チャプター 8-3
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水着選びなんていう地雷イベントを華麗に回避し、女性陣をデパートへ追いやったので、久しぶりに俺1人のリビング。
この時間を活かし、ケンと綿密な計画を立てる。
みんなの用事の日程をまとめたり、軽いしおりを作ってみたり。
『そういえばライト。 お前、盗聴器持ってるか?』
「な、なんの話だ」
『とぼけても無駄だぜ? ヒヨから全部聞いてるからな』
「そ、そうか……。 それで、その盗聴器がどうした?」
『合宿の日、持ってきてくれ。 仕込んでおく』
「また趣味の悪いことを……」
先生たちには、戦闘科の強化合宿として話を通していた。
目立った恩恵はないが、色々聞かれることはこれで無いってわけだ。
ま、そのせいでこんなこと言い出す奴が出るんだけど……
『いいじゃねぇか。 減るもんでもねぇし』
ケンのテンションがおかしい。
「いや、バッテリーとか、俺の胃の耐久値とか色々減るんだけど……」
『まぁまぁ、バレなきゃいいんだよ!』
お前、生徒会のメンバーだったよな? なんとも思わないのか?
「……はぁ。 ほどほどにな」
『わーってるって!』
聞いても無駄なのはわかってるので、あえて問い詰めない。 めんどいし。
その日の夜。
主催者たるケンから、7月中に宿題の類を終わらせておくようにと言われてしまった。
「ローザ。 これ、どうやって解くんだっけ?」
「はぁ? あんた、授業聞いてたの?」
「……すみません寝てました」
事実だけ伝えた。
「まったく……。 これはね……」
こんな感じで、リビングでローザたちと勉強会をすることに。
俺とローザがやんやしている間、ヒカリは黙々と自分の宿題をしていた。
ヒカリって遊んでばっかに見えるけど、結構頭いいよな。
思考回路はどうなってんのかわかんないけどさ……
「......兄さん」
「な、なんだ?」
またメタ読みされて文句言われるのか……?
「......兄さんたちは、付き合ってるの?」
小首を傾げるヒカリ。
「「はぁっ!?」」
俺とローザが立ち上がったのは、ほぼ同時だった。
「......どうなの?」
「い、いや、どうもこうも……」
「そ、そうよ! あたしたちは付き合う以前に、パートナー同士なのよ!?」
俺とローザの必死の弁解。
何を焦って何を否定しようとしてるのか俺自身イマイチわからないが。
「......それはわかってる。 その上で、付き合ってるのか聞いてる」
「う、えぇ……?」
変な鳴き声をあげるローザ。
……いや、俺を見ても仕方ないぞ……?
「……どうなの?」
それでもなお、問い続けるヒカリ。
「……確かに俺は、ローザから好きだと告げられた」
「......っ!?」
あれ……? この情報、まだ漏れてなかったのか?
「俺も……ローザの事が好きだって気づいたから、そう伝えた」
「…………」
ちょっと、ヒカリさん……? 目が、目が死んでますよ……?
「う、うぅ……」
ローザは顔真っ赤にして悶えてるし。
「……でも、まぁ、付き合ってくれとは言われてないし、言ってないから、付き合ってる訳では無いと思うぞ。 うん」
「「!!」」
俺のその弁解を聞き、反応した二人。
え、なに? またなんかマズイこと言った……?
「......ってことは、付き合ってないの?」
「便宜上は、そうなるんじゃないか?」
「…………」
ローザが震えている。
怒りから来るものなのか、はたまた別の感情か。
……俺に分かる訳ないだろ……
「......わかった」
ヒカリは一変、ニヤリと笑うと、
「......今度の合宿、楽しみにしててね。 兄さん」
どこか勝ち誇ったようにそう言うと、ノートやらを片付けて部屋に引っ込んでしまった。
「……どういう意味だ……?」
「…………」
ローザは黙ったままだし。
「はぁ……勘弁してくれ……」
悩み事の種は、なぜか尽きない。
ケンに相談したら殺されそうだけどな。
*********
ステラが奮発して買ったという水着を見せてきたせいでローザ達に睨まれたり、ヒヨのサポートを加えて宿題を消化したりしていたら、あっという間に8月になった。
待ちきれないからと、宿題を終えたトラシャイの3人はプールへ何度か行ってたみたいだが……
……ヒカリが確か泳げなかった気がするけど、関係あるのかね……
「ローザとヒヨは、プールに行かなくてよかったのか?」
「何言ってるのよ。 あたし達がいなかったら、あんた、宿題進まないでしょ?」
うんうん、とヒヨが横で頷いている。
「それに……あんたがいないのに行ったって……」
「え?」
「な、なんでもない!」
ローザは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
……おいヒヨ。 笑顔がなんか怖いぞ。
「……なんかごめん」
「謝らないでよ。 あんたに色々助けられた、そのお礼なんだから」
「そうだよ、ライト君。 やるって言ったのは、こっちなんだし」
「わかった。 じゃあ、宿題終わるまで付き合ってもらうからな」
「!」
謎に反応するローザ。
「もちろん、最後まで教えるからね」
ヒヨは笑顔でOKしてくれた。
「……わ、わかってるわよ。 さっさと終わらせましょう」
……あれか。 この前の付き合ってる付き合ってない事案、まだ引きずってるのか……?
思い出した途端、顔が熱くなるのを感じた。
そんなつもりで言った訳ではないのに。
……くそ……調子狂うぜ……
「……絶対、ヒカリには負けないんだから……」
ローザは何やら呟くと、
「やるわよ! 合宿まで時間もないんだし!」
と言って俺を指差して、笑った。
*********
「あぁ……終わった……」
出発1日前の夜。
ついに宿題という敵を攻略した。
「やれやれ……お疲れ様。 ライト」
「ああ。 ありがとう、ローザ」
「良いのよ。 間に合ったんだから」
ふぅ、と息を吐き、携帯を手に取るローザ。
「ケン? やっと終わったわ。 データを寄越しなさい」
ケンには、参加者全員の課題が終了した時点でしおりを配るようにと言ってあった。
『ハイハイ。 ……にしても、よく終わったなぁ。去年、宿題を炭火の燃料にしてたやつと同一人物とは思えねぇよ』
「余計なこと言わなくていいから」
……マジで、去年の俺は何をやってるんだ……
我ながら頭が痛い。
『……よし、全員に送ったぜ。 明日の10時に学校のラウンジに集合な』
「10時ね? わかったわ。 ありがと、ケン」
『良いってことよ。 じゃ、寝坊するなよ〜』
ブツリ、と通信が切れる。
同時に、リビングの扉を開ける音が。
「......兄さん。 これって……」
端末を片手に、ヒカリが俺に問いかけた。
「ヒカリ? ああ、これはしおりだ」
同じ画面を俺も開き、見せてやった。
ヒカリは「......ほぇえ……」と呟きながら、ページをめくる。
そして、指があるページで止まった。
ヒカリの口が開く。
「......どうして、お風呂が混浴じゃないの!?」
……そこかよ……
「……お前はアホか」
「……流石にそれは予想してなかったわ」
俺とローザは頭を抱えた。
「......だって、この合宿のオーナーは、ケンなんでしょ!?」
ヒカリが困惑していらっしゃる……
「……お前、ケンのことを何だと思ってるんだ……」
確かにケンがいる時点で、その案が出ることはわかっていた。
だからこそ、俺が先手を打ってその案を消滅させたんだ。
そのことをヒカリに伝える。
「......むぅ」
いや、膨れられても……
「……とにかく、風呂は普通に男女別だ」
「......つまんない」
つまらないも何も無いだろ……
「あら? ヒカリ、何を持ってるの?」
ローザはヒカリが手に持つ何かを指差した。
「......これ? これは……兄さんのパンツ」
「「ーーっ!?」」
驚きすぎて、声が出ない。
ローザなんて、顔を手で覆ってるし。
……あの、目が隠れてないっすよ……?
「......ほら」
ヒカリはパラリと、その布を広げた。
「……あれ? それ、海パンじゃないか」
トランクスタイプのそれは、明らかに下着のそれとは違っていた。
「え……?」
ローザは二度見ぐらいしてるけど、俺の下着では決してない。
「......うん。 ……兄さん、水着用意できてないと思ったから」
「……普通に最初から水着って言えよ……」
なんて言いつつも、ありがたく受け取る。
マジで用意を忘れてたとは言えない。
「…………」
俺に渡せて満足したのか、ヒカリは背を向けてリビングを出てしまった。
一瞬、ヒカリがニヤリと笑ったように見えたが、気のせいということにした。




