チャプター 7-6
6
7月7日。
南原市の町興し目的で始まった七夕祭。
その七夕祭の当日だ。
会計の仕事がほぼ終わってやる事もない俺は、クラスメンバーの様子を見に行く事に。
「おいライト!」
「ん? ケンか?」
うちのクラスの担当地区で、屋台組み立て中のケンに呼び止められる。
「暇なら手伝ってくれよ!」
「あれ? ローザはいないのか?」
その一画で仕事をしていたのは、なぜかケンだけだった。
「あいつらは買い出しに行ったよ。 会ってないのか?」
「ああ。 今朝から見てないな」
イベントの日は授業が無いのをいい事に、今日は9時起きだった。
そのため、起きた時にすでにローザは出て行った後だった。
「そうか。 ……いや、良いから手伝ってくれ」
「はいはい……」
ケンと息を合わせ、組み立てたテントを立ち上げる。
「ふぅ……。 これを1人にやらせるとか、どういうつもりなんだ……」
何やらケンがボヤいていらっしゃる。
「ま、日ごろの行いってやつだな」
「どういう意味だ」
テントの中に鉄板とガスコンロを運び入れたところで、こちらに近づいてくる足音が二つ。
「食材買ってきたよ~……って、ライトくん?」
「あら、ライト。 起きてたのね」
両手にいっぱいになった紙袋を持って、ローザヒヨの二人が帰ってきた。
……そういえば、ただでさえ食糧不足状態なのに、こんなに買ってきて大丈夫だったのだろうか……
発注リストを眺めてて気づいたのだが、野菜系の食材はそこそこいい値段しているのに、インスタント系の食材は一袋30円とかだった。
やはり、使用可能の土地が減少したことが影響しているのか。
「あ、これレシートね」
ローザがポケットから紙切れを取り出す。
「おう」
素直に受け取り、さっと目を通す。
……わざわざ買ってくるあたり、何か考えはあると思ったが……
そこには、俺が見た発注リストに書いてある値段より幾分か安い値段が書いてあった。
……そうか。 交通機関が麻痺気味なのも原因のひとつか……
「ライトくん」
「なんだ?」
レシートをポケットに仕舞い、ヒヨのほうを向く。
「屋台作り、手伝ってくれたんだって? ありがとう!」
「いや、いいよ。 これぐらいしか手伝えることないし」
ヒヨから視線を外して、学校までの通りを見渡す。
うちのクラスが占拠したこの区画は、文化祭かなにかのように見える。
……他のクラスや学年のやつらは、何をしてるんだろうな……
「ねぇ、ライト」
「ん?」
後ろから、少し遠慮がちなローザの声が。
「えっと……夜の予定は、どうなってるのかしら?」
「そうだな……」
いつの間にか届いていたジークさんからのメールによれば、17時に森の入り口で待ち合わせ、ということになっている。
七夕祭が本格的にはじまるのは18時からなので、十分間に合う気がする。
「……特にこれといった用事は無いよ」
「……そう? それなら……」
「うん?」
ローザは迷うように視線を外し、頬を染める。
……なんだなんだ……?
「……21時に、屋上に来て。 ……それだけ」
「……? ……ああ。 わかった」
俺が頷くと、ローザはにこりと笑ってテントの中へ入っていった。
……なんなんだ……いったい……
*********
「みんな、いろいろやってるんだな……」
あるクラスは学校の丘にレジャーシートを敷いて、夜通し天体を観測できるようにセッティングしていたり、中庭に大きめのステージを作っていたり、町に出向いて呼びかけを行ったり……
「やっぱり、完全に文化祭だな……」
これで10月ごろにまたやるんだから、どうかしている。
「......あれ? 兄さん?」
「ヒカリ……」
ヒカリにしては珍しく俺より早く起きていたため、ヒカリも昨日ぐらいから見ていなかった。
「……何をしてるんだ?」
そしてそのヒカリは、なぜかジャージを着ている。
首にタオルを巻いて、いかにもスポーツでもやっていそうな格好だ。
「......練習」
「何の?」
「......あそこで、踊るの」
ヒカリが指差したのは、建設中のステージ。
「……マジ?」
「......うん」
はぁ、とため息を漏らすヒカリ。
「……どうせ、アカリとアキラに誘われたんだろ?」
「......ど、どうして知ってるの……?」
「あたってるのかよ……」
ヒカリがオロオロしている。
……わかりやす過ぎだろ……
「……それで、何時からなんだ?」
「......えっと、確か……20時から10分間だったはず」
……まぁ、間に合う……よな?
「わかった。 ちゃんとお前の晴れ姿を見に行くよ」
「......え、本当?」
「……なんだ? いやか?」
「......ううん。 うれしい」
不器用ながらも、微笑を見せてくれた。
「……そ、そうか……」
「…………」
「…………」
謎の沈黙が俺たちを襲った。
「……まぁ、がんばれよ。 俺はそろそろ行くし……」
「......うん。 待ってるから」
ヒカリは小走りにステージ裏へと消えた。
その奥が練習スペースらしい。
……あの3人がユニットを組むとなると……どうなることやら……
*********
その後、町のほうを見にいったりして時間をつぶしていたら、いつのまにか待ち合わせの時間が近づいていた。
「森の入り口……ってなったら、やっぱり、あそこだよな……」
発展途上感あふれる南原市の町に背を向け、橋を歩く。
いつもの帰り道より西にあるこの橋は、クリスタルの影響で森林と化した東海地方へ続いている。
「……さすがに遠いな。 ……飛んでいくか……」
フォトンウィングを展開し、橋の下へ。
……東海側はノーマークだったからな……なにがあるかわからん……
なるべく低空飛行を心がけて、森林へ向けて飛び立つ。
……お、あれか……
1分もしないうちに、日陰に佇む青年を見つける。
その青年は俺に気づくと、手を振った。
「……すみません。 待たせましたか?」
「いや。 ついさっき着いたところだよ」
被っていたコートのフードを外し、俺に微笑みかけるジークさん。
「さ、行こうか」
「はい」
俺たちは薄暗い森の中へ踏み込んでいった。
*********
*********
「まったくライトったら……どこに行くのかと思ったら、こんなところまで……」
たまたま学園から出て行く姿を見かけたから、たまたまあたしも少し暇だったから、少しだけ様子を見ようと思っただけで……
……いや、別に、ライトがどうしてるか気になるわけじゃないし……尾行とか、そんなんじゃないし……
「……はぁ。 いったい誰に言い訳してるのかしら……」
頭を振って、先へ進んでいくライトを追う。
「……東海は森しかないのに……」
橋を歩いているライトの、数十メートル後ろで、気配を殺して様子を伺う。
「あ、飛んだ……」
追いかけるようにフォトンウィングを展開して飛び上がり、橋の鉄柱の上でライトを目で追う。
「あれ……? あそこにいるのって……」
ライトが飛んでいった先にいた、手を振っている青年に、どこか既視感を覚える。
「……まさか……」
その疑心は、青年がフードを外した瞬間、確信に変わった。
……右目を隠すような前髪……紅い目……間違いないわ……
気づけばあたしは、2人の後に続いて、森の中へ入っていた。
……良いわよ……最後まで見てやるんだから……!
*********
*********
「ジークさん」
「なんだ?」
「どこへ向かってるんですか?」
「……"約束の丘"と俺たちは呼んでるけど……この先に、ちょっとした丘があるんだ」
「そこに、ルナが来るんですか?」
「……いや、俺から会いに行く。 ……ま、約束だから」
俺の前を歩くジークさんは、道無き道をずんずん進んでいく。
ほとんど手付かずのまま放置された森というだけあって、前へ歩くだけでもかなりしんどい。
「えっと、聞いた話だと、ジークさんは……」
「……ああ。 その話もしないとな……」
ジークさんは肩越しに俺を見て、こう語り始めた。
「……俺はローザの前で無様に散った。 でも、ローザはそんな俺を助けてくれたんだ。 ……文字通り、命がけで」
ジークさんは振り向き、前髪で隠していた右目を見せる。
「……ま、お前ならわかるだろ?」
開かれた右目は、どう見ても義眼だった。
そしてそれは……
「……クリスタル……か……」
ジークさんは無言で頷き、再び前を向いた。
「……ルナに聞いたよ。 Aランク以上のモンスターを、1人で狩ってきたらしい」
「……なるほど……」
……あったなぁ……昔、同じように誰かを救うために1人で狩りに行ったことが……
「そのクリスタルを使って再生治療をした結果がこれってわけさ」
ジークさんは立ち止まり、右手を前に出した。
その瞬間、俺は右前方から接近する何かに気づいた。
「はぁっ!!」
俺が警告するより早く、ジークさんの腕が振られた。
『ギャアアアアアッ!!』
飛び込んできたのは、クリスタルの影響を受けたと思われるカラスだったらしい。
そのカラスが目の前で真っ二つに切り裂かれる。
「それは……」
ジークさんの右手には……
「流星刀。 クリスタルが俺に与えた、副産物だよ」
……幻想武器……というべきか……? ここまできたらもう魔法だろ……
俺やステラが出せるような武器と違って、粒子を凝縮しただけの様にも見える流星刀。
その名の通り、星が流れるように粒子が動き、刀の形を成している。
「……さ、行こうか」
「あ、はい……」
ジークさんは腕を払って、流星刀を虚空へ還した。
……あの剣筋……只者じゃないぞ……
ますます謎が深まるジークさん。
……やっぱり、敵には回したくないよな……
「お、見えてきたぞ……」
数分歩くと、少し開けた場所に出た。
ジークさんは息を大きく吸って、上を向いた。
「"約束の丘"だ」
さすがに花は咲いていなかったが、そこには青々とした草原が広がっている。
「もしかして、ルナとはここで……?」
「……初めて会った場所はもう少し違う場所だけど……ま、強いて言うなら、再会を誓った場所だ」
ジークさんは俺を見る。
さっきまでより、一層真剣な表情だ。
「……じゃあ、手伝ってくれよ。 ライト」
そういってジークさんは、俺の胸に手を当てた。
「ちょっと痛いかもだけど……我慢してくれ」
そこまで聞こえた時、俺の意識が剥がされる感覚が俺を襲った。
……なんだこれ……何をしてるんだ……?
思わずジークさんの方を見る。
「……アクセス権ペースト……コード……解除……アクセス……」
ブツブツと何か呟いている。
「……よし。 これでいい」
ジークさんは俺から手を離した。
「……一体何を……?」
「君が持っている、ルナに会いに行く切符をコピーさせてもらった。 これで会いに行ける」
……何を言ってるんだ……?
「ここまで付き合わせて悪いね……」
「い、いえ……」
「お礼と言っちゃなんだけど、封印の祠に君を待ってる人がいる……ってことを伝えておくよ」
「え……?」
「早く会いに行ってあげてくれ。 そう長くは居れないと思うし」
「わ、わかりました……」
ジークさんは頷くと、手を天に掲げた。
すると、ジークさんの体が光り始めた。
「じゃあ、俺はもう行くよ。 また会えると良いな」
……もう行くのか……!?
「あ、あの……!」
「うん?」
「未来は……変わりますか?」
最後に、とっさに思いついた質問をぶつける。
霞始めたジークさんは、それを聞いて驚いた様子だったが、ニヤリと笑うと、こう言い残した。
「やれるものなら、やってみろ」




