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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
プロローグ 「終わりの始まり」
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チャプター 1-6



「……百歩譲って、頬をつねるぐらいならわかるが、殴り飛ばすのはどうかと思うぞ」


リビングのソファーで目覚めた俺は、体を起こすなりローザにそう言ってやった。


……くっそ……どんな怪力してるんだよ。 めちゃくちゃ痛いぞ。


「仕方ないじゃない! そんなこといきなり言われたら……」

「そりゃあ、俺だって信じられないさ」


主にローザをここに住まわせた先生たちが。


「……なによ。 あたしと住むのは嫌って言うの?」

「嫌って訳ではないんだけど……」


それはもちろん、男子高校生なら一度は憧れたであろうシチュエーションなんだ。 嫌なわけが無い。 本来なら。


「けど?」

「……やっぱり、道理に従うなら、俺が元の部屋に戻るべきなんだと思う」

「え……?」


ローザが『訳がわからない』という顔で聞き返してくる。


「確かにここは俺が使っている俺の部屋だ。 だけど、教師たちの間ではここは空き家扱いなんだ」


黙認状態……と言ったほうがいいのだろうか。

空き家のこの部屋にガスも水道も電気も流しっぱなしにしてくれていたのは、教師の温情以外の何物でもない。

しかし、名目上とはいえ、空き家は空き家。

宿主がそこを使うというなら、寄生しているだけの俺は立ち退くべきだろう。

そういった内容をローザに伝えると、ローザは少し考えたあと、こう言った。


「……でもあなた、ここに住んでいたのには何か理由があるんじゃないの?」


確かにその通りだ。理由はちゃんとある。

故に、そこを突かれるのは痛い。

ローザはさらにこう言い加えた。


「それに、部屋はまだいくらでもあるんだし、あんたが気にするのなら、あたしが別の場所に住めばいいだけだわ」


……ローザ、お前、実は超優しいんだな……。 いきなり吹き飛ばしたり殴り飛ばしたりするヤバいやつかと思ったけど、そこは見直したぞ。


「で、でも――」


そこで俺のケータイが震えた。

どうも電話らしい。


……こんなときにまったく誰だよ……って……


ローザにジェスチャーで謝りつつ、応答した。


「――も、もしもし?」

『ああ、ライト。 今いいか?』

「いや、全然良くないですが……まぁ、用件ぐらいなら聞きますよ」


掛けてきたのは担任の熊谷先生だった。性別を疑う低めの美声が耳に入る。

先生が直接電話をかけてくる時はたいてい、今必要な情報を共有する時か、説教の時かのどちらかだ。 どちらの場合も出なければ殴られる。 空気読まずに応答するのは仕方ない。 うん。


『その様子だと、赤月が急にお前の部屋に住むことになってパニック……といった具合か?』

「……さすがに先生が仕向けたとか、無いですよね?」


半信半疑で、最悪の可能性を確かめてみた。


『どうしてだ? 私はただ、彼女がお前に懐いていたから、お前と部屋が同じだと気が楽だと思ってな』


……否定しないのな……


「まぁ……見ず知らずの人と住むっていうのよりは、多少ましかも知れませんが……」


はっきり言って、そんなに大差ないと思うんだが、そう思うのは俺だけだろうか。


『……そういうことで、お前たちの部屋はそこで確定しておいたから。 お前も、部屋を移動したことにしておいた。 あとはこっちに任せておけ』

「……はい?」


今、とんでもないことを言われた気がする。


『もし何か問題があるようだったら、また連絡してくれ』

「いや、すでに問題ありすぎでしょ!?」


男女ペアで住んでいる部屋も他にある、という話は聞いたことがあるし、別に学校も許可しちゃっているので、そういう意味では問題ないのかもしれない。

いやそれよりも、許可してること自体がそもそもおかしいと何故気付かない。


『ま、そんなわけだから、よろしくたのむよ。 あ、用件は後でメールで送っておくからな』

「え、ちょっ……先生!?」


俺の声は届くことなく、電話は切れてしまった。


「……誰からだったの?」


電話が終わるまで待ってくれていたローザがそう聞く。

分かっていたことだが、話の腰を折られて少し不機嫌気味だ。


「うちの担任からだよ」


俺は先生から聞いた話を粗方話した。 懐いてる云々はいらない情報だから伝えなかったが。


「へぇ……そう。 これで解決じゃない。 良かったじゃないの」


少しドライな感じだが、どちらかと言えば素直に喜んでいるみたいに聞こえる。


「……ローザは良いのか? その、俺となんかで」


つい気になって、そんなことを聞いてしまう。


「何を言っているの? 他の生徒と住むぐらいなら、あんたと住んだ方がまだましだわ」


ここがダメなら一人で他の部屋に行こうかと思ってたし、とローザは言う。

そもそも誰ともルームメイトにならなければいいのでは、とかいう不粋な言葉は飲み込んだ。

一人で住むなんてのは本来ありえないことを思い出す。


「嫌じゃないなら、まぁ……」

「ふふっ……大丈夫よ。 あんたが気に入らなくなったら、また吹っ飛ばすだけよ」


……さらっと怖ぇこと言われたな……


彼女はあくまで笑顔だった。



*********



荷物を片付け、遅めの夕食をとって、ひと段落したところ。


「……そろそろ話してくれたっていいだろ?」


俺はローザについて、聞き出すことにした。


「ええ……そうね。 じゃあ……」


ローザはあの本を取り出して、机の上に置いた。


「……今からあたしが話すことを、一から十まで全部信じろ、とは言わないわ。 ただ、聞いてほしいの」


そう言って語り始めた。

まず第一声はこうだった。


「あと一年足らずで、世界は崩壊するわ」

「……は?」


いきなりぶっ飛びすぎて理解が追いつかない。


「クリスタルが、世界中どこにでもあるわけではないってことぐらい知ってるわよね?」

「あ、ああ」


実際、二十年前に日本で起きたある事件(・・・・)をきっかけにクリスタル鉱山が発見されたわけで、それまでは他の国はおろか、地球上に存在しなかった代物だ。

文献上では、少なくともそうなっている。 海外の情報はメディアに規制されるせいでよくは分からないが、多分、どこかにはあるかもしれないが見つかってない、あたりが妥当だろう。


「あのクリスタルがもたらした技術進歩は、ある意味革命的だったわ。 けどね」


そこでついに、あの本を開いた。

中から取り出したのは、一枚の紙切れ。


「そんな魔法のようなアイテムを、他の国が欲しがらないと思う?」


そう言って俺にその紙を見せてくる。


「これは……?」


そこに書かれていたのは、何かの表。

取引先と保持量一覧、と題されたその表を見ていくと、そこには……


「そうよ。 核兵器を保持している国のほとんどに、このクリスタルが密売されていたのよ」


アメリカを始めとした、さまざまな国の名前が、九桁に及ぶ数字とともに記載されていた。


「核兵器でさえあれだけ規制されていたのに、クリスタルを使った軍事兵器が出来てしまったら、どうなると思う?」


クリスタルの中には、対象物を見えなくさせる効果を持つものもあるという話しを聞きかじったことがある。

もしそれで、秘密裏に爆撃でもされれば……


「……いやでも、そんなものを作ってまでやらなきゃいけないことなんて……」


言ってから気づかされる。

俺が持っているビームサーベルは、間違いなくクリスタルを使った兵器だ。

これを使ってやることは、防衛か侵略か、はたまた……


「表をよく見るのよ」


どうやら、九桁の数字は値段を表しているらしく、その隣に並ぶ三桁ほどの数字は……


「……クリスタルの数が、値段に見合わないように見えるんだが?」

「そうよ。 日本はちゃんと考えて規制していたらしいの。 だけど、それが逆によくなかった」


見えてきた結論は、本当に信じがたいものだったが、ローザは堂々と、こう言ってのけた。


「あと一年足らずで、全世界を相手にした、無慈悲で終わりの無い、世界大戦が行われるわ」





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