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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
プロローグ 「終わりの始まり」
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チャプター 1-5



「はぁっ!!」


横薙ぎでクモの足を切りつけ、ひるませる。

さっきからクモの攻撃が鋭くなってきているせいか、反撃する回数が減っていた。


……くそっ……俺の攻撃パターンを学習してるのか……!?


クモの弱点を探りながら攻撃を仕掛けていく。

同じパターンは通じないらしく、少しずつ連撃の回数と順番を変えないと弾かれてしまう。


……確かに、体力を削りきるという勝ち方も、あるにはあるんだが……


クリスタルの特性上、ある程度外装を削り落とすと形状を保てなくなり崩壊することが分かっている。 コアが破壊できなくとも、切断していけば自壊してくれるのだ。

だが、削る量はモンスターによって違い、最悪の場合、コアの周りの肉片だけ残っても攻撃して来るなんてことがありえる。


……なんとかローザを解放できれば……


攻撃パターンも無限にあるわけではない。 いつかは全て弾かれる可能性も出て来る。

人手は多い方が良いのは明白だ。 そしてこの場にいる援軍はローザだけ。


……あの糸をすぐに切断できるだけの火力が……


そのローザは壁にぐるぐる巻きにされて縛られている。

あの量の糸を瞬時に切り裂くのは、今の俺には難しいだろう。


……考えろ……手段はいくらでもあるはずだろ……


手持ちのクリスタルの状況を頭に浮かべる。

使えば永続的な支援を受けられる≪永続イモータルクリスタル≫が一つ。

一度使うと砕けてしまうが、爆発的な支援を受けられる≪インスタントクリスタル≫が三つ。


俺がさっき放った≪フォーリングストライク≫は、インスタントクリスタルを使わなくては繰り出せない。

つまり、あの系列の技を出せるのはあと三回ということだ。

だが、あの技を使ってもこのままじゃ倒せない。 見切られて躱されるのは目に見える。


じゃあ、永続の方はどうだろう。

このクリスタルは確か、”ステータス値の中の一つを強化させる効果”があったはずだ。

取り付けてからはずすまで、たった一つしか強化できない。

ただ、どのステータスでも強化できるという点では、他のクリスタルよりは優れていると言えるだろう。


……待てよ……。 もし仮に、このビームサーベルの"出力"というステータスが強化できるとしたら……


ついに全撃を弾かれ、カウンターの突進まで喰らってしまった。

着地に合わせて体を跳ね上げ、姿勢を立て直す。


……迷ってる場合じゃねぇ……とにかくやるんだッ!!


クモの追撃を横に飛んで躱し、ポケットから永続クリスタルを取り出し装填する。

そして叫んだ。


「≪リーンフォース≫!!」


強化する項目は……ビームサーベルの出力・・!!

剣を握る手に力を込める。


「…………っ!!」


クリスタルから発せられる粒子が、俺のビームサーベルを包む。

すると少しずつだが、刃が太く、広く、熱くなっていくのがわかった。


……よしっ! いける!!


あの化けクモに視線を戻す。

クモは物理攻撃が当たらないことを悟ったのか、得意の糸を吐き出してきた。

試しに吐き出される糸を切ってみる。


「……暑い以外は問題ないな。 あと眩しい」


予想以上に切れやすくなっていて、もはや感動してしまうほどだった。


……とにかくこれでローザを助けないと。


攻撃が当たらないのは俺も同じ。 埒があかないので、ローザの救出を最優先に動く。

糸を切り裂きながら突進し、対応される瞬間に身を投げてローザの前へ躍り出た。

そして一閃。 加減は上手くいったらしく、ローザが解放されてその身が投げ出された。


「助かったわ! ありがと」

「ああ。 ……じゃ、さっさと片付けるぞ!」


あれだけ苦戦していたクモも、二人がかりなら一瞬だった。

あっけなく爆散していくクモを背に、ローザとハイタッチを交わす。


「まったく……もう勝手にどこかへ行ったりするなよ?」

「――っ! ……え、ええ、わかってるわ! ほら、帰るわよ!」


なぜか顔を赤くしたローザは、そのままさっさと歩いて外へ向かってしまった。

仕方なくその背を追う。

コケたりしないか心配した途端に躓いていた。 足元、気を付けろよとでも言ってやればよかったと思ったが、そのままにしておいた。

なんでもない風を装う姿がなんだか微笑ましいのが悪い。




*********




外はすっかり暗くなってしまっていた。

結局ローザから話の続きは聞けず、俺たちは帰路へ着くことになった。


「そういや、何であの時急に中へ飛び込んで行ったんだ?」


無言で並んで帰ると言うのもアレなので、気になっていたことを聞いておくことに。


「……何というか、猛烈に嫌な予感がしたの」

「嫌な予感……?」

「ええ。 それで調べてみたら案の定、この本が原因だったようだわ」


そう言ってローザは懐から一冊の古びた本を取り出した。


「その本は……?」

「そうね……」


ローザは考える素振りを見せると、振り返って、秘密を抱える者に特有の妖艶な笑みを浮かべた。


「あなたの質問に答えるもの、よ」







おかしい。

そう思ったのは、橋を渡り終えて、寮……というかアパートが見えたあたりからだ。

ここまで帰路が一緒ということは、彼女の部屋が、同じ寮にある可能性が高いということだ。


……なんだか嫌な予感がしてきた。


どこかで読んだ本の中に、運命的な出会いをした少女と同じ部屋に住むというシチュエーションがあった。 運命的かどうかはともかく、少なくとも普通ではない少女と出会ってしまった以上、その可能性は否定できない。


……なんて、さすがに夢見すぎか……


俺が住んでいる部屋は、たまたまそこが空き家だったため、去年逃げてきて、そのまま流れで住んでいるだけだ。

さすがの先生陣も、的確に俺の部屋を彼女の住む場所に指定したりはしないだろう。 俺が使っていることを知らない教師はいないはずだし。 ガスも電気も使ってるんだからな。


……そう。 最悪でも隣の部屋とか、そんなもんだろ。 うん。


同じ階段を俺と同じ数だけ俺より先に登ったローザが、迷いなく、そしてある意味予想通りの扉の前で立ち止まる。

そして彼女は何の躊躇もなく電子キーを取り出して鍵を開けた。


「……さぁ、入って。 もう少し話したいことがあるのよ」

「…………」


年頃の男子高校生を自室に上げるという時点でどうかと思うが、それ以前にこの事実をどう告げるかの問題が頭を満たしていてそれどこではなかった。


「…………」


こんな時、何と言って入れば良いのだろうか。


「へぇ。ここがあたしの住む部屋かぁ……」


ローザは、あらかじめ届いていたらしい荷物トランクを引きずりながら、小部屋を開ける。


「あら? 荷物が残ってるわね……」


……よりによって開けたの俺の部屋かよっ!?


もう隠していても仕方ないと悟った俺は、ありのままに事実だけを伝えることにした。


「あのな、ローザ。 ……ここは俺の部屋なんだよ」

「…………はぁ?」

「……ほら」


俺のカードキーを取り出して見せる。

さっきローザが使ったカードと、同じ番号が打ってあるに違いない。


「……これが夢か、冗談か、何かのドッキリだってことは、ないのね?」


ローザはゆっくりと、確かめるように、トーンを落として聞いてくる。


……おう……超怖い……


俺は黙って頷いた。


「とりあえず夢かどうか確かめるから、歯ぁ食いしばりなさいッ!!」

「ちょっとまて! これは俺が仕向けたわけじゃ――」

「文句は三文字以内!!」


謎の字数指定が聞こえたと思ったら、俺の意識がまたもローザによって殴り飛ばされた。

てか、三字だけじゃ、何も弁解できんだろ。





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