで……」
寂しげに微笑むと、背を向けて出て行ってしまった。
……言われてみればそうだ。 俺は何も考えず、言われたことをやればそれで……
――ジャキッ……
ん? なんの音だ……?
「≪プラズマ≫!!」
扉の向こうから声と電流の走る音が聞こえたと思ったら、ドアが勢いよく開け放たれた。
「ライト。 そのツラちょっと貸しなさい」
「……急にどうした」
「もう、いいから行くわよ!」
そう言ってローザは強引に俺の腕を引っ張り、外へ俺を引きずり出す。
「行くって、どこに?」
ローザはニヤリと笑うと、
「屋上よ!」
俺の腕を引いたまま、走り出した。
*********
「話は聞かせてもらったわ!」
日は完全に落ち、あたりは真っ暗だ。
月が出ていなかったら、何も見えなかっただろう。
「何の話だ」
「もちろん、あんたが今日、クリストロンから聞いた話よ!」
「……っ! だ、誰から……?」
「忘れたの? あたしには、これから先のことが書いてある日記帳があるのよ?」
やけに喧嘩腰なローザはそうまくし立てる。
「……それで?」
「ふふん。 ズバリ言っておいてあげるわ」
ローザは自信たっぷりに、こう言い放った。
「そんな依頼、なかったことにしなさい!」
「……は?」
「聞こえなかったの? クリスタリアなんて倒さなくて良いって言ったのよ」
「……本気で言ってるのか?」
「もちろんよ。 あたしを信じて」
ローザは真っ直ぐに俺を見た。
俺の心の内を全て見すかすように澄んだ瞳が俺を貫く。
……ローザが本気でこう言ってるんだ。俺が信じてやらなくてどうするんだ……
「……わかった。 信じるよ」
そう言ってやると、ローザは嬉しそうに頬を緩めた。
「さすがはあたしのパートナーね。 そうでなくっちゃ」
「……でも」
「うん?」
「これは、どうするんだ?」
俺はイクリプスを取り出してみせた。
「もちろん、あんたの強化に使うわ」
「え……?」
「それは未来に繋がる、大切なカードなのよ」
ローザは目を輝かせて、イクリプスをまじまじと見つめた。
「必ず必要になるわ。 向こうに帰るまで、大切に持っておきなさい」
「あ、ああ」
拍子抜けしてしまった。
モンスターを消し去るなんていうリスクの高い依頼を、やらなくて良くなったのだから。
それでも未来が変わると、そう思えたから。
「……ありがとう、ローザ」
「へ?」
それしか言えないけど、思いを素直に伝えた。
「え、べ、別に、ただあんたが悩んでるみたいだったから、ちょっと気を楽にしてあげよーって、そう思っただけなんだから!」
相変わらず、わかりやすいな……
俺は返事の代わりに、ローザの頭を撫でてやった。
「ちょっ……うぅ……」
暗くてもわかるぐらい真っ赤になって、ローザは俯いてしまった。
……まさか、ローザに助けられちまうとは……
下手に悩み過ぎていたのかもしれない。
……それに、悪夢の一因が未来に必要なんて……
――ヒュー……ドンッ!!
「「うわっ!?」」
炸裂音が辺りに響き渡った。
何事かと空を見上げれば、
「……綺麗……」
2発、3発と打ち上げられて行く花火たち。
咲いては消え、咲いては消え……そんな輪廻を繰り返す花が、空を彩っていた。
儚くも活き活きとした花。 存在を忘れられまいと、空で光る花。
……でも、これは逆なんだよな。
手元のイクリプスに視線をやる。
……存在を消したいほどのものなのに、こうして巡り巡って希望に返り咲くなんて……
運命じみたものを感じてしまう。
例えこれが意図された巡り合わせだとしても、俺たちもいつかああやって散ってしまうとしても。
……それでも、俺はこの運命を信じる。 ローザを、信じるよ……
「…………」
シャツの裾を引っ張るのは、未だ顔が赤いままのローザ。
花火の音でよく聞こえないけれど、彼女が何を求めているのか、何となくわかった気がした。
「…………」
静かに彼女の手を握り、何も言わず、彼女を抱き寄せた。




