チャプター 8-7
前回のあらすじ
→1日目終了
7
『……スター! マスター!』
「う……うん……?」
何か聞こえる。
俺を……呼ぶ声……?
『マスター!!』
「のわぁ!?」
耳元で大声が聞こえ、思わず飛び起きてしまう。
「……って、ヒカリ?」
「......兄さん。 起床時間、過ぎてる」
「え……?」
ヒカリの持つ俺の携帯の時刻を見る。
とっくに8時を回っていた。
『そうですよ、マスター! 昨晩、私たちで遊んだからって、寝坊は感心しませんよ!』
「......兄さん……?」
「ちょ、トル! 接続詞間違ってるぞ!?」
『そうですか? 拗ねた私たちをつつきまわしておいて、白ばくれないで下さい!』
『…………』
トルの後ろのポルは無言で頷いている。
なんと言うか……物欲しそうな目をして。
「......詳しい話は、後できっちり聞かせてもらう」
早く来いと言わんばかりにヒカリは、俺の携帯を持ったまま背を向けて行ってしまった。
「……はぁ」
ため息が漏れた。
……そうだ。 早く行かないと……
*********
「さて、今日の予定だが……」
朝食が終わり、ケンがおもむろにそう切り出した。
「この合宿の目的でもある、この島の調査を行う」
「なんだよそれ、初耳だぞ!?」
「そりゃ、言ってねぇんだから当たり前だ」
「……ライト君、これ、これ」
後ろからヒヨがつついてくるので見てみると、
「……ちゃんと書いてるし……」
単に見落としていたことが露見してしまった。
「……しっかりしなさいよね」
ローザには呆れられる始末。
「……ま、そんなわけで、チーム分けをするぞ。 ついでにブリーフィングだ」
ケンは食堂のモニターに、この島の地図を映し出した。
「これだけの施設を作っておいてあれだが、実際、この島のことは何にも分かってない」
「マジかいな……」
「報告では、ある程度進むと、進めなくなるらしい」
「……は?」
「今回、お前とステラに行ってもらう森の話だ。 "マヨイの森"なんて言われてるらしいぞ」
なんだよそれ、マジで存在してるのか……?
「……てか、その組み合わせって誰が……」
すると、アカリが手を挙げて、
「わたしたちがさっき決めたんだ! ね、アキラちゃん?」
とアキラに振る。
「うん。 各個人の戦力をおおよそで計算して、組み合わせを考えたんだ」
「ちなみに、3つのグループに分かれることになってるぜ。 西海岸担当、東海岸担当、森林担当の3つだ」
「……俺とステラが森の調査として、お前たちは何をするんだよ?」
「島の全体図を正確に書き出すために、島の周辺を調べるんだよ。 資料によると、島の形がかなり変わってるんだと」
「モンスター反応も、あるみたいだよ?」
「そうね。 あんたがグースカ寝てる間にあたしたちが調べた限りではね」
ぐ……
「……ごめん、手伝えなくて」
「い、いいんだよ! 謝らなくたって……」
「……ふん。 反省しなさい」
「……そんなわけで、残りのメンバーもパパッと発表して、調査に出向くぞ」
「......なぜ、わたしがこっちなの……?」
「いいじゃん、ヒカリ! トラシャイの3人で動けるんだから!」
「そうだよ。 連携力なら、きっとナンバーワンだよ!」
「......うぅ……」
……すまん我が妹よ。 俺が決めたことじゃないんだ……
「……それはあたしのセリフよ。 あたしこそ、どうしてこっちなのよ?」
「まぁまぁ、オレ1人ってのはちょっとキツイからさ。 頼むよ」
ケンはそこでスッとローザの耳元に寄った。
「……ほら、これが終わったらゴニョゴニョ……」
「……え?」
なんだ……ローザに変な事吹き込んでないだろうな……?
「……それ、本当でしょうね?」
「……ああ、もちろん」
「?」
ヒヨが完全に置いていかれてるけど、大丈夫かな……
「……まったく、しょうがないわね」
ケンが離れると、ローザはため息まじりに首を振った。
「よし、それじゃあ出発だ。 何かあったら、各自インカムで知らせるように!」
*********
「……それで、ケンにはどこまで話したんだ?」
お昼に集合することだけを決めて別れた後、隣にいるステラに聞いてみた。
「どこまでって……ウチの”ステラ”って名前の由縁ぐらいしか……」
「……それぐらいなら、まぁ、いいか……」
『ウチも、全てを照らす、光になりたいんや!』と言っていたのを思い出す。
まさかそれが名前の由縁とは、言われるまで気づくまい。
「あ、もしかして、ケンさんがウチのことをステラって呼んでたから……?」
「……そうだ」
そういうところは無駄に鋭いよな……
「なんです? ヤキモチですか?」
「そうじゃない。 ただ……」
「ただ?」
「……あいつは俺たちと違うから、あまり背負わせたくないんだよ」
なるべく真剣な声色で、そう伝えた。
「……わかってるって。 でも、今のウチらは間違いなく人間やから。 それだけは、忘れないでください」
「……ああ」
間違いなく人間。
それは見た目の話か?
行動原理の話か?
それとも……
「……ああ、もう! やめやめ! そんな辛気臭い顔せんとって下さい!」
ステラは手を叩くと、
「痛っ!」
バシバシ俺の背中を叩いた。
「ヒカリに教わった、『気合の入る魔法』や」
「暴力の間違いだろ……」
「ひぃっ!? 隊長さん、グリグリしないでっ!!」
ステラの頭を両拳で挟んでドリルの刑。
久しぶりにかました気がする。
「……あ、あれ、あれ見て!」
ステラは森の奥の方を指差した。
「そんなこと言って逃げようったって……ん?」
指差す方に視線を向けると……
『…………』
何かが、こちらを見ていた。
「なんだ……あれ?」
ステラを刑から解放し、こちらを見つめるそれを注視した。
ふわふわと浮いているように見える。
全長……30センチってところか。
小さな羽のようなものも確認できた。
『…………』
「あ!」
小さなそれは、ついっと森の奥へ行ってしまった。
「……あれ、なんだと思います? 隊長さん」
「うーん……」
森に出てくる小さな生き物……
あの体躯、あの雰囲気、そして……
「……あの感じだと、フェアリー、ってのが関の山じゃないか?」
明らかに顔と胴体と足が付いていた。
それも、人によく似たものをだ。
「ほぇ……。 存在、したんやなぁ……」
「……クリスタルが存在してるんだ。 なにが具現化されててもおかしくない」
「……せっかく感動に浸ってるんですから、正論で論破しないでくださいよ」
と、少し拗ねたように唇を尖らせたが、
「ま、それもそうか」
はぁ、とため息をついた。
「夢も空想も、現実になってしまうと、なんだか寂しいもんやな」
「『夢は夢だからこそ美しい』ってか?」
「なんやそれ。 誰の受け売りなん?」
……ヒメ……って言っても、わからないんだろうな……
「……それはそうとして、どうする? 追跡してみるか?」
「もちろん、追いかけるやんな?」
「よし、よく言った!」
食欲と好奇心には勝てないってね……
「さ、行きましょう!」
ステラの背中を追いかけるように、駆け出した。
*********
*********
「……それで、どういうつもりかしら?」
「なんの話かな?」
「とぼけないで。 あれよ、さっきの……」
「……うん? ああ。 あれね」
ケンははぐらかそうとしてるのか、あたしを弄んでるのか、戯けた態度を見せる。
「言った通りだ。 今夜、二人っきりになるチャンスをくれてやる。 バッチリ押していけよ?」
「う、うぅ……」
ケンにはバレバレだったみたい。 まさかこんな話に納得させられるなんて、思ってもいなかったわ……
「どうせ、最近ご無沙汰なんだろ? パパッとやっちまえよ」
「な、ななな!? あ、あたしたちは別に、そんな関係になったわけじゃ……!!」
「……なに話してるの?」
「ひ、ヒヨ?」
「ちょ、ちょっと待て、ヒヨ。 それはオレの肩が、肩がぁああああああ!!」
「はいはい、話はこっちで聞くからね〜」
木々の奥に連行されたケン。
なにやら勘違いしてるみたいだけど……知らぬがなんとかってね……
それにしても……
二人っきりって……どうするつもりなのかしら。
今夜は花火大会をするなんて言ってたけど……
そもそも、モンスターがいるのに、花火なんてできるのかしらね……?
「……バッチリ押していくって……うぅ……無理無理……」
羽織ってきたパーカーのフードをかぶり、その場でうずくまる。
落ち着け、あたし。 この世界が戦場なんだってことを、忘れてはだめよ……
*********
*********
「あれ? おっかしいなー。 ここ、さっきも通らんかった?」
「……通った気がする。 この花、さっきと同じ形角度で咲いてるし」
「それは根拠としてはどないなん……?」
追いかけたはいいが、見事なまでに道に迷っていた。
木々に遮られ、あたりは薄暗く、それほど見通しも良くない。
「おい、ポル! 聞こえるか?」
仕方なく俺はサーチャーを起動した。
『......んあ?』
数秒の間の後、ポルの気怠げな声が帰ってきた。
「このあたりの地図、出せるか?」
『......うーん……位置情報が特定できない。 簡易マップが限界』
「それでいい。 頼む」
『......ほい』
RPGで見たようなミニマップが、ディスプレイに映し出された。
「この赤いのが、モンスター……だよな?」
あたりをさっと見渡してみる。
「どうです? 隊長さん?」
カチカチ、とボタンを押して、倍率を下げる。
だが、いくら広域に設定しても、赤い点が集まっている箇所に続く道がわからない。
「うーん……かなり、ヤバイかも……」
「えぇ……」
その時、スッと視界の端を掠めたのを捉えた。
「っ! こっちだ!」
「ちょっ!? 隊長さん!」
画面に浮上した赤い点を、ひたすらに追いかけた。
低木を踏み倒し、草花を分入って、ただひたすら。
そして……どうやって来たのかわからぬまま、
「隊長さん! 見てくださいよ!」
……この島の、一番辿り着いてはいけない場所へ、辿り着いてしまった。
真宵の森の、最深部……モンスターの巣窟に。
そろそろ……結合しないとヤバそうだな……
近いうちに、結合処理を施しにかかります。




