チャプター 8-5
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「よし、ビーチバレーしようぜ! ビーチバレー!」
そう言いだしたケンは、砂浜の用具倉庫からポールとネットを持ってきて、
「お前はボールを膨らませておいてくれ」
と、俺にしなびれたビニールの塊を渡してきた。
え……? 俺がやんの?
「二人はコートを書いてくれ。 その間に……ヒヨ、こっち側のポールを」
「うん、まかせてよ」
「わかったわ。 あんたはそっちをお願い」
「......ラジャ」
「え? ウチは待機!?」
ケンの指示に、皆が動き出す。
なんと言うか……こういうときのケンは輝いて見える。
俺がリーダーやってたときより、リーダーやってるというか。
「……何をボケッとしてるんだよ。 ボールが無かったら、始められないだろ」
「わかってるって」
手に持つ塊に視線を落とす。
……さて……空気穴はっと……
ずいぶん長い間使っていなかったらしく、カチカチだった。
おかげで空気穴を見つけるのに少し苦労した。
「……よし。 これでいいかな」
浮き輪を膨らませるのと同じ要領で、ボールの形に。
赤と青と白のストライプ柄で、大きさと耐久性は文句なさそうだ。
「準備できたか? じゃあ次は……チーム分けだな」
「はいはい! そう言うと思って、割り箸でくじを作ってきたで!」
ステラはそう言って、さっき作ったのであろうその割り箸の束を握る手を出す。
「ほらほら、引いてください!」
ステラに促され、皆は一本ずつ割り箸を抜き取っていく。
「ほな、色つきと色なしチームで分かれましょ」
「……で、どうしてこうなった」
色つき……所謂あたりを引いたのは、俺、ケン、ヒヨ。
「いやぁ、ウチにはさっぱり――」
と、くじを引かせた張本人の台詞が終わるより先に、
「勝負よっ! 負けたチームはアイス奢りね!」
「はぁ!?」
ローザがそう捲くし立てると、ボールを空中に上げ、サーブを放った。
「ひぃ!?」
そのボールは、ちょうどヒヨの真正面へ。
「ヒヨ!!」
「えいぃ!!」
ポーンとボールは俺の上空へ。
いいぞ。 思っていたよりヒヨはバレーが出来る!
「ケン!! ぶちかませ!」
「ああ!」
俺の元に落ちてきたボールを空に返す。
そして、ケンはタイミングを合わせて跳んだ。
「喰らえッ!」
「甘いで!!」
ケンのスパイクが炸裂するも、ステラがすかさずブロックに入る。
「くそっ」
ボールはステラの腕を跳ねて俺たちのコートに帰ってくる。
だが、あれなら……
「ライト君っ!!」
「わかってる!!」
間髪いれずにボールへとダッシュ。
コートギリギリに落ちそうだったボールを、滑り込んで上空へ叩いた。
……よし、間に合ったぞ……
と思った瞬間、
「......えい」
バシュッ!!! と音がし、ボールが砂浜にうずもれていた。
「......わたしにバレーで勝とうなんて、まさか思ってないよね? 兄さん」
うわ……目がマジだ。
ていうか、ヒカリがボール競技得意って忘れてたぜ……
「せんぱーーーーい!!! 助けてくださーーーい!!」
「「!!」」
突然響き渡るアカリの声。
「ちょ、ちょっとライト!! いつまでも寝そべってないで、あれ、あれ!!」
ローザがわたわたと指をさすその先には……
「な、なんだ……?」
触手……だろうか。 でも……でかいぞ。 それもとてつもなく。
よくわからないが……海に浮かぶあれは、おそらくモンスターだろう。
「行くぞ! お前の後輩なんだろ?」
「せやで、隊長さん! 行きますよ!」
みんな、切り替え早いな……
「わかった。 ……ヒカリ。 お前はヒヨの保護を」
「......えー。 まぁ、いいけど……」
「ご、ごめんね? ヒカリちゃん」
「ほら、さっさと行くわよ!」
ローザは腕を背中に回し……
「あ、あれ?」
いつも装備している大剣がないことに気づいたらしい。
「……さ、先に行ってて!!」
そう指示を出すなり、顔を真っ赤にして更衣室へ走っていってしまった。
「……行こうか」
「ああ」
科学武器は当然の様に防水のため、水着のポケットに忍ばせていた。
だが、さすがにクリスタルは持ってきていない。
あるのはネックレスとシルバーリングとプロテクトデバイスぐらいだ。
「隊長さん! カニですよ! カニ!」
前を走るステラが、そんなことを言うので、
「いや、でも触手が……」
いつの間にか近くに迫っていたそのモンスターを見やった。
「せんぱーい!! 早く助けてくださいよーー!!」
まず見えたのは、アカリとアキラを捕らえている触手。
タコというよりはイカに近い形状をしている。
何やらやばそうな粘液で濡れているようだが……
「おいライト! ボケッとしてるんじゃねぇ!!」
先ほど言われたのとは気迫が違った。
……そうだ……ゆっくり観察してる場合か……
頭を振って、ビームサーベルを抜く。
ケンはビームライフルを忍ばせていたらしい。 その触手目掛けてビームを放っている。
いったいどこから持って来たのやら。
「隊長さん! 前!」
ステラの声に素早く反応し、横へ回避運動。
俺のすぐ横を、何やら硬そうなものが掠めていった。
それを目で追ってみると……
「……カニだ」
カニだった。 間違いない。
でも、やつの背中からは触手が生えている。
……まさに、海の怪物……
「……触手が気になるのは分かるが、集中しろ」
まるで自分に言い聞かせているかのように、ケンが呟く。
「……わかってる」
とりあえず、アカリとアキラの救出からだ。
「ステラ! タゲ頼む!」
「任せとき!!」
ステラは虚空から取り出していた曲刀を振るい、カニを挑発するように攻撃する。
触手の大半がケンを狙い、カニのハサミはステラを狙っている。
「アカリ! 無事か!?」
その隙に、ハサミを踏み台にしてカニの背中へ飛び乗り、アカリを見上げる。
「うん! で、でも、アキラちゃんが!!」
「え?」
アカリの隣に、アキラがいるのが見えた。
触手に弄ばれるようにプラプラと宙を踊っている。
どうやら気を失っているらしい。
「あ、後ろ! 後ろです!」
明らかな殺意が迫るのを感じ、横へ踏み出す。
「……≪朧月≫!!」
そして、カウンターで触手を切り裂いた。
「太いな……」
切断には至らず、痛みを訴えるように触手がのたうちまわり、血の代わりか、緑色の液体が振りまかれる。
酷い腐臭が辺りを満たした。
「…………」
手遅れとは思いつつも、腕で自分の口を塞いだ。
今のところ、麻痺も眠気もない。
だが、明らかにヤバイことだけはわかる。
……≪雷切≫……!!
触手に下手なちょっかいをかけられないことを悟った俺は、空いている片手を腰に構える。
そして、アカリとアキラを掴む触手めがけて放った。
『グオオオオォォオ!!』
イカってそんなうめき声上げるのか……確かめようが無いからなんとも言えないけど。
「大丈夫か、2人とも?」
プロテクトデバイスで生成した障壁を足場にして跳び、落ちて来た2人を抱える。
「あ、ありがとう、先輩!」
「…………」
アキラは気を失ったままでぐったりしてるが、大丈夫そうだな……
「あ、あの……そんなにジロジロと見てあげないで……」
「あ、ご、ごめん……」
あの粘液は、やはり服を溶かす効果があったらしい。 2人の水着はボロボロになっていた。
見えそうで見えないのは唯一の救いか。
……なんか今寒気が……気のせいかな……
「ライト! 救出出来たのね?」
俺が砂浜まで跳んで来たタイミングで、ローザがウィングで飛んで来た。
「ああ。 なんとかな」
両腕の2人を砂浜に降ろしてあげると、アカリはアキラとくっつき合うようにして、露出した部分を埋めようとゴソゴソし始めた。
結局、アカリがアキラの上に覆い被さるようにして落ち着いたらしく、顔を真っ赤にして振り向き、『何見てるんですか』と言いたげな目を向けてきた。
いや……すまん。 見てる場合じゃないよな……
「……ほら、行くわよ?」
「わかってる。 わかってるから大剣を向けないでくれ」
*********
アカリたちを置いて、ステラたちの元へ急いで戻る。
「ローザ。 クリスタルはあるか?」
「……あなたが欲しいのは、これかしら?」
ローザが取り出したのは、薄青く光るインスタントクリスタルだ。
「ああ。 借りるぞ」
「ええ。 3倍返しで頼むわね?」
それは勘弁してください……
「隊長さん! はよう来てください! もう持たん!」
モンスターのカニの部分……主に大きなハサミが眼に映る。
「よし、ステラ! バニッシュ!!」
「待ってました!!」
ステラは両手の剣を振りかぶり、思い切り向かって来たハサミを叩いた。
さらに、ケンのビームがカニの目を捉え、視覚を封じた。
「ナイスだ! 2人とも!!」
後ろのローザに振り向く。
……ローザも準備万端なようだ。
「行くぞ!!」
「任せなさい!!」
地を蹴り、カニに肉薄する。
「喰らえッ!! ≪クロスドライブ≫!!」
V字を描くようにカニの両腕を切り裂き、一直線に叩き斬った。
『〜〜〜ッ!!!』
声とは言いがたい轟音を轟かせ、モンスターは少し後退した。
「「今だッ!!」」
俺とケンが叫んだのは、ほぼ同時だった。
「やぁぁああああ!!」
ウィングで上昇したローザは、迫る触手を回転斬りで切り落として行き、
「≪メテオプレス≫!!」
クリスタルを発動させ、モンスターの脳天をブチ抜いた。
『〜〜〜〜…………』
モンスターは緑色の液体を飛び散らせながら、沈黙した。
「あれ? 消えないのか?」
「どうやらここのモンスターは、倒しても死骸が残るらしい」
「うぇ……マジかよ……」
ビームサーベルを振って、刃を仕舞う。
ああ、疲れた……
「うぅ……身体中ベタベタよ……」
モンスターの亡骸のそばで、泣きそうになりながら液体を流しているローザの姿が見えた。
「……そうだ。 こいつを昼飯にしようぜ」
「……は?」
「こいつをバーベキューで食っちまおう。 多分、美味しいはずだ」
「ケンって、意外とワイルドやなぁ……」
ステラに引かれてるぞ、ケン。
「そうと決まれば、さっさと解体しようぜ! 海が汚れちまう」
「いや……え、マジ?」
ケンは聞く耳を持たない。
……やれやれ……変な副作用とか、無いよな……?




