チャプター 8-2
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『さて……準備は良いかい?』
スピーカー越しに、ソウマの声が響く。
「もちろんよ!」
「......こっちもOK」
『それじゃあ、1ダウン取ったら勝ちってことで。 よーい……』
「え? それも聞いてな――」
ビーーッ!!
アイリの反論も空しく、開始を告げるブザーが鳴り響いた。
「......動作テストしたいから、兄さん、突っ込んできて」
「あ、ああ……攻撃すればいいんだな?」
ジェットノズルで宙に少し浮いたヒカリは、空中を指で叩いている。
どうやら、仮想キーボードでプログラムの追加を行っているらしい。
「いくぞっ!!」
ビームサーベルを2本取り出し、ヒカリの方へ駆ける。
「......うん。 調子いいみたい」
だが、一向に距離が縮まらない。
しかもヒカリの指は動いたままだ。
「おいおい……近付けないぞ?」
「......そういう風に組んだんだから、あたりまえ」
「冗談だろ……」
これでは俺は攻撃を仕掛けられない。
「だったら……これでどうだっ!!」
≪フォトンウィング≫を展開し、近付く速度を上げた。
「......んあっ……兄さん、激しい……」
「お前、わざとやってるだろ……」
それでも、機体自体の速度が相対的に上がっただけで、距離は変わらなかった。
「くっ……アイリ! まだなのか!?」
「うるさいわねっ! 今やってるわよ!」
アイリの機体は近接型だ。
そのため、射撃武装を装備するときは、それなりの準備がいるとの事。
≪カノープス≫戦以来、射撃武装を使っていなかったため、プログラムを近接よりに書き換えていたらしい。
なので、アイリもヒカリと同じように、仮想キーボードを叩く羽目になったというわけだ。
「......そろそろ鬼ごっこも疲れてきたし、やりますか」
ふぅ……とため息をついたヒカリは、腕のセンサーのリポーズを解除し、機動装甲の腕……というかビームライフルを操作し始めた。
「......追尾弾は撃てないから、安心して避けていいよ?」
……忠告はありがたいけど、安心要素皆無だからな?
「......じゃあ、ファイア!」
銃口を躊躇わずこちらへ向け、ビーム弾を乱射する。
「ちょっ! 当たる! 当たるって!!」
俺とヒカリはちょうどアリーナステージの内周をぐるぐる回ように、二人で追いかけっこをすることに。
「......狙ってるんだから、あたりまえ」
いや、それはそうかもしれないけどさ……
「......2倍速も出来るけど、やっとく?」
「遠慮しとく……って言っても、やるんだろ?」
「......もちろん」
ヒカリはニヤリと笑うと、両手の銃を水平に構え、先ほどの倍の数の弾を撃ってきた。
「こ、このっ……!!」
避けるだけでは捌ききれないので、剣で弾いて弾道を変えて対処する。
ビームの熱が俺の頬とシャツを焼き、額に汗がにじみ始めたのを感じた。
「――天風さん!! 避けて!!」
「なっ――!?」
突然の指示が飛ぶ。
しかたなく俺は目の前に迫った弾を弾いて急上昇。
「絶対に打ち抜いてみせるっ!! ≪雷撃弾≫!!」
「......くっ……」
アイリが放ったその弾丸は、ヒカリだけを狙うかのように弾道を曲げ、ヒカリに迫った。
ヒカリは已む無く攻撃を中断し、回避に移る。
「ナイスだ! アイリ!!」
その隙に、ヒカリの背後を取るために先回りする俺。
「......させないっ……≪バースト≫!!」
「うあっ!!」
両手から先ほどの倍はあろうかという弾を放ち、俺の進行とアイリの銃弾を止めた。
「まだまだ行くわよ!!」
アイリのビームライフルは、ヒカリには劣るが連射性が高いらしい。 もう次の弾を発射している。
「......甘い!!」
ヒカリは呟くと、俺のほうへ急接近。
「ぐっ……!!」
いつものクセで、≪朧月≫の構えを取ろうとしてしまう。
「バカッ!! デバイスを使いなさい!!」
アイリの声が、俺に新たな選択肢をくれた。
「≪プロテクション≫!!」
左腕に装備していた例のデバイスを起動させ、手を前に掲げた。
「......きゃっ……」
ガンッ、と鈍い音がして、半透明の防御壁にヒカリがぶつかる。
「良くやったわ!! ……行けっ! ≪雷撃弾≫!!」
アイリが放った高速弾は、迷うことなくヒカリの方へ。
だが、ヒカリは不敵に笑った。
「......≪朧月≫!!」
「おい、それは俺の技……」
俺が言い終わるより早く、ヒカリはその弾を避け、その勢いを攻撃に転換し、
「......≪バースト≫!!」
つい足を止めてしまっていた俺と、攻撃後の硬直で動けないアイリを、同時に撃ち抜いた。
防御壁を展開する間も無く、≪プロテクトデバイス≫によって衝撃波と化した銃弾に全身を滅多打ちにされた。
そして気づいたら、地面に倒れていた。
「......ダウン。 これでわたしの勝ち」
「おいおい……マジかよ……」
ヒカリは勝ち誇ったようにピースサインをし、嬉しそうに微笑んだ。
*********
「いやぁ、本当に素晴らしいよ! ここまでのプログラムを組むなんて、キミは本当にすごいね!」
「......どうも」
照れているのか、ヒカリが赤くなっている。
「ぜひともうちにスカウトしたいところだけど――」
「断る」
「――ってことだから、データだけで満足させてもらうよ」
やれやれ……ようやく終わりか……
「データを採らせてもらったお礼だ。 その機体はキミにあげよう」
「......本当に?」
「ああ。 もちろん」
「ちょっと! 何勝手に……」
「まぁまぁ。 足りなくなったら、また作ればいいだろ?」
「作るのはあたしなのよ! あ、た、しっ!!」
涙目でハンマーパンチを繰り出すアイリ。
そしてそれを片手で押さえるソウマ。
「すごい、すごいよヒカリ! そんなかっこいいの貰えたの!?」
「ヒカリ! あとでボクも乗せてくれよ!」
あいかわらずトラシャイの3人は元気がいいなぁ……
なんてそんな様子を眺めていたら、
「……お疲れ様です。 天風さん」
「シエル……」
データを転送し終わったのか、アリーナ管理室からシエルが出てきた。
そして、はにかみながらこんな一言を俺に告げた。
「こんな私達ですけど、これからも仲良くしてくださいね?」
「あはは……こちらこそ」
そんなこといわれて、仲良くしないわけには、いかないよな……
*********
……なんて事を思っていながら、あの後食事に誘われたのに、そこまでしてもらうのは申し訳ないのでと断ってしまった。 特に後悔はしていない。
ヒカリはアカリとアキラを寮まで送ると言って、機動装甲に乗って先に行ってしまっていた。
「はぁ……疲れた……」
……にしても、あの機体性能、冗談じゃすまないぞ……
モンスター相手にどこまで通用するかわからないが、対人兵器としては最強と言っても過言ではないだろう。
正直、あそこまで圧倒されるとは思ってなかったし。
「……てか、あんなのどこに仕舞っておくつもりなんだよ……」
そんなことを考えながら、寮までの道を歩いていた時だった。
「ん? メールか……?」
携帯のほうに、メールが届いた。
「……ケンからか」
それだけで嫌な予感しかしない。
……いやいや。 ああ見えてあいつは俺の親友だ。 ちょっとぐらい信用してやらないとな……
「なになに……『せっかくの夏休みなのに、海で水着回をやらないのはないだろ? だから、別荘にみんなを連れて来い(はーと)』」
……ま、あいつならそうするよな……
ある意味で予想通りの提案に俺はため息をつくも、
「……まぁ、いいか……」
早くも俺の頭の中では、この旅行に向けての今後のプランが出来上がっていた。
夕焼けが紅く空を照らす中、俺はこの旨を伝えるため、寮へと早足に駆けていったのだった。




