チャプター 7-7
7
「結局、色々聞きそびれちゃったな……」
新情報が多すぎて、それどころじゃなかったってのもあるけど……
ジークさんが完全に消えるまで立ち尽くした俺は、ジークさんの言葉を反芻する。
……"やれるものなら、やってみろ"……か……
一体どういう意味なのか。
……いや、今はそれよりも……
ジークさんはもう一つ、気になることを言っていた。
「……封印の祠か……」
俺を待っている人が居るそうだが……
……そこに居るとしたら……
俺の脳内に、ある1人の顔が浮かぶ。
……いや……まさか……
そうは思っても、足がなぜか動いてしまう。
……もう会えないはずだ……でも……
ジークさんがさっきまでいた場所から数十キロ。
そこにジークフリートのクリスタルを封印している祠がある。
……待ってるんだったら、行かなきゃダメだよな……
早歩きだった足は駆け足に変わり、気づけば空へ舞い上がっていた。
上空で輝く一番星を見つけ、その星を見つめた。
……今日は七夕なんだ……一年に一度の再会を……俺だって果たしてもいいんじゃないか……?
もしかしたら会えるかもしれない。
もしかしたらまた話せるかもしれない。
そう思ったら、止まらなかった。
ただ真っ直ぐに、撃ち落とされる心配も忘れて、ただひたすらに空を駆けた。
*********
封印の祠は木々の陰に隠れるようにして建っている。
そのため空からの侵入はほぼ不可能なので、少し手前で着陸する。
……何年ぶりだろ……
祠まで続く階段を見上げ、勢いをつけて登り始める。
……こんなに長かったかな……
息を切らして何十段も登ると……
「あ……」
すっかり暗くなった森の中、緋色が申し訳程度に照らす祠の前に、佇む一人の少女。
その後ろ姿を、何度夢に見たかわからない。
だからこそ、目を疑った。
「………………あ」
その少女はゆっくりと振り向くと、口を開いた。
その顔は芸術品かのように整っていて、それでいてどこか幼さを感じさせる。
それは、何度となく見てきた顔だった。
「リリ……お前は……リリなのか……?」
「…………」
少女--リリは、コクリと頷いた。
「嘘……だろ……」
……リリは祠の中で一緒に封印されていたはずだ……なのに……
俺が堪らず1歩踏み出すと、
「…………めっ」
「な!?」
手で制された。
よく見ると、その小さな手は少し透けている。
「…………」
リリは少し悲しそうに目を逸らした。
「……リリ。 テレパシーは?」
「…………」
リリはハッとして俺の方を見て、頷いて目を閉じた。
『……聞こえる?』
その言葉が脳内に響いた時、様々な記憶が脳裏に浮かんでは消えた。
「ああ……聞こえるよ……聞こえる……」
リリはESP--いわゆる超能力を使える。
つまり、目の前の少女は、正真正銘本物だ。
『隊長……?』
リリが不思議そうに俺を見る。
『泣いてる……の……?』
「……だって、またリリと会えるなんて、思ってなかったから……』
辛いことも、楽しかったことも、全部思い出してしまう。
そんな様々な感情は、目から溢れてしまったらしい。
『……リリも、隊長さんに会えるなんて、思ってなかった』
励まそうとしてくれているのか、微笑みかけてくれる。
「……ありがとう、リリ」
『お礼なら、あのお兄さんに言ってあげて。 リリがここにいられるのは、お兄さんのおかげだから』
「……ああ。 そうだな……」
……やっぱり、ジークさんの仕業か……
「……それにしても、大丈夫なのか? ジークフリートから離れても……」
『うん。 リリの本体はあっちに置いたままになってるみたいだから……』
「そ、そうか……」
……なんだよ……それ……
「…………」
「…………」
何を言いに来たわけでもなかったので、話す内容が思いつかない。
『……隊長』
「うん?」
『約束……果たしてくれた?』
言われて思い出す。
「……ああ。 ちゃんと見つけたよ。 守りたいものを」
『良かった……ありがとう、ちゃんと約束覚えててくれて』
「まぁ、約束だからな……」
少し照れくさくなって、頭をかく。
『何かを守ろうって想いは……意志は、きっと隊長の力になるって、思ってるから』
リリはそう言って笑った。
「そう……なのかな?」
『うん。 ずっと近くで隊長を見てたリリが言うんだから、間違い無いよ!』
「そっか……そうだよな……」
……リリはいつだって俺を励ましてくれた。
元気付けてくれた。 一緒に背負ってくれた。
だから、俺は……
『……大好きだよ。 隊長』
「……ああ。 俺もだ」
……この無垢で真っ白な純情を、受け止めて守り抜く義務がある。
「……リリ?」
『……寂しいけど、そろそろ時間みたい』
リリの肢体から、小さな粒子が舞い始めた。
『最後にこれだけ言わせて』
「なんだ?」
『……ジークフリートは、必ずまた現れるよ』
「え……?」
『そして……』
リリは俺の顔を覗き込むようにして笑ってみせた。
『リリとも、また会えるよ!』
……え……!?
「ちょっ……待ってくれ……!!」
リリは手を振ると、虚空へ消えた。
……どういうことだ……? また……会える?
その時、いつかのステラの言葉が脳裏を過ぎった。
……悪魔の復活って……まさか……
ジークフリートの復活。
それはリリの解放であり、悪夢の再開でもある。
……ありえない。 誰が悪魔の復活を望むんだ……?
だが、リリの言葉が嘘だとも思えない……いや、あいつはあんな笑顔で嘘をつかない。
「くっそ……わけわかんねぇ……」
ため息をついて、気持ちを切り替える。
「……これはレポートでも書いて、整理する必要があるな……」
ポケットから携帯を取り出す。
時刻は19時を回っていた。
「……そろそろ行かないと……」
俺は祠に背を向け、来た道を引き返す。
階段を降りようとした時、なぜか嗅ぎ慣れたシャンプーの匂いがした気がした。
この匂いのシャンプーの使用者は二人ほど知っているが、匂いは鼻を掠めてすぐ消えたので、気のせいということにした。
……考えすぎだな……早く戻ろう……
*********
再び、俺のクラスが占拠している区画へ。
「お、ライト! どこ行ってたんだよ?」
「ま、色々とね」
その区画に入ってすぐ、ケンたちの屋台を発見する。
「ライトくん。 せっかくだから一つどう? 焼き立てだよ?」
鉄板の前で何かを焼いているヒヨが勧めてくる。
「じゃあ、ひと……いや、2つ頼む」
「……了解」
ケンがニヤリと笑って、スチロールトレーにヒヨが焼いた焼きそばを詰めた。
……ヒヨが焼いてるのは、焼きそばだけじゃないな……?
ローザから受け取ったレシートの内容を軽く思い出しただけでも、他のメニューが浮かんでくる。
「……ちなみに売れ行きは……?」
ケンから渡されたトレー2つを受け取り、聞いてみる。
「さっきまで超行列だったぜ。 他の屋台の商売を妨害する勢いで」
「へぇ……」
……まぁ、そうだろな……
「あ、これいくらだ?」
「貸しといてやるよ。 だから行ってこい。 どうせ今からステージを見に行くんだろ?」
「な、なんでそれを……」
「さっきまで並んでた客が、揃いも揃って席取りに行ったからな。 あと、ヒカリちゃんが出るって噂だし」
「……知ってたのか」
「本当は見に行きたいんだけどな……」
ケンはヒヨの方を見る。
「ケンくん?」
ヒヨの笑顔がなぜか怖い。
「わかってるよ……。 ……ってなわけで、ここから離れられないんだよ」
「お前も苦労してるな……」
「お前ほどじゃないさ」
……どうだかな……
*********
「あ、隊長さん!」
「ステラ!?」
ステージ前で、人の波にのまれながら席を探していると、りんご飴を食べているステラを発見した。
「空いてますよ」
「あ、ありがとう。 ステラ」
波から逃れ、ステラの横に座る。
「いやぁ、それにしてもすっごい人やな。 休憩時間に入ってんのに、全然減らへんわ」
「そうなのか?」
「せや。 何回かナンパされて、危うく殺りかけましたわ」
「……よく得物を抜かなかったな。 普段のお前なら、普通に消し去ってたと思うんだが」
「隊長さん! それは少し失礼じゃないですか!?」
「ごめんごめん。 冗談だって」
「まったく……。 あ。 あれってローザさんじゃありません?」
「ん? 本当だ。 おーい! ローザ!」
俺が木の上にいた人物に声をかけると、ビクッと枝が震えた。
しばらくするとそこから飛び降りて来て、俺たちの方へ。
「……あ、あんな大きな声で呼ばないでよ……」
その人物……というかローザは、俺の隣に座る。
……さすがにこのスペースに3人はキツイぞ……
「……隊長さん。 そろそろその手に持っているものの正体を教えてくれても、ええやないですか?」
ステラが俺の手元に置いてある蓋つきトレーを見てそう言う。
「ああ……忘れてた。 あとで食べようと思ってたんだった」
「1人でですか? 2つあるのに?」
「も、もちろん1つは誰かにあげようと……」
言ってて気付いた。
「…………」
「…………」
他の人から見たら、両手に花とはこのことなのかもしれない。
だが、実際に挟まれてみるとわかる。
……両サイドから、凄まじい威圧が……
「……わかってるって。 俺はいいから2人で食べてくれ」
両手の焼きそばを2人に差し出す。
「ありがとう! 隊長さん!」
「あ。ありがと……」
ステラは嬉しそうに笑って受け取り、ローザははにかみながら受け取る。
付いていた割り箸を割って、2人はヒヨ特製であろう焼きそばを頬張った。
「やっぱり祭りといえば、焼きそばやなぁ」
「おいしいわね。 やるじゃない!」
2人から絶賛の声が。
「…………」
俺は無心で耐えるしかない。
「「あ……」」
俺を見て何を察したか、2人は顔を見合わせた。
「隊長さん。 口開けてください!」
ステラは一口分箸で掬った焼きそばを俺の方へ向ける。
「あ、あたしのも食べるわよね? ほら、食べなさいよ!」
ローザも少し顔を赤くして俺の方へ向ける。
「い、いや、俺は……」
「「いいから食べなさい!」」
「はぐあぁ!?」
4本の箸が口に突っ込まれ、二口分の焼きそばが中へ。
焦げたソースの味が口内に広がる。
「……うん。 うまい」
俺が素直な感想を述べると、2人はニコリと笑った。
「あ、もうすぐ始まるみたいよ」
ローザがステージを指差す。
すると、ちょうど司会者が出て来たらしく、拍手が沸き起こった。
『休憩明け早々、テンション上がってますねー! これなら私から何も言う必要なさそうですね!』
……おい、MCサボるなよ……
『それでは早速行ってみましょう! 後半戦1組目は、"トライアドシャインズ" の3人です!』
「あ、ヒカリちゃん、本当に出るんだ……」
「え? ヒカリ!?」
ローザは驚いてステラの持つタイムテーブル表を奪う。
……ステラのこういう予想って、なぜか当たるよな……
拍手が再び起こった。
ステージを見ると……
『みんな〜! こんばんは〜! トライアドシャインズでーす!』
アカリが新米アイドルみたいな挨拶をすると、また拍手が。
『ありがとう〜! 今日はこの3人で精一杯歌うので、最後まで聞いてくださいね』
アキラは普段のボーイッシュさに、どこか可愛さが合わさった感じだ。
『ほら、ヒカリも!』
『......あぅ』
恥ずかしいのか、2人の後ろで小さくなっていたヒカリが、背中を押されて前へ。
瞬間、大きな拍手と声援が会場を包んだ。
……すごい人気だな……
3人はお揃いの衣装を身に付けている。
どこかの制服をモチーフにしているのか、何かで見たことがある気がした。
『......が、頑張り……ますっ!!』
ヒカリが叫ぶと、アカリとアキラが頷き、マイクを持ち直した。
『それでは聞いてください!』
曲名は……例のアレのカバーとだけ言っておこうか。
……ただ1つの愛を抱いて、空を裂く光……ねぇ……
選曲は誰がしたのかわからないが、あの3人にどこか当てはまる、そんな気がした。
その3人がパート別に歌い踊る姿はどこか印象的で、ずっと見ていたくなるような……そんな感じだった。
曲の途中で3人からそれぞれ笑顔とウィンクとピースを頂いた俺は、他の人たちから何か言われないかとビクビクしていたが、特に何事もなく曲は終了した。
拍手と声援が会場を包む。
「……じゃあ、あたしはそろそろ行くわ」
「あ、俺も……」
「隊長さんは、ヒカリちゃんたちのところへ行くんですよね? ウチも行きます!」
席を立って、ステージを後にする。
「……ライト。 待ってるからね」
「ああ。 わかってる」
ローザはそれだけ言い残し、人の波にのまれるようにして消えた。
「さ、行きましょ」
「そうだな」
時間を確認し、俺たちは楽屋スペースへ歩いて行った。




