表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第五章 「星降る夜の無垢なる純情《カラーレス・ホワイト》」
59/111

チャプター 7-7



「結局、色々聞きそびれちゃったな……」

新情報が多すぎて、それどころじゃなかったってのもあるけど……

ジークさんが完全に消えるまで立ち尽くした俺は、ジークさんの言葉を反芻する。

……"やれるものなら、やってみろ"……か……

一体どういう意味なのか。

……いや、今はそれよりも……

ジークさんはもう一つ、気になることを言っていた。

「……封印の祠か……」

俺を待っている人が居るそうだが……

……そこに居るとしたら……

俺の脳内に、ある1人の顔が浮かぶ。

……いや……まさか……

そうは思っても、足がなぜか動いてしまう。

……もう会えないはずだ……でも……

ジークさんがさっきまでいた場所から数十キロ。

そこにジークフリートのクリスタルを封印している祠がある。

……待ってるんだったら、行かなきゃダメだよな……

早歩きだった足は駆け足に変わり、気づけば空へ舞い上がっていた。

上空で輝く一番星を見つけ、その星を見つめた。

……今日は七夕なんだ……一年に一度の再会を……俺だって果たしてもいいんじゃないか……?

もしかしたら会えるかもしれない。

もしかしたらまた話せるかもしれない。

そう思ったら、止まらなかった。

ただ真っ直ぐに、撃ち落とされる心配も忘れて、ただひたすらに空を駆けた。



*********



封印の祠は木々の陰に隠れるようにして建っている。

そのため空からの侵入はほぼ不可能なので、少し手前で着陸する。

……何年ぶりだろ……

祠まで続く階段を見上げ、勢いをつけて登り始める。

……こんなに長かったかな……

息を切らして何十段も登ると……

「あ……」

すっかり暗くなった森の中、緋色が申し訳程度に照らす祠の前に、佇む一人の少女。

その後ろ姿を、何度夢に見たかわからない。

だからこそ、目を疑った。

「………………あ」

その少女はゆっくりと振り向くと、口を開いた。

その顔は芸術品かのように整っていて、それでいてどこか幼さを感じさせる。

それは、何度となく見てきた顔だった。

「リリ……お前は……リリなのか……?」

「…………」

少女--リリは、コクリと頷いた。

「嘘……だろ……」

……リリは祠の中で一緒に封印されていたはずだ……なのに……

俺が堪らず1歩踏み出すと、

「…………めっ」

「な!?」

手で制された。

よく見ると、その小さな手は少し透けている。

「…………」

リリは少し悲しそうに目を逸らした。

「……リリ。 テレパシーは?」

「…………」

リリはハッとして俺の方を見て、頷いて目を閉じた。

『……聞こえる?』

その言葉が脳内に響いた時、様々な記憶が脳裏に浮かんでは消えた。

「ああ……聞こえるよ……聞こえる……」

リリはESP--いわゆる超能力を使える。

つまり、目の前の少女は、正真正銘本物だ。

『隊長……?』

リリが不思議そうに俺を見る。

『泣いてる……の……?』

「……だって、またリリと会えるなんて、思ってなかったから……』

辛いことも、楽しかったことも、全部思い出してしまう。

そんな様々な感情は、目から溢れてしまったらしい。

『……リリも、隊長さんに会えるなんて、思ってなかった』

励まそうとしてくれているのか、微笑みかけてくれる。

「……ありがとう、リリ」

『お礼なら、あのお兄さんに言ってあげて。 リリがここにいられるのは、お兄さんのおかげだから』

「……ああ。 そうだな……」

……やっぱり、ジークさんの仕業か……

「……それにしても、大丈夫なのか? ジークフリートから離れても……」

『うん。 リリの本体はあっちに置いたままになってるみたいだから……』

「そ、そうか……」

……なんだよ……それ……

「…………」

「…………」

何を言いに来たわけでもなかったので、話す内容が思いつかない。

『……隊長』

「うん?」

『約束……果たしてくれた?』

言われて思い出す。

「……ああ。 ちゃんと見つけたよ。 守りたいものを」

『良かった……ありがとう、ちゃんと約束覚えててくれて』

「まぁ、約束だからな……」

少し照れくさくなって、頭をかく。

『何かを守ろうって想いは……意志は、きっと隊長の力になるって、思ってるから』

リリはそう言って笑った。

「そう……なのかな?」

『うん。 ずっと近くで隊長を見てたリリが言うんだから、間違い無いよ!』

「そっか……そうだよな……」

……リリはいつだって俺を励ましてくれた。

元気付けてくれた。 一緒に背負ってくれた。

だから、俺は……

『……大好きだよ。 隊長』

「……ああ。 俺もだ」

……この無垢で真っ白な純情を、受け止めて守り抜く義務がある。

「……リリ?」

『……寂しいけど、そろそろ時間みたい』

リリの肢体から、小さな粒子が舞い始めた。

『最後にこれだけ言わせて』

「なんだ?」

『……ジークフリートは、必ずまた現れるよ』

「え……?」

『そして……』

リリは俺の顔を覗き込むようにして笑ってみせた。

『リリとも、また会えるよ!』

……え……!?

「ちょっ……待ってくれ……!!」

リリは手を振ると、虚空へ消えた。

……どういうことだ……? また……会える?

その時、いつかのステラの言葉が脳裏を()ぎった。

……悪魔の復活って……まさか……

ジークフリートの復活。

それはリリの解放であり、悪夢の再開でもある。

……ありえない。 誰が悪魔の復活を望むんだ……?

だが、リリの言葉が嘘だとも思えない……いや、あいつはあんな笑顔で嘘をつかない。

「くっそ……わけわかんねぇ……」

ため息をついて、気持ちを切り替える。

「……これはレポートでも書いて、整理する必要があるな……」

ポケットから携帯を取り出す。

時刻は19時を回っていた。

「……そろそろ行かないと……」

俺は祠に背を向け、来た道を引き返す。

階段を降りようとした時、なぜか嗅ぎ慣れたシャンプーの匂いがした気がした。

この匂いのシャンプーの使用者は二人ほど知っているが、匂いは鼻を掠めてすぐ消えたので、気のせいということにした。

……考えすぎだな……早く戻ろう……



*********



再び、俺のクラスが占拠している区画へ。

「お、ライト! どこ行ってたんだよ?」

「ま、色々とね」

その区画に入ってすぐ、ケンたちの屋台を発見する。

「ライトくん。 せっかくだから一つどう? 焼き立てだよ?」

鉄板の前で何かを焼いているヒヨが勧めてくる。

「じゃあ、ひと……いや、2つ頼む」

「……了解」

ケンがニヤリと笑って、スチロールトレーにヒヨが焼いた焼きそばを詰めた。

……ヒヨが焼いてるのは、焼きそばだけじゃないな……?

ローザから受け取ったレシートの内容を軽く思い出しただけでも、他のメニューが浮かんでくる。

「……ちなみに売れ行きは……?」

ケンから渡されたトレー2つを受け取り、聞いてみる。

「さっきまで超行列だったぜ。 他の屋台の商売を妨害する勢いで」

「へぇ……」

……まぁ、そうだろな……

「あ、これいくらだ?」

「貸しといてやるよ。 だから行ってこい。 どうせ今からステージを見に行くんだろ?」

「な、なんでそれを……」

「さっきまで並んでた客が、揃いも揃って席取りに行ったからな。 あと、ヒカリちゃんが出るって噂だし」

「……知ってたのか」

「本当は見に行きたいんだけどな……」

ケンはヒヨの方を見る。

「ケンくん?」

ヒヨの笑顔がなぜか怖い。

「わかってるよ……。 ……ってなわけで、ここから離れられないんだよ」

「お前も苦労してるな……」

「お前ほどじゃないさ」

……どうだかな……


*********


「あ、隊長さん!」

「ステラ!?」

ステージ前で、人の波にのまれながら席を探していると、りんご飴を食べているステラを発見した。

「空いてますよ」

「あ、ありがとう。 ステラ」

波から逃れ、ステラの横に座る。

「いやぁ、それにしてもすっごい人やな。 休憩時間に入ってんのに、全然減らへんわ」

「そうなのか?」

「せや。 何回かナンパされて、危うく()りかけましたわ」

「……よく得物を抜かなかったな。 普段のお前なら、普通に消し去ってたと思うんだが」

「隊長さん! それは少し失礼じゃないですか!?」

「ごめんごめん。 冗談だって」

「まったく……。 あ。 あれってローザさんじゃありません?」

「ん? 本当だ。 おーい! ローザ!」

俺が木の上にいた人物に声をかけると、ビクッと枝が震えた。

しばらくするとそこから飛び降りて来て、俺たちの方へ。

「……あ、あんな大きな声で呼ばないでよ……」

その人物……というかローザは、俺の隣に座る。

……さすがにこのスペースに3人はキツイぞ……

「……隊長さん。 そろそろその手に持っているものの正体を教えてくれても、ええやないですか?」

ステラが俺の手元に置いてある蓋つきトレーを見てそう言う。

「ああ……忘れてた。 あとで食べようと思ってたんだった」

「1人でですか? 2つあるのに?」

「も、もちろん1つは誰かにあげようと……」

言ってて気付いた。

「…………」

「…………」

他の人から見たら、両手に花とはこのことなのかもしれない。

だが、実際に挟まれてみるとわかる。

……両サイドから、凄まじい威圧が……

「……わかってるって。 俺はいいから2人で食べてくれ」

両手の焼きそばを2人に差し出す。

「ありがとう! 隊長さん!」

「あ。ありがと……」

ステラは嬉しそうに笑って受け取り、ローザははにかみながら受け取る。

付いていた割り箸を割って、2人はヒヨ特製であろう焼きそばを頬張った。

「やっぱり祭りといえば、焼きそばやなぁ」

「おいしいわね。 やるじゃない!」

2人から絶賛の声が。

「…………」

俺は無心で耐えるしかない。

「「あ……」」

俺を見て何を察したか、2人は顔を見合わせた。

「隊長さん。 口開けてください!」

ステラは一口分箸で掬った焼きそばを俺の方へ向ける。

「あ、あたしのも食べるわよね? ほら、食べなさいよ!」

ローザも少し顔を赤くして俺の方へ向ける。

「い、いや、俺は……」

「「いいから食べなさい!」」

「はぐあぁ!?」

4本の箸が口に突っ込まれ、二口分の焼きそばが中へ。

焦げたソースの味が口内に広がる。

「……うん。 うまい」

俺が素直な感想を述べると、2人はニコリと笑った。

「あ、もうすぐ始まるみたいよ」

ローザがステージを指差す。

すると、ちょうど司会者が出て来たらしく、拍手が沸き起こった。

『休憩明け早々、テンション上がってますねー! これなら私から何も言う必要なさそうですね!』

……おい、MCサボるなよ……

『それでは早速行ってみましょう! 後半戦1組目は、"トライアドシャインズ" の3人です!』

「あ、ヒカリちゃん、本当に出るんだ……」

「え? ヒカリ!?」

ローザは驚いてステラの持つタイムテーブル表を奪う。

……ステラのこういう予想って、なぜか当たるよな……

拍手が再び起こった。

ステージを見ると……

『みんな〜! こんばんは〜! トライアドシャインズでーす!』

アカリが新米アイドルみたいな挨拶をすると、また拍手が。

『ありがとう〜! 今日はこの3人で精一杯歌うので、最後まで聞いてくださいね』

アキラは普段のボーイッシュさに、どこか可愛さが合わさった感じだ。

『ほら、ヒカリも!』

『......あぅ』

恥ずかしいのか、2人の後ろで小さくなっていたヒカリが、背中を押されて前へ。

瞬間、大きな拍手と声援が会場を包んだ。

……すごい人気だな……

3人はお揃いの衣装を身に付けている。

どこかの制服をモチーフにしているのか、何かで見たことがある気がした。

『......が、頑張り……ますっ!!』

ヒカリが叫ぶと、アカリとアキラが頷き、マイクを持ち直した。

『それでは聞いてください!』

曲名は……例のアレのカバーとだけ言っておこうか。

……ただ1つの愛を抱いて、空を裂く光……ねぇ……

選曲は誰がしたのかわからないが、あの3人にどこか当てはまる、そんな気がした。

その3人がパート別に歌い踊る姿はどこか印象的で、ずっと見ていたくなるような……そんな感じだった。


曲の途中で3人からそれぞれ笑顔とウィンクとピースを頂いた俺は、他の人たちから何か言われないかとビクビクしていたが、特に何事もなく曲は終了した。

拍手と声援が会場を包む。

「……じゃあ、あたしはそろそろ行くわ」

「あ、俺も……」

「隊長さんは、ヒカリちゃんたちのところへ行くんですよね? ウチも行きます!」

席を立って、ステージを後にする。

「……ライト。 待ってるからね」

「ああ。 わかってる」

ローザはそれだけ言い残し、人の波にのまれるようにして消えた。

「さ、行きましょ」

「そうだな」

時間を確認し、俺たちは楽屋スペースへ歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ